ヒーリングっど♥プリキュア byogen's daughter   作:早乙女

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原作第27話がベースになります。
気球大会の話ですが、この話ではちょっと気になる描写を入れています。
そこを気づいてもらえると、この後の話が楽しめると思います。


第81話「気球」

ビョーゲンキングダムーーーーそれは、ビョーゲンズたちにとっては楽園のような場所、と言っても過言ではないのかもしれない。

 

「透明な水・・・黒い水・・・」

 

グアイワルは、透明な水を入れたフラスコと、黒い液体を入れた試験管を持って何かをしていた。

 

フラスコの中の水に、試験管の黒い水を注ぐ。彼がフラスコの中の水を覗いてみると・・・・・・。

 

「黒くなった♪」

 

グアイワルは妙に明るい声でそう言うと、まだ無数にある試験管の黒い水の一本をまたフラスコの中の水に注ぐ。

 

「おぉ〜!! もっと黒くなった!!」

 

グアイワルはさらにフラスコの水に、黒い水を注ぐという行為を繰り返す。

 

「入れれば入れるほど黒くなっていく!! つまり!! メガパーツをたくさん入れれば、もっともっと強くなるということ!!」

 

どうやら黒い水を注ぐと濃くなるということを、メガパーツの例えとして持ち出している様子。

 

「へっ! これで俺が、ナンバーワンだ!!フッフフフフフ、フッフフフフ、フッハーッハッハッハッハッハ!!!!」

 

グアイワルはメガパーツをたくさん使えば、天下が取れると確信し、高らかに笑い声をあげる。

 

「はぁ? うるっさっ」

 

「・・・一体、何を一人でバカみたいに笑っているの?」

 

「黒い水が濃くなるというのを、メガパーツを加えれば強くなるって確信してるみたいですよ。黒はいくら注いでも黒でしょうに・・・」

 

その近くにいたシンドイーネは不快感を覚え、その様子を見ていたドクルンとイタイノンは呆れたように見ていた。

 

「ほっときゃいいのよ、そんな奴。バカ騒ぎしようが興味ないし」

 

そこにやってきたクルシーナがそれを聞いて、不機嫌そうに言った。

 

「シンドイーネ、クルシーナ、ドクルン、イタイノン」

 

「??」

 

「何よ?」

 

「どうしたんですか?」

 

「何なの?」

 

クルシーナの隣にいたダルイゼンが、隣にいるクルシーナと3人に声をかける。

 

「自分の宿主って覚えてたりする?」

 

「はぁ? そんなの覚えてるわけないじゃない」

 

ダルイゼンが質問すると、シンドイーネはあっさりと答える。

 

「・・・まっ、そうだよね。クルシーナたちはどうなの?」

 

「っ・・・」

 

ダルイゼンは次に三人娘に問うと、クルシーナだけは険しい表情を浮かべていた。

 

「アンタらと一緒にしないでくれる? つーか、生まれ方も全然違うでしょっ」

 

「私たちはお父さんの娘は人間そのものがビョーゲンズになったんです」

 

「ダルイゼンやシンドイーネみたいに、宿主から生まれたのとは違うの」

 

三人娘は口々にそれぞれの感情でそう言い放つ。

 

「・・・じゃあ、その時のことは覚えてんの?」

 

ダルイゼンは追加で質問を投げかける。

 

「んなこと知ってどーすんのよ? アンタに得でもあるワケ?」

 

「・・・・・・別に」

 

「どうでもいいじゃない、そんなこと。無駄な話をしてる暇があるなら、一人でも仲間を増やしに行くわよ」

 

クルシーナは不機嫌そうな態度でそう言うと、スタスタと歩き、ダルイゼンもクルシーナの後をついていくように、二人はその場を歩き去っていく。

 

「えぇっ? ちょっと!・・・ったく、どいつもこいつも・・・」

 

シンドイーネは質問するだけしたダルイゼンと、途中で話を切り捨てるように打ち切ったクルシーナの後ろ姿を呆れたように見つめていた。

 

「クルシーナにとっては、どうでもいいんですよね。昔のことなんか」

 

