BanG Dream!~青薔薇との物語~   作:TRcrant

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第5話 そして、その音は受け継がれる

あれからユージさんから受け継いだ曲を、音楽プレーヤーに音源としてデータを移し終えた僕は、今日の練習の時にみんなに聞かせようと机の上に置いておいた。

 

(後は、それを演奏する機会があればいいんだけど)

 

こればかりは、さすがにすぐには見つからない可能性が高いのは覚悟している。

なんせ、今の僕たちは個人で活動しているうえに、自分の素性をすべて隠している状態だ。

そうなると、今の僕たちにできるのは待つことしかないのだ。

 

「一樹! さっきライブの運営委員会から、出場してほしいという連絡があったぞ!」

「えぇ!?」

 

そんな時、僕のもとに父さんから一報が入ってくるのであった。

 

 

 

 

 

 

「『SWEET MUSIC SHOWER』?」

「うん。そこの運営委員会からから父さんのところに連絡があったらしいんだ。僕たちにぜひ出場してほしいって」

 

放課後、家に集まったみんなをリビングの席につかせると、朝に父さんのところにかかってきた連絡のことを伝えた。

 

「えっと……へー、『FUTURE WORLD FES』に出場したバンドも参加するんだ」

 

イベント名を調べていた森本さんが、プロのバンドも多く出場するほどの大きなイベントであるのを知って、感嘆の声を上げる。

 

「ジュニア部……プロのバンドの前座なのがちょっとあれだけど、でも全員を驚かせるような演奏をしたいな」

 

中井さんも気合十分のようだ。

大きなイベントということもあって、僕たちはより一層全力で演奏する必要がある。

例え、それが前座的な扱いだったとしても、僕たちがなすべきことは変わらないのだ。

 

「それじゃ、このイベントに参加するのに反対だと言う人」

 

一応念のために、参加の是非を聞くが、反対する人は誰もいなかった。

 

「それじゃ、参加するって伝えておくね」

 

こうして僕たちはSWEET MUSIC SHOWER……SMSへの参加が決まった。

 

「問題は、セトリだな」

「時間的な面でも、演奏できるのは2曲が限界だな」

 

僕たちの話し合いの内容は、セトリのほうに移っていた。

僕たちのバンドの曲は、いずれも1曲の長さが長く、持ち時間で演奏できる曲数は、大体2曲が限界なのだ。

 

「じゃあ、こんな感じでどうだ?」

 

そう言って啓介が書き出したのは、既存曲と新曲の2曲だった。

 

「なんか、アップテンポばっかだな。最後の曲は静か目な曲のほうがいいと思うけど」

「そんな曲ないだろ……な?」

 

啓介の言葉を、僕は頷いて答える。

確かにどれもアゲアゲな感じだ。

これはこれでありなのかもしれないが、田中君の出した案も捨てられない。

 

(本来であれば、静かな感じの曲を作るべきなんだろうけど……)

 

僕には、どうしてもやりたい曲があるのだ。

だから、今回はセオリーを無視することにした。

 

「実は、次のライブで演奏したい曲があるんだ」

「何だ? その曲は」

 

田中君の問いに、僕は朝に音源を移した音楽プレーヤーを、みんなの前に置く。

伊達に幼馴染を名乗っているわけではない。

僕の言わんとすることを察した田中君と啓介が、プレーヤーに巻き付けてあるイヤホンを解くとそれをそれぞれ片耳に装着する。

そして、啓介は再生ボタンを押した。

 

「こ、これはっ!?」

「す、すげえ熱だ」

 

音楽プレーヤーに入っている音源は、ユージさんからもらったCDをもとに僕のほうで録音をし直したものだ。

それでも、聞いただけで二人の目は驚きに見光られる。

 

「私にも聞かせてよ」

「私も私も!」

 

そんな二人の様子を見て、聞かせるようにせっつく森本さんたちに二人はイヤホンを手渡す。

その直後、先ほどの二人と同じ反応をする。

 

