BanG Dream!~青薔薇との物語~   作:TRcrant

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大変長らくお待たせしました。
修正版になります。


第27話 一度限りのライブ

「まさか奥寺君と組めるなんて、思ってもなかったわ」

「……ただ一回だけの臨時パーティーのような物だけどね」

 

僕はステージ袖まで向かう最中、感慨深そうに口を開く湊さんに相槌を打つ。

これっきりのバンド。

そう自分に言い聞かせるが、それでもこの高揚感は抑えられない。

我ながら、今すぐにライブに出たくてたまらない状態なのだ。

それに……

 

「それに、このライブに出てるほぼすべてのバンド……あまりにもひどすぎだから」

「……? それってどういう―――」

「こちらへどうぞ」

 

僕の言葉に疑問を抱いた湊さんの言葉を遮るように、ライブハウスのスタッフと思われる人から声がかけられる。

どうも、先ほどの一連の出来事で時間はかなりギリギリになっていたようだ。

 

「奥寺君、今日はよろしく」

 

湊さんは、そう告げるとすたすたとステージに向かって歩いていく。

 

「……こちらこそ」

 

それに続いて僕も彼女に聞こえないように小さく返すと、ステージの上に上がる。

 

(シンセサイザーは……よかった啓介が使ってるのと同機種だ)

 

『機材は任せとけっ!』

 

OKが出た時の田中君の言葉は、このことを指していたのだろう。

おかげでこれなら戸惑うことなく演奏ができる。

シンセサイザーは一つの楽器で様々な音色を奏でられるのが特徴だ。

当然だが、機種ごとにいろいろとボタンの配置などが異なる。

演奏開始前に、それを確かめるには実際に弾いてみるしかない。

それはライブをやるにあたって必要なことなのであれだが、そういうのを行わないで演奏を開始できるのが理想的であることには変わらない。

なので、自分が使っているのと同じ型の機種というのは非常にありがたかった。

今回はツインキーボードのようで、シンセサイザーが二台用意されているが両方とも同型だったのは少しだけ驚いた。

一通り演奏の準備を整えた僕のほうに振り向いた湊さんは、何かを言いたげに無言でこちらを見つめていた。

 

(湊さんからの、合図)

 

それが僕にはいつでも演奏を始めてもいいという合図だと踏んだ僕は、ドラムの田中君のほうに顔を向ける。

そして、僕たちは目が合うと、頷き合った。

それが僕たちの合図だ。

いつものバンドでの演奏開始前の流れ。

田中君がスティック同士を打ち鳴らしてカウントをとる。

会場は、どういうわけか騒々しかったが、カウントの音ははっきりと僕の耳に聞こえてくる。

 

(まずは出だし。キーボードとボーカルのタイミングを合わせないと)

 

この曲はボーカルと同時にキーボードも音を奏でる。

要するに、僕と湊さんのタイミングがズレれば、出鼻をくじかれる格好になる。

幸先のいいスタートを切るためにも、出だしのタイミングは非常に重要ともいえる。

 

「すぅ……」

 

カウントが進んでいく中、僕は一度深呼吸をする。

それだけで、一気に集中力が高まったような気がした。

それまで聞こえていた騒音も、ものすごく遠のいて聞えている。

そして、ついに演奏が始まった。

 

(よし、タイミングはぴったり)

 

最初の関門は見事に突破した。

ドラムやベースなどのリズム隊がいないため、自分のリズムキープがカギだ。

出だしはうまくいき、前奏に入る。

僕は二台のシンセサイザーを駆使して音を奏でていく。

 

(湊さん、すごいっ。油断してるとこの圧に打ち負かされるっ)

 

ライブをして初めて、湊さんの『歌姫』という呼び名が伊達ではないことを思い知った。

湊さんの発する言葉の一つ一つが、情景を浮かび上がらせていくだけの力があった。

何より、迫力もすごい。

このままでは僕たちの演奏が、彼女にかき消されてしまうという気すら感じさせる。

 

(こうなったら、僕もやるしかない)

 

それに対抗するために、僕はセーブしていた力を緩めた。

全開ではやらない。

皆曰く、僕が全力で演奏すると耐えられる人はいなくなるのだそうだが、実際はよくわからない。

何せ、自分の”全力”というのが、自分自身でも分かっていないのだから。

 

