BanG Dream!~青薔薇との物語~   作:TRcrant

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今回はかなり長いです。


第16話 日の光と新たな一歩と

寒さも本格的になる11月の日曜日。

 

「うーん……」

 

僕は自室のパソコンの前で腕を組んで唸り声を上げる。

僕には、ある悩みがあった。

 

「この曲も……か」

 

それは作曲についてのものだった。

ここ最近、作曲した曲がどれもお蔵入りになるというのが、続いていた。

とはいえ、別にスランプと言うわけではない。

 

(啓介のポエム集に合うものがない……それに、これは僕たちが演奏するのにはあまりふさわしいともいえないし……)

 

僕たち、hyper-Prominenceは、作曲を僕が担当し、啓介は作詞を担当している。

作曲の方法は歌詞を先に決める所謂『詩先』だ。

歌詞は啓介が書き綴っているポエム集から、僕が曲調に合うものをピックアップし、曲に当てはめていく。

当てはめる際には、どうしても尺が合わないこともあるので曲のほうに微調整を加えていくことで、曲は完成する。

ただ、それはまだ暫定的なものであり、その後にみんなに聞いてもらい、色々な意見を出し合って最終調整をすることで、ようやく練習を始める準備が整う。

それがいつもの僕たちの作曲をめぐるやり取りだ。

だが、たまにではあるものの僕の作曲した曲の雰囲気などが、啓介が書いているどのポエムとも合わないことがある。

そういう場合は、それに合うポエムが完成するまで保留にしている。

僕から言って書いてもらうという手もあるが、そうすると啓介の書いているポエムの魅力がなくなってしまうことがあるのだ。

 

(啓介も傷つくからな……)

 

作らせておいて没にするのは、ある意味非効率的だし、何よりポエムを書いてもらった啓介を傷つけることにもなりかねない。

そういった理由から、僕たちは”保留”にするようにしているのだ。

今はなくても、今後出てくる可能性だって十分に考えられる。

だからこその保留だ。

また、出来上がった曲から歌詞を作るという『曲先』方式だと、これもまた啓介に負荷をかけるばかりか、啓介が書いているポエムの魅力が失われてしまう可能性もあるので、おそらくはこのままの方式で作曲はしていくことになると思う。

そんな保留中の楽曲の中には、僕たちが演奏するのにあまり適さない(というより曲調が合わなそうな)曲もある。

そういった曲は、完全にお蔵入りとなり、永遠に闇の中だ。

これは僕が悪いのだが、ふと思いついたメロディーでそのまま曲を作るため、完成してからお蔵入りだと判断することが多いのだ。

つまり、僕の手元には大量のお蔵入り曲がある状態なのだ。

ちなみに、どのような曲かと言うと、例えばBPMが4桁クラスのパートが存在したり、歌詞がそもそもなかったり、所謂電波系なものだったりと多岐にわたる。

 

(これ、何とかなんないかな)

 

流石にライブで演奏することはないが、だからとはいえこのまま日の目を見られないというのも曲が浮かばれないような気もするし。

とはいえ、ライブで演奏するわけにもいかないという堂々巡りが続いていた。

 

「まあ、いいか」

 

僕にできたのは、いつものごとく保留にすることだった。

そうして保留にした僕は、ネットサーフィンを始める。

 

「へえ……このグループ、MVを動画サイトにあげてるんだ」

 

僕の目にとまったのは、テレビなどでよく出ている有名なアーティストが動画サイトにあげている動画だった。

それは新しい曲のMVのようだった。

ネット社会になりつつある現代、テレビではなく動画サイトでMVを見られるようにするほうが、宣伝としての効率は高い。

これもまた、時代の流れというものだろうか?

 

「ん?」

 

動画サイトを閉じようとした僕は、思わずその手を止めた。

僕の中で、何かがひらめいたのだ。

 

(そうか。その手があったか)

 

「ちょっと、調べてみようかな」

 

そして、僕はネットでいろいろと調べ物を始めるのであった。

 

 

 

 

 

それから数日後の夜のこと。

僕は自室でパソコンを操作していた。

 

「これで、こうして………よし、できた」

 

画面に表示された『完了』のメッセージに、僕は達成感を感じながら両腕を伸ばして体をほぐしていく。

これがまたすごく気持ちいいのだ。

 

(あとは、見てくれる人がいればいいんだけど)

 

僕はマウスを操作して、画面を移動させる。

そこに表示されたのは、先ほど僕が投稿したインターネットの動画サイトにある動画だ。

投稿者名は『chaotic』で、『混沌としている』という意味がある。

僕が投稿したのは、まさにカオスな曲調の音楽だった。

僕が考えたのは、動画サイトにお蔵入りの曲を、アップロードすることだった。

動画サイト上にはいろいろな素晴らしい動画で溢れかえっている。

それは、音楽関係もまた同様で、この動画が有名になる可能性は極めて低い。

何しろお蔵入りとなった曲だ。

それでも、このまま日の光を浴びないよりはましだ。

誰かの目に留まれば、それだけで十分だ。

 

「さてと。そろそろ寝ようかな」

 