「アップテンポだけど、この曲を演奏したい」

「俺もすげえやりたいと思うが……一樹、この曲何か訳ありだろ?」

 

田中君は静かにつぶやくと、こちらをじっと見据えてくる。

その目は嘘偽りを許さないという意思がひしひしと伝わってくる。

 

「うん。これは解散したバンドの人から譲り受けた曲を基に仕上げた」

「⋯⋯そうだろうな。この曲の熱の質っていうのか? そういうのが一樹のとは違ってたからな」

「ふへー、俺は違いまでは気づかなかったぜ」

 

啓介は置いとくとして、田中君は曲の性質の違いにまで気づいていた。

それだけでもドラマーとして……ミュージシャンとしての才能がうかがえる。

他のみんなもそうだが、音楽に対する素質は高い。

だからこそ、一気にSMSのイベントに呼ばれるまでになったわけだが。

でも、僕はそれだけではないとも思っている。

確証はないけど、幼馴染としていつも一緒にいたということが、いい方向に活かされているのだと感じている。

長い沈黙がその場を満たす。

いくら僕がやりたいと思っても、メンバーであるみんながNOと言ってしまえば、実現はできないのだ。

 

(でも、僕はこれを闇の中にとどめておくのは嫌なんだ)

 

この曲を僕に託したユージさんの気持ちを考えれば、なおのことそう思う。

これに光を当てたいと。

 

「……私は、別にやってもいいかな」

 

その沈黙を破ったのは、森本さんの賛成の言葉だった。

 

「なんか、聞いてたら挑戦状にも聞こえたのよね。君たちにできるかな? ってさ」

 

”だったら、やらない手はないわよね”

最後にそう締めくくった森本さんの目には、闘志に火が付いているような気がした。

 

「私も、やってみたい」

「……まあ、やってもいいんじゃね?」

 

そして、次々に広がっていく賛同の声。

 

「……別に、俺は反対だというわけじゃねえからな」

 

最後には、田中君がそっぽを向きながら言ったことで、意見が出そろった。

 

「皆、ありがとう!」

「お礼を言うのはまだ早いって」

「そうだぜー、これから練習があるんだからな☆」

「どうでもいいがお前の口調は聞いてて妙に憎たらしいな、おい」

 

啓介をジト目で見る田中君に、森本さん達も笑い出した。

そこには、いつも通りの僕たちの日常があった。

 

「それじゃ、練習を始めようか!」

『おー!』

 

こうして僕たちは、SMSに向けての練習を始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、数日後。

 

「hyper-Prominenceさん、こちらで待機をお願いします!」

 

僕たちは、スタッフの誘導の元、SMSのステージ袖に待機していた。

 

「やっぱり、浮いてるな。俺達」

 

小さな声でボソッとつぶやく啓介の言うとおり、僕たちは明らかに周囲から浮いている。

原因は僕たちの格好だ。

顔のほとんどを隠す白装束を、全員が着こんでいるのだから。

傍から見れば、ちょっとやばい組織の集団じゃないかと思われても、致し方がない。

 

「仕方ないわよ」

「うん。今更だよ」

 

このような格好をしているのは、僕たちの素性を隠すためだ。

少なくとも、この格好なら、相手が得られる僕たちについての情報も限られてくる。

……とはいえ、隠ぺいするのはかなり大変だけど。

 

「っと、終わったみたいだな」

 

ステージのほうから聞こえてくる、オーディエンスの歓声に反応した田中君の言葉で、僕は一気に気を引き締めて集中力を高める。

 

「それじゃ、行くか」

 

そして、僕たちはステージに躍り出るのであった。

 

 

 

★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

 

SMSのB会場。

そこには大勢の観客が集まっており、次のバンドを今か今かと待ち望んでいた。

 

「あ、『hyper-Prominence』よ!」

「へー、あれが噂のバンドか」

 

