BanG Dream!~青薔薇との物語~ 作:TRcrant
第21話になります。
「それで、一体どういうこと? いきなりあんなこと言って」
森本さんにせがまれる形で、ピアノの演奏をした僕だったのだが、終わるや否や森本さんに
『一樹、向こうから出ましょ』
と提案されたのだ。
「え、どういうこと? ……まあ、いいけど」
あの時は特に考えもせずに応じたが、やはり気になるものは気になるのだ。
「……はぁ。さっき、一樹が演奏しているのを覗き見ている子がいたのよ」
「まあ、学校だしね。でも、ここまでする?」
観念した様子で話してくれた理由には驚きはしたが、ここまでするほどのことなのかという疑問は拭えない。
「一樹は、こういうことであまり目立ちたくはない。そう思っただけよ。それに……」
「それに?」
森本さんは、そこで始めた足を止めるとこちらのほうに振り向く。
「あの時の彼女の一樹を見る目。気にくわないわ」
その表情は嫌悪感に満ち溢れていた。
これまで一緒にいた僕ですら見たことのないその表情に、僕は何も言うことはできなかった。
結局、この後僕はその話しを蒸し返すことはなかった。
だが、この時の森本さんの言葉の意味を、僕は理解することになる。
それは、あの昼休みの一件から一週間ほど過ぎた休み時間のこと。
「奥寺君。君のお客さんが廊下で待ってるよ」
「……? ありがとう」
クラスの人に、来客を知らされた僕は、お礼を言いつつおそらく廊下で待っているであろう人物のもとに向かう。
廊下に出ると、こちらのほうをじっと見ている銀髪の女子生徒の姿があった。
(というか、にらまれてない?)
僕からすれば、相手のことを何も知らないわけだが、もしかしたら知らないうちに何か恨みを買うことでもしたのではないかと、不安を感じずにはいられない。
「貴方が、奥寺一樹ね」
「え、ええ。そうですけど」
いきなりの呼び捨て。
これはいよいよ恨みを買った可能性は高まってしまった。
「貴方に頼みがあるの」
(た、頼みって……土下座? それとも恐喝!?)
頭の中に不穏な単語がぐるぐると渦巻き続ける。
(うぅ……もうむりっ)
ここまでは気合で堪えていたが、さすがに限界だった。
「す、すみません、今立て込んでるので失礼しますっ!」
「あ―――――」
女子生徒が何かを言うのも聞かずに、僕は教室に逃げた。
冷静に考えれば考えすぎもいいところだが、あのにらみつけるような鋭い視線が、この呼び出しの用件がただ事ではないのを物語っている。
(こういうのは下手に首を突っ込むものじゃないよね)
首を突っ込むで思い出したのが、おととしの夏ごろに松原さんに因縁をつけていた不良グループである『花咲ヤンキース』なるもの。
あれ以降何の音沙汰もないが、安心していいものだろうか?
去り際の感じからして、報復とかがあると思っていたのだが。
(まあ、なるようになるしかないか)
結局のところ、そう割り切ってしまう自分もいるわけだが、だとしてもあまりやばいことにしゃしゃり出ては命がいくつあっても足りない。
ということで、それ以上考えることをやめた僕は、ちょうどチャイムが鳴ったこともあり、次の授業の準備を始めるのであった。
授業とHRも終わり、放課後となった僕はいつものように足早で、家に帰るべく早々に教室を後にした。
昇降口で上履きから靴に履き替えて、いつものように校門に向かって歩いていく。
「あ……」
その時、校門のそばでこちらに向かって一人で立っている、銀髪の女子生徒の姿を見つけてしまった。
(そうだよね。ここを出るにはあそこしかないもんね)
ここで待ち構えていれば、間違いなくお目当ての人は通りかかる。
女子生徒のここで待つという選択は、非常に合理的なものだった。
(行しかないか……)
走って行ったとしても、通せんぼされれば終わりだし、そもそも足を引っかけて転ばせて……なんてことだってできる。
こうなったら腹をくくるしかない。
(男を見せろ。一樹!)
自分に言い聞かせながら、彼女が立っている場所に向かう心境は、まるで今から処刑されるような生きた心地のしないものだった。
鼓動が嫌でも速まっていく。
「………」
ついに女子生徒との距離はほぼなくなった。
「えっと……」
それでも、無言でこちらを見てくるというその不気味さに耐え切れず、僕は思わず声を上げた。
「さっきはいきなりごめんなさい」
「あ、いや。こちらこそ。なんだかすみません」
いきなり謝られた僕は、しどろもどろになりながらも謝り返す。
「なんで、あなたが謝るのよ」
「え、それはあなたに何か不快に感じるようなことをしたからで……だから、さっきも教室にまで来たんですよね?」
女子生徒のおかしなものを見るような目に、僕はついに彼女に聞いてしまった。
だが、これで僕が今感じている違和感めいたものの謎は解けるはずだ。
「……? 別に文句を言いに来たわけじゃないわ」
「え? それじゃ、一体……」
謎の正体は解けた。
どうやら、彼女が怒っていて僕に謝罪を求めるために来たという僕の推測は誤りだった。
だとすると、当然出てくる疑問は彼女がここまで何度も声をかけてきた本当の要件だ。
僕の疑問に、女子生徒はこちらをじっと見据える。
「奥寺一樹。貴方、音楽にすべてかける覚悟はあるかしら?」
そして、告げられた言葉は、僕を困惑させるのに十分なものだった。
(どういうこと?)
その問いかけの意図も含めて何もかもが意味不明だった。
その問いに答えてもいいのだろうか?
僕の直感がこれに答えてはいけないと、うるさいくらいに告げている。
もし、その問いに答えれば、かなり面倒なことに巻き込まれるという嫌な予感がしていた。
(とはいえ、無視するわけにも逃げるわけにもいかないし)
前者ならば相手にとってかなり無礼に当たる行為だ。
後者の場合もまた同様で、それに加えて果たして逃げ切れるかどうかの問題も出てくる。
つまりは、どのみち僕は詰んでいる状態なのだ。
「えっと……それ以前に、あなたは誰?」
色々こねくり回している中で、ようやく僕は相手が誰なのかを知らないことに気が付いた。
向こうはこっちが誰かを知っているのに、こっちが知らないというのはアンフェアだ。
(それに、名前さえ知ることができれば、相手がどういう人かを調べることだってできるはず)
「私は、2年の
(うん。全然知らない)
音楽の話をしてきたので、そっち方面かと思っていたのだが、僕の記憶には彼女の名前はない。
僕たちの中では、そういう方面で情報ツウなのは田中君か中井さんなので、僕の持っている情報はあてにはできないけど。
「貴方に提案があるの。私と、バンドを組んでほしい」
「………え?」
湊さんの口から出たその”提案”は、僕に言葉を失わせるのに十分なものだった。
(あぁ、予感的中しちゃった)
そして、同時にこういうときにだけ的中する予感を、僕は恨めしく思うのであった。
第1章、完
本日より、投稿を再開します。
そして、再開早々に本章は完結しました。
アンケートですが、もう少しだけたくさんの方のご意見をお伺いしたいので、期限を延長いたします。
新しい期限に関しては決まり次第お知らせいたします。
それでは、次章予告をば。
――――
友希那から突然のスカウトを受ける一樹。
様々な誤解が重なる中、彼は結論を出す。
それは、彼の新しいステージに導くものであった。
次回、第2章『サポートメンバー』
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