BanG Dream!~青薔薇との物語~ 作:TRcrant
「はぁ……」
家に帰った僕は気持ちを落ち着けるべく、夕飯ができるまでリビングでテレビを見て過ごすことにしたのだが、出てくるのはため息ばかりだった。
「一樹、また喧嘩したの?」
「……またって言わないで。……その通りだけど」
「あんた前からいつも喧嘩ばかりしてるじゃない」
キッチンで食事の支度をしながら言ってくる母さんの言葉は、どれもが正論で反論の余地もなかった。
「……今日のはたぶん僕も悪いと思う」
「今日の”も”、ね。一樹は誰に似たのか頑固だから、自分がこうだと思ったことは貫くのよね。それはいい面もあれば悪い面もある。もう少し大人になりなさい」
母さんの言葉は、今の僕にはとても耳がいたくなるようなものだった。
言いたいことを我慢するのではなく、それを言う前に言っていいことかどうかを吟味する。
母さんは、僕にそれができるように諭しているのだ。
いつもやろうとは思っている物の、結果はご覧の通りだ。
(謝らないといけないんだろうけど……会いづらい)
ちょっと前にケンカをした相手に、今すぐ会いに行って謝るというのは中々に勇気がいる。
(でも、そんなことも言ってられないよね)
そう思って紗夜さんのところに謝りに行こうと立ち上がった時、チャイムの音が鳴り響いた。
「一樹、悪いけど出てくれる?」
「う、うん」
完全に出ばなをくじかれたような感じになってしまったが、僕は玄関まで向かうとドアスコープで来訪者を確認する。
(うそ……)
その来訪者の姿に驚きながらも、はやる気持ちを抑えてドアを開ける。
「あ……」
「……紗夜、さん」
そこに立っていたのは、先ほど喧嘩をしてしまった紗夜さんだった。
紗夜さんは僕の姿を見ると気まずそうに視線をそらした。
その手には、いつものようにおすそ分けのおかずが置かれたお皿があった。
どうやら、いつものようにおすそ分けをするために訪れてきたようだ。
「「……」」
せっかくの謝る絶好のチャンスなのだが、謝ろうとした相手の突然の来訪に、上手く言葉にすることができない。
居心地の悪い沈黙が続く中、僕は勇気を振り絞って紗夜さんに謝ろうとするが、
「「ごめんなさい!」」
このありさまだ。
僕たちは、まるでコントのように同じタイミングで謝罪の言葉を口にしてしまった。
「……言ってはいけないことを言ってごめん」
「わ、私もかっとなって暴力を……ごめんなさい」
気を取り直して、僕たちはお互いに謝り合う。
それが喧嘩した時の仲直りの仕方だ。
「「………」」
そして、今度は別の意味で気まずい空気になる。
主に羞恥心という名の。
「こ、これ母からのおすそ分けです」
「う、うん。ありがとう」
頬を赤く染めながらお皿を渡してくる紗夜さんから僕はそれを受け取りながらお礼を言う。
「……ふふ」
「あはは」
なんだかその一連の行動がおかしく思ってしまい、僕と紗夜さんは思わず笑ってしまった。
「一樹~、一体いつまで……おやおや、お邪魔だったかしら」
そんな僕たちのところに、いつまで経っても戻ってこない僕を心配したのかやってきた母さんは僕と紗夜さんを交互に見ると含み笑いを浮かべだした。
「べ、別に邪魔じゃないから!」
「もー、そんなこと言っちゃって♪ で、結婚式はいつにするの? お母さん、ハワイの教会に行ってみたかったのよね~」
「け、結婚!?」
なんだか話がすさまじい勢いで飛んで行ってしまっている母さんの言葉に、紗夜さんは目を丸くする。
「今夜はお赤飯をたかなければね♪ 一樹、ここは男として責任取るのよ」
「一体何の話をしてるの!?」
「ッ!?!?!? わ、私帰りますっ!!」
紗夜さんの判断は実に正しいものだった。
これ以上一緒にいれば、母さんの暴走は収まることはない。
紗夜さんがいなくなったことで閉まったドアを一目見た僕は、暴走している母さんを落ち着かせることにした。
「結婚式には、皆をお呼びしないとね~♪ あと、子供の名前は―――」
「いい加減落ち着いて!!!」
結局、母さんが落ち着きを取り戻したのは3時間後のことだった。
「あははっ! ものすごく面白い!!」
「災難だったね、奥寺君」
「……笑い事じゃないよ」
