提督、早く気づいてください!   作:マロンex

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今回は視点が話の中で切り替わります。


file:1-2 加賀の疑問(完結)

(加賀視点)

 

「えっと、じゃあとりあえず私は生で、夏風さんは...コーラでいいのかしら?」

「はい! すみませんお願いします!」

「かしこまりましたー」

 

注文を終え、店員が厨房へと戻っていく。業務終了後ということもあり、居酒屋鳳翔は多くの艦娘で賑わっていた。

 

「...ごめんなさいね。お店のチョイス間違えたかも」

(未成年の子がいるのに居酒屋なんて、我ながらアホなことしたわ)

 

「いえ全然! ここいいところですね!...こちらこそすみません、いきなりジュースなんて。全然お酒飲めない体質でして...」

 

「体質というかなんというか...私に合わせて飲む必要ないわ。他の人に勧められても飲んじゃダメよ?」

(この子隼鷹あたりに乗せられたらお酒飲んじゃいそうな勢いね...少し不安だわ)

 

「お気遣いありがとうございます! いやぁ...初日からこんな優しい人に出会えてよかったぁ」

 

「ふふっ、お世辞でも嬉しいわね。...なんかもう提督に撫でられた理由、少し分かった気がするわ」

 

「えっ...そう...ですか」

 

きっとこういう素直な反応が提督だけでなく、周りの人を惹きつけるんだろう。

 

「...あの...その件についてなのですが...」

 

(きた! 待ちに待ったこの情報!)

 

「...ごめんなさい! まず謝らせてください! 私、提督やあなたたちを騙してました! 私実は艦娘じゃなくて人間なんです!」

 

「は? 人間って...突然どうしたのよ...ってちょっ...」

 

唐突に立ち上がったかと思えば、私の横で土下座をし出す夏風。

この子が嘘をつくとは思えないし、何よりこの深刻そうな顔...。

まだ理解は追いつかないが、冗談を言っているわけではなさそうだ。

 

「...実は、どうしても提督の情報が知りたくて外部からきたものでして...。まあ潜入みたいなものですね...」

 

「えっと...ちょっと待って。まだ頭が追いつかないんだけど...というか、それ私に話しちゃって大丈夫なわけ? スパイってことよね? 敵ってこと...?」

 

「ち、違います! 外部と言っても身内ですよ!身内! 提督さんとは昔からの顔馴染みですし! なんなら後で提督さんに聞いてもらってもいいです!『夏野』って名前出せばきっとわかりますよ!」

 

(ってことはあれか...昔一目惚れした提督を忘れられず艦娘として潜入してまでわざわざ会いにきたと...。...まったく、駆逐艦だと思って安心してたのに、この子も提督狙いなのね...)

 

「...ま、まあなんとなく事情は分かったわ。けど、よく潜入できたわね。ここはセキュリティー厳しいから、素人じゃまず半日でばれてるわよ」

 

「もちろん、この日のために潜入専門の学校とか、心理学の学校通ってみっちり勉強しましたよ!...まあ今回実戦初ですがね...あははっ」

 

「すごい熱意ね...。何がそこまであなたを...でも、知り合いならそこまでしなくても普通にここに来ればよかったんじゃないの? そこで聞けばそんな手間かからないんじゃ...」

 

「ちっちっちっ。分かってないですね。私がそのままここに来たら、提督の本当の姿がわからないじゃないですか。実際に提督の下で働いて、いいところも悪いところも自然な状態で知ることが真の目的ですから」

 

「へ、へえ..なるほどね。よく分かったわ。ありがとう...」

(やばい、この子目がマジなんだけど。重い...愛が重すぎる)

 

「...あれ、なんか加賀さん引いてません?」

 

「え、いや...別に...」

 

「...もちろん、みなさんを騙していることは心苦しいです...でも、この情報があったら救える艦娘がいるかもしれないんですよ!?」

 

「いやいないでしょ!...というかちょっと待って! まさかこの情報、他でも共有してるの!?(艦娘に)」

 

「当たり前じゃないですか! 共有してますよ!(自分の部署に)。共有というか報告ですかね。依頼主に伝えるのがこの潜入の目的ですし」

 

「い、依頼主!? えっとじゃあ、他にも提督の情報を欲しがってる子がいるってこと!?」

 

「当たり前じゃないですか、じゃなかったらこんなスムーズに潜入できてませんよ」

 

「...知らなかったわ...提督ってそんなに人気なのね...」

(井の中の蛙だったわ...。まさか他の鎮守府にまで提督を好いている艦娘がいるなんて...)

 

「ええ、まあ最近は特にそうですね(職業的に)。しかし! 人気が増えた今だからこそ、私のような潜入する人間が必要とされるわけですよ! 加賀さんだって、提督が不当に評価されるのは嫌でしょ!...って聞いてます!? 加賀さん!」

 

「アー、ソウデスネー。提督ハミンナノ提督デスモンネー」

 

「そうそう、提督と艦娘、双方が円滑なコミュニケーションを...」

 

(だめだわ...ショックが大きすぎる...。...今日はもう飲まないとやってらんないわ...)

 

ー2時間後(視察官視点)

 

「...ちょっ...加賀さん! 飲み過ぎですよ! 明日も秘書艦業務あるんでしょ!」

(くっ...いいなぁ。私本当はお酒大好きなのに...駆逐艦って設定なんかにするんじゃなかったわ...)