数日ほど動画の投稿方法や作成方法などを調べていたが、そこそこ形になった。

これ以上気にしていても仕方がないので、僕はそのままパソコンの電源を切ると眠りに就くことにした。

この経験が活かされることになる出来事が起こることなど、この時の僕は全く予想にもしていなかった。

 

 

 

 

 

それは、日曜日にバンドの練習のためにリビングにみんなが集まった時のことだった。

 

「皆、聞いてくれ!」

 

この日もいつも通りに、スタジオで練習をしようとしていた僕たちを制止したのは啓介だった。

 

「何だよ、啓介」

「皆に提案があるんだ」

「提案? まーたモテモテ作戦でも立てろって言うんじゃないでしょうね?」

 

森本さんが啓介に冷たい視線を向け突き放すように返す。

 

「ちがーう! ていうか俺の扱いひどすぎませんか!?」

「日頃の行いだから仕方がないよ。啓介君」

 

中井さんも、困ったような表情ではあるが、それでも言っている内容は非常に辛辣だった。

 

「一樹、違うよな? 俺、何も悪いことなんてしてないよな!?」

 

もう味方がいないと思ったのか、こちらにすがるように聞いてくるが、はっきり言ってみんなの言うとおりだったりする訳なんだが……。

 

「……で、その提案って?」

「露骨に話題を変えた!? なんてことだ……俺がもう取り返しがつかないほどにフラグが立ちまくっているなんてっ」

 

(そういうところを言ってるんだけどな……)

 

啓介のことだから、ポジティブに考えていそうだが、そうだったほうがむしろ僕たちには驚きだったりする。

 

「そんなことより、早く提案を言えよ。練習ができねえだろうが」

 

そして、このやり取りに耐え切れなくなった田中君は、若干苛立ちをあらわにしながら、不気味な感じに悶えている啓介に促す。

 

「ああ。皆、MV撮ろうぜ!」

「MV?」

 

啓介の口から出た提案は、僕たちの予想以上にまともで検討する価値のあるものだった。

 

「この間、動画でMVを見たんだよ! 俺達もあんなふうにカッコいいMVを撮ればめっちゃくちゃ有名になれるぜ!」

「そういえば、僕たちはプロモーション関係は消極的だったっけ」

 

そもそも僕たちが素性を隠している以上、それを特定されかねない要素を増やすのは得策ではない。

そう言った理由で、知名度を上げるような活動はしてこなかった。

とはいえこのまま消極的に動き続けることができるかと言われれば、間違いなく否だ。

 

「積極的なプロモーションをすれば、知名度は上がる……なんだ、意外にちゃんとした提案じゃない。もう、それならそうと早く言ってよ」

「言わせてくれなかった人が、何を言うんだよ!」

「はいはい。それじゃ、MVを撮ることに反対の人、手を上げて」

 

啓介の反論を遮るように、僕は早々に採決に移る。

それに対して手を上げる者は誰もいなかった。

 

「それじゃ、MVを撮ろうか」

「まずは、曲を決めねえとな」

「曲だったら、今練習中の曲でいいじゃん」

 

MVを撮ることが決まれば、あとは早い。

皆は次々に話し合いを進めていく。

 

「練習中の曲と言うと『In My heart』か……。だとしたら、どんな感じで撮るんだ?」

「探偵物風にしているのはどうかな? 曲調に合ってるし、いいと思うんだ」

 

(確かに、そういうテイストでも成り立つ曲だし、問題はなさそうだ)

 

「それじゃ、あとは服装とかだな。さすがに白装束は合わないからな」

 

田中君の言うとおり、もし探偵ものにするのであれば、白装束はかなり浮いてしまう。

アニメにすれば別だろうけど。

 

「素性がばれるリスクを冒して、曲が成り立つのを優先するか……それとも素性の秘匿を優先するか」

 

啓介が選択肢を呟くように口にするが、それに対しての僕の答えは決まっている。

 

「素性の一つだけを明かして、曲のほうを優先しよう」

 

僕の選択は前者の、曲のほうを優先させることだった。

 

「明かすって、何をだよ?」

「性別……誰が男で女なのか。それ以外は一切秘匿させた状態にする。サングラスをしたりカツラとかで髪の色を変えれば十分可能のはず」

 

性別程度であれば、僕たちの素性はそれほど明かされたことにはならないはずだ。

 

「確か、裕美の家にいろいろな衣装があったよな?」

「うん。お父さんに言えば貸してもらえると思う」

「じゃあ、私は母さんにでもカツラを貸してもらえるかどうか聞いてみるよ」

 

(今更だけど、みんなの両親って何をしてるんだろう?)