「私も思い出したからって何なの?って話なの。私がキュアスパークルと何かあったとか、別にどうでもいいの」

 

ドクルンは無表情でそう呟き、イタイノンはどうでもいいと吐き捨てるとその場を立ち上がって歩き去っていく。

 

そして、一緒に歩いているクルシーナとダルイゼンは・・・・・・。

 

「どうしたら、もっと強いの作れんのかなぁ・・・フーミンは強かったけど、使い勝手が悪そうで、面倒臭そうだし・・・」

 

「一応、ドクルンには克服できるようにしてもらってるけどね。それでも面倒なのには変わりないわね」

 

クルシーナとダルイゼンは、以前イタイノンが誕生させたフーミンについて思い出しながら話していた。フーミンは確かに強い、だがどこにでもすぐ寝る癖があり、幹部としては扱いづらい。その癖はドクルンによって克服はできているが、それでもその効力が切れた時には余計深い眠りに落ちることが判明したため、もっと面倒な感じになる。

 

もっともっといい仲間を増やしていかないといけないと考えていた。

 

「宿主の問題じゃないの? ヒナみたいな貧弱なヤツじゃなくて、もっと生命力の高そうな宿主に埋め込んで見ればいいんじゃない? 例えば、生きてるって感じのやつにさぁ」

 

「生きてるって感じのやつ、ねぇ・・・」

 

クルシーナの助言に、ダルイゼンは考え込む。生命力の高そうな宿主・・・生きてるって感じのやつ・・・まあ、そんなものは簡単に見つかれば苦労しないわけで。

 

二人はそうやって話しながら、地球へと向かっていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プルルルルル、プルルルルルル!!

 

カチャッ

 

「もしもし・・・」

 

ちゆの家で、かすみは自宅の子機電話を取って、電話に出る。

 

「っ、のどかぁ・・・!」

 

電話に出たのはのどかで、かすみの声が明るくなる。

 

「気球大会? のどかのお父さんの学校の生徒がやってるもの?」

 

のどかはどうやらお父さんの学生時代に所属していたサークルが参加している大会を見にいっていることを伝えたかったが、かすみはあまり理解しきれていない様子。

 

しかし、かすみはきょとんとした表情でそれを聞いた後、笑みを浮かべる。

 

「なんだかわからないけど、面白そうだな・・・!! 私も行くよ・・・!! 河川敷・・・あそこか・・・! ちゆを連れてすぐにそっちに向かうからな・・・!!」

 

かすみはのどかに場所を教えてもらった後、嬉々しながらそう言うと電話を切った。そして、ちゆも連れて行こうと彼女の部屋に向かう。

 

「ちゆ、いるか? のどかのお父さんの大会を見に行こうと誘われたんだが・・・あれ?」

 

かすみは彼女に教わったドアノックをした後に襖を開けるが、そこにちゆの姿はなかった。かすみはきょろきょろと彼女の部屋を見渡す。

 

「ちゆ・・・? 部屋にはいないのか・・・」

 

かすみはちゆの部屋を後にすると、菊の間や梅の間といった客室、温泉がある浴場、庭の外と探し回った。しかし、ちゆは見つからなかった。

 

そこで、受付をしているちゆの母親のまおに聞いてみた。

 

「ちゆならおつかいに出かけてるわよ」

 

「そうか・・・・・・」

 

「ちゆに何か用があったの?」

 

「ああ・・・友達のお父さんの部活、のサークル、が参加する大会に出るから、一緒に見に行こうと思ったんだ」

 

かすみがまおにそう伝えると、彼女はふふっと笑いをこぼす。

 

「な、何か、おかしいか・・・?」

 

「ふふふ、いいえ・・・ちゆと仲良くしてくれてるんだなと思ってね。とうじとも仲良くしてくれてるんでしょう?」

 

「ああ・・・とうじくんとはよく遊ぶな」

 

まおが笑ったことにかすみは動揺したような反応を見せると、まおはそう言ってかすみを落ち着かせる。

 

「ちゆには伝えておいてあげるから、先に行ってきなさい♪」

 

