BanG Dream!~青薔薇との物語~   作:TRcrant

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第3章『リズム隊』
第29話 苦肉の策


「むー……」

 

翌日の休み時間。

僕は、携帯の画面と睨めっこをしていた。

別に僕の頭がおかしくなったというわけではない。

 

「これなら、何とかなるかな」

 

僕が見ていたのは、乗換案内のサイトだ。

調べているのは、これから湊さんたちと練習で使用することになるスタジオから自宅までの行き方だ。

啓介たちとの練習は、学校のあるなし問わず、放課後に僕の家の地下にあるスタジオに集まって練習を行う。

その開始時刻は16時30分から約2時間行う。

土曜日など午前中で終わる場合は、午後2時から4~5時間ほど。

日曜祝日は12時30分から6時間ほどの練習を行うのが僕たちのスケジュールだ。

練習メニューなども多岐にわたり、それぞれの課題や弱点を克服するべく、毎日みんな頑張っているのだ。

そんな中、僕が湊さんたちのバンドに加わるというまさかの事態に発展してしまったわけだが、さすがにすぐに抜けるというのは現実的ではないためしばらくは大人しくバンドのメンバーとして練習を行いつつ、抜けることができるように策を練ることにしたわけだが、問題は僕たちの練習と湊さん達とのバンドの練習を両立させることだ。

 

(これは中抜けでもしない限り難しいかも)

 

果たして湊さんがそれを許すかどうかはわからないが、やるしかない。

 

(それじゃ、今日は実験ということでやってみるか)

 

ルートも調べ終え、僕はこの日、自宅までの所要時間を調べることにするのであった。

 

 

BanG Dream!~青薔薇との物語~   第3章「リズム隊」

 

 

放課後、ついに湊さん率いる新バンドの最初の練習が始まった。

 

「それじゃ、最初から行くわよ」

 

湊さんの言葉を受け、僕たちはこの日彼女から渡された譜面を見ながら演奏をしていく。

ドラムやベースなどのリズム隊が欠けている状態のため、何とも抽象的な状態ではあるが、それでも譜面通りに弾くくらいであればさしたる問題はない。

ドラムやベースのメンバーを探すと言っていたが、果たして当てがあるのだろうかと、若干不安にもなってしまう。

 

(そろそろかな)

 

そんな中、スタジオ内の時計に目をやった僕は、休み時間に立てた計画を実行に移すことにした。

 

「湊さん」

「何かしら?」

 

練習を強引に止めたことで、湊さんの声色がいつもよりもかなり低くなっていた。

 

「今日ちょっと用があるから、先に帰ってもいいかな?」

「………」

「一樹さん本気ですか? まだ始まって30分も経ってないんですよ?」

 

僕の予想通り、湊さんが鋭い視線でこちらを睨みつけ、紗夜さんからは非難の声が上がる。

僕としては、半ば強引にバンドに入れさせられたことのほうが、よっぽどありえないと思うが、そのようなことを言えることなどできるはずもなく

 

「家の都合なんです。帰らないと、練習が……」

 

僕は言い訳で一番万能なものであろう”家の都合”を使った。

こう言ってしまえば、そうそう相手も拒否することなどできるはずがない。

ちなみに最後のほうだが、別に嘘は言ってない。

帰らなければ家で(・ ・)練習ができないという意味で言っているのだ。

それを湊さんが、このバンドでの練習ができなくなると捉えたとしても、それは彼女たちとの認識の違いでもあるのだ。

問題となれば紗夜さんだ。

 

「でしたら、私が一樹さんのご両親に説明を――「いいわ」――湊さん!?」

 

案の定、家に電話をして説得をしようとする紗夜さんの言葉を遮って、湊さんは中抜けを認めた。

 

「その代わり、明日の練習までに、この曲を一通り弾けるようにしておいて」

「わかった。ありがとう」

 

湊さんから譜面を受け取った僕は、形だけのお礼の言葉を言って、スタジオを後にした。

走ること数分、ようやく駅にたどり着いた僕は、息を整えながら電光掲示板で電車の運行状況を確認する。

 

(よしっ。まだ数分くらい余裕がある)

 

湊さんとのやり取りで、少し時間をロスしたが、何とか良い感じに間に合わせることができた。

とりあえず、改札を通って駅のホームに向かった僕は、電車が来るのを待つことにした。

 

