青葉:横須賀鎮守府 広報担当『新聞部』所属。鎮守府古参メンバーの一人。
「うーん、そろそろ次のステップに進んでもいいかなぁ」
新しい鎮守府に来てから早くも1週間がたった。加賀さんの一件以降、私は着々と潜入視察官としての準備を進めていた。
潜入視察官が提督を評価するために必要な情報は大きく分けて二つある。
1つは、『提督の言動』。
これは文字通り、提督が鎮守府内でどう行動しているか、どういう言葉をかけているかという直接的な情報。
もう1つが『艦娘の言動』
こちらは提督に対する艦娘達の反応で、提督に直接話す内容、起こす行動はもちろん、提督がいない場所でどんな言動をとっているかの情報である。
前者に関しては既に加賀さんの手引きもあり、定期的に秘書艦として固定でおいてくれることが決まり、その都度提督の言動を事細かにチェックすれば問題ない。
だが、後者の『艦娘の言動』、特に『提督がいない時の言動』を秘書艦業務のみでは到底情報収集ができない。
そこで...
「えっ、新聞部に入ってくれるんすか! やったー!」
「はい! ぜひ! 昔からこういう仕事してみたいなって思ってたんです!」
「いやぁ、嬉しいなぁ、新入生なんて久々だよ!」
「えっと...それでこの新聞部って何をするところなんですか? やっぱり新聞を発行するのがメインになってくるんですかね?」
「そうだね! 定期的な鎮守府新聞と臨時で何かあった時の特別新聞。主にこの二つの新聞の制作がメインかな?...新聞のネタは主に直接取材とか飛び込み取材とかで...」
『艦娘の言動把握』のため、私は青葉さん、という艦娘が所属するサークル、『新聞部』に入部することにした。
ここに所属すれば自然に周りの艦娘達の情報収集が可能な上、取材という名目で何かと怪しい行動をうやむやにできる。
(いやはや...我ながら潜入に最適な場所を発見したものですね♪ この青葉さんという方から情報をもらうこともできますしね)
「まあ、大雑把に内容説明するとこんな感じかなぁ。まっ、実際に活動した方がわかると思うし、とりあえず適当にどっか取材行ってみよっか! いやぁ誰か連れての取材は久々だー!」
「わかりました!」
「よーし! じゃあいこっか!」
こうして私たちはカメラやメモ帳などの機材を持って、早速取材をすることとなった。
久々の後輩なのか、青葉さんは終始嬉しそうに鼻歌を歌っている。
(あ、そう言えば青葉さんのデータは...)
青葉について
明るく、リーダーシップのある性格で、鎮守府内の雰囲気の底上げをしてくれている。
また、彼女の発刊する『艦隊新聞』は常に艦娘達の話題を集めるほど知名度は高く、情報鮮度も優れているため、私や多くの艦娘が利用している。
一方で最近、私を避けて行動しているようだ。以前は定期的に行っていた私関連の情報記事も、ここ数ヶ月、掲載どころか、取材の連絡すらない。
思い当たる節はないのだが、今後は原因究明をし、状況を改善していく所存だ。
(おっとぉ...青葉さんにも人間関係の点で不安要素がありますね...。まぁとりあえず今日の取材について行って様子を見ますか)
その後はテンション高めな青葉さんに連れまわさ...同行させてもらい、一日中取材をさせてもらった。
鎮守府内の面白い出来事や最近できた新しい設備の撮影や、その当事者達へのインタビュー、そして新聞に載せるらしい、ターゲットにした艦娘の調査などなど...。
その間も、念のため青葉さんの様子を観察していたが、これと言って提督関連のワードは一切出てこなかった。
(うーん、まあ提督の杞憂の可能性もあるしね。気長に観察してけばいいや)
その後、全ての取材が終わったため、私たちは再び部室に戻り、今日1日の取材記録をまとめていた。
「うんうん! 大収穫! 久々に充実したわぁ! ありがとね! 夏風ちゃん!」
「恐縮です。いやぁ...しかし流石ですね! 今日だけで今月の記事を書き上げちゃうなんて、すごいスピードです!」
「まぁねー♪ 後輩の前でかっこ悪い姿は見せらんないよ。私を見習って、君も精進したまえ、なんつって!」
「...あ、そう言えば今月も提督関連の記事ってないんですか?」
「へっ!? なんでそのことを!?」
資料を読むためについていた肘をガタンと滑らし、目を白黒させる青葉。
明らかに動揺している様子で、終始目が泳いでいた。
「あっ...ごめんなさい。実は以前から青葉さんの新聞読ませていただいてまして...」
「あーそうなんだ! そりゃ知ってるよね! あっはは! そっかそっか...」
そう言って、椅子を引き、立ち上がった青葉さんは資料を本棚にしまいながら呟く。
「...あの記事は...もう廃止したんだ」
資料をしまっているため、後ろ姿で顔はわからない。
だが、先ほどまでと同じ明るい声が、なぜかこの時だけはひどく悲しいトーンのように感じた。
(うーん...何か訳ありのようですね...。しかしあの記事を書いていただかないとここに入った意味が...)
