BanG Dream!~青薔薇との物語~ 作:TRcrant
あれから一週間が経過した。
僕たちのライブの準備も順調に進み、今は最終調整に入っている。
この分なら、十分にいい演奏ができるだろう。
とはいえ、油断は大敵だ。
何が起こるのかがわからないのが、ライブというものなのだから。
(そう言えば、湊さんたちはどうしてるんだろう?)
少しだけ心に余裕ができると、湊さんたちのことが気になった。
白金さんからは連絡がない。
でも、何かの拍子で、あこさん経由でバンドに加わるというのも考えられる。
(彼女はバンドに入ることができたのだろうか?)
気になりだすと、どうにも落ち着かない。
「一樹、帰るわよ」
校門のところで、いつものように森本さんと合流する。
「ごめん、ちょっと寄りたいところがあるから先に行っててくれる?」
なので、僕は湊さんたちのところに行くことにした。
僕の記憶が間違ってなければ、今日もいつものスタジオで練習をしている日だったはずだ。
「もしかして、寄りたいところって彼女たちの?」
「うん。僕も一時期は一緒にやっていたし、それに僕にも一因があることだから」
「全く。一樹って、変なところで責任感が強いのよね」
ため息交じりに言われると、なんだか傷つく。
「駄目かな?」
「別に。ただ、心配になるだけ。悪い連中って、そういうのを利用してくるから」
(僕って、もしかして詐欺にあいやすかったりするのかな?)
そんなことないと思いたいのはやまやまなのだが、心当たりがありすぎて胸を張って言えない。
「ま、いいわ。私は先に行ってるから、なるべく早く来なさいよ。うちのドラマーがうるさいから」
「あはは……気を付けるよ」
この前も、弦を買いに出かけて長い間戻ってこなかったことで怒られたのだから、立て続けに怒られるのは勘弁だ。
ちなみにその理由は日菜さんの相談や白金さんの相談に乗っていたことだけど、それを言うのはなんだか彼女たちのせいにしているみたいに感じたので、理由は話していない。
そんなわけで、僕は湊さんたちが練習しているスタジオに向かうのであった。
「失礼します」
「あ、一樹さん!!」
「あれ、奥寺君じゃん」
受付の人に湊さんたちが利用しているスタジオの場所を聞いて、向かうとあこさんはいつも通りのテンションでこっちに駆け寄ってきた。
それに続いて今井さんと紗夜さん達がこっちに来る。
(それにしても、もう顔パスになってるのね、僕って)
まさか、受付にいた人に声をかけただけで、何も言っていないのに湊さんたちが使っているスタジオを教えてもらえるとは思わなかった。
「何の用? 遊びに来たわけじゃないでしょ?」
半分自業自得だけど、湊さんの言葉はものすごく棘があった。
「いや、バンドのほうはどうなってるのかと気になって様子を見に来たんだけど……その様子だとまだ見つかっていないようだね」
「そうね。誰かさんのせいでね」
「湊さん、過ぎたことなので言っても仕方がないですよ。今、ちょうどそのことで話し合っていたんです」
(なるほど、白金さんはあこさんにも話していないようだね)
とりあえず現状は分かった。
だが、湊さんの棘のある言い方が、僕に罪悪感を感じさせて仕方がない。
今思えば僕の自業自得なわけだけど、それでも湊さんたちは貴重な時間を無駄にしているわけなのだから、嫌味の一つでも言って当然だ。
(どうするか……無理やり連れてきても逆効果だとは思うけど……)
僕は少しだけ躊躇して、一つの決断を下した。
「そんなみんなにお詫びのしるしとして朗報を持ってきたんだけど」
「え? 何々? もったいぶらずに教えてよ」
「キーボードのメンバー候補を見つけてきた。ピアニストだけど、実力は十分ある人物だよ。下手すれば僕と同等か……もしくはそれ以上に」
それは、彼女を半ば強引に連れていくことだった。
「本当ですか!?」
「それで、その人はどこにいるの? 一度演奏を聞きたいのだけど」
驚いた様子で声を上げる紗夜さんとは打って変わって、冷静ではあるが、こっちに詰め寄って聞いてくる湊さんを落ち着かせる。
「今から呼ぶところだから待ってて」
僕はそう言うと、携帯で白金さんの番号に電話をかける。
『も、ももももしもしっ』
(なんだか慌ててるけど、大丈夫かな?)
