BanG Dream!~青薔薇との物語~ 作:TRcrant
第30話です。
今回は少しだけ長めです。
紗夜さんが湊さんのバンドに加わって数日が経った。
僕はHPのバンドの練習と両立を辛うじてではあるがさせていた。
だが、それは本当にギリギリの状態で、皆には色々と迷惑をかけていると思うと、申し訳なさでいっぱいだ。
(とはいえ、僕にできることは少ないけど)
僕以上にふさわしい人材であるキーボードが見つかれば、うまく紗夜さんを説得して湊さんのバンドを抜けるのもそう難しくはないだろう。
だが、そう都合よく僕より適している人物など、いるのだろうか?
可能性が低すぎて、宝くじで一等を当てるようなレベルだなと、苦笑したのは記憶に新しい。
そして、もう一つの懸念が……
「いい加減諦めてください」
「はぐぅ!?」
ここ最近、毎日加入を申し込みに来ては、紗夜さんに門前払いを受けているあこ姫さんだ。
何度断られても、彼女はあきらめずに毎日来ている。
その執念はすごいと思うが、それも報われなければ意味がない。
そんなある日のこと。
「一ついい?」
いつものように、門前払いされた彼女に、僕は疑問を投げかけて見ることにした。
「どうして、あの時”二番目”なんて言ったんだ?」
「え?」
「普通、二番目と宣言するような人の話は聞こうとは思わない。ああいう場面では、嘘でも”一番”だと言って、相手に興味を持ってもらうのが筋だと思うんだけど」
余計なお世話だとは思ったが、それでも気にならずにはいられなかった。
そんな僕の疑問に、目を瞬かせてこちらを見ていたあこ姫さんは
「あこ、おねーちゃんにあこがれてドラムを始めたんだ。だから、おねーちゃんのドラムが世界で一番かっこいいんだよ!」
「あこ姫さんのお姉さんも、ドラマー?」
「うん! えっと、”afterglow” って言うんだけどね! そのバンドでドラムをやってるんだ! ほら、こんな感じにカッコいいんだよ!」
そう言ってあこ姫さんが僕に見せてきたスマホの画面には、どこかのライブ映像なのか、一人の女性がドラムをたたいている姿が写し出されていた。
(うーん……)
「どうどう? カッコいいでしょ!」
「映像越しだから、上手い下手はあれだけど、中々熱いドラマーだなとは思うよ……つまり、かっこいいという意味だよ」
「ほんとですか!」
僕の感想に、あこ姫さんは嬉しそうに目を輝かせながら、僕と距離を詰めて聞いてきたので、僕は後ろに軽くのけぞりながら、無言で頷いて答えた。
「あこ、友希那さんがカッコよくて、ずっとファンだったんです。その友希那さんがバンドをやるって聞いたから、あこもそこに入ればもっともっとカッコよくなれると思ったんですけど……」
そこで、先ほどまでの元気な姿とは一転して、どんどん声が弱々しくなっていく。
「でも、どうすれば友希那さんのバンドに入れるのか、あこ分からなくなって……」
そう言って肩を落とすあこ姫さんの姿に、同情を禁じえなかった。
(しょうがない。僕も一肌脱ぐか)
「あなたがバンドをやりたいという気持ちが本当であるなら、言葉ではなく音でそれをわからせるしかない」
僕はそう言いながら、鞄から数枚のスコアを取り出すと、それを彼女に差し出す。
「え? あの、これは?」
あこ姫さんは、それと僕の顔を交互に見続けていた。
「湊さんがこれまで歌っていた楽曲のスコア。これをすべて叩けるようになったら、もう一度声をかけて。そうすれば、あなたの演奏を聞くように、湊さんに掛け合うから」
「本当ですか! ありがとうございます!!」
嬉しそうにお礼を言ってくるが、彼女は分かってるのだろうか?
