BanG Dream!~青薔薇との物語~ 作:TRcrant
「曲は『BLACK SHOUT』でいい?」
『はい(いいよ)』
全員が準備を済ませたところで、僕は問いかけるとOKの返事が返ってきた。
「紗夜さん。ギターだけど、これを使って」
「これは……一樹さんの」
僕が差し出したのは僕がいつも使っているギターだった。
こうなるだろうと踏んでいた僕は、ギターを学園に持ち込んでいたのだ。
(弾いて弾いてとせがまれたときはちょっと困ったけどね)
これは見世物でもないので、あまり弾きたくなかったのだが、運良く学園で弾かずに済んだ。
紗夜さんはギターを受け取りはしたが、その表情は困惑していた。
「まさかとは思うけど『自分のギターじゃなければ弾けない』なんて、言わないよね?」
「当たり前じゃないですかっ」
紗夜さんの負けず嫌いな性格を利用して軽く挑発をしてみると、上手くそれに乗っかってくれた。
紗夜さんは、自分のギターをスタジオの端にそっと置くと、僕のギターとアンプを接続させる。
「……??」
チューナーを用いてのチューニングを行うが、その表情は困惑に満ちていた。
おそらくは、このギターの特異性に気づいたのかもしれない。
「一応言っておくけど、そのギターはかなりのじゃじゃ馬だよ。踏ん張らないと吹き飛ばされるよ」
「は、はい」
なので、僕はだめ押しで紗夜さんにアドバイスを送る。
こうして、チューニングを済ませた紗夜さんは湊さんの左隣の定位置にスタンバイした。
「あこさん、カウントを」
「はい!1,2,3,4」
あこさんのカウントに続くように、白金さんが演奏を始めた。
そして歌が始まり一気に全パートが産声を上げる。
「紗夜。音が違うわよ」
「す、すみません。もう一回」
湊さんからの激に、紗夜さんは謝りながらもすぐに立て直した。
そして再び始まった演奏。
「す、すみません」
それでも紗夜さんは同じ弾き始めの場所で音を間違えた。
「ど、どうしてッ!」
何十回も間違えてはやり直しを続けた紗夜さんは、とうとう悔しげに声を荒げる。
「……ここまでかな」
その様子を見た僕は、これ以上やっても意味がないと判断してストップをかけた。
「どうして……確かに、抑えてる場所はあってるはずなのに」
「うん。紗夜さんが抑えている場所は確かに『Edim』のコードだったよ」
紗夜さんが躓いていたコードは『Edim』で、いつもの紗夜さんだったらすんなりとできていた場所だった。
僕は紗夜さんにギターを返してもらい、ストラップを肩にかけて引ける状態にした。
「このギターで『Edim』のコードの音を鳴らすには、こう」
「そんなやり方はないはずです。そもそも、それでできるはずが―――」
ないと言おうとした紗夜さんの言葉を否定するように僕は右手で弦をはじいて音を鳴らした。
「出来てるわね」
それは紛れもなく弾き始めの音である『Edim』のコードの音だ。
「このギターは、”教科書通りの運指をすると、変な音が鳴る”ギターなんだよ」
「それでは、なにも弾けないじゃ――「これでもそう言える?」―――っぐ」
紗夜さんの反論を僕は『BLACK SHOUT』のワンフレーズを弾くことでつぶしたのだ。
「このギターは、教科書通りではなく、どうすればその音が鳴るようになるのかを把握することで、力を発揮するギターなんだ。だから、最初はできなくて当然だし、時間をかけて行けば今みたいに演奏することだってできる」
紗夜さんに言いながら、僕はこのギターを始めて手にした時のことを思い出す。
最初はうまく弾くことができずに癇癪を起していたのは我ながら恥ずかしい過去だ。
それでも、今の僕があるのはこのギターのおかげだと、僕は今でも信じて疑っていない。
「……一樹さんは一体何が言いたいんですか?」
「今の紗夜さんには、それをすることは到底無理だということ」
それこそが、紗夜さんの”現実”だったのだ。
「はぁ~……」
練習を終え、自宅に戻った僕はリビングに入るや否やソファーにダイブして深いため息を吐く。
「やってしまった」
出てきたのは後悔の言葉だった。
それは他でもなく、練習の時の紗夜さんとの一幕だ。
紗夜さんが、まだ僕が教えられるレベルではないことを証明するために、僕の愛用するギターを弾かせたことだ。
少しばかりきつすぎはしなかっただろうかと、不安になる。
あのギターはじゃじゃ馬な一面があり、走者を振り回してしまうことがある。
何となく感じてはいたが、僕のギターは少しだけ引けるようになった走者に対して自信を無くさせるという効果もあったようだ
(とは言っても、弾けないわけじゃないしな)
僕だって、時間はかかったが今では弦を抑えているところを見ない、所謂ブラインドタッチができるようにまでなっているのだ。
なので、紗夜さんも時間をかければ僕のギターをマスターできる可能性はある。
でも、今のままではそれはできないのだ。
(今日のあれで、そのことに気づいてくれればいいんだけどね)
紗夜さんの負けず嫌いなところが、変に作用しないかどうかが不安だけど、こればかりは彼女を信じるしかない。
(技術だけではダメなんだ。上に行こうとするには、技術だけじゃなくてもう一つのプラスαを磨かないと)
そのことに気づく時を、僕はただただ静かに待つことにした。
それでも、自分のあの振る舞いは正しいものと言えるのだろうか?
