BanG Dream!~青薔薇との物語~ 作:TRcrant
あれから数日が経過したある日の朝。
僕たちはいつものように学園に向かっていた。
「そう言えば、今日が初めての練習日だったよね」
「うん。湊さんから伝えられたスケジュールが間違って無ければだけど」
途中、中井さんが切り出した話題に答える。
湊さんからどういった流れかは知らないが、森本さんを介してきた連絡では、今日の放課後の練習が僕のコーチのデビュー日ということになる。
(色々心配だけど、でもやるっきゃない)
「一樹、聡志から伝言。『入り込むな』だって」
「……わかってる」
田中君の言わんとすることが分かった僕は、そう返した。
(大丈夫……大丈夫)
ふいに心の中に芽生えだした不安に、何度も自分に言い聞かせるように、心の中でつぶやくとそれは少しだけ和らいだ。
「あ、そう言えばこの間雑誌で新しいバンドがデビューするって言ってったよ」
「へぇ、どんなバンド?」
重い雰囲気になりかけているのを察した中井さんが、空気を換えようと話題を変えた中井さんに、森本さんが相槌を打つ。
「なんだかね、アイドルバンドらしいよ」
「……なんか、変なものが頭にくっついてない?」
僕のツッコミに、中井さんも苦笑するしかなかった。
でも、思わずツッコまずにはいられないほど、”アイドルバンド”というのは、聞きなれない単語だったのだ。
「何でもね”演奏して踊るアイドル”という意味合いで名付けてるらしいよ」
「アイドルと言えば、ダンスとか振り付けだけでも大変そうなのに、演奏までするなんてね……着眼点がいいというかなんというか」
森本さんの何か言いたげなその言葉は、呆れているのかそれとも感心しているのか。
どちらなのかをくみ取ることはできなかった。
「でも、”生演奏”って言ってるぐらいだから、かなりの実力だと思う。千聖ちゃんがいたのは意外だったけど、でも私も同じベーシストとして負けられないなって思ったんだ」
(白鷺さんも? 確かに意外だな)
白鷺さんと音楽というのはなかなか想像できなかっただけに、意外だった。
もちろん、幼いころからベースをやっていたという可能性もあるけど。
「……やる気もほどほどにね。中井さんものめりこむとやばいタイプだから」
「もぅ、一樹君は一言余計っ」
「ふふ……ところで、そのバンドの名前って?」
頬を膨らませる中井さんにクスクスと笑いながらも疑問を投げかけた森本さんに、中井さんは
「Pastel*Palettesって言うんだよ」
と応えるのであった。
「でもすごいよね~。二週間前に結成して、今週末にデビューライブをやるんだから」
(アイドルバンドか。啓介が知ったらまた雄たけびを上げてライブに行くんだろうな)
新しいバンドの偵察という大義名分で行きそうだ。
ただ、一つだけ気になる点が。
(結成して二週間でデビューライブ……大丈夫なのか?)
僕が言うのもなんだが、結成して二週間でライブができるとなると、相当の才能や実力を求められる。
完全に僕たちには関係のないことではあるが、若干不安になる。
とはいえ、本当に関係のないことなので、特にそれ以上考えることはなかった。
放課後、制服のまま訪れたのは、いつもRoseliaが練習で使っているスタジオ。
「えっと……ここだよね」
顔なじみになっているのは相変わらずで、入った途端受付の人から彼女った位が使っているスタジオの場所を伝えられたのだが、これはもはやご愛敬というものだろうか?
