ヒーリングっど♥プリキュア byogen's daughter   作:早乙女

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前回の続きです。
メガパーツを追うちゆたちと、しんらの正体を確かめようとするかすみは・・・。


第87話「絶望」

 

「うっ・・・うぅぅ・・・ぐっ、うぅぅぅ・・・!!!」

 

「フッフフフ♪」

 

しんらに擬態したクルシーナは不敵な笑みを浮かべながらのどかの手を取り、そこから黒い光が発しており、のどかは身をよじらせながら苦しみの声をあげていた。

 

「うぅぅ・・・うぅぅぅ・・・あぁ・・・ぁぁぁぁ・・・!!」

 

「苦しい? もっと苦しめばいいのよ、お前は。病気になった自分の気持ちはわかっても、病気になった他人の気持ちなんかわかんないもんなぁ・・・?」

 

クルシーナは笑みから憎しみを込めたような睨むつけた表情で変えながら言った。のどかはその声には反応せず、片手で胸を抑えながら苦しみの声を上げ、首を左右に振りながら苦しむ。

 

「うぅぅ・・・うっ・・・!!」

 

のどかは胸を抑えていた手を動かして、ナースコールに手を伸ばそうとするが、動きがガクガクと震えていて弱々しい。さらにその手をクルシーナが握っていない方の手で掴むと、両手を合わせるようにして抑え込む。

 

「ぐっ、ぅぅぅ・・・くっ・・・苦・・・し・・・や・・・や・・・め・・・」

 

「やめてあげない。苦痛に歪んでいる人間が苦痛から解放されるのを見ると、もっと苦しめたくなっちゃうのよねぇ」

 

のどかは苦しみを訴えながら握る手を振りほどこうとしていたが、力が入らずに弱々しく、クルシーナもギュッと握ったまま離さない。

 

「ぁ・・・ぁぁ・・・い、き・・・でき・・・な・・・」

 

「フフフ♪」

 

のどかはどうやらうまく呼吸ができていないようで、それを訴える様子にクルシーナは不敵な笑みを漏らした。

 

のどかぁ!! のどかぁぁぁぁ!!!!

 

「っ・・・!」

 

ふと、彼女の名前を叫ぶ声が病室のドア越しから聞こえてくる。クルシーナはそれに顔を顰めて舌打ちをすると、しんらを装うべく心配そうな表情を作り上げる。

 

「のどかぁ!!」

 

病室の扉が開かれ、現れたのは脱走者ーーーーかすみだった。

 

「のんちゃん!! のんちゃんっ!!!!」

 

「ぅぅぅ・・・ぅぁ・・・あっ・・・ぁぁ・・・!」

 

クルシーナはのどかの名前を叫びながら、しんらを装う。のどかは苦しみながら握られている両手を離そうと無意識にもがいているが、クルシーナが握っているために離すことができない。

 

「のんちゃん、しっかりして!!」

 

「ぁぁ・・・ぁっ・・・!」

 

必死に呼びかけるが、のどかの動きは徐々に弱っていく。そして、かすみの方を見る。

 

「かすみさん!! のんちゃんが・・・のんちゃんが苦しそうなの!! 早く誰か、医者を!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

しんらに扮しながらそう叫ぶも、その様子を見ていたかすみは顔を俯かせる。そして・・・・・・。

 

「・・・離せ」

 

「っ? かすみさん・・・?」

 

「のどかを離せっ・・・!」

 

かすみは今までにないくらいの冷たい声を発し、しんらはその様子に困惑する。しかし、かすみの口調は変わらなかった。

 

「かすみさん? 何を言って・・・?」

 

「のどかを離せと言っているんだ!! ビョーゲンズ!!」

 

顔を上げたかすみの表情は険しいものになっており、しんらを睨みつける。

 

「ビョ、ビョーゲンズ? 何それ・・・何を言ってるの?」

 

「とぼけるな!! お前の持ってきたそこにある白い花のボトル・・・そこからわずかにお前らの気配がしているんだ!!」

 

かすみはのどかの脇の机に置かれているハーバリウムを指しながら言った。かすみの感じた違和感、それはその中に入っている白い花、見た感じは普通の花と変わらないが、そこからビョーゲンズの気配がしたのだ。

 

「・・・フフッ、フフフフフフ♪」

 

しんらはそれを指摘されたことに顔を俯かせる。そして、不敵な笑い声をあげる。

 

「お前は誰だ!? 正体を現せ!!!!」

 

かすみは正体を現すように怒鳴り、それを受けたしんらは不敵な笑みを崩さないまま立ち上がるとのどかの握った手のうちの片方を離し、指をパチンと鳴らす。すると、しんらの人肌が薄いピンク色の肌へと変化し、彼女の頭から悪魔のようなツノが生え、サソリのような尻尾を生やして、ビョーゲンズ・クルシーナとしての正体を現す。

 

「クルシーナ!!」

 

