BanG Dream!~青薔薇との物語~ 作:TRcrant
液晶が割れて画面が真っ白に……。
とりあえず、執筆用のサブPCは使えるので、こちらを代用しています。
でも、このタイミングで数万の出費は痛いです。
「ありがとう! 君のおかげでライブができるわ!」
「いえ。あまりうまくないかもしれないですけど、よろしくお願いします」
実行委員に案内されて向かった場所で、これから演奏するであろうバンドメンバーの人たちからお礼の言葉を言われる。
(ベースにキーボードとドラムもいるということは、ギターか)
その間にも、どのパートがいないのかを把握することを忘れない。
キーボードとドラムは、楽器を持っているわけではないので、断定は難しいが、さすがにそれが二人もいれば、両パートがそろっているか否かくらいは分かる。
「すみません、ギターはありますか?」
「それなら、このギターを使って。部の予備のギターだけどね」
女子生徒から手渡されたのは、エレキギターだった。
「あと、セトリを教えてもらえますか?」
「あ、そうだったわね。私たちは主にカバー曲しかやらないから、曲名さえ知っていれば大丈夫だと思うけど、どう?」
セトリを見せてもらった僕は、それに目を通していく。
(見事なまでに、高難易度の曲ばかり)
そこに記されていた楽曲は、どれも有名な曲であり、何より難易度も高めだった。
とはいえ、僕であればなんとかできるとは思うけど
「何とか弾けそうです」
「軽音部さん、間もなく出番です」
僕が答えるのとほぼ同じタイミングで、僕たちの演奏の順番が来たことを女子生徒が知らせに来た。
「よーし、じゃあ
『おー!』
(……)
何気ない、号令だ。
そのはずなのに、僕にはどこか引っ掛かりを覚えた。
そんな僕の心境など知る由もなく、僕たちはステージに上がるのであった。
「ありがとー!」
演奏が終わり、歓声が上がる。
それを受けて、ボーカルの人が声を上げて感謝の言葉を口にする。
(………なんなんだ、これ?)
僕としては、曲が進行していくにつれてふつふつと怒りのようなものがこみあげてくるような感覚を覚えた。
(ボーカルは音程が取れてないし、ベースやドラムはリズムキープができてない)
今一緒に演奏している人たちは、お世辞にもうまいとは言えないレベルの人だった。
カバーと言うのは、普通はカバーする楽曲へのリスペクトを欠かしてはいけないのだ。
それはうまい下手という意味ではない。
どのような曲にも、作曲者が大事にしているものは存在しているはずだ。
それを大事にするのが、リスペクトになるのだと、僕は思っている。
彼女たちの場合は、それが欠けているばかりか、カバー先の楽曲を汚している。
それだけでも同じバンドを組んでいる者としては許せないが、さらに許せないのは
(彼女たちは、観客を無視してるっ)
観客をないがしろにしていることだ。
現に、このライブで歓声を上げているのは、明らかに仲間内と思われる人だけ。
少し観客席を見れば、暇そうに携帯を操作していたり、寝ている人たちの姿が目に留まるはずだ。
それは、この人たちの演奏が評価されず、ただの雑音としか見られていないことの何よりの証だ。
(父さん)
思い出すのは、小さいころから父さんに何度も何度も言われていた言葉。
『今から、ミュージシャンとして一番大事な心得を教えよう。ライブでの主役はミュージシャンだと思う? うーん、惜しいね。ミュージシャンは確かに主役でもあるが、わき役でもあるんだ。本当の主役は観客なのさ』
最初のそれから僕にとっては驚きの連続だった。
それと同時に、父さんの言葉には説得力があった。
『ステージの上は常に自分との決闘の場。時には仲間と協力をして自分を打倒し、観客たちを満足させなければならない。だからこそ、常に驕らず侮らず、自分の持てるすべての技術を出し切って演奏する。そして何より―――』
(観客の存在を忘れるな。だよね)
父さんの教えを、僕は鮮明に覚えており、一つの僕の理想のライブの形にもなっていた。
それと比べると、今のライブはもはやミュージシャンとしての資質を疑うほどにひどい。
演奏もだが、彼女たちの観客を無視した自分たちの自己満足感が思いっきり出ているこのライブが。
「それじゃ、聞いてください! 『Rocks』」
(その曲は……ッ)
それは、セトリにはない曲だった。
おそらくは、僕が加わって行けると高をくくって、この曲にしたのだろう。
だがそれは、セトリの無視……ライブハウスなどでそれをやれば一発出禁もありうる暴挙を、今やったのだ。
それよりも僕が憤ったのは楽曲のほうだ。
(その曲は、僕たちが『ユージさんの想いを受け継いで演奏した曲』それを、こんな……)
彼女たちは、僕たちはおろか、ユージさんの想いまでもを踏みにじった。
(こんな屈辱黙ってられない……こうなったら、居心地が悪くなろうとかまわない。こんなライブ、終わらせてやるッ!)