翌日の昼休み、どういうわけかやってきた森本さんと今井さんに事の顛末を離したところ、思いっきり爆笑する森本さんと、爆笑こそはしていない物の笑いを必死にこらえている今井さんの反応に、僕は力なく抗議した。
「でも、奥寺君のお母さんって、いつもそんな感じなの?」
「……いつもはしっかりしてるんだよ」
「でも、変なスイッチが入るととことん暴走しちゃうのよ。この間なんて、自分の終活まで話してたし」
進路の話をしているのに、いきなり自分の老後のことを話しだしたときには正直精神力を消耗した。
何が悲しくて母親の死ぬ日のことを考えなければいけないのだろうか。
もちろん、いつかは考えていかなければいけないことではあるが、少なくとも今はその時ではないはずだ。
「アタシ、一度会ってみたいかも。奥寺君の友達です♪って」
「頼むから勘弁して」
今井さんの感じからして、普通に自己紹介する気がないのが嫌でも伝わってきた僕は、力なく止めさせる。
「でも、仲直りできてよかったじゃない」
「……まあね」
森本さんに相槌を打った僕は複雑な心境だった。
確かに、表面上は解決した。
だが、根本的な部分ではまだ問題は解決すらしていないのだ。
(願わくば、騒動にならなければいいんだけど)
僕はどこか嫌な予感めいたものを感じずにはいられなかった。
その日のRoseliaの練習の時のこと。
ちょうど区切りがいいので、湊さんの号令で休憩となった。
各々が雑談をしたり復習をしたりなどして過ごしている中、椅子に腰かけていた僕のもとに紗夜さんが歩み寄ってくる。
「一樹さん、お願いがあります」
「……なんとなく想像はつくけど言ってくれる?」
「私にギターを教えてほしいんです」
僕の予想通り、紗夜さんのお願いはギターを教えることだった。
しかも、紗夜さんが求めているのは、普通に教えるのではない。
付きっきりで教えるマンツーマンレッスンのようなものだ。
僕もギターリストの端くれ。
教えることができないわけではない。
「お断りします」
でも、僕の答えはノーだった。
「ッ! なぜですか!」
「それは、あなたに教えても意味がないから。……もっと言うと教えれるレベルにも到達してない」
「そんなことはないです! 私だって、毎日練習してきてるのよ。それでもなの!?」
気が付けば、スタジオにいるみんなは、何事かと言わんばかりに話を止めてこちらの様子をうかがっていた。
はっきり言って、同じギターリストとして彼女の演奏は”上手い”かと言われれば”上手い”だろう。
でも、それは技術のみを見ればの話。
ギターリストに求められるのは、技術力だけではないのだ。
「現実を知ったほうがいいか。………そこまで言うんだったら、確かめてみる? あなた自身のレベルがいかに低いかを」
僕の言葉に、紗夜さんは怒ったような表情で頷く。
言葉で言ったところでまたこの間の二の舞になるのは目に見えている。
ならばわかりやすく形にして証明するまでだ。
「皆、申し訳ないけどちょっと付き合ってもらっていい?」
それを確認した僕は、椅子から立ち上がると遠巻きにこちらの様子をうかがっていた今井さんたちに声をかける。
「い、いいけど何に?」
不穏な空気を感じ取っているのか、恐る恐るという形で疑問を投げかけてきた今井さんに、僕は簡潔に
「セッション」
と、返した。
やるのはただのセッション。
でも、それは紗夜さんにしてみれば残酷な現実を突きつけられるセッションでもあった。
僕の返事に安堵したのか、今井さんたちは快くOKを出してくれると、演奏の準備を始めるのであった。
メインヒロインは誰?
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湊友希那
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氷川紗夜
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白金燐子
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今井リサ
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宇田川あこ