BanG Dream!~青薔薇との物語~   作:TRcrant

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第10話 挨拶という名の拷問

「あ、アタシは今井 リサ。よろしく☆」

「僕は、奥寺一樹です」

 

彼女……今井さんの自己紹介を受けて自分のも名前を言う。

 

「あはは、同い年なんだし、ため口でいいよ」

「えっと……よろしく」

 

苦笑する今井さんの言葉で、同じ学年であることを知った。

 

「ところで、奥寺君はこんなところで何してるの?」

「あ、えっと……職員室に行こうとしたんだけど、道に迷っちゃって」

 

言うのは簡単だけど、ものすごく恥ずかしい。

この年で迷子など、笑われはしないだろうか?

 

「まあ、始めてくる場所だから仕方ないかもしれないね。そうだ! アタシでよければ案内しようか?」

「え、いいの?」

 

右も左もわからないこの状況下で、案内してもらえるのはとてもありがたい。

とはいえ、さすがにそこまで甘えていいものだろうかと思う自分もいる。

 

「もちろん♪ 困ったときはお互いさまっていうじゃん? ここはおねーさんに任せなさい☆」

「お姉さんって……僕と今井さんは同い――「それは言わないお約束だよ、奥寺君」―――あ、はい」

 

ウインクしながら言う彼女に、僕はそれ以上言うのをやめた。

 

「それじゃ、いこっか」

 

こうして僕は、今井さんに案内してもらう形で、職員室に向かって歩き始めるのであった。

 

 

 

 

 

あの後、今井さんのおかげで職員室にたどり着けた僕のお礼に、今井さんは

 

『お礼はいいって。同じクラスになれるといいね~』

 

と言って職員室前で別れた。

どうも、購買部(僕が立ち止まっていた場所のさらに奥にあるらしい)に用があったとのこと。

 

(今度、何かお礼でもしようかな)

 

本人がいいとは言うが、さすがにそれを鵜呑みにするのもあれだ。

お礼の内容は、森本さんに相談に乗ってもらえば間違いはないだろう。

 

(あ、そういうことか)

 

そこで、僕は一つ分かったことがあった。

僕は、今井さんのことを最初は警戒していたはず。

それでも、いつの間にか僕は警戒を解いていた。

その理由で、思い当たるのがあったのだ。

 

(似てるんだ。森本さんと)

 

森本さんはボーイッシュでサバサバしているが、相談には親身になって乗ってくれるところもある。

おそらくは、今井さんのそれと森本さんの雰囲気が同じだったのが、警戒を解かせるのに一役買っていたのかもしれない。

 

(……どうやら僕は、ここで気を許せる人を一人見つけられたのかもしれない)

 

おそらく、ここにいる間は僕は常に気を引き締めていなければいけない状況に置かれるだろう。

そんな中で、気を許せる人がいるのは、ありがたいことだった。

いわば、心のオアシスのようなものなのだから。

 

「さてと、早く中に入ろうか」

 

何時までも突っ立っているわけにもいかない。

僕は意を決して職員室内に足を踏み入れる。

 

「失礼します。奥寺です」

「君が、テスト入学生ね」

 

中に入ると、女性教師の一人がこちらに歩み寄ってくる。

 

「私は、あなたのクラスの担任の向井(むかい)よ。できる限り、フォローはするからあまり緊張しなくていいわよ」

「は、はい。よろしくお願いします」

 

緊張しなくていいと言われても、土台無理な話なのだがとりあえずその言葉は心の中にとどめておくことにした。

 

「さて、これからホールのほうに移動するわよ」

「朝礼ですね」

 

これから行われることを言う僕に、”あら、知ってたのね”と反応しながら歩き出す先生と共に、職員室を後にした。

 

「この後、朝礼で君のことを全校生徒に伝えた後に挨拶をする機会があるから、今から何を言うか、考えておいたほうがいいわよ」

「…………え゛!?」

 

さらりと先生がとんでもないことを口にしたような気がした。

 

「あ、あいさつ!?」

「ええ。何せ、本学園の高等部で初めての男子生徒だからね。これは君のためにも必要なことなの」

 

先生の言いたいことは分かる。

全校生徒の前で僕のことを紹介しておけば、起こらなくてもいいトラブルを防ぐことができる。

なにせ、男子が通うことを知らないであろう外部からの入学生がいてもおかしくないのだから。

例えば、僕が不審者に間違われるとか。

啓介たちの情報いわく、中等部と高等部とでは入学式を行う日は別なのだとか。

そして、どういう理屈かは知らないが2年と3年の始業式も兼ねて行うとのこと。

要するに、挨拶するべき相手がうまい具合にそろう入学式で挨拶をしたほうが効率がいい。

 

(とはいえ、全校生徒の前で挨拶なんて……)

 

壇上に上がって挨拶をするであろう自分を想像してみる。

 

(………うん。拷問だ)

 

数百人の視線がこちらに向けられている状況など、一歩間違えればトラウマにもなりそうだ。

 

(覚悟を決めよう)

 

僕は、これから来るであろう未来を覚悟を決めるのであった。

 

 

 

 

 

『本日より、本学園の共学化に向けての最終調整を行うべく、本学園に男子が通うこととなります。男子生徒も皆さん同様に本校の生徒であります。よって生徒諸君におきましては、他の生徒と同じように接していただくよう、お願いします』

 

朝礼(という名の入学式)で、一通りの説明が行われ、僕が今日からここに通うことを、生徒指導の先生から告げられた。

先生の言葉は、僕に対しても言われているのだというつもりで、ステージ袖のほうで静かに聞いていた。

 

『それでは、どうぞ』

 

おそらく、今のが合図なのだろう。

 

(落ち着け。冷静に)

 

僕は自分を落ち着かせながら、ステージ袖からステージに出ると、そのまま教卓の前に立つ。

 

(うわ、視線が……)

 

その場にいる全校生徒からの視線は、僕が想像していたものよりもすさまじい力のようなものを感じた。

それに、思わず一歩後ずさりしたくなるのを僕はなんとか我慢して、挨拶をするべく口を開く。

 

「先ほどご紹介にあずかりました、奥寺一樹です。これから三年間、この学園の名に泥を塗らぬよう、通わせていただきます。右も左もわからずご迷惑等おかけするかと思いますが、よろしくお願いします」

 

(い、言った……言えた)

 

先ほどまでは緊張していたというのに、よくもすらすらと言えたものだと、自分をほめてあげたいぐらいだ。

一礼した僕に、ホールにいた生徒たちからあふれんばかりの拍手が送られる。

 

『それでは、これで入学式及び、始業式を終わります。生徒の皆さんは―――』

 

ステージ袖に戻りながら、僕は説明を聞くのであった。

こうして、僕の最初の試練は何とか無事に乗り越えられるのであった。




間違っても数百人の前でスピーチはしたくないなと思う、今日この頃です。

そう考えると、セミナーなどで講師をしている人はある意味すごい人だなと、思っていたりします。
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