「さすがね、脱走者。気づかれないようにしていたつもりだったんだけどね。いつから気づいてたのかしら?」

 

クルシーナは正体を見破ったかすみを褒め称えると、ツインテールをくるくると弄りながら問う。

 

「・・・のどかが苦しみ出した時だ。お前が一緒に私とのどかの手を握った時、最初は勘違いかと思った。でも飛び出したメガパーツとその白い花から微量なビョーゲンズの気配を感じて、それがお前の手からのビョーゲンズの気配と一致したんだ」

 

「・・・へぇ、あのわずかからアタシらの仕業だと? すごいわね、アンタ。さすがは、アタシが生み出したビョーゲンズなだけあるわ」

 

かすみの推理に、クルシーナは彼女をますます褒め称える。

 

「黙れ!! 早くのどかから離れてもらおうか!!」

 

かすみは激しい剣幕で怒ると、黒いステッキを取り出して構える。

 

「アタシとやろうってワケ? いくら強くなってきてるとはいえ、お前がアタシに勝てると思ってんの?」

 

「やってみなきゃわからないだろ!!」

 

クルシーナが挑発すると、かすみは感情のままに黒いステッキを振るって黒いビームを放つ。

 

「・・・ふん」

 

クルシーナはのどかの手を取ってない方の手を広げると、バラのようなものを手のひらに生み出し、黒いビームを受け止めて吸収する。

 

「っ!!」

 

「ふっ!!!」

 

「ぐぁっ!!」

 

クルシーナは黒く染まったバラから赤黒いビームを放ち、それを受けて吹き飛ばされたかすみは病室の壁に背中から叩きつけられる。

 

「フフッ♪」

 

「!? うぁぁぁ・・・ぁぁぁぁぁ・・・!!!!」

 

クルシーナは笑みを浮かべながら、のどかを握っている手を黒く光らせる。すると、のどかが再び苦しみ始め、濁ったような呻き声をあげ始める。

 

「っ、やめろ!!!!」

 

背中の痛みに呻きながら立ち上がろうとしていたかすみが顔を上げると叫び、その場からクルシーナの上へ瞬間移動して蹴りを入れようとする。

 

「ふん!」

 

「っ!?」

 

クルシーナは特に動揺することなく、かすみの足をあっさりと掴む。

 

「暴れちゃダメでしょぉ? 病院で。他の患者も寝てるんだからさぁ!」

 

「ぐっ・・・が、はっ・・・!!」

 

クルシーナはそのまま地面へと放り、背中から叩きつけられたかすみは痛みに空気を漏らす。

 

「ぐっ、うぅぅ・・・!!」

 

「なんでお前がこいつを守る必要があるんだよ。ビョーゲンズのくせに」

 

かすみが痛みに呻きながら立ち上がる姿を見ながら、クルシーナは嘲笑する。

 

「私は、ビョーゲンズじゃない・・・脱走者でもない・・・!! 風車かすみだ!!」

 

「お前がなんと言おうと、ビョーゲンズはビョーゲンズなんだよ」

 

「うるさい・・・黙れ!!!!」

 

挑発するクルシーナに、かすみは怒りの声をあげながらステッキを振り向きざまに横に振るう。しかし、クルシーナはそれを最低限の動きで交わす。

 

「ふっ!!」

 

「っ、がぁっ・・・!?」

 

クルシーナはステッキを振るったかすみの腕を掴むと、自分の方に引き寄せて蹴りを叩き込んだ。腹部に命中したことでかすみは痛みで息を吐き出し、吹き飛ばされて地面を転がる。

 

「あ、あぁっ・・・!」

 

「どうしたの? アタシをキュアグレースから引き剥がすんじゃなかったの? あの時の力を使ったらぁ? そうじゃないとアタシには勝てないんじゃないの?」

 

床に倒れ伏して苦痛に呻くかすみに、クルシーナは更なる挑発の言葉を浴びせる。

 

「うっ、うぅぅ・・・!!」

 

「ほら、早く攻撃しないと、こいつはもっと苦しむハメになるわよ?」

 

クルシーナは不敵に笑いながら、のどかの握っている手を赤黒く光らせた。

 

「うっ・・・うぁぁぁぁ・・・ぁっ・・・ぐっ、うぅぅ・・・!!」

 

のどかは苦しみの声をあげながら、首を左右にふってもがく。握った手を本能的に振りほどこうとしているが、その手は弱々しくピクピクと指を痙攣させるだけだった。

 

「っ!! うぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

かすみはそれを見て怒りに叫ぶと立ち上がって飛び出し、クルシーナに目掛けてパンチを繰り出す。しかし、それもわずかな動きだけでかわされる。

 

「ふんっ!!」

 

「ぐっ、ぁ!?」

 

クルシーナはすれ違いざまに肘を打ち据え、かすみの背中に命中させる。

 

「おらぁっ!!」

 

