BanG Dream!~青薔薇との物語~ 作:TRcrant
あれから数日が過ぎたある日の放課後。
「―――――一樹!!!」
「な、何!?」
突然大きな声で呼ばれた僕は、慌てて立ち上がった。
僕がいるのはリビングだったようで、僕は座っていたらしい。
自分でも信じられないが、学園を出てから先の記憶がない。
「どうしたんだよ? お前最近変だぞ」
「うん。なんだか気もそぞろみたいな感じだし……何か悩みでもあるの?」
森本さんの”悩み”に、無意識に息を呑んでしまった。
「………それは、私たちに言えないこと?」
「………ごめん」
どう取り繕っても隠し通すことはできないと悟った僕は、謝罪の言葉を口にした。
「………」
「もし、話す気になったら啓介とかでもいいからいつでも相談しなよ」
「うん。ありがとう」
「おぉい! とかなんて言うなよ!!」
話しがひと段落着いたと思ったのか、思い空気を換えようと啓介が抗議の声を上げるが、僕の心は晴れることはなかった。
結局、僕はそれからも誰にも相談をすることができなかった。
(相談なんかできるはずないよ)
特に啓介たちには。
親にも、あまり心配させたくはないという理由で話すのを躊躇っている状況で、僕はまだ自らが置かれた状況を誰にも話せずにいた。
「………」
そんな僕のもとに、携帯が鳴り出した。
それは、メールを受信したことを知らせるものだった。
僕は、携帯を取り出すと、まるでロボットのように無意識的に新着メールを開く。
『あと4日』
文面は、それだけだった。
「………」
でも、そのメールを見た僕はなんだか音が遠のいていくような気がした。
「奥寺君っ!!!」
「ッ!?」
僕を呼ぶ誰かの声を最後に、僕の意識は完全にブラックアウトするのであった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
同時刻、羽丘女子学園の廊下で、明美は窓際に移動するとスマホを耳にあてる。
「もしもし」
『俺だ。用件は分かってるよな?』
(ったく、せっかちね)
有無も言わせないで用件を切り出す聡志に、明美は心の中でそう呟くと、”ええ”と相槌を返す。
『一樹の様子の異変に、心当たりは?』
「あったら相談してるわよ。そもそも、あたしだって気づいたらああなってたのよ」
それは一樹のことだった。
『あいつは明らかに思い詰めている。それは分かるんだ。だが、なんで思い詰めてるのかがわからねえ』
「本人が相談してくるまで……と思ったけど、一樹のことだから抱え込むでしょうね」
それは、仮定ではなく確定しているといわんばかりに明美は断言した。
幼馴染だからこそ、彼女たちは確信しているのだ。
『万が一のことが起こったら大変だ。いいか、一樹と長時間傍にいれるのは、もう明美だけなんだ。ちゃんとあいつを見守ってやってくれ。それと、何かあったらすぐに知らせろ』
「言われなくてもわかってるわよ。じゃ、切るわよ」
聡志の強い口調の物言いに、明美は電話を切ると一つため息を漏らす。
「ほんと、幼馴染って大変よ。リサ」
それは、同じ幼馴染がいるという似た境遇のリサに向けられたものだった。
(あたしは、一樹のように何でもできるわけないのに)
心の中で、そう弱みをはいた瞬間だった。
「ん? なんだか、向こうのほうが騒がしいわね」
廊下の反対側……階段のほうがやけに騒がしいことが気になった明美は、様子を見に階段のほうへと足を進める。
「………ぇ」
そして、その先の光景を見た瞬間、明美は自分の目を疑った。
「奥寺君、しっかりして! 誰か、先生を!」
必死になって先生を呼ぶように言いながら、呼びかけているリサの姿。
そして……踊り場に倒れている一樹の姿に。
「一樹っ!!!」
明美は無我夢中で集まってきていた女子生徒の間を縫うように階段を駆け下りると、一樹を呼びかけるリサの横に移動してしゃがみこんだ。
「リサ、一体何が」
「奥寺君が、階段から落ちたのっ!」
リサの言葉に、明美は息をのむ。
「ずっと話しかけてても返事がなくて……そのままっ」
「……ぁぁ」
明美は恨んだ。
一樹が階段から落ちるのを、防げなかったリサにではない。
幼馴染の異変に気付いていながら、何もできずに最悪の事態を招いてしまった自分自身に。
(私は……なんてことを)
