BanG Dream!~青薔薇との物語~ 作:TRcrant
「えっと、この辺で待ってればいいかな」
翌日、湊さんが指定したライブハウスのライブ会場にあるドリンクカウンター付近で、先ほど注文した烏龍茶を飲みながら、目的の人物が来るのを待っていた。
(今日はHRが早く終わったから来たけど……)
ライブハウスには、観客の姿が多かった。
今現在、演奏中のバンドは、まあまあなレベルだろうか?
下手ではないが、群を抜いて上手いというわけでもない。
簡単に言ってしまえばつまらないバンドだ。
故に、僕もバンド名を覚えていないんだけど。
(楽譜はしっかり頭に叩き込んだし、一応大丈夫のはず……)
湊さんから手渡された楽曲『雨上がりの夢』を演奏できるようにするべく、家に帰って夕食とお風呂に入った後の時間は練習スタジオにこもってひたすら練習に費やしていた。
その甲斐もあって、何とか人様に聞かせられる程度には仕上げられたと思う。
もっとも、コンクールでやるのであれば、未完全な状態ではあるけど。
「ねえ聞いた? 今日、あの孤高の
「ん?」
そんな時、どこからともなく聞こえてきた誰かの声の言葉が、僕の耳に聞こえてきた。
(孤高の歌姫?)
観客の一人と思われるその声の中で、僕の耳に残ったのは『孤高の歌姫』という部分だった。
それは田中君から聞いた話だ。
凄まじいくらいに歌が上手い少女のことを差す呼び名らしい。
数多の事務所などがスカウトをしても、門前払いという状況から、この名前が付けられたとのことだが。
「奥寺君。来てたのね」
「あ、湊さん」
そんなことを考えていると、待ち合わせの相手でもある湊さんが声を掛けてきた。
「曲のほうはどうかしら?」
「一夜漬けではあるけど、一応人様に聞かせられる程度には仕上げてきたつもり」
ここで嘘をついても仕方がないので本当のことを伝える。
「そう。今日はよろしくね」
「……もちろん」
でも、僕の返事に対して目立った反応もない。
おそらくは、しっかりと仕上げてきたということを信じて疑ってないのだと思う。
(嬉しいと思うべきか、買いかぶりすぎだと思うべきか)
複雑な気持ちに僕は苦笑するしかなかった。
「私たちの番までまだあるからそれまでは聞いてましょうか」
「……そうだね」
思えばライブハウスに、しかも他のバンドのライブを見に行くために行くことなんて片手で数えるほどしかなかったのだから、これはこれでいい機会なのかもしれない。
人様の演奏を見て、得るものがあればそれは僕たちにとってはこれ以上ないほどのプラスなことなのだ。
(このバンド、ギター以外は全然話にならない。下手というよりも、それ以前の問題だな)
そう思ってしばらくの間はライブを見ていたのだが、出てくるのはダメ出しばかり。
それほど、どのバンドも僕たちのバンドほどのレベルにも達してすらいなかった状態だ。
特に今のバンドはひどい。
遠くて演奏している人の顔とかは見えないけど、ギター以外は派手な服装にしたり、激しめにジャンプしたりと、パフォーマンスだけしか評価のしようがない。
しかも、激しくジャンプしたりしているせいでボーカルも音程がめちゃめちゃになってるというオチ付きだ。
(ほんと、最悪)
やっている本人たちはいいのかもしれないが、このような演奏を聞かされている観客……僕の身にもなってほしい。
まさしく、”自分たちが楽しければそれでいい”という名の自己中極まりない。
ギター以外の彼女たちは、まさしくミュージシャン失格と言っても過言ではないバンドだろう。
「奥寺君、どこに行くの?」
「ちょっと外の空気吸ってくるだけ」
これ以上はさすがに聞いていられなかった僕は、湊さんにそう言って会場を後にすることにした。
外に出て少しの間ライブハウス内を歩いていた僕は、気が付くとスタジオスペースのところまで来ていた。
(そろそろ戻ろうかな)
かなり時間が経っていたこともあり、そろそろ会場にいるであろう湊さんと合流するべく、元来た道を戻ろうとした時だった。
「一樹?」
「え?」
僕を呼び止めるように掛けてきた声に聞き覚えがあった僕は、まさかと思いながらも声のほうに振り返る。
「田中君? どうしてここに」
「いや、それは俺のセリフなんだが」
そこに当たり前のように立っていた田中君に疑問の声を掛けると、真顔で言い返されてしまった。
「俺は今日サポートの日だから来ているだけだ」
「あー、そう言えばそんなこと言ってたっけ」
数日前のことのはずなのに、なぜか遠い過去のように感じてしまいながら、僕は相槌を打つ。
「で、一樹はどうしてここにいるんだ?」
「えっと、話すと長くなるんだけど……」
田中君の疑問に、僕はここ数日ほどの出来事をかいつまんで話した。
昼休みにピアノを弾いているのを見られた湊さんに、バンドに入らないかとスカウトを受けていること。
そして、バンドには入らないが一回だけライブで演奏することになったこと。
その話を聞いた田中君が最初に口にしたのは
「それは……色々と不運だったな」
という、同情の言葉だった。
「にしても、孤高の歌姫に目を付けられるとは、ついてるんだかついてないんだか」
「歌姫って……もしかして」
「ああ。想像の通り、湊 友希那のことだ」
話の流れからして、歌姫が指しているのは湊さんしかいないだろうと思っていたら、案の定だった。
「同じ中学に通ってたから、面識はあったんだ。まあ特に話をしたわけでもなし、向こうはこっちのことなぞ、背景の一つぐらいにしか思ってないかもしれねえけどな」
予想はついてはいたが、本当にそうだと知るとなると、背筋に冷たい物が流れるような感覚がした。
孤高の歌姫として有名な人物と同じステージに立つことに対して、さらにプレッシャーが高まっていく。
自分たちのことは完全に棚の上にあげてるけど。
「偶然なのかどうかは知らないが、どうやら同じステージに立つみたいだし、まあいつも通りよろしく頼むよ」
「……もちろん」
ある意味、この偶然は幸運ではないかと思いながら、お互いに拳を合わせる。
バンドメンバーが一人でもいるということは、それほどに大きいのだ。
僕は湊さんと合流するべく、田中君と分かれて会場のほうに向かうのであった。
基本的には、修正前のと話は変わらないです。
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