「うわぁぁぁっ!!」

 

怯んだかすみにミドルキックを食らわせて横に吹き飛ばし、のどかの向かいのベッドの壁へと叩きつける。

 

「くっ・・・はぁぁぁぁ!!!!」

 

地面に落ちたかすみは再び立ち上がってクルシーナへと向かっていく。

 

「ふんっ!!」

 

「うぁぁっ!!」

 

クルシーナは向かってくるかすみを裏拳で吹き飛ばして転がす。

 

「ぐっ・・・あぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ふっ!!」

 

「うわぁっ!!」

 

「はぁっ!!」

 

「あぁぁっ!!」

 

「おらっ!!」

 

「がぁっ・・・!?」

 

「そらっ!!」

 

「ぐぁぁぁ!!!」

 

その後もかすみは諦めずにクルシーナに立ち向かうも、彼女に攻撃は呆気なくかわされ、殴られ、蹴られ、吹き飛ばされたりするばかりで、体がどんどんボロボロになっていく。

 

そして・・・・・・。

 

「ぐっ・・・うぁぁぁ!!!」

 

「ふんっ!!」

 

ドゴォッ!!!

 

「うっ・・・がぁっ・・・か、はぁっ・・・!?」

 

クルシーナはかすみに強烈なパンチを腹部に叩き込み、あまりの激痛に耐えられなくなったかすみはその場に倒れ伏してしまう。

 

そんな彼女の背中をクルシーナは踏みつけて足蹴にし見下ろす。

 

「諦めろ、いい加減。どうせお前じゃ、アタシに勝てやしないんだよ」

 

「うっ・・・」

 

見下げたように見つめるクルシーナと、蓄積されたダメージと痛みのあまり立ち上がることができないかすみ。

 

「うっ・・・うぅぅぅ・・・ぁっ・・・ぁぁ・・・ぁ・・・」

 

そして、のどかはその間も苦しみの声をあげており、遂には体を蝕む苦しさに限界を迎えたのどかは苦悶の表情のまま、顔を横に倒して意識を失った。

 

「あぁ・・・のど、か・・・」

 

「あーあ、気絶しちゃった。ちょっとやりすぎちゃったかなぁ? でも、まあ、こいつにはこのぐらい当然ね」

 

かすみはのどかのその様子に絶望の声を漏らし、クルシーナはその様子を嘲笑いながら握っていた手を離す。

 

「よくも・・・のどかを・・・!!」

 

「・・・ふっ」

 

「あぁ!?」

 

のどかは自身の上のクルシーナに恨みがましく睨むも、クルシーナは鼻で笑うと地面に伏せるかすみを蹴り飛ばして転がせる。

 

「許さない・・・許さないからな・・・!!!」

 

「別に許しを請うてもらう必要ないし」

 

かすみは睨むつけながら恨みのこもった言葉を吐くも、クルシーナは笑みを浮かべながら受け流す。

 

「大体、まだそいつは死んでないわよ。今はね。下手したら死んじゃうかもだけど」

 

「お前が・・・お前が、のどかに・・・!!」

 

「ええ。キュアグレースの中にあるテラパーツを活性化させるためにねぇ。ちょっとこいつには苦しんでもらったわ。やっぱり人間は苦しいと感じているときが、生きてるって感じね♪」

 

「やっぱり・・・お前が、のどかに・・・変なものを・・・!!!」

 

クルシーナは嘲りながらのどかにテラパーツを埋め込んだことを暴露した。かすみはおおらか市の自然でのどかから変な違和感を感じていた。ちゆがドクルンに強要されてテラパーツを自ら埋め込んだときと気配が似ていたのだ。なんとなくの勘だったが、クルシーナの言葉で確信に変わった。

 

「気づいてたんだぁ? さすがは、よく育ったビョーゲンズなだけあるわね」

 

「私は、ビョーゲンズじゃない!!」

 

かすみは叫びながらクルシーナの言葉を否定する。その様子に笑みを浮かべていたクルシーナがふと無表情に戻して、顔をかすみに近づけた。

 

「・・・本当にそう思ってんの?」

 

「あ、当たり前だ・・・私は、のどかやアスミ、ラビリンたちと一緒に戦ってきたんだ・・・友達なんだ・・・!! だから・・・私はビョーゲンズなわけがない・・・!!!!」

 

「・・・ふーん」

 

クルシーナの冷たい声にかすみは動揺するも、自分があくまでもビョーゲンズではないと主張する。

 

クルシーナはその言葉につまらなそうにそう返すと・・・・・・かすみから顔を離し、入れ替わり自身のに手をかすみに伸ばす。

 

「っ!? あ・・・」

 

かすみの顔を掴むと彼女は目を見開いたかと思うと、その瞳が真っ赤に染まる。そして、彼女から驚いたような表情が消えていく。

 

そして、クルシーナが彼女から手を離すと、そこには・・・感情を無くしたかすみが立っていた。

 

