BanG Dream!~青薔薇との物語~   作:TRcrant

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第4章『バンド、爆誕』
第33話 名前と微笑みと


ついに、バンドとしての形が成立してしまった。

いや、これは喜ぶべき事のはずだ。

なのに、僕はそれを心の底から喜べずにいた。

その理由は、自分でもわかっている。

自分でも、どうかと思うほど自分本位な理由だ。

 

 

BanG Dream!~青薔薇との物語~   第4章「バンド、爆誕」

 

 

「はぁ……」

昼休み。

僕は深いため息を漏らしながら一人、音楽室を訪れていた。

目的はここに置いてあるグランドピアノを弾くこと。

気を紛らわすためにも、重要なことだったのだ。

この前と同じように、ピアノ前に置いてある椅子に腰かけて、深呼吸をする。

それだけで頭の中がクリアになる。

ピアノの鍵盤にそっと手を添える。

弾く曲は決まってない。

ただ、頭の中にメロディーが浮かんでいる。

曲名のないそのメロディーを奏でようと指先に神経を集中しようとした時だった。

少しだけ開いているドアの隙間から、こちらを伺う女子生徒の姿が目に入ったのは。

 

「………何してるの、今井さん」

「あちゃー、ばれちゃったか。ごめんねー、別にやましいことはしてないよ」

 

(こっそり覗き見ている時点で、やましいことをしてるようなものなんだけど)

 

軽い感じで笑っている彼女に言っても無駄だというのは、何となく想像がついたので、何も言い返さなかった。

 

「で、何を弾くの?」

「わからない。今思いついたメロディーを弾くだけ」

「すごっ!? もしかして、作曲とかできちゃったりするんじゃないの?」

 

僕の返事に、興味を持ったのか、今井さんが食いついてきた。

 

「さあ、どうだろうね」

 

僕は答えをはぐらかした。

本当は作曲ができるのだが、それを言うといろいろと面倒なことになるような気がしたのだ。

 

「あのさ、もしよかったらあたしここで聞いててもいい?」

「……どうして?」

「いやー、奥寺君がどんな演奏するんだろうって興味があるんだよねー……駄目?」

 

今井さんは最初とは打って変わって、目を潤ませたうえで上目遣いというダブル攻撃を仕掛けてきた。

 

(ひ、卑怯すぎる)

 

卑怯だとは思っても、それを言う度胸など僕にあるはずもなく、僕は頷いて認めるしかなかった。

 

「やった!」

「はぁ……それじゃ」

 

喜んでいる今井さんをため息交じりに見ながら、僕はピアノのほうに視線を移した。

そして、再度深呼吸をして、再び集中する。

 

(せめて、今だけは何もかも忘れて弾こう)

 

 

 

★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

 

音楽室に来たのは偶然ではなかった。

友希那のバンドに入ることができたのは、奥寺君が声を上げてくれたから。

もしかしたら、彼がいなくてもそういう流れになっていたのかもしれないけど、それでも推薦してくれたことには変らない。

だから、そのお礼を言おうと思って、奥寺君の教室に向かったまではよかったんだけど

 

「奥寺君? さっき教室を出て行きましたけど」

「え、マジ?」

 

奥寺君のクラスの人の言葉に、あたしは思わずそう言ってしまった。

 

「えっと、どこに行ったのかとかわかるかな?」

「うーん……ごめんなさい、心当たりはないです」

 

クラスの子が申し訳なさそうに言うので、アタシは気にしないでと言ってからお礼を言ってそこを離れた。

 

「あれ、リサじゃない」

「お、明美じゃん」

 

どうしたものかと考えていたあたしの前に現れたのが、奥寺君の幼馴染でもある明美だった。

 

(もしかしたら、幼馴染の明美だったらどこにいるのかわかってそう)

 

あたしが友希那が今どこにいるのかの見当がついているように、明美ももしかしたら奥寺君がどこにいるのかの見当がついているかもしれない。

 

「ちょっと聞きたいんだけどさ、奥寺君が行きそうなところに心当たりってない?」

「一樹の? 一樹だったらもしかしたら音楽室にいるんじゃない?」

 

そんなあたしの予想通り、明美は奥寺君がいそうな場所をピンポイントで言ってくれた。

でも、そこで一つの疑問が浮かんだ。

 

「音楽室? どうしてそんなところに」

 

アタシの記憶が間違ってなければ、音楽室は昼休みには誰も寄り付かない場所だったはずだけど。

 

「人気のないところで、思いっきりやりたいことって……誰にもあるものよ」

 

儚げにつぶやいた明美は、窓の外の景色をぼんやりと見つめている。

その表情に、アタシは一瞬心配になって明美に声をかけようかと迷った。

 

「で、一樹に会ってどうするの? もしかして告白?」

「告白……ッ」

 

そんな時、こちらのほうを見てさっきまでとは打って変わって、目を輝かせて聞いてきた明美の言葉の意味を理解したアタシは、思いっきり動揺してしまう。

 

「ち、違うよ、違うから! ただ、この前のお礼を言おうと思って……」

「なぁんだ。一樹にも春が来たんじゃないかって思ったんだけど、残念」

 

両腕を頭の後ろに組んだ明美は、本気で残念がっているように見えた。

 

「そ、それじゃアタシは行くね」

 