「あ、ごめん。今大丈夫?」
『は、はい。大丈夫、です』
とりあえず、白金さんに確認をとった僕は、本題を切り出す。
「この間の件だけど、どう踏み出す勇気はでた?」
『そ、それは……』
言葉を詰まらせる白金さんの様子に、僕はまだ勇気が出てないと把握する。
「嫌な言い方になるかもしれないけど、多分これを逃したらもう二度とチャンスは来ないと思うよ」
『………』
「人に気を遣うのも結構、考えるのも結構。でもね、最終的に重要なのは、やりたいかどうかだけなんだ。どうなの? やりたくないの? それともやりたいの?」
僕は白金さんがその一歩を踏み出せないのは、『自分には合わない』と思い込んで遠慮をしているだけだと考えたのだ。
『私……弾きたい、です』
しばらくの沈黙ののちに、絞り出すように電話先から聞こえてきた白金さんの言葉は、僕には想像がつかないほどの大きな決断だったと思う。
『私、あこちゃんたちと一緒に、弾いてみたいですっ』
「……わかった。それじゃ今から言う場所に来てもらえる? 場所は――――」
僕は今いる場所の住所を白金さんに伝えて電話を切る。
「今からここに来るそうだよ」
「それは聞いてるわ。私たちが聴きたいのは誰なのかよ」
散々待たされたからか、若干いらだった様子の湊さんに、僕は早々に名前を告げることにした。
「名前は白金燐子。彼女に関してはあこさんのほうが詳しいと思うけど」
「えぇ!? りんりん、ピアノ弾けるんですか!?」
(あ、知らなかったんだ)
白金さんのことだから、あこさんに話しているのかと思ったが、そうでもなかったらしい。
きっと彼女には彼女なりの想いがあって言えなかったのだろうと、心の中で思いながらあこさんに頷いて相槌を打つ。
「その方なら知ってます。私と同じクラスなので。ただ、お話したことはありませんが」
「調べればわかることだけど、有名なピアノのコンクールで受賞履歴もあるから実力は折り紙付き」
この間、彼女の名前で検索をかけてみたところ、色々なコンクールの受賞者欄に彼女の名前を見つけることができた。
ただ、そのどれもが昔の物ではあるが、その中にも有名なコンクールの物もあった。
「そう……教えてくれてありがとう」
「まあ、これもお詫びということで。……待つんだったら外で待っていてあげたほうが迷わないで済むと思うけど」
「え? 奥寺君も一緒に待たないの?」
後を彼女たちに任せようという意味を込めた僕の言葉の意図に気づいた今井さんが、慌てた様子で聞いてくる。
「うん。皆を待たせてるからこっちもこっちで練習をしないと。変に足を引っ張るのも嫌だからね」
「えーっ。一樹さんにもあこたちの演奏見てもらおうと思ったのに……」
「それはライブの時の楽しみにしておくよ」
不満げに頬を膨らませるあこさんに、僕は宥めるようにそう言うと、スタジオを後にしようとしたところで、ふと思いだしたことを近くにいた湊さんに伝えることにした。
「この後のオーディションの、評価ポイントの一つにあこさんの時と同じことを感じるかどうかも含めてもらえる?」
「……? 別に構わないけど」
僕の言葉の意味することが分からないのか、首を傾げつつも頷く湊さんの反応を見て、僕はもう一度みんなに”それじゃまた”と告げてスタジオを後にした。
自宅への帰り道、僕は一人で考え事をしていた。
(少しだけ強引だったけど、大丈夫かな)
あの時、白金さんが中々一歩を踏み出せないのは、『自分には合わない』という思い込みだと僕は推測を立てた。
その場合は、強引にでも引っ張り出して演奏をさせて見て自分のその思い込みに対する答えを出させるのが一番なのだ。
だが、もしそれが誤りで『過去のトラウマ』によって、できないのであれば、僕のしたことは白金さんを傷つけることにもなりかねない。
(白金さん、うまくいけばいいんだけど)
もう今更悔やんだところで手遅れだ。
僕にできることは彼女がちゃんと演奏ができることを祈ることしかない。
そして、そのすべての責任を僕がとるのだ。
バンドに入った入らないに関係なく。
「っと、駅に着いたんだ」
いつの間にか駅の前まで来ていた僕は、駅の中に足を踏み入れるのであった。
その後、あこさんからメッセージで白金さんがオーディションに合格したということを知るのであった。
多分後二話ほどでこの章は終わります。
次章は……シリアスです。
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