BanG Dream!~青薔薇との物語~ 作:TRcrant
「そろそろだよね」
「ああ。中井さん、少し落ち着いて」
翌日の放課後、僕と中井さんとで商店街にある羽沢珈琲店で、白鷺さんと待ち合わせをしていた。
本来であれば、多忙なはずなのだが、重要な話があるという中井さんの言葉に、短い時間ではあるが時間を確保してくれたらしい。
「あ、来たよ」
そんな時、ドアベルが鳴るのと同時に入り口を見た中井さんが僕に伝えてくる。
「待たせてしまってごめんなさい」
「ううん。こっちも忙しいのに無理言ってごめんね」
私服姿の白鷺さんが遅れたことを謝りながら、僕たちの向かい側に腰かける。
「それで、用件を聞かせてもらえるかしら? 仕事のほうがあるからあまり時間に余裕がないの」
「聞いてほしいものがあるんだ」
僕は単刀直入にそう言うと、携帯電話を取り出してアプリを起動させる。
それは、会議の内容を録音するボイスレコーダーのアプリだ。
元々携帯に入っていたアプリで、あまり使うことはないと思っていたのだが、それが今回は活躍してくれた。
実はあの時、僕は彼とのやり取りを録音していたのだ。
万が一の時の証拠になるために。
そして、僕はその音声データを白鷺さんにも聞こえるように設定して再生させる。
『さて、自己紹介といこう。私は、『Purely Promotion』という芸能事務所でプロデューサーを務める
「えっと、これっていったい――「とりあえず最後まで聞いて」――……」
流れ出した新田の声に、白鷺さんは困惑した様子だが、僕に促されると、真剣な面持ちで音声に耳を傾ける。
話が進むにつれて、白鷺さんの表情が険しいものになってくる。
やがて、音声データの再生が終了した。
「白鷺さんの事務所に、新田という人は実在するの?」
「……ええ。とても敏腕なプロデューサーよ」
どうやら、偽名を名乗っていたわけでも、他人の名前をかたっているわけでもなさそうだ。
「一樹君はね、この人の脅迫のせいで倒れたんだよ」
「ッ!! ごめんなさい」
中井さんの言葉に息をのんだ白鷺さんは、申し訳ない表情で謝罪の言葉を口にする。
「僕は白鷺さんの謝罪が欲しいわけじゃない。願うのはただ一つ。この人には相応の報いを受けさせてほしい」
「………保証はできないけど、事務所の人に相談してみるわ」
神妙な面持ちで、白鷺さんは僕にそう告げる。
「よろしく頼みます」
「後で、さっきの音声のやつを私の携帯に送って貰ってもいいかしら?」
「中井さんのほうから送ってもらう」
僕の答えを聞いて、白鷺さんは本当に忙しかったようで、僕たちに一礼すると、テーブルに置かれていた伝票を手にして会計を済ませると、足早に去って行った。
「……行っちゃったね」
「うん。さて、これでどう転ぶか……」
白鷺さんが去って行ったのを見ながら、僕は静かにつぶやく。
「だ、大丈夫だよ。千聖ちゃんだったらちゃんとやってくれるよ」
「だと、良いんだけどね」
場を和まそうとしているのか、それとも本当に白鷺さんのことを信用しているのか。
どちらかは分からないが、僕の気持ちは晴れることはない。
「もしかして、信用してないの?」
僕の言い方に、中井さんは非難を込めた声色で僕に問いかけてくる。
「そう言うことじゃない。中井さんの知り合いの白鷺千聖という人物に対して、僕は信用に値しないとは思っていないよ。そういう人と友人になるほど、僕の知る中井裕美という人物は愚かではないのを知ってるからね」
中井さんは、意識的か無意識かは知らないが、信用のできない人物とは関わり合いを持つことはそうそうない。
仮に、向こうから話しかけてきても早々に逃げるか、会話にすらならない。
なので、中井さんの友人ということだけでも、信用に足る十分な根拠だ。
「……ッ! ありがとう」
僕の言葉に、はにかみながらお礼を言う中井さんに、僕は”ただ”と言葉を続ける。
