「君が噂の新しい子だね。私はここの鎮守府の提督をしているものだ。これからよろしく頼むよ」
「は、はい! よろしくお願いします!」
「うんうん...ってずいぶん硬いな、緊張してる?」
「は、はい!申し訳ありません!...実は以前からこの鎮守府で働くことが夢でして! お恥ずかしながら緊張して上手く頭が回りません!」
(提督の好感度上げとくと後々楽だしね。ここはベタベタでも提督をよいしょしないとね)
「はっは! お世辞でも嬉しいな、これからが楽しみだ」ポンポンッ
嬉しそうに私の頭を撫でる提督。
よし、とりあえず順調かな。
入社した時はコンプレックスだったこの低身長もこの職務ではすごく役に立つから好きになった。
「それで...失礼かもしれないが、早々にひとつ聞いてもいいか?」
「はい? どうされました?」
「...君、どっかで見たことある気がするんだけど...遠い昔にあったような...」
先ほどまでの和やかだった雰囲気が一転、提督からの異様なまでのプレッシャーが襲いかかり、私の体は硬直する。
「え!? え、ええっと...多分誰かと勘違いしてるんじゃ無いですかね...あははっ」
(確かに記録をよく確認したら、あんたが訓練学校時代に一度だけ講師のアシスタントとしてきたことあったらしいけど!そんなの覚えてんなよ!記憶力バケモンか!?)
「うーん、どうだろう...すまんがよく顔を見せてくれないか?」
ずいっとこちらに顔を近づけてくる提督。
まずい...知り合いだとバレたらこの潜入がパァに...。
冷や汗をかきながら後退りしていると、後ろから咳払いが聞こえた。
「...おほん。提督、その子怖がってますよ」
「はっ!...すまない、夢中になるとつい...悪い癖だな。夏風くんもすまない、脅かしてしまったな。...どうやら私の勘違いだったみたいだ..はっは」
スッと離れていった提督に安堵しつつ、後ろを向くと秘書艦らしき艦娘『加賀』が表情を崩さずにその場に立っていた。
(とりあえずは助かったけど、この会話を聞かれてたとなると面倒なことになったわね...。あの秘書艦の子に怪しまれてないかしら...)
「...提督。彼女はおそらく長旅で疲れています。今日はこの辺にして部屋で休ませるのが先決かと」
「おお、そうだな。相変わらず加賀は気が回るな。...では悪いがこの子を部屋まで案内してやってくれ」
「...かしこまりました」
「し、失礼します!」
「おう! 改めて明日からよろしく頼むぞ」ニコッ
加賀さんに連れられ、部屋を後にする。廊下に出て、後ろに並んだタイミングで携帯を取り出し記録を確認する。
(どれどれ...提督の記録によると加賀さんは...)
加賀について
礼節を弁えており、成績も申し分ない。寡黙ではあるが気が回り、戦闘時には遺憾無く指揮の中心を担っている。
ただどうも嫌われているのかうまくコミュニケーションが取れていない。会話はおろか、秘書艦になってからは一度も目をあわせてくれない。
これは何か根本的な問題を解決しないと改善は見込めないものと思われる
(なーるほど...。まあ人間関係は難しいところね...)
「...さっきはごめんなさい。あの人、集中するとああなっちゃうの...怖かったでしょ、意外と強面だものね」
「い、いえ! 少し驚きましたけど、大丈夫です!」
「...そう、ならよかった」
そう言って少し微笑むと、彼女はまた先ほどのような表情に戻った。
(...なんだ、さっきの件は特に気にしてなさそうね...。とりあえず安心したわ、一度疑われたら警戒を解くの大変だしねー...)
「....それと、一つ聞きたいのだけど...その...」
「? どうしました?」
「...どうやって提督に撫でられたのかしら?」
「え!? どうしてそれを!?」
「いや、どうしても何も...後ろにいたから...」
撫でられる、とは視察官の隠語で『偽名を使っている』という意味で使われている。常識的に考えて、通常の意味でこちらに聞いてくるとは考え難い...。
ということは情報が漏れていた...?
それにしても唐突にその言葉で聞いてきたこと自体が驚きだが、何よりたったあの数分の会話でそこまで見極められるとは...この子かなりの手練れのようだ。
...って今は相手のこと褒めてる場合じゃ...。
「えっと...ごめんなさい。急に変なこと聞いちゃって。このことは忘れて...」
「あの! 急ですが今夜お食事でもどうですか!? 先程の件を釈明したいですし!」
(まずい、とにかくここはもっともらしい理由をつけて疑いを晴らさないと...今後の潜入に支障をきたすわ...)
「しゃ、釈明...? まあ今夜は秘書艦業務が終われば時間はあるけど...そこまで大げさにしなくても...」
「これには理由があるんです! ここでは言えないですが深い理由が!」
「え、ええ。わかったわ。じゃあとりあえず部屋に着いたから荷物でも片しておいて。私の秘書艦業務は21時に終わるから、そのくらいの時間に鳳翔という居酒屋に来て頂戴。...じゃあまた」
「は、はーい...楽しみにしてますー...」
「ええ、こちらも。素敵な理由待ってるわ」
確信した。あの子は完全に私を疑っている。何か明確で納得のいく理由を見つけなくては...。タイムリミットは後...3時間。どうにかしてそれまでに結論を出さなくては...。
私は自室で今までの自分の記録を引っ張り出し、筆を執るのだった。
感想、ご意見、気軽にください。力になります。
次話では加賀視点で進行します。
なお今回の隠語については全てフィクションです。念のため記載しておきます。