「そう...なんですね。結構楽しみにしてたので残念です...どうしてやめられてしまったんですか?」
「...なんかあの記事だけは書く気起きなくなっちゃたんだ。...ごめんね」
「じゃ、じゃあ是非私をその記事の担当に!」
「それはダメ!!」
唐突に青葉さんが大声で叫んだことに驚き、私は思わずビクッと体が縮こまる。
その拍子で机に置いてあった資料の一部を床に散乱させてしまった。
「ご、ごめんなさい! 私ったらなんてことを...」
「...あっ、あー! ごめんね! 急に叫んだらそりゃびっくりするよねーあははっ...」
我に返ったように笑顔に戻った青葉さんは私の落とした資料を拾いながら、また先ほどの調子に戻った。
結局、なぜあそこまで動揺していたのかを聞くタイミングを逃してしまい、その日はそのまま解散となった。
モヤモヤとした気持ちが抑えきれず、私は加賀さんを誘い、居酒屋に足を運んだ。
ー居酒屋 鳳翔
先ほどあった出来事を加賀さんに話すと、怪訝そうな顔をしていた。
「青葉の提督日誌...ああ、前に新聞に載ってたやつね。鎮守府でも結構人気だった気がするわ。その記事をきっかけに提督と仲良くなる子も増えたらしいしね」
「そうなんですか...。じゃあなんで廃止にしちゃったんでしょう...。やはり提督の証言から察するに青葉さんが提督のことが嫌いになっちゃったとか?」
「うーん...でも、実は彼女って結構昔からこの鎮守府にいてね。...それこそ最初期とも言えるメンバーの一人じゃないかしら。些細なことで記事を廃止するほど嫌うとは思えないわ」
「そ、そうだったんですね...」
「...それに仮に嫌っていたとしたら、あなたが提督日誌の新担当になったってそこまで激昂はしないと思うけど」
「確かにそうですね...。...そう言えば、記事を書かなくなり始めた月って何かイベントってありました? それこそ青葉さん関係なしでもいいんですけど」
「イベント...? イベントねぇ...。あー...確か、月の初めくらいに提督の上官が遊びに来た...気がするわ」
「...上官が遊びに...もしかしたらその会話の中にヒントが...」
「会話って...直接の訪問よ? 電話じゃあるまいし、記録が残ってるわけ...」
確かに電話のような記録は残ってない。だが...本部で聞いたことがある『本部ルール』が今も生きているならもしかしたら...。
「いえ、もしかしたら...残ってるかもしれません。加賀さん、ちょっと明日以降協力してもらってもいいですか?」
「...それは潜入調査の一環? それとも...」
「私個人の興味です」
「ふふっ...なら、いいわよ。あなたには借りもあるしね。『友達』として協力するわ。...それで? 何をすればいいのかしら」
「ありがとうございます! えっとですね...まず...」
つづく
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