「・・・キュアグレースをやれ」

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナはそんなかすみの耳元にそう囁くとかすみは無言のまま、のどかのベッドへとゆっくりと近づき、気を失っている彼女の上に馬乗りになる。

 

「・・・・・・・・・」

 

そして、のどかの首へと両手を伸ばした。

 

ギュゥゥ・・・・・・。

 

かすみはのどかの首を掴むと、ゆっくりと絞め始める。

 

グググググ・・・・・・。

 

「うっ・・・ぐぅぅぅ・・・・・・」

 

すると、再びのどかの表情が徐々に苦痛に歪み始める。

 

「・・・・・・・・・」

 

「くっ・・・うぅぅ・・・うっ、うぅぅぅ・・・や・・・やめ・・・て・・・!」

 

「・・・・・・・・・」

 

「うぅぅ・・・あぁ・・・ぁっ・・・苦・・・しい・・・助・・・け・・・!!」

 

かすみはそんな彼女の苦しみの声に答えることなく、無表情で無言のまま首を絞め続ける。のどかは気を失っているはずだが、その手はかすみの手に掛けられて外そうともがいていた。

 

「あぁっ・・・あぁっ、あぁっ・・・くっ・・・ぐっ・・・ぅぅぅ・・・!」

 

「・・・・・・・・・」

 

「うっ・・・うぅっ・・・あぁっ・・・ぁぁぁ・・・!!」

 

しかし、かすみの力は異様に強く、首を絞めている手をガッチリと離さない。首を振ってもがいても外れることはなく、やがて飲み込めなくなった彼女の口から涎が垂れ始めた。

 

「・・・フフフッ♪」

 

クルシーナはその様子を見ながら、邪悪に笑う。のどかの病気による苦しみを食らい、仲間の手で殺されかける苦しみを食らう。彼女にとってこれほど愉快なものはなかった。

 

「ぁぁ・・・ぁっ・・・」

 

のどかの声が弱々しくなり、もうすぐ呼吸が止まる・・・その時だった・・・。

 

「っ!! うっ・・・!」

 

かすみの瞳が元の色を取り戻し、彼女が頭痛に呻く。

 

「私は、何を・・・っ!?」

 

「ぅぅ・・・ぁ・・・」

 

頭がぼんやりしているかすみは状況を確かめようとすると、自身の手がのどかの首に掛けられていることに気づく。のどかは表情に力が入っておらず、窒息寸前だった。

 

「うわぁぁぁっ!?」

 

「うぅぅ・・・! かはっ、ケホッ、ゲホッ、ケホッ!!!!」

 

かすみは動揺して慌ててのどかの首から手を離し、彼女は激しく咳き込む。

 

「あぁぁ・・・なんで・・・なんで!!??」

 

かすみは自分の手を見つめながら、取り乱したように叫ぶ。自分はクルシーナに打ち負かされて地面に倒されていたはずなのに、なぜのどかに手を掛けているのか・・・?

 

それにのどかの首を絞めていたという感触が手に残り、それを脳に感じて吐き気がしてくる。

 

「・・・ふっ」

 

「あぁぁ!?」

 

そこへクルシーナが彼女の服の襟を掴んで、後ろへと引っ張りベッドから床へと倒す。

 

「・・・これでわかっただろ? お前はビョーゲンズなんだ。相手を苦しめようという衝動には、抗えないんだよ」

 

クルシーナは見下ろしながらそう言い放った。

 

「・・・をした・・・」

 

「??」

 

「私に何をしたッ!!!???」

 

かすみは恐怖を感じながらも、それをごまかすように激昂した叫びを上げる。

 

「お前の体を構成するものを活性化させてやっただけよ。お前がビョーゲンズだっていう自覚を持ってもらうためにねぇ」

 

「ふ、ふざけるなッ!!! 私は、ビョーゲンズじゃないッ!!!! のどかに手を掛けて楽しいわけがない!!!!」

 

クルシーナは無表情で見下ろしながらそう言う。かすみは体の震えが止まらない、それをごまかすかのように叫び続ける。

 

「・・・まだ、そんなこと言うんだ? キュアグレースの体力と元気を奪ったのはお前だってのにさぁ」

 

「っ!?」

 

クルシーナは不機嫌そうに表情を顰めると、かすみの前でそう言い放ち、彼女は驚愕の表情を浮かべる。

 

「な・・・なん、だと・・・?」

 

「だから、キュアグレースの元気を奪ったのはお前だよ。メガパーツじゃない、お前が奪ったんだよ」

 

かすみはクルシーナから暴露された言葉に、ただ呆然と彼女を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、すこやか市の病院の裏の山で待機しているダルイゼンは・・・・・・。

 

「??」

 

病院に再度行ったクルシーナの報告を待っていたが、そこに赤い靄がこちらへ向かってくるのが見えた。

 