僕が手を貸すのは、”あくまでも入り口を作るだけ”であるということを。
「あ、そう言えば名前言ってなかったですね。私は宇田川あこって言います! おねーちゃんと同じで紛らわしいので、あこでいいですよ!」
「……奥寺一樹。僕も呼び方は好きにしてもいいよ。ドラム、応援してるね」
そうして、あこ姫……あこさんにお互いの本名を伝えたのであった。
(しかし、Afterglowか……後で田中君にでも聞いておくか)
僕としては、全く知らないバンドだが、映像で見る限り、僕たちと同年代の人たちが結成しているバンドだろう。
もしかしたら田中君なら知っているかもしれない。
そんなわけで、僕はあとで田中君に聞いてみようと頭の片隅に置いておくことにした。
(可能だったら、ライブにも行ってみようかな)
いい加減、僕自身もアンテナを伸ばしたほうがいいとは思うのだが、僕の場合は興味のあるなしで振り分けてしまう癖があるので、取りこぼしが多いのだ。
気を付けるようにはしているが、なかなか直りそうもない。
気が付けば、あこさんとかなり話し込んでいたようで、練習の開始時間から1分ほどオーバーしていた。
「さてと……練習に行きますか」
まず間違いなく、怒られるだろうなと覚悟を決めつつ、僕はスタジオに向かうのであった。
ちなみに、この後
「1分30秒の遅刻よ」
「一樹さん早く準備してください。時間のロスを取り戻さないと。一樹さんは1時間しか練習ができないんですから」
という二人からのお怒りの言葉をもらうことになったのは余談である。
「あら、奥寺君」
「……湊さん」
あこさんと会ってから数日ほどが経ったこの日。
今日も今日とて湊さんのバンドの練習に向かうべく学園を後にしようと昇降口に向かうと、ばったりと湊さんと鉢合わせになった。
「ちょうどいいわ、一緒に行きましょ」
「……そうだね」
湊さんのバンドでの練習メニューは、中々にすごいものだった。
それぞれの苦手分野を克服するものだが、これがまた的確に当たっているのだ。
僕で言うと、鍵盤のタッチが少し強いので、力まないようにする感じのメニューが組まれている。
これに関しては、僕の苦手な分野であり、ついギターを弾いている時の癖で強く鍵盤をたたいてしまう時があるのだ。
普通はそうそう問題にもならないが、速弾きなどになってくると、それが顕著になってしまう。
僕としては、この癖を完全になくそうと思っていたので、湊さんが出した僕の練習メニューはかなりありがたかった。
尤も、この癖があるからと言って、演奏に大きな問題があるというわけではなく、本当に細かい部分での問題でもあったりするけど。
「ところで、奥寺君。バンドのほうは大丈夫かしら?」
「あー、一応は」
湊さんの問いかけに、僕は言葉を濁す。
これまで週3~5回していたバンド練習が、湊さんのバンドに加わったことで、週2~4回ほどにまで減少していた。
もちろん、田中君たちと話し合った結果のことなので不満はないが、これ以上減らすとなると、ひと悶着はあるだろう。
(練習が嫌なわけじゃないんだけどね)
そんな湊さんのバンドでの練習だが、最近はどうもパッとしない。
通しでの演奏の練習も、リズム隊がいないため物足りなさが否めないし、なにより練習中の空気が重く息がつまりそうな感じなのだ。
(なんか、似てるんだよね。これ)
その空気の重さを、僕は知っていた。
「待ってよ、友希那……ってあれ、奥寺君じゃん。え、何なに? 友希那と知り合いだったの?」
そんな時、少し遅れて湊さんの名前を呼びながら駆け寄ってきたのは、今井さんだった。
「ええ。そういうリサも、知り合いなの?」
「あ、うん。去年一緒のクラスだったんだよね」
そこまで説明した今井さんは、驚いた表情から一転して、笑みを浮かべだした。
それはどちらかというとからかいの意味を込めたものに感じられた。
「……それよりも、二人とももしかしてあたしが知らないうちにそういう仲になっちゃったの?」
「そういう? ……ッ!? いやいや、違うから、違いますから!!」
今井さんの言わんとすることを理解した僕は、慌ててそれを否定した。
間違いを正しておかないと、あとで絶対にからかいのネタにしかねない。
主に、森本さんとか。
(まあ、暴徒と化すやつが出るよりはいいけどねっ)
「あははっ! そんなに必死にならなくても、冗談だってば☆」
「今井さんの場合、冗談でも怖いです」
彼女の場合、冗談と言っておきながら本気でそう思っていたりすることがありそうで、本当に怖い。
とはいえ、なんだか負けているような気分にもなるが、どうやったって今井さんに勝つのは無理なので、張り合う気はない。
……なんだか、自分でも悲しくなるけど。
「……? どういうことかわからないけど、ちょうどいい機会だから伝えておくわ。私、彼ともう一人の三人でバンドを組んだわ」
湊さんは靴に履き替えると、校門に向かって歩き出す。
とりあえず僕たちも、靴に履き替えると速足で湊さんのもとに向かう。
無知は色々な意味で最強なんだなと、思い知らされた瞬間だった。
そんな僕の心境はともかくとして、湊さんの宣言を聞いた今井さんは動きをピタッと止め、
「え、今の話マジ!?」
と驚きの声を上げた
「本当よ。まだベースとドラムが見つかっていないけど、次のコンテストに向けて新しい曲も出来上がっているわ」
それに対して、湊さんは表情を変えることなく認めた。
「奥寺君と友希那が知り合いだったから、もしかしたらって思ったんだけど……そっかぁ」
それを聞いた今井さんは、色々な感情を抑えるように相槌を打っていた。
(今のはどういう意味なんだろう?)
どうして僕と湊さんが知り合い=バンドということになるのだろうか?
今井さんには、音楽の経験者であることは一言も話していないはずだが。
(もしかしたら、去年の文化祭のことを、噂で聞いたのかも)
とりあえず、そう思うことで疑問のほうはけりをつけた。
「友希那、誰ともつるまないから心配してたんだけど……ついにバンドが始動か……」
しみじみとした様子でつぶやく今井さんの表情は、嬉しそうというよりも、どこか寂し気で悲しんでいるようにも見えた。
一体二人の間に何があったのか……それを聞くことはできなかった。
知りたいという気持ちがないわけではない。
ただ、二人の間にある”それ”が僕にその疑問を投げかけさせるのを阻んでいた。
”それ”は、僕のような他人が踏み入れてはいけない領域だと察したからなのかもしれない。
「私は本気よ。もう一人の人もフェスに出るという目的は一緒よ」
あえて僕を除外しているのは、彼女なりの配慮だろう。
僕は彼女のバンドにこのまま所属するわけではないのだから。
「リサは反対しないの?」
「私が止めたら、友希那はバンドを辞める?」
「リサ……」
いたずらっぽく言う今井さんに、湊さんはいつもより、柔らかい表情で彼女の名前を呼んだ時だった。
「友希那さん!!」
その大きな声が聞こえてきたのは。
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