BanG Dream!~青薔薇との物語~ 作:TRcrant
ついに始まったライブ。
僕たちは他のバンドの人たちがいる待合室に備え付けられている大型のモニターで、ステージの様子を見ていた。
会場で見るのよりは劣るが、雰囲気はなんとなくわかるので、そんなに悪い物でもない。
参加しているどのバンドもレベルは高く、純粋に楽しめるバンドばかりだった。
(これはやりがいがあるな)
そんなことを思いながら僕はモニターを見ていた。
そして、今演奏しているのは、湊さん率いるバンド『Roselia』だ。
『ラスト、聴いてください。”BLACK SHOUT”』
「すげーな」
「……うん」
待合室のモニターから流れる、彼女たちの演奏に、僕たちは言葉も出なかった。
僕たちが想像しているよりもかなりレベルが高い。
楽曲もまた良い。
会場が彼女たちの色に染まっているということは、モニター越しでもわかるほどに。
(技術は高い……でも)
圧倒される演奏技術。
今回が初ライブでもある今井さん達も、初めてとは思えないほどに堂々として素晴らしい演奏をしている。
所々で、ミスやテンポの乱れなどが見受けられるが、それすらを吹き飛ばしてしまうほどに強烈な湊さんと紗夜さんの演奏は、圧巻だ。
でも、そんな彼女たちの演奏はあまりいいものでもない。
「なんだか、堅苦しいな」
その僕の気持ちを代弁するように、田中君が感想を漏らす。
「なんだか、演奏のレベルほど、あんまり波が来ないわね」
それに森本さんも続く。
Roseliaの演奏は確かにすごい。
だが、それは技術力だけを見ればだ。
「Moonlight Gloryさん。お願いします」
『はいっ』
そんな時、待合室に来たスタッフの人の言葉に返事をした僕たちは、ステージに向かうべく待合室を後にした。
僕と田中君が先頭を歩く中、少し先のほうに湊さんたちの姿が見えた。
「あ……」
「あなた達が最後ね」
近くまで歩み寄った湊さんは、足を止めるとそう僕たちに声をかけてきた。
「あなた達の演奏、見せてもらうわ」
それだけ言って、湊さんは僕たちの横を通り抜けていく。
それに続いて紗夜さん達も足を進める。
「み、皆さん……頑張って、くださいっ」
「奥寺君、明美ファイト☆」
「一樹さん、頑張ってくださいね!」
白金さんや今井さんたちの応援を受けながら、僕は彼女たちの背中を見送った。
「………」
「言いたい奴には言わせとけ。行くよ」
隣に立っている田中君の表情が険しくなっているのに気づいた僕は、そう告げるとステージに向かって歩みだす。
それに続くように、みんなも歩き出した。
(余裕でいられるのも今のうち。僕たちの実力を見るといい)
湊さんの余裕そうな表情に、僕は少し不快感を抱いていたのだ。
だからこそ、僕は改めてこのライブを成功させるんだと決意を新たにステージに向かうのであった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
「うわぁ、やっぱり会場はRoselia一色だな」
「ええ。やられたって感じね」
ステージ袖に立った一樹たちは、会場内の空気を感じ取って感想を口にする。
だが、彼らの表情に焦りの色などもなく、言うなれば
「ま、それもいつものことだけどね」
”いつものこと”の一つなのだ。
「私たちは自分の演奏をするだけ。でしょ?」
「が、頑張るね!」
「よしっ。いっちょ暴れるか!」
全員の士気が高まったところで、聡志がそう告げてステージに上った。
それに続くように一樹たちもステージに上がる。
どのような演奏が始まるのか。
観客たちの期待に満ちたざわめきの中、各々の楽器のセッティングを素早く済ませていく。
『皆さん初めまして。私たちは―――』
『Moonlight Gloryです!』
明美のMCに合わせるように、啓介たちはバンド名を口にした。
『まずはメンバー紹介します! 私はボーカル&ギターの森本明美です』
『わ、私は……ベースの中井裕美です』
『このイカした俺は、佐久間啓介。キーボードだZEI☆』
『俺は、ドラムの田中聡志だ』
『私は、ギターの奥寺一樹です』
各々が自己紹介をする中拍手が起こるが、啓介の時だけは空気が凍り付いたのは、もはや恒例行事なのかもしれない。
『それでは。まず一曲、聴いてください。”バンブーソード・ガール”』
そして、彼らの演奏が始まった。
ところ変わって、待合室。
演奏が終わった解放感からか、幾分か余裕が出てきた彼女たちは一樹たちの演奏を見るべくモニターを集中してみていた。
「キーボードの子、完全に引かれてたね」
「当然よ」
リサの言葉に、友希那は冷たく切り捨てる。
(何で……)
そんな中、紗夜はショックを受けていた。
(何で、一樹さんが……私と同じギターを)
紗夜の中では、一樹はキーボードしかできないということになていたため、それとは別の楽器……しかも自分のと同じギターであることに驚きを隠せなかったのだ。
そんな中、演奏が始まった。
『っ!?』
突然始まったその演奏に、友希那たちだけでなく待合室にいた者たちも息をのむ。
始まりから凄まじいテンポの曲調もさることながら、彼らの演奏の勢いがそうさせたのだ。
(な、なんなの……映像越しなのに押さえつけられるこの感覚はっ)
(すごいすごい! みんなカッコいい!)
