BanG Dream!~青薔薇との物語~ 作:TRcrant
関係者しか通ることができない通路を僕たち三人は歩いていた。
「次のスタジオの予約を入れてもいいかしら? 私、時間を無駄にはしたくないの」
「同感ね。他にメンバーは?」
「いいえ、まだ誰も」
紗夜さんと湊さんの二人はすっかり意気投合したのか、とんとん拍子に話を進めていた。
「ベースとドラムのリズム隊、それにキーボードも見つかってないわ」
「後、さんに……彼は?」
湊さんの言葉を受けて相槌を打っていた紗夜さんが、首を傾げながら疑問の声を上げる。
「奥寺君は今回だけの臨時メンバーよ」
「ぇ……」
湊さんの返事を聞いて、僕は内心ほっとしていた
もしかしたらこのままなし崩しでメンバーにならざるを得ない事態になるのではないかと思ったためだ。
人のバイト先に押しかけて迫ってきたりした彼女だが、どうやらそのくらいの良心は会ったようだ。
「あの演奏で奥寺君の実力は分かってるはずです。それに、今から不確実性の高いメンバーを集めるよりも、実力面で確実な彼がこのままキーボードとして入った方が良いと思うのですが」
「それは同じ意見よ。でも……」
紗夜さんのもっともな言葉に、湊さんも歯切れが悪い。
彼女も、もしかしたら本心では僕をメンバーに加えたいと思っているのかもしれない。
「彼は既に他のバンドに入ってるらしいの。だから、私のバンドのメンバーは無理よ」
「……な、ならそのバンドの方に掛け合うことだって出来るはずでは?」
湊さんの説明に、紗夜さんはなおも食い下がる。
何を掛け合うつもりなのかは分からない(分かりたくはない)けど、それだけは阻止したい。
なにせ、『hyper-Prominence』は、素性を隠しているバンドだ。
それを売りにしているわけではないが、バレたらバレたで色々と面倒ごとになるのは想像に難くない。
もちろん、彼女たちを信頼していないというわけではない。
一緒にステージに立って湊さんがある程度信用できることは分かっている。
でも、そういう問題ではないのだ。
素顔を隠すことを言い出したのは僕だ。
その僕が決まりを相談無しで反故にするというのは、何かが違う気がしたのだ。
「……」
僕がただ一言拒絶すれば良い。
そんなのは百も承知だ。
でも、紗夜さんが一瞬見せた残念そうな、ショックを受けたような表情がそれをさせてくれない。
(一体、どうすれば……)
普通の方法ではこの事態を何とかするのは無理だ。
皆に相談するのが一番なのだが、確実に波風は立ってしまう。
……主に田中君あたりが。
なので、穏便に済ませるには僕個人で解決するしかない。
どうしたものか考えを巡らせていたからか、二人からかなり距離が開いてしまったので、僕は二人に追いつくべく駆けだそうとした時だった。
「あのっ!!」
その大きな声を聴いたのは。
(ん? 今の声って……)
その声に、僕は聞き覚えがあった。
そこで僕は声のした方向である、紗夜さんと湊さんが向かっていた方角に目を凝らす。
立ち止まっている二人の間からなので、顔とかは見えないが紫色の髪であることと、ツインテールであるのは分かった。
とりあえず、二人のもとに駆け寄った僕が見たのは予想通りの人物の姿だった。
(あ、やっぱりあこ姫さんだ)
前に、オフ会で連絡先を交換しあったあこ姫さんだった。
そして、物陰になっている場所にかすかに見えた黒髪の女性は、おそらくRinRinさんだろう。
「あこ、世界で二番目にうまいドラマーです! だから、あこもバンドに入れてください!」
(……この子、馬鹿?)
あこ姫さんの自己PRを聞いた僕は、心の中で切り捨てた。
どこの世界に、二番だと胸を張って言う人物の話を聞こうとする者がいるのだろうか?