「いいのか・・・?」

 

「構わないわよ。かすみは大事なうちの家族でもあるからね♪」

 

「あ・・・ありがとう・・・!! 行ってくる・・・!!!」

 

まおがそう言うと、かすみは瞳をキラキラと輝かせながら、ちゆの家を後にし、気球大会へと向かったのであった。

 

「河川敷は確か・・・街外れのところにあるって言ってたな・・・」

 

かすみはのどかが伝えてくれた場所を思い出しながら歩いていく。

 

ふと、平光アニマルクリニックを歩いていたところで、見覚えのある黄色いワゴン車が走っていくのが見えた。

 

「あ、あれは・・・」

 

かすみがそれに立ち止まると、ワゴン車は少し進んだ後で止まり、そこからひなたが顔を出した。

 

「あれ〜? かすみっち?」

 

「ひなた。あ、そうか、あのワゴン車だもんな」

 

ひなたが顔を出したことと、黄色いワゴン車からグミジュースとパンケーキを提供してくれるお店であることを思い出す。

 

「あら、かすみちゃん。久しぶり♪」

 

「めいさん・・・こんにちは♪」

 

かすみはワゴン車を運転していた、ひなたの姉・めいに挨拶をする。

 

「何してんの〜?」

 

「のどかのお父さんの部活、が参加する大会を見に行くんだ」

 

「それってもしかして・・・気球大会のこと?」

 

「そうだが・・・」

 

かすみが窓から顔を出しているひなたに近づいて説明すると、ひなたは笑みを浮かべる。

 

「それ、あたしたちも行こうとしてたところだよ〜!!」

 

「本当か!? ん? たち・・・?」

 

かすみはその言葉に笑顔を見せるも、複数人を表すその言葉に疑問符をつける。

 

「あ〜、お姉も一緒に行くんだ♪ あたしはお姉の手伝い。うちのワゴンカフェの出張販売だよ〜♪」

 

「おぉ〜!! ワゴンカフェってそんなこともできるのか〜!! すごいぞ〜!!!!」

 

ひなたが経緯を説明すると、かすみはなぜか興奮して目をキラキラとさせる。

 

「かすみっちも乗りなよ〜、一緒に行こ♪ お姉、乗せてもいいよね〜?」

 

「もちろんよ、ひなたの友達なら尚更ね♪」

 

「いいのか?」

 

「何言ってんの〜、友達じゃん♪ あたしたち♪」

 

「ありがとう・・・」

 

ひなたにワゴン車に乗るように誘われ、かすみは喜んでワゴン車の中に乗車した。

 

「一人で行くつもりだったの?」

 

「いや、ちゆも誘おうとしたんだが、お母さんのお手伝いで留守でな。一応、伝えてはあるんだが・・・待てないから先に行ったんだ」

 

「そうだったんだね〜♪」

 

ワゴン車の中でひなたとかすみが会話をする。こうして、二人はのどかの父・たけしが所属していたサークルが参加する、気球大会の会場である河川敷に向かって行く。

 

「ひなたに会えてよかった・・・」

 

「え? なんか言った?」

 

「な、なんでもない・・・!!!」

 

かすみはボソリと呟くと、ひなたが聞き取れなかったのか聞き返すと、かすみは赤面しながらごまかした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、気球大会の会場である河川敷では、出場するみんなが大会の準備をしていた。

 

のどかの父・たけしが大学時代に所属していたサークルで、その後輩に当たるカズのチームも機械を使って、気球に熱を送っていた。

 

「まず、炎で温めた空気を気球の中に入れます」

 

「暖かい空気は軽いから、気球は空に浮かび上がる。あとは風に運んでもらって、ターゲットを目指すんだ」

 

カズが作業をしながら、たけしは様子を見守りながら、のどかたちに説明をする。

 

「風まかせってこと?」

 

「そっ。気球は上がることと下がることしかできないから、車や飛行機みたいに自由にコントロールができないんだ」

 

「それじゃあ、どうやって目的地に行くの?」

 

たけしがそう説明すると、のどかは気球の移動の仕方に疑問を抱く。

 