 

普通、そう簡単に何でもそろうことはないはずなのだが……。

こうして、舞台衣装を中井さんが、そしてカツラを森本さんが用意することでこの話し合いは終了となり僕たちは練習を始めるのであった。

 

 

 

 

 

「じゃーん! どうどう?」

「かわいい!!」

「今回はレトロ風な探偵の服があったから借りてきちゃった」

 

数日ほど経った放課後、リビングで中井さんが見せてきたのはチェック柄のいかにもな探偵風の服だった。

帽子までご丁寧にそろっている。

 

「それじゃ、ちょっと試着してみよう。たぶんサイズは合うと思うけど、念のためにね。一樹君、スタジオ借りるね」

「わかった。じゃあ、僕たちはここで着替えるよ」

 

そんなわけで衣装の試着をするために、女子はスタジオに向かい、僕たちはリビングで着替えることになった。

 

「覗くんじゃないわよ? 特に啓介!」

 

最後に階段を降りようとした森本さんが釘を刺してくるが、森本さんが言うように、そんなことをしそうなのは啓介ぐらいしかいない。

 

「ちょ!? 何で俺を名指し!?」

 

啓介の抗議は、すでに階段を下りていた森本さんに届くことはなかった。

 

「少し俺の扱いの改善を要求してやろうかな……」

 

ぶつぶつとつぶやきながら着替え始める啓介に、僕と田中君は顔を見合わせると肩をすくめるのであった。

試着の結果、みんなサイズはぴったりだったようで、まるで本当に探偵ではないかと思わせるほどの雰囲気を醸し出していた。

衣装が整えば、後は撮影だ。

撮影場所は無難に、スタジオを使うことにした。

 

「親父に頼んで、カメラを貰ってきたぜ。もう使わないそうだから俺達で自由に使えだとさ」

 

撮影用の機材は、田中君がおじさんからもらったビデオカメラを使うことになった。

 

「すげっ!? これ、かなりいいカメラだぞ!」

 

啓介が興奮したような口調で言うのも無理はない。

そのカメラはかなりの有名なブランドで、値段にして数十万は下るほどの代物なのだ。

とはいえ、中古なのでそこまでの価値はないが軽く1万は超えるだろう。

少なくとも、一学生が持つにはかなり高価すぎる。

 

「じゃあ、撮影を始めるから、まずは中井さんと森本さんそこに立って。何かを探している場面を撮るよ」

「オーケー!」

 

二人は、三脚で固定されたカメラの前に移動する。

 

「それじゃ、本番まで3秒前……2,1……アクション!」

 

田中君の声と共に、二人は何かを探すような仕草を始める。

 

「カット! 二人ともオーケーだ!」

「ふう。少し緊張するわね、これ」

 

撮影を終え、一息つく森本さんは、しみじみとした様子でつぶやく。

 

「でも、背景はどうするの?」

「それは、グリーンバックを利用するつもり」

 

お蔵入り曲の動画を投稿する際に勉強したものの一つが、このグリーンバックの技術だった。

何に使うかは全然わからなかったが、ここで役に立つことになるとは思ってもいなかった。

そんなわけで、僕たちは撮影を順調に済ませていき、数日ほど経った日曜日の朝に、MVを完成させることができた。

 

 

 

 

 

MVの完成を聞いた、みんなはリビングに集まる。

MVの仕上げは僕が担当することになった。

かなりいい出来だとは思うが、それでも緊張せずにはいられなかった。

 

「それじゃ、流すぞ」

「う、うん……」

 

緊張した様子で、田中君が僕のパソコンにある動画ファイルを再生させる。

最初に写ったのは中世ヨーロッパを彷彿とさせる絵だった。

ちなみにこの絵を描いたのは啓介だったりする。

最初に映ったのは、いつもの僕たちの服装でもある白装束を身に纏っている姿だった。

そこで、僕たちの姿フレームアウトして曲名が表示される。

その曲名が消えて映し出された僕たちの服装は、探偵服を身に纏い、サングラスをしているものだった。

この一連の流れには狙いがあり、白装束の人たち=探偵服を着ている人と言う風に結びつかせる目的がある。

髪の色もカツラによって変えているので、素性がばれる可能性は低い。

まさにいいとこどりの状態だ。

 

「……すげえ。めっちゃくちゃいいぞ!」

「うん。すごく良かったよ」

 

MVを見た皆の反応もかなり良く、

 

「何か改善点とかある?」

 

という僕の問いかけに、声を上げる者はいなかった。

 

「それじゃ、これで動画を投稿するよ」

「うぅ……ドキドキするっ」

 

既に投稿用のアカウントは作っている。

名前も、バンド名である『hyper-Prominence』だ。

今後は、ライブなどのオファーはこのアカウントに記載しているメールを経由してくることになる。

これもまた一つの大きな一歩だ。

これまでは、父さんのもとにかかってきていたオファーだが、いつまでもそれができるわけではない。

今後、オファーを受けるのも自分たちでしなければいけなくなる時は必ずやってくる。

だからこそ、このMVはそれのいい機会だったのかもしれない。

そして、動画は投稿され大勢の人に見ることができる状態となった。

 

「……練習、しよっか」

「だ、だだだな」

 

動画を投稿したことへの不安、そして新しい一歩への希望から挙動不審になりながらも、僕たちは練習をするべくパソコンの電源を切ってスタジオに向かうことにした。

こうして、僕たちは新たな一歩を踏み出すのであった。

 

 

 

……それが、後に僕たちを身の危険にさらすような事件のきっかけになるとも知らずに。




区切ろうとしたのですが、区切れる場所を見つけることができなかったので、この長さになりました。

ここまでの長さは久々だったりします(汗)
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