BanG Dream!~青薔薇との物語~ 作:TRcrant
それは、数日前のこと。
すべては、僕のもとに届いた一通のメッセージから始まった。
「いらっしゃいませ。一名様ですか?」
「あ、その……待ち合わせで」
なんだか高級そうな上品な雰囲気の喫茶店に入った僕を出迎えたウエイターの人に、事情を話すとウエイターは一礼をして僕から離れて行った。
(相手は誰だろう……)
相手のことを何も知らない僕は店内を見回していると、一人のスーツを着た男性が僕のもとに近寄ってくる。
「君が、奥寺一樹君かね?」
「は、はい」
警戒しながら返事をすると、男性は笑みを浮かべながら
「そんなに身構えなくても、私は君に害を与えるつもりはない。まずはあそこの席について一息つくとしよう」
余裕そうな態度でそう促すと、店内に向かって歩き出す。
僕は鞄の中にある者を確認して、男性についていく。
そこは、喫茶店の一番奥側で、人目が気になりにくいところだった。
極秘情報をやり取りするのに、ある種最適なところだろう。
「さて、自己紹介といこう。私は、『Purely Promotion』という芸能事務所でプロデューサーを務める
「はぁ……」
男性が差し出した名刺には確かに『Purely Promotion プロデューサー 新田』と記されていた。
「実は君を呼んだのは他でもない。君たち、”hyper-Prominence”を我がプロダクションでプロデュースしてもらわないかというものだ」
「すみません。私はどこの事務所にも所属するつもりはございません」
予想はできていたが、芸能事務所へのスカウトだとわかった僕は、丁重に断りの言葉を口にする。
「そんなことを仰らないでください。でないと、あなたのことを調べた結果が書かれたこの資料を、ついうっかり落としてしまうかもしれません」
わざとらしい口ぶりで僕に見えるように掲げたのは黒いファイルだった。
表紙と思われるそれには、『奥寺一樹に関する調査結果』と書かれていた。
おそらくは僕のことを探偵か何かを雇って調べあげたのだろう。
「……脅すつもりですか?」
「そのようなことは。ただ、提案しているだけですよ。この私の指示に従えばお前たちは億万長者になれる。地位も名声も欲しいままだ」
男はそこで言葉を区切って、さらに続けた。
「でも、逆らえばお前のことをネットにばらしてやる。きっと大騒動になるだろうなぁ!」
きっと今のがこの男の本性だろう。
人を小馬鹿にしたように言い切る新田に、僕は何も言い返すことはできなかった。
それは、この男の言う通りだからだ。
現在、どの音楽雑誌もhyper-Prominenceの正体に迫ろうと血眼になって情報を探している状態だ。
それでも平穏な日常を送れているのは、ただの偶然でしかない。
所詮は、子供の考えることだ。
バレないようにしているとはいえ、それも完ぺきではないのだ。
現実に今のように、正体を突き止められたのだから。
「もしそうなれば、君の大事な人やご家族が、大変なことになるんじゃないか?」
「ッ!」
新田の、うすら笑いを浮かべながら告げられたその言葉に、僕は動揺を隠せなかった。
僕の正体がばれれば、それは啓介たちにも波及していく。
両親にだって迷惑をかけるばかりではなく、色々な人を傷つけることになる。
それがどれだけの人に対してなのかが、全く予想がつかない。
「……考えさせてください」
だからこそ、僕にできたのは引き延ばすことだけだった。
「……いいでしょう。では一週間待ちましょう。それまでに、ちゃんと決めてくださいね。君が利口な人間であることを願ってますよ」
新田は、勝ち誇ったようにそう言い切ると、その場を立ち去って行った。
その新田の背中を僕は、ただただ無言で見ているだけだった。
それからというものの、毎日新田から期限を知らせるメールが届くようになったのだ。
文面は決まって『あと○○日』というシンプルなもの。
そのメールが来るたびに、僕は焦りと恐怖を募らせていったのであった。
「――ということがあったんだ」
『………』
僕の話を聞き終えた皆は、しばらく何も言うことができなかった。
それもそうだ。
皆が予想していたことよりも、遥かにこれはやばい内容なのだ。
「一樹、俺はすっげえ怒ってんだ。なんでかわかるか?」
「それは………」
田中君の怒りのこもったその表情に、僕は思わず顔をそむけてしまった。
田中君が本気でキレたらどうあるのかを知っている僕に、彼の顔を真正面から見る覚悟はなかったのだ。
そんな僕のもとに歩み寄ってきた田中君は、僕の肩に手を置く。
「どうして相談してくれなかった。俺たちだって、hyper-Prominenceの一員だ」
「でも、皆に迷惑をかけるわけには」
「そうだな。確かに面倒なことだな」
「聡志ッ」
僕の言葉を肯定する田中君を責めるように、森本さんが口を開く。
「だがな、隠されている方が俺にとってはよっぽど迷惑なことなんだよ。少しは俺たちを頼れよ、話しぐらいは聞いてやれっからさ。だろ? お前ら」
「田中君……みんな」
田中君の言うことを肯定するように、みんなが静かに頷くのを見て、僕は改めて自分が一人ではないということを実感できた。
「ありがとう」
だから僕は、みんなにできるだけいい笑顔でお礼の言葉を口にするのであった。
「とは言ったものの、さてどうしたものか」
僕たちがお互いの絆を確かめ合ってからすぐに、対策会議となった。
「期限は残り約3日。それまでにけりをつけなければいけないか」
今日を含めれば4日だが、それでも少ないことに変わりはない。
「にしても、なんだか不自然だよな。何でいまなんだろ」
「確かに……スカウトするんなら、『FUTURE WORLD Fes』とかの直後が一番メリットはあるはずだ」
啓介の口にした疑問に、田中君も相槌を打つ。
あの時は今よりも僕たちに対する注目度は高かったはずだ。
「調べるのに時間がかかった……だとしても、中途半端なタイミングだ」
フェスに出たのは約二年ほど前のこと。
そのころから調査を始めたのであるとすると、少々かかり過ぎ感が否めない。
その時、中井さんが控えめに口を開いた。
「もしかして、イベントで演奏したから?」
「あー、あの時の。確かに雑誌に取り上げられてたしね。そこがきっかけになったかもしれないわね」
それは、僕がはっきりと断らないために湊さんのバンドRoseliaを抜けられない僕を救うために計画されたものだった。
「あの時使った楽器はHPの時のと同じだったから、そこからかもしれないわね」
「……本当にごめん」
「良いわよ。計画を立てたのはあたし達なんだから。皆同罪さ」
森本さんは安心させるように言ってくれるが、それでも僕の犯した罪は大きい。
結局は僕が発端だったのだから。
「ちょっとだけ、調べてみよっか」
「そうだな。こっちも向こうについて調べておいてもいいだろ。そこに形勢逆転のヒントがあるかもしれねえしな」
続いて僕たちは、相手のことについて調べ上げることにした。
向こうがこちらを知っているのだから、こちらも向こうのことを知っておくべきだという合理的な理由によるものだけど。
「俺はこの新田っていうやつのことを調べるから、啓介は奴のいる事務所を調べろ」
「調べるって、どうやって?」
的確に指示を飛ばしていく中投げかけられた中井さんの疑問に、田中君はスマホを取り出すと
「情報の海を使って、さ」
と返すのであった。
これにて、今月の投稿は終了となります。
今月も本作をお読みいただきありがとうございます。
次回更新は11月の日曜日を予定しております。
それでは、これにて失礼します。
メインヒロインは誰?
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湊友希那
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氷川紗夜
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白金燐子
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今井リサ
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宇田川あこ