BanG Dream!~青薔薇との物語~   作:TRcrant

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第35話 一つの転機

数日後。

この日も、ハードな湊さんのバンドの練習も終わり、解散となった。

 

「今日もつかれたぁ~」

 

目の前には、よぼよぼと歩いているいつものように魂が抜けかかっているあこさんと、今井さんの姿があった。

 

(さすがにハードすぎだし、少しばかり練習メニューを再考も視野に入れたほうがいいかも……まあ、湊さんに却下されるだろうけど)

 

こう毎日ハードな練習をするというのは、体調面においてもあまり好ましいとは言えない。

そればかりか、モチベーションの低下も引き起こす可能性だって捨てきれない。

厳しくすればいいというほど単純なものでもなく、練習量とモチベーションなどをいかに維持させるかが、重要なのだ。

とはいえ、湊さんの練習メニューは僕から見ても最適なものであることには違いないので、あまり意見の出しようがないのも事実なのだが。

 

「宇田川さん、今井さん、ここは通り道なんですからだらだら歩かないでください」

 

そんなことを考えていると、紗夜さんから二人に檄が飛ぶ。

そんなこんなで、ロビーまで移動した僕たちは、湊さんが次の練習で使用するスタジオの予約を取るのを待っていた。

 

(そう言えば、啓介たち最近なんだか怪しいな)

 

ここ最近家に来ないこともそうだけど、何か僕に隠れてやっているような気がするのだ。

 

(まさか、僕を抜いた新バンドでも作ろうとしてる?)

 

なんとなくその可能性がものすごく濃厚なような気がする。

 

「来月のこの日はどうかな?」

 

(ん?)

 

物思いにふけっていると、受付の人と湊さんが話している声が聞こえてきた。

僕はその話の内容が気になり、話のほうを集中して聞くようにすると

 

「急遽イベントに穴が開いて、頼めそうな人がいなくて、もしよかったら代わりに出てもらえないかな?」

 

ライブへの出演依頼をされるのであった。

 

 

 

 

 

「すごいっ! 早速ライブの出演が決まった!!」

 

先ほどまでのグロッキーな状態はどこへやら、あこさんはライブの出演が決まったことを目を輝かせて喜んでいた。

 

「しかも、メジャーデビューができるかもしれないって噂の……もしかしてあこたちもスカウトされるかもしれないですね!」

 

受付の人がいらしてきたライブは、事務所のスカウトの人たちも来るほどの大きなイベントらしい。

実際に、このイベントでメジャーデビューとなったバンドも多く存在するらしい。

 

「確か、この地区での登竜門的なイベントだったっけ?」

「ええ。そのようですね」

 

僕の疑問に、紗夜さんが答える。

 

(そういうのもあるんだ)

 

メジャーなどにはあまり興味はないのでアレだが、出て見る価値はありそうだ。

尤も、今はそれ以前の問題だけど。

 

「メジャーは音楽の頂点ではないわ。そう思えない人はこのバンドには必要ない」

「え? でも、メジャーデビューってなんだかカッコよくありませんか?」

 

(すごいなあこさん。明らかに地雷だとわかるものを踏みに行ってるよ)

 

「カッコいい? ……あそこは『音楽を売るための場所』よ。音楽のことなんてわかってもいないわ」

 

(どういうことだろう……そもそもどうして湊さん、そこまでメジャーを敵視してるんだろう)

 

なんだか、湊さんの言葉から憎悪にも似た怒りを感じ取れる。

 

「それに宇田川さん。あなたよくお姉さんの話をするけど、お姉さんのようになりたいから音楽をやっているのであれば、ここでを抜けたほうがいいわ」

「あ、あこはここがいいですっ! あこも、おねーちゃんみたいにカッコよくなりたくて……」

 

冷たく切り捨てる紗夜さんの言葉に、必死に答えるあこさんの言葉を聞いた紗夜さんの表情が、一瞬曇ったような気がした。

 

「……宇田川さん、私は貴方の技術は認めています。でも、あなたのそれはただの真似だわ!」

 

だがそれも一瞬のことで、紗夜さんはあこさんにそう言い放った。

 

「ち、違うもん! あこは――「違わない!」――ぁぅ」

 

あこさんの必死の反論を、紗夜さんは大きな声で遮るとさらに言葉を続ける。

 

「だったら、答えてみて。あなたにとっての『カッコいい』っていったい何?」

 

(どうしたんだ? なんだかものすごくムキになってない?)

 

「わかったでしょ? あなたのその考えは、バンドのレベルを高めるために変えてもらわないと―――」

 

さすがに、これ以上放っておくのはまずい。

そんな時、今井さんと目が合う。

 

(一緒に止めようって言ってるのかな?)

 

今井さんのアイコンタクトの意味がなんとなく理解できた僕は、同じくアイコンタクトで返すと、すぐさま行動に出る。

 

「ま、まあまあ、紗夜もその辺で、ね?」

「紗夜さん落ち着いて。いつもの紗夜さんらしくないよ」

 

今井さんが紗夜さんとあこさんの間に割って入り、さらにそこに僕も加わって仲裁した。

 

「別に、私は……」

「紗夜さんの意見は僕は全く同意できないけど、ただ一つ言うのであれば、この機会にあこさんは『自分にとってのかっこいい』を見つけていたほうがいいと思う。そうすれば、『世界で二番目』っていうキャッチフレーズも変わるはずだし」

「大丈夫だよ。あこはこう見えてやる時はやるしっかりした子だから」

 

軽く紗夜さんの意見を否定しつつも、自分にとってのかっこいいを見つけることをあこさんに勧めておいた。

そうすれば、彼女なりの軸がしっかりと形成することはできるはずだ。

それまでは、あこさんのお姉さんを目指すのも悪いことではない。

 

「なら構いませんが……そういう今井さんはどうなんですか? ブランクのせいでかなり無茶しているようにも見えますけど」

「あ、この指だったら大丈夫だよ」

 

(指? ……あ、そう言えば最初に会った時と違う)

 

気が付かないのはどうかと思うが、異性の指先をじっくりと見る癖は、僕にはない。

おそらくは、ネイル(?)のようなものを剥がしたのだろう。

 

「それよりも、来月のこのライブに向けて、次から練習を本格的にするから、課題はちゃんとやっておいて」

 

流石バンドリーダーなだけあって締めるところはちゃんと締める。

 

(でも、僕の今やったことって、本来は貴女がやるべきことなんだけどね)

 

なんとなくだが、湊さんのリーダーの質に問題があるのではないかと、感じさせる一幕であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、行くわよ」

 

そして、ついに来月に開催されるライブに向けての本格的な練習が開始された。

 

(このライブに出れば、僕はこのバンドメンバーであるということが本当に確定することになる)

 

今までだったら、まだ内輪でのことだったが、ライブに一度でも出れば僕がこのバンドのメンバーであるというのが周知されてしまう。

そうなれば、抜けるという選択の難易度はかなり増すことにもなるのだ。

本当にこのままでいいのだろうか?

そんな不安を抱きながらも、僕は演奏を続けていた。

そんな時だった。

 

「たのも―!」

 

その場違いなセリフと共に、啓介が現れたのは。

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