その後悔の念は、リサの呼びかけに応じた女子生徒が連れてきた保険医が的確な指示を出している光景を呆然と見させるほど、強いものだった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
「ぅ……」
目が覚めた僕が最初に感じたのは、頭の痛みだった
そして、続くように体中にその痛みが広がっていく。
「ここは……」
「一樹っ」
ぼんやりとした視界の中で聞えた声は、僕の視界をクリアにしていく。
「母さん」
「良かったぁ……ちょっと待っててね、今お医者さん呼んでくるからっ」
そう言ってかけて行く母さんを横目で見た僕は
「そっか……僕、倒れたんだ」
現実を理解するのであった。
あの後、母さんが呼んできた医者の診察を受けた僕は
『軽い打撲で、命に支障はありませんね。脳波のほうも正常ですのでおそらくは峠は越えたと思います。ただ、大事をとって今日はこちらで様子を見たほうがいいでしょう』
という説明を受けた。
とにかく、後遺症のようなものはないらしいので、それだけは安心だ。
もし腕がだめになったらギターリストとしても支障をきたすことになる。
それだけは回避できたことに、喜べないはずがない。
(とはいえ、根本的な問題はまだ解決してないけど)
こうなるに至った元凶は、未だに存在し続けているのだ。
医者は僕たちに一礼すると、看護師と共に病室を後にした。
「一樹、一体何があったの?」
「ちょっとした不注意で階段から落ちたみたい」
最初こそは記憶が混乱していたが、時間が経って徐々に意識を失う前のことを思い出した僕は、何があったのかを母さんに心配かけまいと明るく振舞って説明した。
「それは明美ちゃんから聞いて知ってるわ。お母さんが聞きたいのは、どうしてそうなったのってことよっ」
母さんの語気が強まる。
それだけ僕のことを心配してくれている。
そのことがとても僕には嬉しくて、そして苦しかった。
「ちょっとした恋の悩み、だよ」
だから僕は嘘を吐いた。
本当はそんなことで悩んでいるわけじゃないのに。
「そう……わかったわ」
母さんは、そう言ったきりそれ以上深く聞いてくることはなかった。
本当のことを言ってしまえば、楽になれる。
でも、それで母さんに迷惑をかけたくない。
そのことだけが、僕を嘘に走らせていたのだ。
(ほんと、僕って弱虫だな)
そんな自分に、僕は思わずため息を心の中でつくのであった。
「邪魔するぞ」
「失礼します」
夕方、軽い口調で病室に入ってくる田中君と、やや畏まって入ってくる中井さんに続いて啓介たちが僕の病室を訪れてきた。
「皆、ごめんね心配かけて」
僕は上半身を起こしながら心配かけたことを謝ると”気にするな”という返事が返ってきた。
「容体のほうはおばさんから聞いた……俺の言いたいこと、わかるだろ」
単刀直入に問いただしてくる田中君に、僕は頷いて答える。
「俺の記憶が正しければ、この間までは普通だった。だが、今週に入って心ここにあらずといった感じになっていた」
それは事実だ。
「確か、様子がおかしくなる直前、一樹遅れて帰ってきたよな? あの時は、寄り道したって言ってたが……何があった?」
もはや、疑問ではなく確認だった。
田中君は……みんなはもうわかってるんだ。
あの日、僕のみに”何か”が起きたことを。
わかっていて何も言わないのは、僕が放すのを待っていたのか、それとも”何か”が分からなかったからか。
いずれにせよ、もう逃げ場はない。
誤魔化すのも不可能だ。
嘘を伝えても、皆は母さんみたいに素直に引き下がらないだろう。
「……わかった。全部話すよ」
だからこそ、僕も覚悟を決める。
この場にいるみんなを、ごたごたに巻き込むことを。
そして、僕は背筋をただすと、あの日について口を開くのであった。
ということで、次回から真相が明らかになります。
メインヒロインは誰?
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湊友希那
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氷川紗夜
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白金燐子
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今井リサ
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宇田川あこ