「遊びはよそでやって。私は、二番であることを自慢するような人とは組まないわ」
当然、湊さんは冷たく言い捨てると、あこ姫さんの横を通ってそのまま去って行ってしまった。
それに紗夜さんも続いていく。
僕は自然に流れに乗って、その場を後にしようとした。
何せ、この状況はものすごくきつい。
どうフォローしても逆効果になりそうだし、そもそもどう声をかけていいのかがわからない。
「って、KAZUさん!?」
どうやら、今日はとことん僕は運がないようで、あこ姫さんと目があってしまい、立ち去れない状況になってしまった。
「どうしてKAZUさんが、友希那さんと一緒にいるんですか!? もしかして、KAZUさんもバンドのメンバーですか?!」
「えーっと……話すと色々と長くて複雑になるんだけど―――「一樹さん! いつまでそこにいるんですか! 置いていきますよ!」――ごめん、話しはまたいつか」
一体、こうなった理由をどう説明すればいいのかと悩んでいた僕に、紗夜さんから早く来るようにと急かされてしまったため、僕は彼女に頭を下げつつ、逃げるようにその場を立ち去るのであった。
湊さんと別れた僕は、紗夜さんと一緒に自宅に向かって歩いていた。
「それにしても、一樹さんがキーボードができるなんて驚きです」
紗夜さんのその言葉は、嫌味でも何でもなく、純粋に驚いている感じだった。
思えば、音楽の話は一度もしたことはなかったような気がする。
「まあ、言ってなかったからね。それを言うなら紗夜さんもギターができるなんて思ってもいなかったよ」
「まあ、言ってませんでしたからね」
僕の言葉に、紗夜さんは僕と同じ切り返しをしてきた。
「あ、真似された」
「ふふ、すみません」
僕が軽く頬を膨らませると、紗夜さんはくすくすと笑いながら謝る。
「でも、あなたとバンドが出来て私は嬉しいです」
「……そう言ってもらえると光栄だよ」
本当に嬉しそうに言うから、ものすごく罪悪感を抱いて切り出せない。
バンドに入るつもりはないよ、と言う大事なことを。
「一樹さんは、いつからやっていたんですか?」
「キーボード自体は4,5年前からたまにだけどね」
バンドを組んだのが小学生の高学年であるのは覚えているが、一体いつからなのかは覚えていない。
その頃に、色々あってシャッフルが誕生してからは、色々な楽器を演奏できるようになっていったという経緯がある。
そこで、ふと疑問が出てきた。
「でも、紗夜さんはどうしてギターを?」
ギターをやろうと思うのは、誰だって考えることだ。
前に出て演奏するその姿はとても格好いいし、何より輝いてさえ見える。
現に僕がそうであったように。
それでも、ギターは弦が多いため大変だ。
憧れなどで初めても、すぐに挫折するのもまた事実なのだ。
それでも、あきらめずに練習をすること何とかできるけど。
だからこそ、紗夜さんに聞いてみたかった。
一体どのような理由が彼女を一人のギターリストにさせたのかを。
「………私にはそれしかないから」
「え? それって、どういう意味?」
だが、紗夜さんから返ってきたのは僕の想像をはるかに超えた謎の物だった。
「い、いえ。別に何でもないです。それよりも、明日からよろしくお願いしますね」
「う、うん」
僕の疑問に話をそらした紗夜さんに、僕はそれ以上深く聞くことはできなかった。
(どういうことなんだろう?)
この目まぐるしい展開を見せた一日は、最大の謎を残して幕を閉じるのであった。
これにて第二章の加筆修正は終わりました。
一体いつになったら最新話を投稿できるようになるのか……
とりあえず、頑張ります。
それでは、次章予告をば。
―――
友希那率いるバンドにキーボードとして参加することになった一樹。
一樹がバンドには入らないことを伝えようと考えている中、友希那は残りの二人のメンバーを探していくのだが……
次回、第3章『リズム隊』
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