それはキュアグレースの体に埋め込んだメガパーツのようだった。

 

「早いな・・・もう出てきたのか。これじゃあ、またネブソックやコリーノみたいな未成熟なやつかな?」

 

ダルイゼンは離れた木の下の辺りで止まり蠢いている赤い靄を見つめながら言った。前のネブソックや、クルシーナが生み出したコリーノも早めに出てきてしまったし、メガビョーゲンを生み出す力を持っているわけではなかった。

 

また、実験は失敗なのか・・・。

 

今回もそんな諦めの色が見えている頃、そこへやってきたのは・・・・・・。

 

「ダルイゼン!!」

 

「先ほど抜け出したメガパーツもいます!!」

 

ちゆ、アスミ、ひなたの憎っくきプリキュアたちだった。3人は赤い靄を険しい表情で見つめる。

 

「・・・キュアグレースはいないのか。まあ、ちょうどいい。お前たちも一緒に見なよ。キュアグレースの中で育ったメガパーツが、一体どんなテラビョーゲンに進化を遂げるのか」

 

「進化・・・?」

 

ダルイゼンはのどかがいないことを気にしつつも、変化していく赤い靄を見つめる。ちゆたちも身構えながら赤い靄に構える。

 

そして、赤い靄はうねうねと人の大きさへと盛り上がっていき、人型のテラビョーゲンへと変化していく。

 

「・・・えっ?」

 

「あれって・・・?」

 

赤い靄が変化し、姿を成したテラビョーゲンを見て、ちゆたちはもちろん、ダルイゼンも驚いていた。

 

その理由は、その外見がダルイゼンにそっくりだったからだ。しかし、ダルイゼンに比べると背丈は小さく、赤いチョッキのようなものを着ていた。

 

「・・・からだ、うごく。ぼく、しんかした・・・?」

 

「ダルイゼンに似てるペエ!!」

 

ペギタンがそう叫ぶと、ボソボソと呟いていたテラビョーゲンはそれに反応する。

 

「・・・ダルイゼン、ちがう・・・ぼく、ケダリー・・・しごと、ちきゅうをびょうきにする・・・」

 

ケダリーと名乗ったテラビョーゲンはそう言いながら両手を構えると、赤い光弾を放った。それによって周りの木や植物が侵食され、赤い靄に包まれる。

 

すると・・・・・・。

 

「クチュン!!」

 

「ラテ!!」

 

ラテがくしゃみをして、体調を崩し始める。

 

「と、とにかく、お手当ニャ!! のどかとラビリンはいねぇけど、俺たちだけでも!!」

 

「うん!!」

 

ニャトランの言葉を合図に、ちゆとひなたは頷くと変身ステッキを構え、アスミも風のエレメントボトルを構える。

 

「「「スタート!」」」

 

「「「プリキュア、オペレーション!!」」」

 

「エレメントレベル、上昇ペエ!!」

「エレメントレベル、上昇ニャ!!」

「エレメントレベル、上昇ラテ!!」

 

「「「キュアタッチ!!」」」

 

ペギタン、ニャトランがステッキの中に入ると、ちゆ、ひなたはそれぞれ水のエレメントボトル、光のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

アスミは風のエレメントボトルをラテの首輪にはめ込む。すると、オレンジ色になっているラテの額のハートマークが神々しく光る。

 

ちゆとひなたは、肉球にタッチすると、水、星をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまとい水色、黄色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もそれぞれをイメージをしたようなものへと変わり、ちゆは水色、ひなたは黄色へと変化する。

 

ラテとアスミは手を取り合うと、白い翼が舞い、ラテが舞ったかと思うとハートの中から白い白衣のようなものが飛び出す。

 

その白衣を身に纏い、ラテが降りてきたかと思うとハープが飛び出し、さらにアスミは紫色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

衣装にチェンジした後、ハープを手に取り、その音色を奏でる。

 

キュン!

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

ちゆは水のプリキュア、キュアフォンテーヌに変身。

 

キュン!

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

ひなたは光のプリキュア、キュアスパークルに変身した。

 

「「時を経て繋がる、二つの風!」」

 

「キュアアース!!」

 

「ワン!」

 

アスミは風のプリキュア、キュアアースへと変身した。

 

その間、ケダリーは手から赤い光弾を放って、徐々に地球を蝕んでいた。

 

「はぁっ!!!」

 

「ぷにシールド!!」

 

そこへスパークルが飛び出し、肉球型のシールドを張って赤い光弾を防ぐ。

 

「・・・じゃま」

 

ケダリーはボソリとそう呟くと空中に飛び上がり、両手から赤い光弾を放とうしていた。

 

「「「はぁぁぁぁぁっ!!!」」」

 

プリキュア三人も空中へと飛んで、ケダリーを阻止しようとする。

 

プリキュアたちはそれぞれ3方向からパンチやキックを繰り出すも、ケダリーは滑らかな動きで翻しながら悠々とかわしていく。

 

