BanG Dream!~青薔薇との物語~   作:TRcrant

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第41話 名前

白金さんが湊さんのバンドに加わり、あちらも一つのバンドの形として完成した。

そうなれば、後は練習あるのみだ。

そんな中、一つだけ気になることがあった。

 

 

 

ある日の昼休み、たまたま廊下で鉢合わせになった今井さんと湊さんに、僕はその疑問をぶつけたのだ。

 

「え、バンド名?」

「うん。ずっと名前を付けずにやっていたから、どうなったんだろうと思って」

 

それはバンドの名前だ。

僕が抜けるまで、バンド名は確定してはいなかった。

いや、そもそも練習に集中して、そう言ったことを考えてすらいなかったといったほうが正しいかもしれない。

そんなバンド名が、決まったのかどうかが今更ながら気になったのだ。

 

「それなんだけど……」

「まだ、思いつかないわ」

 

バツが悪そうに湊さんのほうを見て言葉を濁す今井さんの言葉に続いて、湊さんはきっぱりと言い切った。

 

「……大丈夫?」

「色々と考えてはいるのだけど、これだというものが浮かばないのよ」

「うーん。僕が力になれればいいんだけど……」

 

僕は、どうしたものかと考え込む。

『Moonlight Glory』は、完全に田中君たちが名付けているので、あれだが『hyper-Prominence』に関しては僕が名前を付けている。

その由来は、僕たちが目指す頂点である『Prominence』を超えて行こうという意味を込めての先頭にhyperをくっつけただけの、いたってシンプルなものだ。

 

「……意外と、そういう自分のバンドの方向性とかでこれだと思う単語とかがいいと思うって、田中君が言ってたよ

 

変にぼろが出るのもあれなので、田中君が言ったことにした。

 

「なるほど……貴重な意見ありがとう」

 

僕に柔らかい笑みを浮かべてお礼を言う湊さんに、僕は目を丸くさせる。

 

(湊さんって、そういう表情もできるんだ)

 

本人の耳に入れば怒ること間違いなしの内容を、僕は心の中で思っていた。

それは仕方のないことだ。

何せ、湊さんが笑ったり微笑んだりしているのを見たことが、僕の記憶の中では一切ないのだから。

 

「おやおや~、奥寺君友希那に一目ぼれ~?」

「ちがいます」

「そんなにきっぱりと言われると、なんだか友希那がかわいそうに思えるんだけど」

 

苦笑しながら言う今井さんだが、そうでもしないと変な噂を広められかねない。

 

「リサ、私は先に行くわよ」

「あ、ちょっと友希那ってば! ごめんね奥寺君、また今度っ」

 

そして、僕たちのやり取りに興味を失ったのか、湊さんはすたすたと歩きだすのを、今井さんが慌てて追いかける。

 

(大丈夫かな……本当に)

 

なんだか不安を感じずにはいられない。

そんな彼女たちとは対照的に、僕たちのバンドのほうは順調だったのも皮肉なものだ。

今行っている練習は、本番に近い練習であり、最後の仕上げだ。

この調子なら、本番は文句なしの大成功は確定となるだろうが、それでも僕たちの中で慢心している人は誰もいない。

こうして、ついに僕たちはライブの日を迎えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライブ当日。

ライブハウスの壁に貼られたポスターには、今日のライブに出演するバンドの名前が書きだされていた。

 

(演奏順となると、僕たちは……)

 

「トリ、だな……」

 

一緒にポスターを見ていた田中君が、僕の心を読んでいるかのようなタイミングで言葉を漏らす。

 

「インパクトは強い分」

「プレッシャーも大きい……ね」

 

トリというのは、尤も観客に対してのインパクトを強めるメリットがあるのと同時に、それまでに演奏してきたバンドを上回る演奏をしなければいけないというデメリットもある。

 

「でも、俺たちのすることはいつもと変わらないだろ。ステージの上は常に決闘の場」

 

田中君が突然口にし始めたその言葉

 

「決して驕らず侮らず」

 

田中君に続くように啓介も口を開く。

 

「自分が持つすべての技術を駆使してライブに挑む。そしてなにより」

『オーディエンスを忘れるな』

 

最後の言葉は僕たち全員がそろった。

その言葉は、僕が小さいころから父さんに何度も何度も言われていた、ライブをやるうえでの心得だった。

姿かたちが変われど、僕たちが必ず守らなければいけないものとして、僕たちの心の中に刻まれている。

 

「これこそ、俺たちがやるべきライブ……だろ?」

「うん……そうだね。ちょっと不安だけど、頑張るっ」

「僕も、いつも通り最善を尽くすよ」

 

