BanG Dream!~青薔薇との物語~   作:TRcrant

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第37話 新たな一歩

駅のホームで電車が来るのを待っていた僕達は、先ほどの一幕について話していた。

 

「それにしても、まさかバンドを新しく作るなんて……しかもライブまで」

「そうでもしねえと、お前を抜けさせるのは不可能だったからな。ライブのほうは保険でやっておいたのが功を奏した」

 

田中君のおかげで、来月のライブに向けての準備をしたいという理由で、一時的にスタジオ通いをなしにしてもらうことができた。

もちろん、当日のライブの出来次第で、この後の方向性は変わってくることになる。

 

「でも、ちょっと強引すぎだよ」

「仕方ねえだろ。一応言っておくが、こうなったのは一樹……お前にも要因があるんだぞ。お前、あいつにバンドを組みたくないって言ったか?」

「言ったよ。『バンドを組む気はない』ってはっきりと何度も」

 

真剣な表情の田中君に圧されながらも、僕は正直に答える。

あのライブの前まで、湊さんからしつこく勧誘を受けるたびに、僕は何度も組む気はないと言っていた。

そんな僕の答えを聞いた田中君が”やっぱりか”とため息交じりにつぶやく。

 

「あのな、『バンドを組む気はない』っていうのは、『状況が変わればバンドを組む気になる』ととらえられるんだぞ」

「………あ」

 

田中君に指摘されてようやく、僕はそれに気づいた。

だとするならば、湊さんが何度もアプローチをし続けていたのも納得がいく。

 

「それに、バンドに入った後だって、ちゃんときっぱりと言ってれば、ここまでのことにはなってなかったと思うぞ」

「でも、それだと波風が……」

「どうやっても波風立つわよ。今だって十分にね」

 

それまで黙っていた森本さんが、諭すように口を開く。

 

「ほんと、一樹って肝心なところで抜けてるよなー」

「……その通りだけど、啓介に言われるとちょっとイラっとするのは何で?」

 

完全に逆切れだけど。

でも啓介の言う通り、いつも肝心なところで凡ミスをすることが多々ある。

これもまた僕の悪い癖なのかもしれない。

 

「とまあ、そんなわけで俺たちは表向きはMoonlight Glory……長いからムングロでいっか。まあ、それで活動していることにして、HPとしての活動も続けるということで行く」

「それはいいけど、楽曲はどうするの? まさかコピーバンドとかにはしないよね?」

 

別にコピーバンドがだめだとは言わない。

でも、それだとなんだか違うような気がしてならないのだ。

そんな僕の気持ちがわかるのか、田中君は安心させるように柔らかい表情を浮かべると

 

「安心しろ。演奏するのはどれもオリジナルの曲だ」

 

と言ってくれた。

 

「でも、誰が作曲を?」

「もちろんお前だ、一樹。それとも『chaotic』と呼んだほうがいいか?」

 

意地の悪い笑みを浮かべて言い切った田中君に、僕は驚きを隠せなかった。

 

「どうしてわかった……って言いたそうだな」

「……誰にも話してないのに」

「たりめえだろ。何年お前とバンド活動してると思うんだよ。お前が作る曲が分からないわけねえだろ」

 

どういう経緯で田中君がchaoticのことを知ることになったのかは知らないけど、それでも僕であることがすぐにわかってくれるのはうれしいものだ。

 

「大方、HPには向かないと思った曲をアップしてんだろうけど、どうせだったらそれをムングロ用にしちまおうぜ! 一樹、用意できるか?」

「……もちろんだよ。初陣にうってつけの曲、完成させる」

 

こうして今後の方向性は決まった。

まずは僕が曲を完成させないことには始まらない。

その後は練習だ。

色々と不安はあるが、それでも僕たちは突っ走っていくだけだ。

こうして、僕の初陣に向けての準備が幕を開けるのであった。

 

 

 

 

 

翌日の放課後、久々に僕の家のリビングに集まった僕たちは作曲した曲をみんなに聞かせることになった。

 

「では、一樹大先生の楽曲披露を始める!」

「ヒューヒュー!」

「イエーイ! ほら、裕美も一緒に」

「え? い、いえーい」

 

……のだが、田中君のいつもよりハイテンションな言葉に続いて、みんなも吹っ切れたように大騒ぎし始めるのには困った。

 

(きっと嬉しいんだね)

 

僕だって、思いっきりはしゃぎたいほどなんだ。

久しぶりにこうして集まることができたことが、とても嬉しいのだ。

とはいえ、いつもまでもはしゃいでいるわけにはいかない。

 

「とりあえず、二曲ほど用意してきたから、聞いて」

 

そう言って僕はノートパソコンを操作する。

そして、流れ出したのはDTMで作った音源だ。

 