それはっともかくとして、スタジオのドアの前まで来た僕は、ドアの取っ手をつかむ手に自然と力を込めていた。
それも無理はない。
これまではプレイヤー……奏者として、ここを訪れていた。
でも、今日からはコーチとしてここを訪れることになる。
皆には啖呵を切ったが、果たして僕はどこまで力になれるのか……それが不安だった。
(まあ、なるようになるしかないか)
結局は行き当たりばったりになるが、それでも手の力は少し抜けていた。
「おはようございます」
「あ、一樹さん!」
「おー、久しぶりだねー」
中に入った僕を出迎えたのは、いつものように明るく元気なあこさんに、フレンドリーに接してくる今井さん、そしてその後ろでやや緊張気味に会釈をする白銀さんの三人と
「一樹さん、そんなにこっそりと入らないで堂々と来てください」
「奥寺君、45秒の遅刻よ」
小言を口にする紗夜さんと湊さんの二人だった。
(秒単位って……どんだけ細かいんだろう)
確かに、遅刻だけど。
「あなたは、コーチではあるけど立派な私たちRoseliaの一員よ。次からは遅れずに来て」
「……ごめん」
どんな理由があれ、遅刻をしたのは事実なので僕は素直に謝る。
でも、それと同時に彼女が僕を湊さんのバンドRoseliaの一員と認めてくれたことが、ちょっとだけ嬉しくもあった。
少し前までに抜けようとしていたのに、なぜか嬉しく思えたのだ。
つくづく僕は、いい加減な人間なんだなと思い知る。
「知ってると思うけど、今日から私たちのコーチになる奥寺君よ」
「奥寺一樹です。呼び方はお任せで。どうぞよろしく」
既にお互い名前を知っているので、自己紹介も簡潔なものとした。
「さあ、練習を始めるわよ」
(椅子に座ろうかな)
ずっと立っているのもいいが、座っていたほうが落ち着くので、僕はスタジオの脇に置かれた備品のパイプ椅子を持ってくるとそれを壁際に置き、壁を背にするように腰かけた。
真正面にはみんなの姿があるので、彼女たちの演奏を見るのに絶好のスポットともいえる。
「それじゃ、始めるわよ」
「はい。カウント行きます!」
あこさんのカウントと同時に始まった演奏。
非常に完成度が高く、色々と改善すべき点はあるものの彼女たちの技術はかなり高めだった。
僕は彼女たちの演奏を一秒たりとも聞き逃すまいと、神経を集中させて聴く。
途中で湊さんや紗夜さんから注意の声が上がるものの、演奏自体を聞き洩らすことはなかった。
やがて、通しでの演奏は終わった。
「どうかしら?」
「………基本的には途中で湊さんと紗夜さんが指摘した所くらいしか言えないけど」
目立つ個所はすべて二人が指摘して修正をかけているので、僕が言える部分はあまりないのだ。
「一樹さん。まじめにやってください」
「これは遊びじゃないの。真剣にやって」
「と言っても、あまり言いすぎてやる気をそぐのは、良い手とは思えない」
あまりなくても、指摘したい点は山のようにあるのだ。
だけど、それを全部言うと今度は士気にも影響が出てくる。
それに、彼女たちの集中力がどこまで持つのかがわからない以上、あまり細かく言うのは避けるべき。
それが、僕が出したコーチとしての結論だった。
「言って」
それなのに、湊さんは言うように促してくる。
「……僕が言ったこと聞いてた? あまりやりすぎても雰囲気を悪くするだけだって言ったんだけど」
「あなたこそ、私の言葉を聞いてたのかしら? ここは慣れ合う場所じゃないの。私たちにそういうのは入らない」
「「……」」
僕と湊さんは、そのまま無言で見つめ合い(睨み合うともいうけど)続けている。
「はいはいはい。二人とも落ち着いて」
そんな中、割って入るように今井さんが声を上げたことで、スタジオ内の空気が軽くなった。
それでも、湊さんは納得がいかないという様子だった。
「………どうなっても責任は取らないから」
それを見た僕は、一つため息を漏らすとそう宣言した。
その瞬間、スタジオ内は再び静寂に包まれた。
「みんなの演奏を聞いて、深刻な問題点があった。それは技術というよりも、さらに根幹部分の物」
「根幹?」
「技術的な問題を抱える者が二名。音楽に対する向き合い方を改めるべき者が二名で、重複しているのが一名。これらの要因によって、演奏のレベルは落ちている。特に問題なのは後者のほう。このバンドにとってあまり好ましくないから」
Roseliaは言い方を変えれば、いつ空中分解してもおかしくない状況だ。
そのことを僕は彼女たちに告げたのだ。
当然スタジオ内はお重苦しい雰囲気に包まれる。
「……誰のことを指すのか、教えて」
「その必要はない。どれが自分に当てはまるのか……それは自分自身がよくわかっているはずだから
自分で気づいて修正する分には問題ない。
何せ、今はそこまで深刻なトラブルに発展していないのだ。
ここで直してくれればそれだけで十分だ。
(とはいえ、そうはうまくいかないんだけどね)
それは予感ではなく、もはや確信だった。
こうして重苦しい雰囲気の中、再び始められた演奏を、僕はまた静かに耳を傾けるのであった。
現在実施中のアンケートですが、期限を12日の23:59:59秒までとさせていただきます。
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