どうやればいいかなどわからないし、この後どうなろうが知ったこっちゃない。
とにかく、このライブを終わらせる。
それしかなかった。
僕は弦を抑える手に力が入っていくのを感じていた。
これまで、啓介たち以外で思いっきり演奏はしたことがない。
今のライブだって、正確に弾くのを優先して、音の個性を出さないようにしていた。
それを、今までのように全力でやればどうなるかは、僕にもわからない。
この時、僕には見えていなかった。
「え? 何?!」
「はいはい、君たち交代。俺たちが引き継ぐ」
ステージ上で起こっていた騒動が。
「え、何?」
観客たちのざわめきが。
「1,2,3,4!」
「え?」
気が付いたのは、カウントの時だった。
驚いてドラムのほうを振り向いた僕が見たのは、片手でサムズアップしている田中君の姿だった。
よく見れば、これまでステージにいた女子たちは、森本さんや中井さんたちに入れ替わっていた。
そんな突然の事態に驚く間もなく、演奏は始まっており、僕は慌てて観客たちのほうを見ると、演奏に集中することにした。
(うん。これだよ、これが本当のライブだよっ)
演奏がうまいか下手ではなく、純粋に観客たちを楽しませる。
その強い気持ちが僕たちのライブでの一つ理想の形なのだ。
現に、さっきまでは明らかに仲間内での盛り上がりが強かった人たちは、心の底から楽しんでいるようにも感じられるし、休憩所代わりにしていた人達は、僕たちの演奏に集中していた。
先ほどまでのぬるい空気が、一気に引き締まり熱気に満ち溢れる。
こうして、僕は何とか文化祭のライブを成功に導くのであった。
「どうしてみんなここに?」
「何でも、サプライズみたいよ。教室を出たらいきなり鉢合わせになって驚いたわ」
ライブ終了後、ホールの外のほうに移動した僕は、そこで待ち合わせをしていた森本さん達と合流し、啓介たちにこの場にいる理由を聞いてみたところ、どうやらサプライズだったようで、森本さんがどこか呆れた様子で教えてくれた。
「いやー、サプライズに来てみたら、明美の奴とばったりと合流できたのはよかったんだが、一樹が休憩で出し物を見に行ったとか言ってたから探してたんだよ」
「一樹君なら、こういうのに顔を出すかと思ってきてみたんだけど、まさか、ライブに出てるとは思わなかったよ」
つまりは、ある意味すごいタイミングでここに来たということみたいだ。
とはいえ、そのおかげである意味忘れられない思い出になったのは間違いないけど。
「さてと、ライブも終わったことだし一緒に出し物でも見に行くか」
「はいはい! 俺、一樹たちの喫茶店がいい! 今井様の制服姿を一目見るんだっ!」
「……リサには会わせないほうがよさそうね」
啓介の願望丸出しの言葉に、森本さんとみんなで頷き合った。
「とはいえ、行くのは難しそうだがな」
「あ……」
田中君の、どこか察したような言葉に、視線の先を辿った僕は、その言葉に納得がいった。
そこには、こちらに向かって歩いてくる先生方の姿があった。
その表情はどれも険しいものだったことから、あまりいいことではなさそうだ。
「あはは、これはお説教コースね」
「俺たちはそのまま退場といったところか」
「ごめん、みんな」
元はと言えば、最悪なライブをした彼女たちが悪いのだが、引き受けた以上は僕にも責任がある。
「いいってことよ。あれは俺たちの意思でやったことだ」
「そうだよ。それに一樹君、あのままだったら後先考えずにめちゃくちゃにしてたでしょ?」
「う゛……」
中井さんの言葉に、僕は何も言えなかった。
それを人は図星をつかれたという。
あの時、僕は中井さんの言うとおり、あとのことを考えずに暴れてライブをつぶしていたと思う。
物理的ではなく、”演奏で”だけど。
「ま、今井様に会えなくなったのは残念だけどなっ」
「それで、すべてが台無しね」
啓介の励ましなのかわからないその言葉に、僕たちは苦笑しあう。
そんな、怒られる5秒前の一時であった。
ちなみに、森本さんには厳重注意、中井さん達は同じく厳重注意と退場処分となった。
そして、なぜか僕には一切お咎めはなかった。
傍から見れば、森本さん達が乱入してきた格好になるので、当然と言えばそうだが少しだけ複雑な気持ちになるのであった。
第4章、完
今回で文化祭の話は終わります。
そして次の章を経て、バンドストーリー1章に入っていくと思います。
それでは、次章予告を。
―――
季節が変わっていく中、一樹たちはいつも通りの日々を過ごしていた。
そして、季節は再び春へと差し掛かる。
次回、第5章『そして、始まりへ』