「HPにも通用しそうな曲調だね」

「題名は『命のユースティティア』か。良いと思うぜ。まずはこれで決まりだな」

「それじゃ、歌詞の方は……啓介できる?」

「ああ、任せてくれ! 良い詩が浮かんだぜ☆」

 

各々が感想を口にする中、田中君のゴーサインを聞いた僕は、啓介に歌詞を作ってもらうようにお願いする。

この流れは、HPの時と同じだ。

 

「あ、今のところもう少しベースの音を目立たせたほうがいいかも」

「じゃあ、ドラムのほうを少しだけ抜くか」

 

中井さんの意見を聞いて、曲に細かな修正を加えていく。

そうやってできた曲が、僕たちにとっての最高の楽曲となるのだ。

 

「で、二曲目がこれ」

「……おぉ、これは新しい曲調だ」

「1番と2番でリズムが違うのか」

「しかも、間奏の部分でテンポが上がったり下がったりしてる……難易度高いわね」

 

二曲目の曲に、みんなが感想を口にする。

曲名は『エンヴィキャットウォーク』だ。

ミステリアスな曲調のこの曲の一番の難所は、森本さんが言うように、感想の部分にある店舗アップのところだ。

ここでのスムーズな切り替えが、この曲の成功のカギを握るのだ、

 

「あと一曲はどうするんだ?」

「まだ完成してないからもう少しだけ待ってほしい」

 

コンセプトは決まっているのだが、まだ曲としての完成度には程遠い。

持ち時間的に考えても、あと一曲演奏は可能だ。

だがその一曲が完成できずにいた。

 

「だったら、これなんてどうだ? 俺たちの思い出の曲」

 

そんな時に、田中君が僕のパソコンに保存されてあった何かの曲を示しながら提案してきたので、僕たちはその曲名を確認する。

 

「え……」

「あー、これね」

「確かに、思い出だね」

 

それを見た瞬間、何かを察した様子で声を上げる。

全員苦笑を浮かべている時点で、いい思い出でないのは明らかだ。

曲名は『バンブーソード・ガール』

僕たちがバンドを結成するきっかけにもなった曲で、一番最初に演奏した楽曲だ。

この曲の特徴は、とにかくテンポを示すBPMが208という速さだ。

ハイスピードのままですべてのパートは演奏を続けていくため、パワー配分に気を付けなければ最後のほうで音に迫力がなくなるという、難易度の高い楽曲に仕上がっている。

しかもテンポが速いのでギターも速弾きがデフォみたいになっていたりもするこの楽曲を、僕たちは小学生高学年で演奏したのだ。

 

「今聞いても思うけど、これ初心者がやる奴じゃねえだろ」

「この曲を作る時点で、一樹がどれだけ鬼なのか説明できそうだ」

 

当時のことを思い出したのか、みんなが白い目で僕を見てくる。

 

「だ、だからそのことはあの時に謝ったじゃない。……反省してます」

「まあ、あの時のことがあったから、今があるわけだけどな」

 

この楽曲は、僕たちが初めてみんなで合わせて演奏をした時の喜びと、そして気合だけが先行することの恐ろしさを思い知らされたりと、様々なストーリーがある。

それだけ思い入れのある曲だが、あの時からずっと演奏することはなかった。

特に理由はないが、僕たちの中でこの曲に触れるのはタブーみたいな扱いになっていたからかもしれない。

 

「一応聞くけど、本当にやるの?」

「俺はやりたい。今だったら、あの時よりもうまく演奏できる自信がある」

「同意見。私もよ。あの時は歌が下手だったけど、今ならあの時以上の歌声を出せるわ」

「わ、私も。自信ないけど、頑張るっ!」

 

僕の最終確認に、みんなの表情はやる気に満ち溢れていた。

 

「それじゃ、練習プランは最初はいつも通りHPとしての。休憩の後はシャッフルの代わりにムングロとしての練習をする……みたいなのでどうだ?」

『異議なし!』

 

みんなの返事から、僕の出した練習プランで確定となった。

 

「よぉし、それじゃ頑張っていくぜ!」

『おー!!』

 

田中君の激に応じて僕たちも拳を振り上げて声を上げ気合を入れる。

こうして、一歩ずつではあるが僕たちのバンドは再び動き出すのであった。




今回の話に出てきた三曲は、個人的に気に入っている曲だったりします。
ちなみに、今回の作中では彼らの作曲となっていますが、これは作中のみの設定です。

正しい、作曲者(敬称略)は下記の通りになります。


・『命のユースティティア』:Neru

・『エンヴィキャットウォーク』:トーマ

・『バンブーソード・ガール』:cosMo@暴走P

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