「風の流れを読むんです」

 

「風の流れ・・・?」

 

その質問にはカズが作業をしながら答えた。

 

「うん。風は空の高さによって流れが違うから、気球を上げたり下げたりして行きたい方向の風に載せるんだよ」

 

「ふわぁ〜♪」

 

「・・・でも、どうしてこんな朝早くにやるの?」

 

のどかがはしゃぐ中、のどかの母・やすこは小さくあくびをした後にそう訊ねた。

 

「昼間は地面が暖まって上昇気流が生まれる、それが気球を飛びにくくして、危険だからなんだ」

 

「まぁ。とても面白い乗り物ですね」

 

「ワン♪」

 

たけしが説明すると、のどかだけでなく、アスミやラテも興味を抱いた様子で作業を見ていた。

 

「そう。だから僕らも気球に夢中になって、熱心にできるんだ」

 

「・・・熱心で夢中・・・それって『好き』ということですか?」

 

「そうだね、『好き』ってことだね」

 

「・・・ふふっ♪」

 

アスミはカズや他のメンバーの熱心で、夢中な様子で気球に真剣に取り組んでいる様子を微笑みながら見ていた。

 

そんな時だった・・・・・・。

 

「すぅ・・・ふわぁ〜、何だか甘い風〜♪」

 

のどかの元に甘い香りが風に乗ってきて、のどかはそれを心地よく感じていた。その香りの元を探ろうと辺りを見渡していると・・・・・・。

 

「お〜い、のどか〜!!」

 

「ア〜スミ〜ン!!」

 

聞こえてくる二つの声、のどかとアスミが声がする方向に振り返ると、そこにはかすみとひなたがこちらに向かって手を振る姿があり、後方にはワゴンカフェがあった。

 

「あっ、かすみちゃ〜ん! ひなたちゃ〜ん!!」

 

のどかはかすみたちに手を振ると、ひなたはバケットを持ってかすみと一緒にのどかたちの元へと歩いて行く。

 

ひなたは持っているバケットをのどかたちに差し出す。

 

「これ、あたしが練習で作ったヤツだから、みんなどんどん食べちゃって♪」

 

「わぁ♪ ありがとう♪」

 

「私も食べていいか?」

 

「もっちろん♪」

 

「ふわぁ、ありがとう♪」

 

のどかたちは早速パンケーキをひなたからもらい、もちろんかすみにもあげる。

 

「あれ? かすみちゃん、ちゆちゃんは?」

 

「あぁ〜・・・お母さんにおつかいを頼まれてるみたいなんだ・・・。お母さんには言ってあるから、来てはくれると思うんだが・・・」

 

「あ、そうなんだね〜」

 

かすみの話を聞いた後、のどかたちはパンケーキを食べ始めた。

 

「みんなでお出かけってここだったんだ〜♪」

 

「はむはむ・・・とても美味しいです♪」

 

「うむ、ほっぺたが落ちそうだ♪」

 

「えへへ♪ そろそろ〜、売り物になりそうだよねん♪」

 

美味しそうに食べるアスミとかすみに、ひなたは笑みを浮かべる。

 

「よかったら、どうぞ♪」

 

次は作業をしているカズにもパンケーキを差し出す。

 

「あっ、ありがとう。でも、気球で勝ってからゆっくりとごちそうになります」

 

「えぇっ!?」

 

「そんなぁ!! こんなに美味しいのにな・・・」

 

ひなたの差し入れを受け取らないカズに、アスミとかすみは驚く。

 

「はむはむはむはむ・・・!!!!」

 

「おぉ!? は、早いなぁ〜・・・」

 

アスミは手に持っているパンケーキを瞬時に食べ、あまりの早さにかすみは驚いていた。

 

「こんなに暖かくて美味しいもの・・・つまり、誰もが好きであろうパンケーキを断るなんて・・・」

 

「ア、アスミちゃん・・・?」

 

「私がラテを好きなように、みなさんはよほど気球が好きなんですね」

 

「ワウ♪」

 

「ならば私も、全力で皆さんを応援しましょう!!」

 

