BanG Dream!~青薔薇との物語~ 作:TRcrant
会場に戻ろうとしていた僕は、少し先のスタジオスペースでよく見た服装の女子が立っているのが目に入った。
「あ、いた」
長い付き合いではないが、彼女の持つ独特の雰囲気と同じものをまとっている銀髪の女子など、そうそういないので湊さんで間違いないだろう。
そう思って、彼女のもとに駆け寄ると
『ひどいよ! みんな仲間でしょ!』
うと、スタジオ内から女性の叫び声が聞こえてきた。
「奥寺君。今まで何をしてたの?」
「いや、ちょっとね」
『馴れ合いがしたいのであれば、楽器もスタジオもいらない。どこかのカラオケで騒いでいればいいでしょ』
聞えてきた叫び声が気になって、言葉に詰まっている僕の耳に、先ほどとは別の女性の声が聞こえてきた。
(あれ、この声って……)
中から聞こえてきた冷たい言葉の声の主に、これまた僕は心当たりがあった。
僕は悪いと思いつつもスタジオの出入り口の窓部分から、中の様子をうかがう。
(あ……)
そこにいたのは、僕の予想通りの人物だった。
(何で、紗夜さんがここに……)
まさか、隣に住んでいる紗夜さんの姿を、このような場所で見ることになるのは、僕にとっては驚きでしかなかった。
今まで楽器をやっている素振りなど、全く見せなかったのだからそれはなおさらだ。
(あ、それは僕もか)
思えば、僕もそんなそぶりを、知らない人……ましてや隣人にすら見せたことはなかったことを思い出した。
『ッ! もういい、こんなバンドは解散よ!!」
そんなことを考えているうちに、メンバーの一人が解散を口にするが
『落ち着きなって。この中で、考えが違うのは一人だけ………そうよね、紗夜?』
『そうね。私が抜けるから、あなた達で続けたほうが、お互いのためになるわね。今までありがとう』
ドラマーと思われる人物の言葉により、紗夜が抜ける事で解決ということになったようだ。
(って、こっち来るっ)
僕は慌てて湊さんの後ろのほうに移動した。
どのみち見つかるにしても、覗き見ていたことがバレるか否かでは、とても大きな違いだと思う。
そして、紗夜さんがスタジオから出てきた。
「はぁ……」
険しい表情でした深いため息は、いつもの紗夜さんとは別人にも見えた。
そんな時、彼女の背中にある楽器を入れるケースが、湊さんにぶつかった。
「すみません。人がいたことに気が付きま――――」
慌てて謝罪の言葉を口にする紗夜さんは、湊さん……というよりは、後ろにいる僕を見て言葉を詰まらせた。
紗夜さんも僕と同様、このような場所に僕が来るなど想像すらしていなかったのかもしれない。
僕は必死に首を横に振って、何も言わないでとお願いをする。
……通じているかはわからないけど。
「あなた達の演奏見たわ。あなたのギター、とても素晴らしかった」
「……いえ、最後のアウトロの部分で油断してしまい、コードチェンジが少し遅れてしまいました。つたない演奏をお聴かせしてすみません」
そんな僕の様子など知る由もない湊さんからの賞賛に、紗夜さんはこちらから視線を外すと、浮かない表情で答えて湊さんに謝った。
その演奏を聞いていないので、僕には何も言えないが、自分のミスを把握できているという点からしても、紗夜さんの音楽に対する理想はかなり高いことが伺えた。
「紗夜といったわね。あなたに提案があるの。私と一緒にバンドを組んでほしい」
「あなたと……ですか? すみません、実力が分からない人とは―――」
さりげなくだが、ここで”達”と言わなかったあたり、僕の言ったことを湊さんはちゃんと汲んでいるようだった。
「FUTURE World Fesに出るためのメンバーを探しているわ」
(あれか)
『FUTURE WORLD FES』
湊さんの口から出たそのイベントの名前。
そこは僕たちが中学生の時、最初に出たコンテストで見事出場ができるようになったステージだ。
出場する為のコンテストも、プロですら落選が当たり前という難易度の高さを誇っているそのステージに出られることの本当の凄さを、当時の僕はあまりピンと来ていなかった。
ただ、かなり大きなステージであるのは理解はしていたが、どのようなステージでも僕たちのすることは変わらないし、僕たちの目標の通り道にも過ぎなかったからだ。
とはいえ、そんなことを誰かに言えば間違いなく快くは思われないので、言うことはないけど。
「私はこれまで、それに出場するためにいろいろなバンドと組んできましたが、実力が足らずに諦めていました。もうこれ以上時間を無駄にはしたくないんです」
紗夜さんの言葉には、どこか焦りのようなものを感じていた。
それが何なのかはわからないけど。
「私と組めば行ける。私たちの番は次の次……聞けばわかるわ」
「ちょっと待ってください!」
そう言い切って紗夜さんに背を向ける湊さんを、紗夜さんが呼び止めた。
「例え実力があったとしても、あなたがどれほど音楽に対して本気なのかは――――」
「それは、私が才能だけで、努力をしていない人に見えるということ?」
紗夜さんの言葉に、湊さんの声色が変わった。
「私は音楽に対する気持ちは貴方に負けているとは思っていないわ。音楽のためならすべてを捨てて見せる」
その声は、とても冷たく、そして本心であることはこれでもというほどに伝わってくる。
そんな彼女の気迫に圧されて、僕は思わず一歩後ろに下がってしまった。
「……わかりました。でも、一度聴くだけですよ」
「それでいいわ」
(なんだか、知らないうちにすごいことになってきてるよね、これ)
僕からすれば普通のライブのはずが、メンバー獲得のチャンスという意味合いを持ったライブになってしまった。
僕としては、観客を満足させられればそれで充分なのだが、紗夜さんも十分に観客の一人ということにもなるうえに、プレッシャーとしては十分なものだった。
結局、僕は厄介なことに巻き込まれる運命なのだろう。
(まあ、なるようになれだ)
たとえどのような結果になったとしても、僕には関係のないことだが、できれば最高の結果で締めくくりたい。
「待って!」
改めて自分に気合を入れながら、ステージ袖に向かおうとしたとき、紗夜さんに呼び止められた。
「色々と積もる話もあると思うけど、帰りまで待ってほしいけど、いい?」
「……ええ」
紗夜さんが何を言いたいかはわからないが、あまり長くなると湊さんに何を言われるのかがわからないので、僕は先延ばしにしてもらった。
そして、僕は今度こそステージ袖に向かうのであった。
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