BanG Dream!~青薔薇との物語~ 作:TRcrant
第22話 まさか
―――人生には、三つの坂がある。その一つが”まさか”だ。
それは昔、ある政治家が公の場で言ったことで有名な言葉だ。
僕は、その言葉を身をもって体験していた。
「貴方に提案があるの。私と、バンドを組んでほしい」
「………え?」
誰が、初対面(だと思う)の女子にスカウトを受けると思うだろうか?
漫画とかの世界じゃないのだから、起こるはずがないことだ。
BanG Dream!~青薔薇との物語~ 第2章『サポートメンバー』
「何かの冗談?」
困惑した僕の口から出たのは、頭の中が真っ白になっていることもあって若干現実逃避しかかったものだった。
「冗談じゃないわ。私は本気よ」
当然、何を言ってるんだという返事が返ってくる。
(どういうこと? もしかして、HPのことがばれて……もしくは文化祭の時のライブを見て?)
僕の頭の中はいろいろな考えが渦巻いている。
自然と後ずさって行き彼女から距離を取ろうとする。
「それで、返事を――――」
このまま強行突破して逃げてしまおうか。
そんなことが脳裏によぎった時だった。
「あ、一樹! こんなところにいたんだ」
「え……森本さん?」
重苦しい雰囲気が漂うこの場には似つかわしくない、軽快な口調で話しかけてきた森本さんは、駆け足で僕のところに駆け寄ってくると、僕と湊さんの間に割って入ってきた。
「何で疑問形?」
「あ、いや……」
素で聞かれても僕にも答えようがない。
「それより、もうみんな来てるはずよ。早く帰りましょ」
「うん、そうしたいのはやまやまなんだけどね」
「ちょっといいかしら?」
僕の言葉を待っていたかのように、湊さんが口を開いた。
「何かしら?」
「あなたには用はないわ。用があるのは後ろにいる奥寺君よ」
森本さんが背になっていて湊さんの顔が見えないが、口調からして苛立っているようだった。
「だったらいいじゃない。私は彼の婚約者よ」
「え?」
「へあ?」
森本さんの発言に、湊さんは驚いた様子で声を上げるが、おそらくは僕の声がかなり大きかったと思う。
「ち、ちょっと! 僕には――「これから私たちデートなの。そこをどいて」――」
僕の反論の声を遮るように森本さんはまくしたてて言うと、僕の腕をつかんで引きずるように歩き出す。
湊さんは何も言わず道を開けてくれたので、学園の外に出ることはできた。
こうして僕は、森本さんに引っ張られる形で、連れていかれるのであった。
「ここまでくればいいわね」
「………」
駅のホームまで移動した森本さんは、それまで掴んでいた腕を離すと、一仕事終えたといわんばかりに汗をぬぐう仕草をする。
「そんな顔しないの。ちゃんと話すから」
僕の顔を見ただけで、何を思っていたのかを読み取ったのか、宥めるように言うと話し始めた。
「この間、音楽室で私たちを見ていた人がいるって言ってたでしょ?」
「うん、言ってたね」
一週間ほど前の時の音楽室のことは、今でも記憶に残っている。
「その人が彼女よ」
「……」
「驚かないのね?」
「まあ、話しの流れを読めばね」
さすがにこれで気づかない人はいないだろうというくらいに、答えには想像ができてしまった。
(だとすると……)
そこで、考えつく結論は一つ。
「あの時の演奏を見てスカウトをしに来たってところ?」
「正解」
どうやら、HPでのことがばれたとかそういうことではないようだ。
そのことだけは安心してもいいかもしれない。
でも、残された問題は大きい。
「今日は、一樹が困っているような感じだったから、私が間に入ったけれど」
確かに少々強引ではあったが、何とかあの場を乗り切ることはできた。
ただ、言うとすれば
「勝手に僕の設定を作らないでほしかった」
「それについては謝るわ。ああでも言わないと、あそこを通してもらえそうになかったから」
確かに森本さんの言うとおりだが、だからと言って勝手に僕に婚約者の存在を作られると、あと後面倒なことにもなりかねない。
もし、彼女がそのことを話したり、森本さんの言葉を聞いていた第三者がそのことを誰かに話せば、一気にそれは学園中に拡散していくことになる。
そうなれば、たちまち僕と森本さんは時の人となり、僕は確実に不登校コースまっしぐらだ。
「でも、嘘じゃないし。あたし、一樹とか啓介とかのこと好きよ?」
森本さんのその言葉に、僕は何にも感じなかった。
「森本さん、わざと誤解するように言ってるよね、それ」
森本さんの言葉は、正確には”友達として”という前提がある。
啓介も田中君もそうだけど、小さいころから一緒にいたせいか、そういう感情は出てこない。
中井さんの言葉を借りれば、兄妹のような間柄だろう。
「あ、ばれた?」
舌をちょこんと突き出していたずら成功と言わんばかりの表情を浮かべる森本さんはいろいろな意味で怖い人だ。
「一つだけ聞かせてくれる? 受けるの?」
そこで、森本さんはふざけたような雰囲気を一変させて一瞬で真剣な面持ちで僕に問いかけてくる。
森本さんはあの時確かに『あの時の彼女の一樹を見る目。気にくわないわ』と嫌悪感むき出しで言っていた。
そのうえで、森本さんは僕に意思確認をしてきたのだ。
この答え次第で、今後の未来を大きく左右させる重大な決断を、僕は迫られていた。
「私は、彼女のことをあまり快く思ってない。でも、それを一樹に押し付ける気はない。だから、あなたの選択次第で私も力を貸せることがあれば貸すわ。もちろん、啓介に聡志に裕美もね」
それは突き放しているようにも聞き取れるが、僕の選択を尊重して、力を貸してくれるということを告げるやさしい言葉だった。
だからこそ、僕もそれに応えなければいけない。
森本さん達の優しさに答えるためにも。
それがたとえ間違った選択だったとしても、答えを出すことに意味があるのだから。
「僕は、受けない」
そして、僕は答えを出すのであった。
2章(Neo-Aspect編)は読みたいですか?
-
読みたい
-
読みたくない