 

「うるはいわねぇ! 飲んでなきゃやってらんないっての!...大体あんただって私にとってはライバルなんだからなぁー!」

 

「もー、どうしたんですか! 何言ってるか全然わかんないですよ!」

 

「ううっ...完全に出遅れたわ....」

 

最初の一杯のビール以降、加賀さんはすごい勢いでお酒を飲み始めた。ものの1時間でベロベロになり、その後はずっとこんな様子だった。

今はひとまず峠を越えたのか落ち着きを見せ、テーブルに突っ伏している。

 

(うーん、何か嫌なことでもあったんでしょうか...。まぁ、とりあえず偽名の件の釈明はしたし...今日はこの辺でお開きに...)

 

「さっ、さーて! 今日はこの辺にしましょうか! すみませー...ってなんですか、加賀さん」

 

店員を呼ぼうとあげた手を勢いよく加賀さんに掴まれ、唐突に私に詰め寄ってくる。

 

「...しえなさいよ」

 

「え? すみません、よく聞き取れなくて...」

 

「私にも学校れ学んだテクニック教えなはいよ! 不平等よ!!」

 

「は、はぁ? 突然何言い出すんですか...ちょっ...近いです!」

 

「...お願いよぉ。私...提督に嫌われたくない...」

 

「えっ...提督...?」

 

「...せめて...目を合わせることくらい恥ずかしがらなければなぁ...本当は私だって...」

 

それを言ってまたテーブルに突っ伏した加賀。

彼女の口からぽろっと漏れた『提督』という言葉を聞いた瞬間、加賀のデータの一文が脳裏に浮かぶ。

 

『...会話はおろか、秘書艦になってからは一度も目をあわせてくれない』

 

(...加賀さんのあのデータはそういうことか...なるほどねぇ...。本当はこういう恋愛沙汰にはあんまり関与したくないんだけど...潜入の件黙っててもらう必要あるし、ここは一肌脱ぎますか)

 

「...加賀さん、提督の連絡先知ってますよね」

 

「うえっ? ええ、まぁ...知ってるけど...」

 

「じゃあ、提督を飲みに誘ってみましょうか。まずはきっかけづくりです」

 

「うええ!? 無理よそんなの!」

 

「...提督と仲良くなりたくないんですか?」

 

「そりゃなりたいけど...。堅物で真面目な提督がOKしてくれるわけ...」

 

「その件については安心してください。こういう誘いを必勝にする心理学テクニックをお教えします、自慢じゃないですが、私、この手の駆け引き、失敗したことないので...」

 

「たいした自信ね、でもいいの? 私の手助けなんてして。依頼主が黙ってないんじゃないかしら?」

 

「もちろんタダとは言いません。...今日私がお話ししたことを全て黙っていただけるなら...の話です」

 

「...なるほど、交渉ってわけね」

 

寝耳に水のような話ですっかり目が覚めた様子の加賀さんは、しばらく考え込んだあと、覚悟を決めたように深いため息をついた。

 

「...分かった、やるわ。...失敗したら覚えておきなさい」

 

「交渉成立ですね。ではまず私がいう心理学のテクニックを覚えてください。話はそこからです。『ドア・イン・ザ・フェイス』と呼ばれるテクニックで...」

 

ー翌日 昼ごろ 鎮守府食堂

 

「ちょっと加賀! あんた今夜提督と飲みに行くって本当!?」

 

「ええ...そうだけど...。それがどうかしたの?」

 

「どうかしたのじゃないわよ! どうやったの!? あの難攻不落と呼ばれた提督の夜の時間のOKもらうなんて!! あんたもしかして...お金でも積んだんじゃ...」

 

「五航戦のあんたと一緒にしないで。ただLINEでお誘いしただけよ」

 

「私だって何度か誘ったのに! 全部断られたけど!? おごるって言ったのに!」

 

「瑞鶴はお金積んだんですね...」

 

「ふふっ...今夜は提督と二人で...さすがに気分が高揚します」

 

この加賀の飲みの一件はすぐに鎮守府中に広がり、この日以降、ここぞとばかりに提督にお誘いメールを送る艦娘が後を絶たなかった。

後に、お酒が飲めない駆逐艦や、提督の身を案じた艦娘たちによって『提督飲み承認制』という鎮守府内特別ルールが設けられるに至るのだが、それはまた別のお話。

 

 

後日談 最近の艦娘の状況について報告 

 

1、加賀についての記録

以前は嫌われていると思っていた彼女だったが、先日、唐突に飲みに誘われた。普段ならお酒があまり強くないこともあり、断っていた私だが、今回は話の流れで了承してしまった。

面と向かって話を聞いていると、嫌われているのではなく、気を遣ってくれていたことがわかった。

まだまだコミュニケーションが足りず、艦娘のことを理解していなかったと深く猛省した。

今後はできるだけ、思い込みで判断しないように善処する。

 

追伸 上官へ

加賀と飲んで以来、噂を聞きつけたのか毎日のように他の艦娘に飲みに誘われており、少々困っております。

前線で頑張ってくれている彼女らの本音を聞けるいい機会とわかったので、全て了承してはいますが、正直、体が持ちません。

お酒が強くなる方法を伝授していただけると幸いです。

 




今回少し長めですね。ご了承ください。
提督と加賀のLINEのやりとりも入れようかと思いましたが、尺の都合でカットしました。(というか入れるタイミングを失いました)

次回以降は別の艦娘の話になります。よかったら見てってください。
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