HPがステージに現れた瞬間、会場からは歓声が沸き上がる。

コンテストと『FUTURE WORLD FES』というたった二回のライブで、彼らはここまで上り詰めていたのだ。

 

「『hyper-Prominence』です。まずは一曲、聞いてください」

「1,2,3っ」

 

一樹……GKのMCを合図に聡志……DSがリズムコールをすると、曲が始まった。

出だしから、ギターの二人の音色が会場に響き渡る。

 

「うお?!」

 

たったワンフレーズの音を聞いた瞬間、その場にいた観客たちは体を震わせる。

それはごく普通のギターの音だった。

だが、その音は観客たちの心を一瞬で惹きつけたのだ。

最初の曲のボーカルはDSだ。

DSの低めの歌声が、曲にさらなる重みを加えていた。

そして、歌いきる寸前に、明美……VAのギターが観客を魅了する。

そこからは、GKとVAの二人の独壇場だ。

二人がフレーズごとに、まるで競い合うようにギターを弾いていく。

 

「なんて演奏だ。あいつら、人間じゃねえっ」

 

観客の一人が、目の前で演奏しているのを見て、そう思うのも致し方がない。

それほどに、力強い演奏をしていたのだ。

やがてDSが歌いだしたところで、ギターの二人は演奏を止める。

だが、それはこの後に来る波に向けての羽休めにしか過ぎなかった。

DSの歌の箇所が終わると、二人は再びギターを弾き合っていく。

その時その音が、ふっとすべて消えた。

それは比喩ではない。

その理由は、彼らが演奏を止めたからだ。

会場中を静寂が包み込んでいく。

それは観客にしてみれば盛り下がるのに十分な理由だった。

 

「えぇ。これで終わり?」

「私、ちょっと飲み物でも買ってこようかな」

「他のバンドって何があるんだろう」

 

その静寂に、失望した様子で、観客たちがその場を立ち去ろうとしたところで、唐突に鳴り始めたギターの音が足を止めさせた。

それは、GKによるものだ。

最初は簡単なフレーズが、その速度を増し、次第に速弾きとなっていく。

さらに、ギターを縦に構えて目まぐるしく弾いていくそれは、まさに嵐そのものだった。

そんな彼のソロに、立ち去ろうとしていた観客は足を止めると、彼の演奏に併せて手拍子を鳴らしていく。

やがて、嵐は過ぎ、DSの歌が始まった。

そこからは一気に駆け抜けるように曲は終わりを迎えた。

終わった瞬間、凄まじい拍手が、彼に浴びせられる。

 

「次が、私たちの最後の曲です。これは、私が二番目に尊敬するあるミュージシャンから託された曲です。聞いてください『Rocks』」

 

ベースとキーボードから始まったその曲は、出だしで観客たちをざわつかせた。

 

「すごい! こんな熱い演奏見たことない!」

「これはやばいって!」

 

彼らの熱い演奏に合わせて、観客たちは手を振って応える。

まさに会場にいた観客が一体となって、曲にのっていたのだ。

VAの大人びた歌声が、激しい曲調にさらなる熱を吹き込んでいく。

 

(………ありがとう、未来あるミュージシャン達)

 

演奏をしている彼らを見ていた男性の一人は、心の中でお礼の言葉を送った。

その目は、どこか優しく、そして寂しげだった。

 

 

 

 

 

この日、彼らhyper-Prominenceの演奏はまた一つの伝説を生み出した。

それが、彼らにもたらす運命は、まだわからない。

 

 

第1章、完




少々長くなりましたが、今回で本章は完結となりました。

章が完結した際は、こちらにて軽く次章予告をさせていただいております。
ということで、次章予告をば。

―――

SMSを終えた一樹たちに、進路という名の問題が立ちはだかる。
進路を決めていく中、一樹は決断を迫られることになるのだが……。

次回、第2章『進路』お楽しみに
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