「「「きゃあぁ!!」」」

 

さらに空中で回転しながら、再び向かってきたプリキュアたちを蹴散らして地面へと落とす。

 

「うぅぅ、凄まじい柔軟性です・・・」

 

「もぉ〜!! タコじゃないんだから〜!!!!」

 

プリキュアたちが地面についてぼやいていると、そこにケダリーが降りてくる。

 

「プリキュア・・・じゃまする・・・さき、しまつする・・・」

 

ケダリーは機械的にそう言うとまずはプリキュアを倒そうと、こちらへと飛び出しパンチを繰り出す。

 

「「ぷにシールド!!」」

 

「「ぐっ・・・!!」」

 

フォンテーヌとスパークルは肉球型のシールドを展開するも、ケダリーの強力なパンチに後ろへと押されていく。

 

「強い・・・!!」

 

「メガビョーゲンからさらに進化しただけのことはあるぜ・・・!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

バシュッ!!!!

 

「「あぁぁぁっ!!!」」

 

フォンテーヌとニャトランがそう呟く中、ケダリーはパンチの手を広げてそこから禍々しい光弾を放って、フォンテーヌとスパークルを吹き飛ばす。

 

「はぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

そこへアースが連続で蹴りを放っていくが、ケダリーはスルスルとその蹴りをかわしていき、隙をついて足を受け止める。

 

「・・・・・・・・・」

 

「あぁっ!!」

 

そして、そのまま勢いよく押し返して吹き飛ばした。

 

ケダリーはアースが吹き飛んだのを見ると、立ち上がろうとしているフォンテーヌとスパークルの方を見る。

 

彼は体を向き直すと、二人に向かって飛び出してきた。

 

「来るぞ!!!!」

 

「っ、はぁっ!!!!」

 

ニャトランの叫ぶ声を合図に、フォンテーヌはステッキを振るって青い光線を放つ。

 

「・・・・・・・・・」

 

しかし、ケダリーは柔軟な体を翻して光線を掻い潜り、二人へと迫る。

 

「「っ!!」」

 

「・・・・・・・・・」

 

そして、ケダリーは赤く禍々しい光弾を二人に目掛けて放った。

 

「・・・・・・・・・」

 

そんな戦いの様子をダルイゼンは木の下で寄りかかりながら見つめていた。

 

「・・・あいつ、なんで俺に似てるんだ? 髪型も姿も俺と変わらないな」

 

ダルイゼンはあまりにも似ているケダリーを見ながら疑問に思っていた。ケダリーは、勘違いでなければキュアグレースに埋め込んだメガパーツから生まれたテラビョーゲンだ。あのプリキュアから生まれたテラビョーゲンが、なぜ自分と似ているのか・・・?

 

「キュアグレース・・・」

 

ダルイゼンは自身が個人的に興味を持っているプリキュア、キュアグレースの顔を思い出す。しかし、何も浮かんでこない。今度はあいつがプリキュアに変身する前の姿を思い出す。

 

浮かぶのは、イチゴを育てていた農園で女性を突き飛ばした後、あいつが怒っている姿と、メガパーツを入れた直後にプリキュアの変身が解け、地面に倒れ伏して苦しむ姿・・・・・・。

 

すると・・・・・・。

 

「っ!? あいつ・・・」

 

キュアグレースの姿を頭に浮かべていたダルイゼンに突然、自身の過去が甦ってきた。

 

『のどか・・・!!』

 

『のどか・・・しっかりして!!』

 

自身がまだ赤い靄だった頃、暗闇の中で聞こえてくる男性と女性の声・・・・・・。

 

『大丈夫・・・?』

 

ある時、病院でのどかが人工呼吸器を付けるほどの危篤になった時、病院時代の友人・しんらは手を握って彼女を支えていた。

 

そんな時に自身の溢れた赤い靄の一部がのどかの体から・・・・・・。

 

『地球上にいるビョーゲンズたちよ・・・我はキングビョーゲン。時は満ちた・・・この星をビョーゲンズのものにするため、今こそ忌々しきヒーリングアニマルを滅する! さあ、我の元に集うがいい!!!』

 

ある時、聞こえてきたのはキングビョーゲンの声だった。その声に導かれるように自身はその光へと体を伸ばしていく。

 

そして、自身はのどかの体から分離していき、病院の窓から飛び出す。病院の近くの外で現在のような姿へと変貌を遂げたのだ。

 

「・・・・・・・・・」

 

ダルイゼンはさらに記憶を甦らせていく。

 

『ふわぁ〜、いろんなお花さんがある〜♪』

 

メガビョーゲンが吐き出した種のような一部だった時、クモのような4本足で宿主を探してまわり、とある森の近くの原っぱで幼い少女を発見ーーーーそれは花寺のどかだった。

 