「どうしたんだ? 一樹」
「……父さん」
そんな僕に声をかけてきたのは、珍しく速く帰ってきていた父さんだった。
父さんと母さんは共働きで、父さんはサラリーマンで、母さんはパートだと聞いている。
でも二人の働いている会社名とかを僕は知らない。
業種もだけど。
それはともかくとして僕は起き上がると、話しかけてきた父さんに僕は事のあらましを話した。
「なるほど……人にものを教えるというのは、自分がやる以上に苦労する」
「うん。それを相手にどういう風に言えばいいのかは分かるんだ。でも、加減がわからない」
そう。
教えること自体はできる。
元々啓介たちとバンドを組んでいた時だって、僕も教えていたのだから。
ただ、その加減がわからないのだ。
ガンガンに飛ばしていけば、教えられるほうがついてこれなくなるし、だからと言って控えめにすれば、練習の意味がなくなる。
いつもなら、加減はなんとなくわかるけど、Roseliaの場合は、それが把握しずらい。
「父さんが言えるのはただ一つだけ。”失敗を恐れるな”……なぜだかわかるか?」
僕は父さんの疑問に、首を横に振る。
「失敗というのは成功するための正攻法にして一番の近道だからだ。誰だって失敗はする。重要なのは、それを恐れて及び腰にならないこと。自分が正しいと思ったことを信じて、貫くんだ」
真剣な面持ちの父さんの言葉は、いつも僕の心に響いてくる力を感じる。
「だから、もし今の話のそれを失敗だとするのであれば、直せばいい。逆に悩んでいるなら、思い切って見ればいい」
「………」
父さんは言外で、”お前の好きなようにしてみろ”とアドバイスを送っていることは、僕にもわかった。
「ただし」
父さんは、そこで一度言葉を区切る。
「ミュージシャンとしての心得だけは、しっかりと教えろ」
「うん。”ステージの上は常に決闘の場”」
父さんの目が”覚えているよな?”と言っているように見えた僕は、ミュージシャンの心得を口にする。
「”決して驕らず侮らず、自分の持てるすべての技術を駆使してライブに挑め”」
さらにそれに続くように父さんが心得を口にする。
「”そしてなにより、オーディエンスを忘れるな”。だよね?」
「そうだ。流石は我が息子だ」
父さんは満足そうに笑みを浮かべると、僕の頭を乱暴に撫でまわす。
それを僕はされるがままにされていた。
”ミュージシャンの心得”
それは、小さい時から父さんに嫌というほど教え込まれた格言だ。
『どんなに腕が悪いミュージシャンでも、それさえ守っていれば、いっぱしのミュージシャンだ』
それが、父さんの持論だった。
その父さんのそれは、今では完璧とは言えないけど、僕に引き継がれている。
「さ、部屋に戻って休みなさい。ご飯ができたら呼ぶから」
「うん」
僕は父さんに促されるまま、立ち上がると自室に向かって歩いていくのであった。
「……そう言えば、動画のほうどうなってるんだろう」
自室で一息ついていた僕は、ふとHPのアカウントを作って動画を投稿していたことを思い出し、今の状況を確認するべくパソコンを起動させると動画サイトを表示させた。
(嘘っ!? 1万人いってる)
チャンネル登録者数が1万の大台を突破していることに、僕は驚きを隠せなかった。
確かに、フェスやらなんやらで、観客の反応は悪くないのは感じていた。
でも、まさか早々に1万人もの人たちに登録してもらえるとは、想像できていなかったのだ。
僕の動画に寄せられたコメントを見て見ると
『格好はあれだけど、曲がめちゃくちゃいい!』
『せめて、男女の人数だけでもっ』
『最初は一発屋かと思ったけど、めちゃめちゃいいじゃん』
概ね好感触のコメントが目立っていた。
『早く新しいMVを見たい』
中でも、そのコメントの数が多く、どれだけ心待ちにされているのかが伝わってくる。
(そろそろ次の曲のMVでも投稿しないとね)
コメントを見ていたらますます僕の中に、やる気がみなぎってくるようだった。
最初は、消極的ではあるものの始めた動画投稿だったが、今では積極的になりつつある自分に、僕は思わず口元が緩んだ。
(明日はHPの練習だし、皆に教えてあげようっと)
皆の喜ぶ顔が目に浮かんできて、それだけでも伝えることがとても楽しみだった。
僕は、動画の視聴ページからアカウントの管理画面にページを戻した。
「ん? 何かメッセージが来てる」
ふと、管理画面に目をやると、何やらメッセージが届いていることに気が付いた。
それは、個人的にメッセージのやり取りをすることができる動画サイトの機能の一つであり、ここでやり取りした文面は他の人に見られる心配がないことから、問い合わせに使われることが多いらしい。
もちろん、どちらかがそのメッセージの文面を公にしない限りではあるけど。
そんなメッセージ機能だが、未読メッセージとして表示されていたメッセージを開封する。
「こ、これは………どういうこと……なんだ?」
そのメッセージの文面に、僕は言葉を失った。
そこにはこう記されていたのだ。
『大変素晴らしいMVでした。つきましては、ぜひ一度お会いしませんか? hyper-Prominenceさん……いや、奥寺一樹さん?』
このメッセージが僕にとって最悪な事件の幕開けになることを、この時の僕は想像すらしていなかった。
私の手違いで、アンケートが1日ほど回答で気に状態となっておりました。
現在は修正して回答が可能となっております。
このことを受けまして、アンケートの締め切りを11月1日まで延長させていただきたいと思います。
ご迷惑をおかけし、申し訳ありませんでした。
それでは、また次回お会いしましょう。
メインヒロインは誰?
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湊友希那
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氷川紗夜
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白金燐子
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今井リサ
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宇田川あこ