「ワンッ!!」

 

いつもより気合の入ったアスミとラテ。のどかはその様子に戸惑うようにきょとんとしていた。

 

「あ、ありがとう・・・」

 

カズはそれに気圧されながらも、お礼を言った。

 

「アスミってあんなに強気でいう子だったのか・・・?」

 

「いいじゃん♪ なんか面白そうだし〜♪」

 

かすみはアスミの気迫に戸惑うように、ひなたはその様子を面白そうに見ていた。

 

『さぁ!続々と気球が立ち上がって来ました!!』

 

そして、いよいよアナウンス共に気球の競技大会が始まり、様々な気球が次々と地面を立ち上がって来た。

 

カズたちの気球も立ち上がり、表面には雲と空、そして上部分には太陽の描かれたデザインがお目見えした。

 

「うわぁ・・・めっちゃデッカい! めっちゃ可愛い〜♪」

 

「よく見ると、気球ってこんなに大きいんだな・・・」

 

「俺も乗って見てぇなぁ〜!」

 

のどかたちは少し離れたところで見ており、ひなたやかすみが驚いたり、ニャトランがはしゃいだりしていた。

 

そして、みんなが見守る中・・・いよいよカズたちの気球が空へと浮かび上がり始めた。

 

「僕らも行こう」

 

「うん!」

 

「はい!」

 

「かすみっちは行って来なよ。あとで結果聞かせてね♪」

 

「ああ、わかった・・・」

 

かすみはたけしの元へと歩くと、頭を下げる。

 

「よろしく頼む・・・」

 

「えっと、君は・・・?」

 

「風車かすみだ。のどかの学校の転校生で、仲良くさせてもらってる」

 

「ああ・・・よろしくね」

 

かすみはたけしに自己紹介をし、互いに挨拶をかわす。

 

ひなたと別れたのどか・かすみたちは車に乗り、気球が向かう先である地面でテープでバツ印が書かれた場所へと移動した。

 

「あの印に一番近づけたチームが優勝するっていう競技なんだ」

 

「早さを競う訳じゃないんだ・・・」

 

「そう」

 

たけしがそう説明すると、やすこが興味深そうに見る。

 

「あ、どんどん来るぞ」

 

競技の説明を受けているうちに、先頭グループの気球が続々と印へと向かって来ていた。

 

「ふわぁ♪ 近づいて来たぁ〜!!」

 

「? でもあれは、カズさんたちのチームではありませんね・・・」

 

多くの気球は来ているものの、カズたちのチームの気球は姿が見えず、その間にも他のグループがゴールへと近づいて来た。

 

「よし来い!! いいぞ、いいぞ!! 焦るな・・・落ち着いて・・・」

 

近づいて来たグループ、気球に乗っていた人は紐のついた袋を地面へと向かって投げる。袋はバツ印の真ん中付近へと落ちた。

 

「やった〜!!!」

 

袋をうまく落としたことで、グループからは歓声が上がる。

 

「ふわぁ・・・すごい近くに落としてる!!」

 

のどかがその様子を見て驚く。

 

「っ! あれじゃないか?」

 

「? そうだね。あれがカズくんたちの気球だね」

 

「本当?」

 

「・・・そうですね。カズさんのチームです」

 

ふとかすみが空を見上げると、ようやくカズたちの気球が見えて来た。

 

「頑張れぇ〜!だね!」

 

「頑張れ〜、頑張れ〜!!」

 

「アゥ〜ン、アゥ〜ン!!」

 

「頑張れ〜!! 頑張れ〜!!」

 

やすこの言葉を受け、アスミやラテ、かすみは気球に向かって声援を送る。

 

「私も・・・頑張れ〜!!!!」

 

のどかも三人には負けない大きな声で声援を送った。

 

一方、その気球に乗っているカズは・・・・・・。

 

『少し上に、アプローチに使える東風がある!』

 

「了解。もう少し上か・・・」

 

地上にいる同じメンバーの天野と無線で連絡を取り合い、風はもう少し上にあると聞かされると火の出力を上げて上昇させる。

 

しかし・・・・・・。

 