その種は気づかないのどかの背後から、自身の体を開かせて赤い靄のようなものを放出し、のどかの体の中に取り憑いたのであった。

 

「そうか・・・そういうことか・・・」

 

自身の宿主に寄生していた頃の記憶を全て思い出したダルイゼンは笑みを浮かべると、彼女がいる病院を見つめる。

 

「あいつ・・・俺も起源だったんだな」

 

ダルイゼンは一緒に行動しているビョーゲンズが、靄だった頃の自分と関わっていると察し、再びプリキュアとケダリーの戦いを見つめるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が、のどかの元気を・・・奪った・・・??」

 

かすみはクルシーナが暴露した言葉に、ただ呆然と彼女の顔を見つめている。

 

「そうよ、キュアグレースの元気と体力を奪ったのはお前なの」

 

「ウ・・・ウソだ・・・! 私にそんな力が、あるわけが・・・!!」

 

クルシーナの言ったことが信じられず、かすみは震える声で否定する。

 

「・・・まさか、自分の力に気づいてないワケ? ハッ、こいつはお笑い種ねぇ」

 

クルシーナは呆れたような口調でそう言うと、彼女は再びかすみに顔を近づける。

 

「事実よ。キュアグレースの体力と元気はお前の中にあるの。お前がキュアグレースの手を握った時に、無意識にお前は体力と元気を吸い取ってたの。お前から不愉快なオーラを感じたし、あいつが苦しんでたのはそういうことでしょうね。アタシは元々キュアグレースの体の中にあるメガパーツを活性化させて外に出すためにこの病室に侵入しただけだし、メガパーツは全く体力や元気を奪ってない。ここまで考えると、奪ったのはお前だってことだよ、脱走者」

 

「あぁぁ・・・あぁぁぁぁ・・・」

 

クルシーナがそう説明すると、かすみは絶望の声を漏らしていく。

 

「それにお前の吸い取る力は、アタシの能力に似てるのよ」

 

「っ!!な・・・な・・・」

 

かすみは震えの治らない体で、クルシーナの言ったことに反応する。

 

「この際だから教えてあげる。お前はね、キュアグレースの体の中に植え付けたアタシの病気の種、それがあいつの中で成長した病気の花、それからアタシが生み出したビョーゲンズなのよ」

 

「あぁ・・・あぁぁ・・・」

 

「プリキュアの持つステッキにそっくりなのも、キュアグレースがプリキュアとしての力を持っているからだし、生きる力を吸い取る能力を持っているのも、アタシの持つ吸収の能力にちょっと違うけど、似ているからだと思うし、アタシの病気から生まれたからじゃないかしらね?」

 

「ち、違う・・・」

 

次々と暴露されるかすみの秘密、それをクルシーナの口から明かされるたびにかすみの口から震えたような絶望の声しか漏らさず、それでも否定しようとする。

 

「皮肉なもんねぇ。自分が守ろうとしてたやつなのに、自分から生きる力を奪っちゃうなんてねぇ・・・おかしなもんだけど?」

 

「や・・・やめろ・・・」

 

「お前は元々プリキュア側につくべきじゃなかったのよ。アタシの勘だけど、お前は今人間を蝕みたいっていう気持ちもあるんじゃない? そこにいる可愛いキュアグレースをもっと蝕みたいっていう気持ちをさぁ?」

 

「やめろ・・・!」

 

かすみの泣きそうな、怯えるような震えた声を気にも留めず、クルシーナは心のない言葉を口々に吐く。

 

「・・・あぁ、そうか。キュアグレースが好きだっていうのも、彼女を蝕みたいほど好きっていう気持ちの表れなのかもねぇ!!」

 

「やめろぉっ!!!!!」

 

クルシーナの冷酷な煽りに耐えられず叫んだ。このまま聞き続けていると、自身の体や心は壊れてしまう。だから、叫んで紛らわせるしかなかったのだ。

 

「やめろぉ・・・やめてくれぇ・・・! 頼む・・・頼むからぁ・・・!!」

 

かすみは涙をポロポロと零し、遂には嗚咽を漏らしながら懇願する。それを見るとクルシーナは「ふん」と不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 

「・・・どうせお前がプリキュアどもと一緒にいたところで、あいつらを傷つけて苦しめるだけなのよ」

 

クルシーナは立ち上がってかすみを見下ろしながらそう吐き捨てると、のどかが横になっているベッドへと近づく。そして、意識を失っているのどかを抱えあげると、そのまま病院の窓へと向かっていく。

 

「はぁ・・・ぁぁ・・・」

 

「可哀想に・・・こんな病院なんかよりも、アタシのそばにいさせてあげる。そして、アタシがもっと苦しさを教えてあげる♪」

 

クルシーナはのどかの眠りながらも苦しそうな表情を見ながら笑みを浮かべる。

 

「待て・・・どこに連れてくつもりだ・・・!?」

 

かすみは体を震わせながらも立ち上がろうとしていた。

 

「・・・お前には関係ないだろ?」

 

クルシーナは顔を向きながらそれだけ言うと、病院の窓へと向かう。

 

「待てぇ!!!」

 

ドスッ!!!!

