BanG Dream!~青薔薇との物語~ 作:TRcrant
湊さんのバンドを抜けるためにみんなが、作ったバンド『Moonlight Glory』としての練習は、順調に進んでいる。
HPとしての活動の延長線上でもあるので、そう驚くことでもないが演奏面においては概ね問題はない。
(後は当日次第かな)
ライブのステージは、何が起こるかわからない摩訶不思議な場所でもある。
その”何か”が起こったとしても、動じないことこそが僕たちに求められているのかもしれない。
そんな状況の中迎えた日曜。
この日も練習のはずだった僕は、一人商店街を訪れていた。
遊ぶためではない。
「まさか、こんな日に限って弦の替えがなくなるなんて……」
ギターの弦のストックがなくなったので、それを買うためだ。
ギターの弦というのは、非常に繊細で演奏すればするほど劣化が進んでいくのだ。
劣化が進めば当然、いい音が出せなくなるばかりか弦が切れるなんてことだって起こりうるのだ。
それがもし、ライブ中だったりしたら目も当てられない。
それを防ぐために、定期的な弦の張替えが必要なのだ。
この日も、弦を張り替えようとしたところ、替えの弦がないということに気づき、弦を購入するために出かけて今に至るという経緯だ。
商店街に、楽器やなんてあるのかと聞かれれば、僕は『ある』と自信満々に答えるだろう。
「ここだ」
僕がたどり着いたのは『江戸川楽器店』というお店だ。
ここには楽譜からアンプにエフェクターと様々なものがそろっている。
学割も効くし、この一店舗だけで機材一式がそろうのは大変魅力的だ。
僕のギターの弦も、ここで購入している。
そんな楽器店に、僕は足を踏み入れる。
(えっと、確か弦はこっちだったよね)
売り場の変更さえしていなければ、弦の販売しているスペースは分かっているので、僕は迷うことなく弦が売っているコーナーに足を勧めた。
その時、弦が売られているコーナーに先客がいるのに気づいた。
「ん? あれは……日菜さん?」
緑色の髪から、一瞬紗夜さんかと思ったが、髪の長さが短めであるのに気づいた僕は、その人物の正体が紗夜さんの妹である日菜さんであることがわかった。
「ふぇ? あ、一君だ! 一君も、ギター弾けるの!?」
(うわー、凄まじい勢いで来たな)
僕の声に気づいた日菜さんは、目を輝かせて興味津々といった様子で質問を投げかけてくる。
それは、彼女と初めて話した時と全く変わらない光景だった。
「そうなんだけど、日菜さんもギター弾けるんだ」
「え……あ」
とりあえず、答えながらも日菜さんに確認を含めて聞くと、先ほどまでの勢いと打って変わって表情を曇らせると、歯切れの悪い声が返ってくる。
「……もし何か悩みがあったら聞くけど」
「……ほんと?」
その様子を見て、かなり重大な悩みを抱えていると思った僕の言葉に、日菜さんはどこか縋りつくような感じで聞いてきたので、僕は頷いて答える。
「……とりあえず、向こうの待合スペースで話そう」
通路の真ん中で立って話すというのは、お店にとっても迷惑だと思った僕は、楽器のメンテナンスなどを待つスペースで日菜さんの悩みを聞くことにした。
「実はあたしのおねーちゃんも、ギターをやっているんだけど」
待合スペースでお互いに向き合う形で椅子に腰かけた僕は、日菜さんの悩みに耳を傾ける。
「それは知ってるよ。演奏しているとこも見た。とてもいいギターリストだったよ」
「ありがと」
僕の言葉に、ぎこちなくではあるけど微笑む日菜さんは、紗夜さんのことを姉として慕っているんだなと、僕は感じ取ることができた。
「おねーちゃんみたいになりたくて、アタシもギターを始めたんだけど……おねーちゃん、あたしが同じことをしようとするといつも怒るんだ」
「……」
まるで懺悔をするかのように尻すぼみになりながら話してくれた日菜さんの言葉に、僕は何も言えなかった。
「もし、あたしがギターを始めたことを知ったら、今度こそ嫌われちゃう……」
「そんなこと……」
ない”、と言おうとした僕の脳裏に、紗夜さんがお姉さんみたいになりたいと話していた宇田川さんに言った『あなたのそれはただの真似だわ!』という言葉がよみがえった。
あの時の紗夜さんの様子を見ても、日菜さんの言葉を否定するのは無理がある。
「だったら、ギター辞める?」
「え……?」
僕のその問いに、全く予想していなかったのか、日菜さんは驚いた表情を浮かべる。
「姉妹が同じことをしてはいけないなんて決まりはない。”憧れてもいけない”なんていう決まりはない。重要なのは、日菜さんの”やりたい”という気持ちだけだよ」
「それはそうだけど。でも……」
「だったら、こうしよう!」
まだ踏ん切りがつかない様子の日菜さんの背中を押すべく、僕はある提案をする。
「もし、ギターを始めたことがばれて紗夜さんから辛くあたられたら、僕の家に避難すればいい。特にできることもないけど、避難場所ぐらいは提供できるよ」
「……ほんと?」
「本当だよ」
「あたし、何度言っちゃうかもしれないよ?」
「それでもかまわないよ」
僕の提案に、何度も確認するように聞いてくる日菜さんに、僕は何度も頷き返す。
「………うん。あたし、ギターこのままやってみる」
僕の提案で、日菜さんの心配が少しでも軽減されればいいのだが……
「一君、ありがとう!」
それでも、日菜さんの満面の笑みでのお礼の言葉に、僕はどこか晴れやかな気持ちになることができた。
(それにしても、紗夜さんにそんな一面があったなんて……)
一度紗夜さんと話をしてみたほうがいいのではないかとも思うが、日菜さんが懸念していることがある以上、迂闊に動くことはできない。
結局のところ僕にできるのは、日菜さんの逃げる場所を用意することだけなのだ。
(お隣さんの妹のためとはいえ、えらいことに首を突っ込んでしまったような……)
これが、小説や漫画のように恋愛感情があってとかならまだしも、家族ぐるみの付き合いがあるという理由だけでやることではないレベルだ。
でも、僕はあの提案のことを後悔してはいない。
(僕も、呆れるほどの大馬鹿野郎だな)
そう苦笑しつつも、ここに来た本来の目的である弦の替えを買おうとした時、今度は持ってきていた携帯が鳴り始めた。
「誰だろう……って、RinRinさん?」
ポケットから携帯を取り出した僕は、相手を確認するとその相手はあこさんと一緒にパーティーを組んでいるRinRinさんだった。
何だろうと思いつつ、電話に出る。
「はい、奥……KAZUです」
いつもの癖で名前を口にした僕は、慌ててプレイヤーネームに言い換えた。
「あの、相談したいことが……あるのですが、お時間大丈夫、ですか?」
どうやら、今日の僕は相談屋のようだ。
「ええ、大丈夫ですよ」
そんなどうでもいいことを考えながら、僕はRinRinさんに答えるのであった。
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