BanG Dream!~青薔薇との物語~   作:TRcrant

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第4話 受け継がれた音

それは、去年のこと。

父さんに会場の空気を覚えろということで連れて行ってもらった、ステージ会場でのことだ。

 

「えっと……確か父さんが言っていた場所ってここだよね?」

 

父さんから飲み物を買ってくるようにと言われ、教えてもらった自販機に向かっていた。

 

(なんだかえらく会場を一周したような気がする)

 

父さんが壁伝いに行けばあると伝えられていたが、なんだか嘘くさく思えた。

 

「おや、僕。ここは関係者以外立ち入り禁止だよ」

「え!?」

 

飲み物を買おうとお金を入れて、父さんが言っていた飲み物のボタン押した時、僕の後ろから注意してくる優しい感じの男性の声が聞こえてきた。

その声に慌てて振り返ると、そこに立っていたのは短く切りそろえられた黒髪に、優しいまなざしを浮かべている男性だった。

その人が誰なのかに、僕は心当たりがあった。

 

「ユージさん!?」

「しー」

 

名前を言われた男性……ユージさんは、困ったような表情を浮かべながら自分の口元に人差し指を当てながら、”静かに”とジェスチャーで言ってきたので、僕は慌てて口を覆った。

”ユージ”

それは今大人気のバンドのギターボーカルを担当している人の名前だ。

インディース時代には名曲を何曲も作曲・演奏したバンドとして僕は記憶している。

そんなバンドがプロデビューし、少し先に開かれる『FUTURE WORLD FES』への出場も決めているというまさに絶好調という言葉が似合うような存在だ。

このライブも彼のバンドが出るというのはパンフレットを見て知ってはいたが、まさか本人に会えるとは思ってもいなかった。

 

「はは、どうやら私はファンに待ち伏せされてしまったようだね」

「す、すみません。でも、ユージさんの熱い曲と歌声、とても尊敬してますっ」

 

苦笑するユージさんに申し訳ないという気持ちよりも、会えたことへの喜びのほうが勝っていた。

 

「私ユージさんみたいな、すごいミュージシャンになります。その時は、ぜひ、一緒のステージに立ってください!」

 

今にして思えば、なんてことを言っているんだというくらいのお願いだったが、それでもその当時の僕はそんなことを考えられないほど真剣にお願いしていた。

 

「一緒のステージか……君、名前は?」

「はい、私の名前は奥で――「君、ここで何をしているんですか? ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ」――あ……」

 

名前を言おうとしたところで、やってきたスタッフの人に見つかった僕は、有無も言わさずにその場から移動させられた。

怒られるかとも思ったのだが最終的には、迷ってしまったことを説明したことで、お咎めなしとなったが、父さんからは呆れられた目で見られることになった。

その後、フェスに出場したユージさんのバンドは……そのまま解散した。

それに対しての世間の反応は非常に冷ややかだった。

 

『あのバンド、解散したんだ』

『最初はいいと思ってたのに、最近は売り目的の曲になってたから残念』

 

僕が聴いただけでも、そんな感じの反応だった。

 

(確かに、最近の曲はあれだったけど……)

 

インディース時代にはどんどんと名曲を生み出していたユージさん達だったが、プロデビューをしてからは曲のテイストが変わったような気がしたのだ。

最初は僕もがっかりしていたが、同時にこれがユージさんの本意ではないというのも薄々は勘付いていた。

 

(あの時、一瞬見せた寂しげな表情って、もしかしてこのことを意味してたのかな?)

 

僕は気のせいだと思っていたが、あの時……僕のお願いを言った瞬間、ユージさんはどこか寂しそうな表情を浮かべていた。

今にして思えば、解散のことを考えていたのかもしれない。

 

(また、良いミュージシャンがいなくなっちゃった)

 

Prominenceに続いて、消えて行ったミュージシャンの存在に、僕はどこか虚しさを覚えていた。

 

 

 

 

 

それからしばらく経ったある日のこと。

 

「一樹、荷物が届いてるわよ」

「僕に? ありがとう」

 

学校から帰ってきた僕に、母さんが封筒を手渡してきた。

それを受け取った僕は自室に戻ると、封筒の差出人を確認した。

差出人の名前はなかったが、僕は封を開けて中に入っていたものを取り出した。

入っていたのは紙が二枚、そしてCDだった。

 

(これって、手紙)

 

そのうち一枚は手紙だった。

 

『いきなりで驚かせてしまってすまない。君と会って話したとき、君には内側からあふれんばかりの熱いものを感じた。それはこの私ですら敵わないほどに』

 

その出だしで始まっていた手紙。

それだけで、これが誰からの物なのかがすぐに特定できた。

 

『君のお願いはとても嬉しく思ったが、君のお願いは聞けそうにはない。私の音楽はその存在意義を失ってしまった』

 

きっとそれは、今この人たちにかけられている、冷ややかな声のことを言っているのだろう。

ミュージシャンにとって、音をすべて否定されるのは精神的にもショックは大きい。

それは僕も少なからず理解しているつもりだ。

多分、ユージさんたちは苦しんで苦しんで、それで解散という道を選んだ。

手紙を読んだ僕は、そこまで感じ取れてしまった。

だが、手紙には続きがあった。

 

『この手紙と一緒に同封したのは音源と楽譜だ。これは私の勝手な頼みだ。君たちの手で、この曲に光を当ててはくれないだろうか? これは私の……ユージと言うミュージシャンのすべてを込めた曲だ。歌詞は君が自由につけてもかまわない。この曲を君たちが受け継いでくれることを、私は信じている』

 

最後に『ユージ』という言葉で、その手紙は締めくくられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(結局、あれからこの曲は聞かなかったんだよね)

 

思い返しているうちに曲は終わっていた。

あの時、僕はそれを聞く勇気がなかった。

聞いてしまえば、僕はその曲をやりたくなる。

それは、ユージさんの音楽を受け継ぐということでもある。

その覚悟が、僕にはなかった。

 

(でも、今だったらできるような気がする)

 

hyper-Prominenceとして『FUTURE WORLD FES.』に出場した僕たちなら、この曲を演奏する資格はもしかしたらあるのかもしれない。

 

「よし」

 

僕は、もう一度曲を聞き直す。

今度は一音一音を、頭に刻みつけるように。

そして、僕はユージさんから譲り受けた曲を完成させるのであった。




名前に関しては、資料がなかったので、付けましたが、もし公式で名前が明らかになっていれば教えていただけると幸いです。
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