「っ・・・まずい・・・逆に流され始めてる・・・!」

 

地上でその様子を見ていた天野の言う通り、気球はゴールとは逆方向に流されて行ってしまっていた。

 

『ストップ! 上は西に流され始めてる!』

 

「えっ!?」

 

天野の無線を聞き、カズはなんとか元の進路に戻そうとするのだが・・・・・・。

 

「頑張れ〜、頑張れ〜!!」

 

「あ、気球が逆方向に行っちゃってるぞ・・・??」

 

「えっ??」

 

「これってまずいよね・・・?」

 

アスミが声援を送っている中、かすみとのどかは異変に気付く。その間にも、気球はどんどん西へと流され続けていた。

 

「あぁ〜・・・残念だけど、これ以上は寄せられないかもしれないなぁ・・・」

 

「そんな・・・」

 

のどかたちは心配した様子で、気球を見守り続けるしかなかった。

 

その間にも、他のグループは次々とゴールし、紐をつけた袋をうまく落とせると喜んでいた。

 

「・・・ムムム、です」

 

「アスミちゃん?」

 

アスミは眉をひそめて険しい表情を浮かべており、異変に気づいたのどかが声をかける。

 

「ウゥ・・・」

 

「っ・・・」

 

「ラテ? かすみちゃん?」

 

すると、ラテも同じように眉をひそめて険しい表情を。そして、かすみは険しい表情をしながら、握りこぶしを震わせていた。

 

「・・・なんでしょう・・・この気持ち・・・なんとも言えない、この・・・」

 

「なんだろう・・・この、モヤモヤするような感じは・・・?」

 

アスミとかすみは自身の中になんとも言えないような感じが沸き起こり、険しい表情を崩さなかった。

 

その後、カズたちのチームもようやくゴールをすることができた。

 

「すみません・・・せっかくみなさんが見にきてくださったのに・・・」

 

「ドンマイドンマイ! 午後の競技は1位目指して頑張ってよ」

 

「そうですね・・・あははは・・・」

 

申し訳なく思うカズにたけしが励ますと、カズは頭を手にやりながら力なく笑う。

 

「んっ・・・?」

 

「っ・・・!!」

 

それを見ていたアスミとかすみは、再び眉をひそめて険しい表情を浮かべていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、かすみっち♪」

 

「・・・ありがとう」

 

かすみはワゴンカフェで、ひなたのパンケーキを受け取る。その表情はひなたに向けたときは苦笑していたが、受け取って後ろを向いた途端に険しい表情を浮かべていた。

 

「あーむ・・・むぅ・・・」

 

「どうしたの・・・?」

 

ひなたがいつもと様子のおかしいかすみに問いかける。

 

「私とアスミが応援していたサークルチームが負けてしまってな・・・」

 

「ああ・・・まあ、そんな時もあるって」

 

「むぅ・・・」

 

かすみが不満を口にしてひなたがそう言うも、パンケーキを食べるかすみの険しい表情は晴れなかった。

 

「かすみ〜!!」

 

「あ・・・!!」

 

そこへ自分が呼ぶ声が聞こえて顔を向けると、それはちゆだった。

 

「ちゆ・・・待ってたぞ!」

 

「わお!ちゆちー!!」

 

「お待たせ♪」

 

苦笑しながら言うかすみと喜ぶひなたに、ちゆは笑顔で答える。

 

「むぅ・・・」

 

「? かすみ、どうしたの?」

 

「・・・私たちの応援しているチームが勝てなくてな。なんだかモヤモヤするんだ・・・」

 

険しい表情をしているかすみに、ちゆが声をかける。かすみは表情を崩さずに心情を吐露する。

 

「さっきから機嫌悪そうなんだよね、顔が・・・」

 

「そうだったのね・・・」

 

ひなたが状況を説明すると、ちゆは納得しながら言う。

 

「こっちはもう大丈夫よ。お客さんも落ち着いてきたし」

 

「ありがとう!お姉♪」

 

めいから許可が出て、ひなたは外に出るべくワゴンカフェの奥へと入っていく。

 

