BanG Dream!~青薔薇との物語~ 作:TRcrant
これからも、よろしくお願いします。
「それじゃ、行こっか」
放課後、僕の家のリビングにいつものように集まった啓介たちは、僕の問いかけに頷く。
僕はそれを確認して、リビングの隅に置かれた五段ある小さめの本棚の前に歩み寄ると、下から二段目の本を一冊取り出す。
取り出したことで空いた本棚のスペースに手を突っ込むと、当然手が壁に当たる。
それをやや力を込めて押し込むと、何かが動き出すような音とともに、床の一部が動き出した。
すぐにその動きは止まり、現れたのは下に続く無機質な石の階段だった。
その先に、僕たちが”練習スタジオ”と呼んでいる地下室があるのだ。
「何度見ても、すごい仕掛けだよな」
感慨深げに言う啓介の言葉と、同じことを僕も思っていた。
みんなでバンドを……hyper-Prominenceを始めて間もないころ、父さんに与えられた練習場所がここだったのだ。
その時にここのからくり仕掛けのことを教えてもらったのだ。
教えてもらった時はかなり驚いた記憶がある。
「確か、一樹君もどうしてこれがあるのかわからないんだよね?」
「そうだね。最初からあったのか、それとも後付けで付けたのか」
父さんに聞けばわかるのかもしれないが、多分教えてはくれないだろうなと思っている。
父さんは基本的に、僕が知らなくていいことは言わないタイプだ。
結果からすれば、聞かなくて正解だったのではと思うところもあるのだが、それでも知りたいと思うのは致し方ないことだったりする。
ちなみに、この練習スタジオだが、防音性に優れており、真夜中でも大音量で練習することができるという、まさに最高の環境が整っていた。
近くに練習ができるスタジオはあることにはあるが、いずれも利用料金が高いのだ。
しかも、スタジオなどへ行くにも時間がかかったりと問題が多くあり、一学生の僕たちが通うのは不可能だった。
そんなわけで、僕たちにとってここは、ある種の救世主のような存在でもあった。
「早く行こ」
このからくり仕掛け、厄介なことに数分経過すると勝手に閉じ始めるのだ。
もう一度仕掛けを動かせばいいだけだが、さすがに手間がかかるので、早々に中に入るに限る。
僕を先頭に薄暗い石段を下りて行き、少し降りたところで、僕は重い感じの音を鳴り響かせながら、分厚い扉を開ける。
おそらく、これも防音性を高めるのに一役買っているのだろう。
そして明かりを点けると、そこは僕たちのよく知る練習スタジオだった。
コンクリートか何かは分からないが、無機質な感じの一室に、ドラムやキーボードなどが置いてある。
啓介と田中君のドラムは、僕たちのギターやベースと違い、そう簡単に移動できないのでここに置いているのだ。
「それじゃ、各自セッティングを」
僕の指示に、全員がそれぞれのスペースに移動する。
少しして、それぞれの場所から楽器の音が聞こえ始める。
それを聞きながらも僕は、ギターのチューニングを始める。
(この時間が一番いいんだよね)
このセッティング中に音を作っている感覚が、僕には何とも言えない至福の時間にも感じられた。
「一樹って、本当にチューナーを使わないよね」
「まあ、必要ないし」
森本さんの言葉に答えながら、僕は淡々とチューナーを使わずにチューニングを進める。
「絶対音感だもんな。うらやましいぞ」
「あはは……」
田中君のボヤキに、僕は苦笑するしかなかった。
「よし。それじゃ、まずは流しでやるぞ。全員曲は覚えてるな?」
練習中の舵取りは、主に田中君の役割だ。
僕達が頷いたのを見て、聡志はスティック同士をぶつけて音を立てる。
「それじゃ行くぞ……1,2,3,4ッ」
田中君のリズムコールを合図に、曲が始まる。
テンポの速いその曲は、一つの嵐を想像して作った曲だ。
ギターのパートが非常に多く、僕と森本さんとのギターの掛け合いが、この曲の肝であるのだ。
(うん。いい感じ)
ブランクやら後遺症やらの心配もあったが、それほどの問題にはならなかった。
僕のソロの部分もいい感じのレベルで決まったぐらいだ。
「一樹、ギターソロのところだけど、少し間を開けたほうがいいかもな。そのほうがインパクト強そうだし」
「わかった、そういう風に修正しておく」
演奏が終われば、みんなからの意見の出しあいが始まる。
それもまたいつものことだ。
演奏して意見を出して修正してまた演奏。
その後は、リビングに戻って休憩をして、お互いの楽器を入れ替えて演奏する。
それが僕たちの練習方法だった。
最後の楽器の入れ替えは、ある種の遊びというよりも気分転換にも近い意味合いが強いが、これのおかげかみんなが自分の担当楽器以外も弾けるようになっているたりする。
それを活かせる場面がないのが、残念だと思うところだ。
(まあ、あまり他人に聞かせるようなものでもないか)
いくら自分の担当楽器以外の楽器が弾けるようになったとはいえ、それは一を極めた人からすればお遊びレベルのこと。
であるなら、仲間内だけのレクリエーションのようなものでとどめておくべきだろう。
そう思いながらも、今日の練習は終わるのであった。
夜、食事を終えてお風呂も済ませた僕は、もう寝るだけとなっていたのだが、自室で探し物をしていた。
「えっと……確かこの辺に置いたはずなんだけどな」
引き出しを開けて中を確認するが、なかなかそれが見つからない。
その探し物は、明日の授業で必要なものだったので、見つからないと色々とまずかったりする代物だ。
夏休みの宿題をやるのに使った後に、いつも収納している場所に片付けたつもりなのだが、なかなか見つからない。
「……別の場所を探すか……っとと」
探し物をしていた影響なのか、どこかに置いていた物が下に落ちた。
「これって……CD? それに楽譜?」
落ちたものを手に取ると、それはCDと何かの曲の楽譜と思われる紙だった。
CDには何が入っているのかなどが一切書いていないので、中身が何かがわからない。
もちろん、僕自身にこのようなCDを作成した記憶もない。
(……試しにプレーヤーで読み込ませるか)
ちょっとした興味だった。
僕は前に買ってもらったCDプレーヤーを机の上に置くと、先ほど見つけたCDをセットして読み込ませた。
(何かの曲が入っているのなら、再生されるはずだけど)
可能性として啓介のいたずらが考えられる。
その場合だと、中に入っているのはおそらく絶叫した啓介の声だろう。
それを警戒して、僕は音量を低く設定するとイヤホンを装着した。
(曲?)
キーボードから始まったそれは、紛れもなく曲だった。
(ッ! す、すごい……)
そして始まった演奏に、僕は息をするのを忘れるほどの衝撃を受ける。
その曲はとにかく熱い魂を感じられる物だった。
(そうだ! これは、あの人の曲だっ)
そして、僕はこの曲にまつわる出来事を思い出すのであった。