こうしてみると、やはり田中君がリーダーとして適しているなと常々感じさせる。

僕は一度大きな過ちを犯している故に、どうしてもそう思わずにはいられない。

 

「どうしたんだよ、一樹。皆とっくに中に入っちまったぞ」

「あ、ごめん。もう少しだけこれ見てくよ」

 

気が付けば、僕と啓介以外の姿が見当たらなかったが、僕は気持ちの整理も込めてその場に残ると告げると、啓介は納得したのか、ライブハウス内に入って行った。

 

(いろんなバンドが出るんだな……でも、湊さんのバンドが見当たらない)

 

先ほどから探しているのだが、中々見つけることができない。

もっとも、彼女達のバンド名が分からない時点で、探しても無駄なような気がするが。

 

「あれ、一樹さん!」

「ん? あこさんに今井さんに白金さん」

 

聞きなれた声のほうに顔を向けると、そこにはあこさん率いる白金さんと今井さんの姿があった。

 

「やっほー。こんなところで何してるのかな?」

「あなた達のバンドの名前を探してたんだけど……」

「えっと……奥寺君。名前、知ってたっけ?」

 

言いづらそうに聞いてくる今井さんに、僕は首を横に振って応えた。

 

「それじゃあ、わからないと思うんだけど」

「そのことにさっき気づいた……名前、教えてもらえる?」

「ふっふっふ……闇の力が……ばーんっとせし時に……現れし、我らの名は、”Roselia(ろぜりあ)”なり!」

 

僕の疑問に、セリフめいた口調で答えるあこさんだが、あまり意味が分からなかった。

しかも、途中で白金さんが耳打ちしているし。

 

(ああいうのって中二病って言うんだっけ? 昔も啓介がよくやってたっけ)

 

啓介いわく格好いいからと言っていたけど、僕はいまだにそれが理解できていない。

きっとあこさんのもそういうのだろうと思いつつも、ようやく知ることができた湊さんのバンドの名前をもとに、もう一度ポスターに視線を戻す。

 

「あ、一樹さん達のバンドはあこたちの次何ですね」

 

僕達の名前の上に記されていた。

あこさんは”楽しみです”とプレッシャーに近い言葉を投げかけてくる。

 

「私も……楽しみ、です」

 

しかも白金さんもそれに続いてきた。

 

「二人してプレッシャーかけるのやめてほしいんだけど」

「奥寺君でも緊張することってあるんだね」

「今井さんは僕を一体何だと……僕だって人並みに緊張はするよ」

 

そう、緊張しなかったことは一度もない。

でもその緊張を一緒に感じて支え合ってくれる仲間がいるからこそ、僕はそれを乗り越えることができているのだ。

 

「よーし! Roseliaと、むーん……えっと―「わからないんなら、ムングロでいいよ」―ムングロの初ライブ頑張ろうっ! おーっ」

 

景気づけに、声を上げるあこさんが僕たちのバンド名で言葉を詰まらせたので、略称を教えると、すかさずそれを使ったあこさんに苦笑しながら位、僕は同じく”おー”と言いながら片手を上げることでそれに応える。

 

「「……お、おー!」」

 

そして、それに送れて白金さんと今井さんも続くが、二人が緊張しているのがビシビシと感じられた。

今井さんの言葉を借りるのであれば、彼女が緊張してるところが想像できなかっただけに、意外だった。

 

「あれ? りんりんだけじゃなくて、リサ姉も緊張してる?」

「ッ!? し、してない。してないよ……ダンスの大会でも一緒にステージに出てるじゃん。あはは……」

 

そう言っている今井さんだが、明らかにごまかしているのは見え見えだった。

 

「今井さん、一つだけアドバイス」

「え?! な、なにかな」

 

気が動転しているからか、声がうわづっている今井さんに、僕は言葉を続ける。

 

「ステージの上に立ったら、初心者だろうがプロだろうが関係なく、一人のミュージシャンになる。だから、もし不安とかあるんなら、死ぬ気で演奏して」

「……奥寺君」

「それじゃ、僕は行くから……頑張って」

 

それは、僕が小さいころに父さんに言われた言葉だった。

僕はあの時、意味も分からずに無我夢中で演奏をしていたが、それが正しいのかどうかは分からなかった。

でも今ならそれが正解だったと理解できる。

とはいえ、僕の言葉が今井さんに、どのように伝わったかは知らない。

もっとわかりやすく言うこともできたような気がするが、僕にとってはこの言葉のほうがしっくりとくるのだ。

 

(さあ。僕も気合を入れますかっ)

 

僕はこの後来るであろうライブに向けて、もう一度気合を入れつつ皆の待つ場所に向かうのであった。

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