「あ、ちゆちゃ〜ん! 来れたんだね!」

 

「ええ!」

 

「かすみちゃん、ここにいたんだ〜」

 

「ちょっと小腹が空いてな・・・」

 

そこへのどかがカフェにいるちゆたちの元へと駆け寄って来る。かすみは険しい表情をしたまま、パンケーキを食べていた。

 

「これで全員集合だね!」

 

「・・・アスミはどこいったんだ?」

 

ひなたがそう言うも、かすみは一人いないことに気づいて問いかける。

 

「そういえばいないわね・・・」

 

「そうそう。私、アスミちゃんとかすみちゃんを探してて、かすみちゃんは見つかったんだけど・・・」

 

「うぇ? アスミンって迷子ちゃん・・・?」

 

「とりあえず、探しに行かないか・・・?」

 

4人はアスミを探すべく、河川敷周辺を捜索し始めた。

 

一方、人気のない河川敷では・・・・・・。

 

「はぁ・・・・・・」

 

カズは一人座り込んでため息をついていた。

 

「・・・どうしてなのですか?」

 

そこへ声をかけられ振り向いて見ると、それは険しい表情を浮かべたアスミだった。

 

「どうして、大好きな気球がうまく行かなかったのに・・・先ほど『ははは』と笑ったのですか?」

 

「いや・・・それは・・・」

 

アスミの問いに、カズは顔を俯かせる。

 

「ずっと練習してるんだけど、僕は昔から本番に弱いって言うか・・・こう言う競技でもうまくいった試しかがなくて・・・だから、なんていうか・・・諦めの笑い、かな? ははは・・・」

 

力なく笑うカズを、アスミとラテは眉を潜めて険しい表情で見ていた。

 

「私とラテは、みなさんを懸命に応援して負けてしまった時、とてもこう・・・モヤモヤした気持ちになりました・・・」

 

「ワウン!」

 

「あ・・・・・・」

 

「っ・・・このムムムな気持ちは一体・・・?」

 

アスミは自分の中のなんともいえない気持ちを吐露する。そのラテを抱いている右手はピクピクと震えていた。

 

「私も・・・!!!」

 

「「っ!!」」

 

そこへアスミたちを見つけた、かすみが同じように険しい表情をしながら声をかけた。

 

「私も、自分の中にあふれてしまいそうなこのモヤモヤとした気持ち・・・なんだか気持ち悪くて、怒りが湧き上がって来るような感じになる・・・」

 

かすみは両手をぎゅっと震えるくらいに握りながら吐露する。

 

「パンケーキを食べても晴れていかない・・・この感情は、一体・・・なんなんだ・・・?」

 

かすみが顔を俯かせながら体を震わせていると・・・・・・。

 

「それはズバリ『悔しい』っていう気持ちよ」

 

そんなかすみたちに声がかけられ、二人が振り向くとちゆたち3人が立っていた。

 

「・・・『悔しい』?」

 

「ええ。私もハイジャンプの試合で負けた時、とても悔しい思いをしているわ・・・」

 

ちゆがアスミとかすみに起こっている気持ちを説明してあげる。

 

「・・・これが悔しいという気持ち」

 

「このモヤモヤして、すっきりしないこの感覚が・・・悔しい・・・」

 

「悔しいのをどうにかするには・・・勝って貰うしかないっしょ!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

カズはそんなちゆたちを見つめながら話を聞いていた。

 

「カズ〜!!!」

 

「っ!?」

 

「大変だ!! 天野が貧血で倒れちまって!!」

 

「えっ!?」

 

そんな時、チームメイトの浮間から天野が倒れたことを聞かされて立ち上がる。

 

「あいつ、昨日遅くまで準備してたから・・・!!」

 

「そんな!! うちじゃ天野が一番風が読めるのに・・・!!!!」

 

同じチームメイトの天野が午後の部に出られないことを知ったカズは再び落ち込む。

 

「クゥ〜ン!! ウゥ〜ン!!」

 

「ラテ?」

 

「何か言いたいみたいだな・・・?」

 

その時、ラテが何かを訴えるかのように鳴き始める。

 