 

かすみはクルシーナを飛びかかろうとするも、彼女のすぐに振り向いて蹴りを繰り出した足が腹部に突き刺さる。

 

「が、あっ・・・!?」

 

かすみはそのまま病院の床へと崩れ落ち、激痛に体を震わせる。

 

「お前にこいつを守ることなんかできやしないんだよ。言っただろ? お前がいたって、みんな傷つくし、苦しむだけだって」

 

「うっ、うぅぅ・・・・・・」

 

クルシーナは諦めの悪いかすみに対して、そう吐き捨てる。

 

「あぁ、そうそう。こいつも連れていくからね」

 

そう言ってクルシーナが宙に浮かせてかすみに見せつけたのは、のどかのパートナーであるラビリンだった。植物のツタに体全体と口を縛られており、何やら元気を奪われたかのようにぐったりして意識を失っている様子。

 

「あっ、ラビリン・・・!!」

 

「ベッドの下に隠れてたみたいだから、ついでに捕まえといたの。こいつがいるといろいろと厄介だからねぇ」

 

ラビリンはしんらが現れたことで隠れていたはずだが、そのしんらに成りすましていたクルシーナに見つかってしまっていたのだ。大したことは何もできずに拘束されてしまい、口を塞がれて助けを求めることもできなかったのだろう。

 

かすみはそんなラビリンに向かって手を伸ばす。しかし、立ち上がることができないかすみの手は彼女に届くことはなかった。

 

「じゃあね♪ お疲れ様」

 

クルシーナはのどかを抱えたまま別れの挨拶をすると、窓の縁へと立ち、そのまま病院の外へと飛び出していった。

 

「うぅぅぅ・・・うぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・!!!!!」

 

かすみは伸ばした腕を床へと落とし、倒れ伏したまま握り拳を震わせる。クルシーナ相手に何もできなかったこと、のどかを無意識に傷つけてしまったこと、そしてビョーゲンズの欲に屈してしまったことに悔しさと悲しさを滲ませていた。

 

ビョーゲンズは敵であるはずなのに、今は自分の心の防衛のためにお願いまでしてしまった。大好きなのどかを守りきれずに、クルシーナに連れ去られてしまった。ちゆたちと分かれて引き返した手前、彼女たちに合わせる顔がない・・・・・・。

 

今までプリキュアと関わりを踏みにじられ、貶され、全否定されたかすみの精神は限界であった。そのあまりの悲しみに涙をポロポロと流し、嗚咽を漏らしながら拳を床に叩きつける。

 

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

そして、かすみの口から悲しみの絶叫が、病院の窓の外の空に響き渡ったのであった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、クルシーナの意図を察して、彼女から離れていたウツバットは、のどかの病室とは反対側の部屋にいた。

 

「クルシーナ・・・そろそろ戻っていいウツよね?」

 

ウツバットはクルシーナの帰りが遅いことに不安を感じていた。自身の推測だが、こんだけ時間が経っていればもう終わっているし、そろそろ戻ってもいいだろうと考えていた。

 

ウツバットはそう頭の中に入れながら、クルシーナの元へと向かおうとしたが・・・・・・。

 

「・・・ウツ?」

 

何やら禍々しい気配を背中に感じ、ゆっくりと振り返ってみると・・・・・・。

 

「ウツゥ!?」

 

なんと、先ほどクルシーナがメガパーツを入れ込んだ少女のベッドから異変があった。彼女を包んでいる赤い靄がうねうねと蠢くように膨れており、その中にいた少女が開いた目を赤く光らせていた。

 

その少女の頭から悪魔のようなツノを生やし、サソリのような尻尾が生えてくる。さらに、人間の肌は人ではない色へと変化していく。

 

そして・・・・・・。

 

「ウツゥゥゥ!? うわぁっ!?」

 

少女の赤い靄は浮かび上がるとそのまま、ウツバットが思わず驚くほどの勢いで病院の窓の外から飛び出していった。

 

自分の羽で頭を伏せていたウツバットは、赤い靄が飛び出していった窓の外を見つめる。

 

「い、今のは・・・テラビョーゲン・・・ウツか・・・?」

 

ウツバットはあの光景を見たことがある。あれはクルシーナたち三人娘が生まれた時と同じようなものであると・・・。

 

そして、その赤い靄はどうやら病院の裏の山へと飛び出していったようだ。

 

「ク、クルシーナに報告ウツ!!」

 

新たなテラビョーゲンが誕生しそうだと考えたウツバットはクルシーナを探すために、大慌てで窓の外へと飛び出していく。

 

そして、病室の少女が横になっていたベッドは、もぬけの殻となっていたのであった・・・・・・。

 


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