(耐えてくれよ、湊さん)

 

僕は、彼女の歌声に対抗するように少しだけパワーを上げて演奏を続ける、

一瞬湊さんの歌声に歪みは出たが、それも一瞬で無くなったので、ほぼ問題ないといっても過言ではない。

 

(何だろう、この胸が弾む感じ)

 

ただ普通に演奏をしているだけなのに、まるできれいなお花畑の中をスキップでもしているかのような高揚感にも似た何かを感じていた。

それでも、演奏に集中している僕にそれの正体を考える暇などなく、僕はそのまま最後まで弾ききった。

ギターとキーボードの音の余韻が会場内を包み込む中、観客たちの反応は全くなかった。

 

(もしかして、失敗?)

 

自分の何かが原因で、観客に受け入れられなかったのではと不安になる。

 

「あ……」

 

だが、それも少しして聞えてきた小さな拍手の音から徐々に広がるようにして大きくなった拍手の音が、吹き飛ばしてくれた。

 

「友希那―! 最高!」

 

(良かった……)

 

パッと見た感じでは、観客たちを満足させることができたようだ。

それはこのライブが成功したということの何よりの証だ。

そして、僕たちはステージから観客たちに一礼をすると、ステージを後にするのであった。

 

 

 

 

 

「一樹、マジで良かったぜ」

「僕も、いい経験ができたよ」

 

ライブが終わり、ステージ袖に移動した僕は、田中君と言葉を交わしていた。

最初は仕方が無くといった感じで引き受けていたが、このステージに立たなければこの先得ることがないであろう物をたくさん得ることができたのも事実。

問題は、これを僕たちのバンドにどのように活かせるかだけど。

 

「この後俺は上がりだから、お前も一緒に帰るか?」

「あー、ちょっと野暮用があるから」

 

田中君の申し出に、そう言って断った。

湊さんにスタジオに来るようにとステージ袖に入った時に言われているのだ。

湊さんの用件がどのくらいかかるかもわからないうえに、このまま逃げ出すと後が怖いので従っておくことに越したことはない。

……なんだか完全に意気地なしになっているような気がするが、考えないことにした。

そんなわけで、田中君と別れ、湊さんが指定したスタジオに向かう。

 

「あ、紗夜さん」

「一樹君」

 

指定されたスタジオには、すでに来ていた湊さんと紗夜さんの姿があった。

 

「さっきから気になってたのだけれど、二人は知り合いかしら?」

「ええ」

「家が隣同士なので、色々とお世話になってるんです」

 

今のやり取りで、疑問を抱いた湊さんに、頷いて答える紗夜さんの言葉を引き継ぐ形で、僕は答えた。

 

「そう。それはともかく、私たちの演奏はどうだったかしら?」

 

答えを知って興味を無くしたのか、こちらから視線を外すと、紗夜さんに問いかける。

 

(関係ないはずなのに、ものすごく緊張する)

 

僕と湊さんとは、あのライブが最初で最後。

今後は関わることなどないので、先のことなど僕には全くの無関係のはずなのに、湊さんの問いかけに胸に手を当てて顔をやや下に俯かせた紗夜さんの答えが出るのを、固唾をのんで待っている自分がいた。

 

「……何も言うことはないわ。今まで私が聞いてきたどの歌や演奏よりも、あなた達の演奏は素晴らしかった」

 

それは、紗夜さんからの賞賛の言葉だった。

その言葉に、僕は心の中でほっと胸をなで下ろす。

紗夜さんは顔を上げると

 

「あなた達と組ませてほしいっ。そして、FUTURE WORLD FESに出たい。あなた達となら、私の理想……頂点を目指すことができる!」

 

目を輝かせた紗夜さんからバンドを組むことにOKの返事が出された。

 

「……ええ!」

 

それを湊さんは口角を上げながら頷いて返す。

こうして、湊さんのバンドに一人……ギターリストでもある紗夜さんが加わることになるのであった。

 

(あれ、何かおかしくないか?)

 

僕に微かな疑問を抱かせながら。

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