5人はカズから少し離れて囲むようにしゃがみ込むと、聴診器を当ててラテの心の声を聞いてみる。

 

(アスミが風さんのこと、教えてあげるラテ)

 

「っ、それです!!」

 

ラテの助言に頷いたアスミは聴診器を外して、カズたちの方をみる。

 

「その役目、私が引き受けましょう!!」

 

「「ええっ!?」」

 

「私は、風を読むことができるのです!!」

 

驚くカズたちの前に、アスミはそう宣言するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと・・・ここに生命力の高そうないい素体があるのかねぇ?」

 

河川敷の近くの森の中に姿を表していた、クルシーナは森の中を歩きながらキョロキョロと探していた。

 

ダルイゼンとは一緒に来ていたのだが、いい素体をお互いに見つけるために、ここは分かれて探すことにしたのだ。

 

「周りを見渡しても、木と葉っぱしかなさそうだけど? 動物なんか住んでんの?」

 

クルシーナは立ち止まって周囲を見渡すも、周りは木がそびえ立っているばかりで動物が住んでいる様子がない。

 

周囲を再度キョロキョロと見渡した後、はぁとため息をつく。

 

「ちょっとあれを使って見るか・・・」

 

クルシーナは手のひらである種を生成すると、それを地面へと放る。すると、地面から巨大な花のようなものが生え、ピンク色の香りのようなものを放出する。

 

「こいつの臭いに誘われて、動物どもがいるなら出てくるはず・・・まあ、最悪街に行って死にそうな人間を見繕えばいいし」

 

クルシーナはラフレシアのような花を見ながらそう言って、木へと寄りかかって昼寝を決め込もうとする。

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナは寝そべりながら、ダルイゼンが言った言葉を思い返していた。

 

ーーーー自分の宿主って覚えてたりする?

 

「・・・自分の宿主、か・・・そういえば、あいつらってそうやって生まれてるんだっけ?」

 

宿主を介して生まれているビョーゲンズ・・・ダルイゼンもその一人だ。シンドイーネとグアイワルもそうだ。獣のような姿のバテテモーダもそうだ。

 

ヘバリーヌやフーミンは、宿主そのものにビョーゲンズの力が宿って生まれた人間ベースのビョーゲンズだ。新たに構成された人物として生まれているはずだから、宿主としての記憶はなくなっているはずだ。

 

自分や廃病院の地下室で眠っているお姉様、ドクルン、イタイノンも人間ベースのはず・・・だから、ダルイゼンたちとは生まれ方も勝手も違う・・・。

 

そう考える中、気になるようで大したことがないことがあった。

 

「・・・別にどうでもいいけど、アタシってどうやって生まれたんだっけ?」

 

今日に至るまでいろんなことがあったし、心底どうでもいいと思っていたから、自分が生まれた経緯も、ビョーゲンズになる前の記憶すらもあまり覚えていない。特にビョーゲンズとしての活動に支障がないので、これまでも変な映像が流れては無視し続けてきたが・・・・・・。

 

しかも、その変な映像には、決まってキュアグレースの姿が映っているのだ。アタシとあいつは、どこか関係があるのだろう。

 

ーーーー逃げないでよ。アタシとお前の仲でしょ? いつも一緒だったじゃない

 

ーーーー嫌・・・嫌ぁ・・・!

 

怯えていたキュアグレースに対して、なんとなく発したあの言葉。でも、キュアグレースも自分を見ても何も覚えていないようだった。

 

一体、自分はどういう人物?? 今のこの姿は、果たしてフェイクなのか?

 

そんなことを考えていても、クルシーナの頭の中には何も浮かばなかった。

 

「・・・ふん、くだらない」

 

クルシーナはそう呟くと寝返りを打つように横になる。

 

「アタシがビョーゲンズじゃなかったとか、どうでもいいし。例えこの姿がフェイクだったとしても、アタシはアタシよ。過去も未来も知ったこっちゃないわよ」

 

やめやめとクルシーナは考えるのをやめ、動物が寄ってくるまで寝て待つのであった。

 

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