(それにしても、この感じだとそう長くはもたないかな)

 

今日はなんとか行けたが、このようなことを何週間も繰り返していれば、さすがに湊さんも黙ってはいないだろう。

 

(こうなったら、HPの練習日を減らすしか……)

 

正直、これだけはやりたくはなかったが、苦肉の策である。

問題は、いつの練習を休みにするかだが、土日祝日のロングで練習ができる日は除外だ。

僕にとって最優先すべきはHPでの練習であり、彼女たちのバンドの練習ではないのだ。

 

「とりあえず、みんなと相談して決めないと」

 

僕一人で考えたところでどうしようもない。

あまり気は進まないが、みんなに相談することに決めつつ、僕は駅に到着した電車に乗り込んで、自宅に向かうのであった。

 

 

 

 

 

「ただいま!」

「遅かったわね。もうみんな来てるよ」

 

家に着いた時には、練習開始時刻ギリギリだった。

とはいえ、間に合ったことは間に合った。

リビングに向かうと、母さんの言った通りみんなの姿があった。

 

「遅いじゃねえか、一樹」

「いつもは来たらいるのに、珍しいな」

 

田中君は、腰かけていたソファーから立ち上がると、脇腹に片手を置いて声をかけてきて、啓介は僕が一番最後に来たことを不思議がっていた。

中井さんは、少し心配げに僕のことを見ているが、その横で立っていた森本さんだけは表情が険しかった。

 

「一樹、まさかだけど」

「うん。そのまさか」

 

森本さんが何を差しているのかを読み取った僕は、それに頷いて答える。

すると、森本さんは”やっぱり”と、ため息交じりにつぶやいた。

 

「なんだ? 何かあったのか?」

「うん。実は―――」

 

ただならぬものを感じ取ったのか、みんなの表情に険しさが増す中、皆を代表して田中君が聞いてきたので、僕はすべてをみんなに話していく。

中井さんや啓介は、一切事情を話していなかったので、驚いていた様子だったが、前に僕から花時を聞いていた森本さんと田中君は、僕の話に特にこれといった反応は示さなかった。

 

「つまり、要約すると一樹君はその湊さんのバンドに、キーボードとして入ることになったって言うこと?」

「うん。そんなところかな」

 

話を聞いて要約した中井さんに、僕は肯定する。

 

「にしても、断ってるのに入れるなんて、ちょっと強引だな」

「俺たちのバンドのことを考えれば、抜けたほうがいい。だけど、抜けるにも理由がな……」

 

田中君が複雑そうな表情でつぶやく。

そうだ。

僕があのバンドを抜けるには、それ相応の理由が必要だ。

下手な理由で抜ければ遺恨を残すことになる。

僕からすれば知ったこっちゃないのだが、それがどう影響を及ぼすかわからない以上、慎重に動かざるを得ない。

バンドをやっているからという理由が、最も適している理由ではあるけど、そうなると今度はHPに関連した問題になっていく。

 

「とりあえず、一樹の意思を聞きたい、どうしたいんだ?」

「抜けたい。可能な限り、波風立てずに自然に」

 

啓介の問いに、僕は即答で答える。

 

「よし! なら、平日の練習を一日休みにして、しばらくの間続けて行こう」

「……うん、練習が少なくなるのはあれだけど、そうするしかないね」

 

啓介が打ち出した今後の方針は、僕が打ち出した案そのものだった。

 

「俺たちのほうで、いい案考えておくから、一樹はそれまで両立させろよ」

「ああ、大船に乗ったつもりで待っていたまえ!」

「啓介のは泥船だけどなー」

「なにをー!」

 

うすら笑いを浮かべた田中君の言葉に、両手を上げて抗議の声を上げる

そんな啓介の様子に、僕たちは笑いあうと、それに啓介も加わっていく。

これが、僕たちのいつものことだ。

最後にケンカをしたのは一体いつだろうかと思うほど、喧嘩をしたことはない。

それがいい悪いとは言わないが、それでもみんなといる時のほうが一番落ち着くのだ。

 

(早く、抜けられるように頑張ろう!)

 

だからこそ、湊さんのバンドからは申し訳ないが、抜けさせてもらうことにしようと、僕は心の中で改めて決意を固めるのであった。

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