(すごい……私なんかより……ッ)
(あのベースの子、アタシより……すごい)
友希那たちは、彼らの演奏に圧倒され、モニターから目が離せないでいた。
それは会場もまた同じで、演奏を始めてから観客たちはどよめいていた。
「友希那も最高だけど、この子たちもすごいわ!」
「何者なの!?」
そのどよめきはやがて、熱へと変わり会場内を一気に温めていく。
(観客たちの反応は上々。この調子で行こう)
それを感じ取った一樹は、心の中でそう呟きながらも演奏を続けていく。
2曲目の『エンヴィキャットウォーク』では、独特な曲調と、テンポアップで観客たちを盛り上げていく。
そして、2曲目が終わるころには、観客たちは彼らに夢中になっていた。
『名残惜しいですが、次が今日のラストです』
MCを務める明美のその言葉に会場からは惜しむ声が沸き上がる。
(一発目のライブでこの反応……うんうん、とっても嬉しいわね)
『今日はこれで終わりですけど私たちはこれからもライブをやるので、また見に来てくださいね! では、聴いてください……”命のユースティティア”』
観客たちの反応に、明美は心の中で微笑みながらも曲名を口にする。
聡志のカウントによって、演奏は始まった。
最初に明美が歌い出し、それが終わるのと同時に一樹はスライドで音に刺激を加えた。
その直後のドラムに、会場にいた観客たちは全員が仰け反る。
まるで、見えない何かに押されるようにして。
こうして、このライブで観客たちにMoonlight Gloryの名は鮮明に記憶されることになるのであった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
「いやー、いつにもなく最高のライブだったな!」
「ああ……こんなの初めてだ」
ライブも無事に終わり、外に出た僕たちは先ほどのライブの余韻に浸っていた。
「不思議だよね。私たちもっと大きなところにも立ったのに」
中井さんが不思議そうに首を傾げて言葉を漏らす。
「そうだよな。なんか今日のほうがめっちゃくちゃ最高な気分何だけど……いったい何が違うんだ?」
それに頷いて啓介も首を傾げる。
確かに、ステージの規模はこれまで立ってきた場所よりも小さい。
なのに、僕たちは今回のステージのほうが一番よかったと思っているのだ。
(そう言えば、この感じ前にも……)
それは、湊さんと一緒にステージに立ったあの時のことだ。
あの時も、今のような高揚感を感じていたような気がする。
(あの時と今回の共通点って……あ)
少しだけ考えて、すぐにわかった。
「もしかしてだけど、顔を出して演奏しているからじゃない?」
『……ああ!』
僕の推測に、全員がそれだ!と言わんばかりに声を上げる。
これまで、僕たちがhyper-Prominenceとしてステージに立つときは素性を隠すために白装束を身に纏っていた。
観客たちの熱や反応は分かるけども、それは壁のようなもので緩和されていたのかもしれない。
でも、今回はそれをダイレクトに受けている。
観客たちがノッているのを感じて、自分たちもさらにノッてくる。
それが、あの高揚感の正体なのかもしれない。
とはいえ、このままhyper-Prominenceでいる限り、一生それを感じるのは不可能に近い。
素性がわかることによる弊害は大きい。
面倒ごとに巻き込まれる可能性だってあるのだ。
「なあ、一つ提案だけどさ」
そんな中、控えめな様子で啓介が声を上げる。
全員が啓介のほうを無言で見て先を促す。
でも、僕にはなんとなく啓介が言い出しそうなことがわかったような気がした。
「これからもたまにでいいから、Moonlight Gloryとしてライブしないか? いや色々と大変なのは分かるけど、でも――「落ち着け啓介」――え?」
「誰も反対と入ってねえだろ。なあ?」
後半になるにつれて慌てて説き伏せるように話しだす啓介に、田中君はそう声をかけながら僕たちのほうに振ってきたので、僕たちは頷いて答えた。
「頻度は少ないけど、これからも気分転換にやってみるのもいいわね」
「うん。修行みたいだね」
「僕も、色々と試したいテクとかあるし」
なんだかんだ言って、僕たちはあのステージですっかりダイレクトに感じる観客たちの熱という刺激に酔いしれてしまったのかもしれない。
「それじゃ」
それでもかまわない。
「Moonlight Gloryの活動もがんばるぞー!」
これが僕たちの新しい一歩なんだから。
さしずめ、今日この日がその始まりなんだ。
『おー!』
僕たちの声はすっかり暗くなった夜空に吸い込まれていく。
だが、この時の僕は知らなかった。
このライブによって、凄まじい悪意ある魔の手が僕たちに迫っているということに。
第4章、完
ということで、今回で本章は完結となりました。
最後になんだか思わせぶりな感じになっていますが、つまり……そう言うことです(汗)
それでは、次章予告をば。
――
ライブを成功させた一樹たちは、いつも通りの日常が戻りつつあった。
そんな彼のもとに友希那が訪ねてきて……
次回、第5章『忍び寄るもの』
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