とりあえず、これ以上から買われるのもあれなので、アタシは早々にその場を離れた。

 

(奥寺君の気持ち、少しわかるかも)

 

からかわれて初めて、奥寺君の気持ちがわかったような気がする。

確かにこれは、恥ずかしすぎる。

そんなこんなで音楽室いきたアタシは、ドアをそっと開けて中の様子をうかがう。

 

(ほんとにいたよ)

 

そこにはピアノの前の椅子に座っている奥寺君の姿があった。

だが、奥寺君の雰囲気がアタシに中に入らせるのを躊躇させた。

 

「………何してるの、今井さん」

「あちゃー、ばれちゃったか。ごめんねー、別にやましいことはしてないよ」

 

そんなことをしていたら、奥寺君に見つかっていたようで、アタシはあえて軽く謝りながら中に入った。

 

(どうしよう、めっちゃ警戒してんじゃん)

 

覗き見をしていたアタシが悪いけど、奥寺君はすっかりアタシのことを警戒してしまっている。

これじゃ、お礼を言うのは無理そうだ。

 

「で、何を弾くの?」

 

そう思ったアタシは、逆効果になるかもしれないけど、ピアノの話をしてみることにした。

 

「わからない。今思いついたメロディーを弾くだけ」

「すごっ!? もしかして、作曲とかできちゃったりするんじゃないの?」

 

それは本心だ。

セッションした時や、友希那とのライブで見た時も思ったけど、奥寺君はただものじゃない。

少なくとも、音楽に関してはかなりのレベルだというのは理解していた。

だからこそ、アタシは聞いてみたのだ。

 

「さあ、どうだろうね」

 

奥寺君は、答えをはぐらかすけど、間違いない。

確実に作曲ができる。

 

「あのさ、もしよかったらあたしここで聞いててもいい?」

 

だから、アタシは一度奥寺君の演奏を聞いてみたくなったのだ。

 

「……どうして?」

「いやー、奥寺君がどんな演奏するんだろうって興味があるんだよねー……駄目?」

 

ちょっとだけズルいと思いながらも、アタシは自分の持つ武器を駆使して奥寺君に頷かせる。

 

「やった!」

「はぁ……それじゃ」

 

深いため息をついて、ピアノのほうに向きなおった奥寺君の演奏を、アタシは一番前の席に腰かけて聞くことにした。

そして奥寺君の演奏が始まった。

 

「ッ!?」

 

その激しい曲調で始まったそれは、一瞬でアタシの頭の中を真っ白にさせる。

そして、そこから始まる速弾きはピアノのことをよく知らないアタシですらすごいと思えるほどの物だった。

すると、一瞬演奏が止まる。

その直後に、一気にテンポを上げて再びピアノの音を奏で始める。

 

(すごい……まるで困難に立ち向かう英雄のいる世界みたい)

 

また音が静かになり、そして一気にそれは膨れ上がる。

奥寺君の演奏は、まるで魔法のようにその曲の世界をアタシの脳裏に描いていく。

 

(これに、友希那の歌が加わったらどうなるんだろう?)

 

アタシは想像せずにはいられなかった。

でも、その結論は出ない。

アタシが想像するには、この曲はすごすぎた。

 

「ふぅ……どう?」

 

演奏が終わって、静かに息を吐きだす奥寺君の姿は、アタシには輝いて見えた。

だから

 

「すっごく良かったよ。奥寺君」

 

アタシは奥寺君に思ったことをそのまま伝えた。

 

「そ、そう? ありがとう」

 

頬を掻きながらお礼を言う奥寺君は、どこかうれしそうに見えた。

 

「もしよかったら、この曲の名前。今井さんがつけて見ない?」

「えぇ!?」

 

そんなアタシへの奥寺君の提案は、まさしく驚かせるのに十分すぎるものだった。

 

「偶然か否かはさておいて、こうやってこの曲を聞いたのも何かの縁ってやつだし、それに今井さんがこの曲にどんな名前を付けるのかに興味ある」

「これは責任重大だね……」

 

自分でも言ってるけど、本当に責任重大だと思う。

下手な名前を付けたら、目も当てられないことになる。

 

(って言っても……そうだっ)

 

どうしようと考えこもうとしたときに、アタシの脳裏によみがえったのは、演奏中に頭の中に浮かんできた光景だった。

それを言葉にするのであれば、決戦に赴く人……戦乙女のようなものだろうか?

 

「決めた。この曲の名前は『preserved valkyria』で、どう?」

「守られた戦乙女? なるほど……ありがとう、中々に斬新なアイデアだったよ。この曲は『preserved valkyria』で決まりだね」

 

そう言って奥寺君は、スマホを操作し始める。

きっと、今の曲の名前をメモしているんだと思う。

 

「本当に良かったの? アタシが言うのもなんだけどさ」

「こういうのって、曲を聞いた第三者の感じたままの言葉で名前を付けるのが大事だと思うんだよね。だから、あの演奏を聞いた今井さんがこの名前にしたのであれば、この曲にはそれが正解なんだと思う」

 

奥寺君の行っていることの意味は、アタシにはあまりよくわからなかった。

それでも、奥寺君の優しい表情を初めて見たことは、アタシはたぶん忘れないかもしれない。




今回の話に出てきた『preserved valkyria』はぺのれりさん作曲の実在する曲です。
気になる人は調べてみてください。

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