「それは、白鷺千聖”個人”であり、”女優”の白鷺千聖としては別」
「どういうこと?」
僕の言い回しに、興味を抱いたのか、真剣な表情で聞いてくる中井さんに僕は携帯を操作してあるサイトを表示させると、それを中井さんに見えるようにテーブルに置いた。
「これは、白鷺さんの経歴だよ」
「うわぁ……時代劇の子役とかもやってたんだ」
僕が表示した白鷺さんのこれまでの経歴が記されたサイトの内容に、中井さんは興味津々といった様子で見ていた。
「注目してほしいのが、出演している作品名。そのどれもが名作として評価されている作品なんだ」
「え? あ、本当だ。これなんて、今でもすごいって言われてるし、こっちのドラマは今、名作何とかっていう名前の番組で再放送してる」
僕に言われて白鷺さんの出演作品を確認する中井さんが、次々に番組名を指し示しながら驚いた様子で口にしている通り、白鷺さんが出演している作品のほとんどが現在名作、又はそれに等しいほどの評価をなされているのだ。
「やっぱり、千聖ちゃんってすごいんだね」
「そうだね。でも、こういう見方もできない? ”自分自身が有名になるために効率的な作品を選んでいる”って」
「それはちょっと、言い過ぎだよ」
僕の口にした見方に、中井さんが反論してくるが、僕にはそうとも見えるのだ。
「確かに、言い過ぎかもしれないけど、でも女優の白鷺千聖は『自分が上り詰める……成功するためならば、例えそれが悪事だとしてもその手段をとる可能性のある人物』だって、僕は思ってる」
「………」
中井さんの沈黙は、反論することができないものなのか、はたまた僕に呆れているのか……きっと後者だろう。
我ながら、何とひねくれたことを考えてるんだと思ってるくらいだ。
「まあ、後は向こうの出方……というよりはもうこっちのほうでも動いてはいるわけだけど、様子をみるとしよう。僕の偏見に満ちた白鷺さんでないことを祈りながらね」
「……そう、だね」
結局重い空気のまま、僕たちはお店を後にするとそれぞれ帰路に就くのであった。
(白鷺さん、中井さんの信頼を裏切ったら、絶対に許さないから)
心の中で白鷺さんにそう言いながら。
「父さん。ちょっといい?」
その日の夜、珍しく早く帰ってきた父さんと一緒に家族全員そろって夕食を食べ終えると、リビングでソファーに座ってくつろいでいる父さんに声をかけた。
「何だ、一樹」
「実は……」
僕は父さんの隣に座ると、僕はこれまでの経緯をすべて父さんに説明した。
「そうか……気づいてあげれなくて済まないな」
「あ……」
父さんは申し訳なさげな表情で僕の頭を抱き寄せると、優しく頭を撫でてくる。
小さいころ以来、そのようなことをされていなかっただけに、少しだけ恥ずかしくはあるが、どこか懐かしくもあった。
(いつまで経っても、親にはかなわないな……)
そう言う意味では親のすごさというのを感じるのであった。
……ただ
「うん! やっぱり、一樹はかわいいわね~!」
「……何してるの? 母さん」
先ほどからパシャパシャというシャッター音が、僕を正気に戻させる。
「一樹のかわいい写真を撮ってるのよっ! 家族の思い出としてね!」
「お願いだからやめて! さすがに恥ずかしいしッ! というか、それ、ただの趣味じゃん!!」
母さんにパシャパシャと撮られ続ける僕の醜態。
昔は一眼レフだったけど、今は携帯のカメラも進歩してきて、便利になったものだというのは母さんの言葉だ。
とはいえ、完全に母さんの趣味だけど。
「趣味とは失礼ね。いい? 自撮りは常に戦いなの。特にキラプリは戦争よ? 立ち位置一つ間違えれば、可愛く写らないの。さりげなく後ろに立ったり、ポーズをとって輪郭を隠して小顔に見えるようにしたり――――」
(あーあ、始まっちゃった)
間違いなく僕がキラプリを撮ることはないのだが、どういうわけか、母さんは時々自撮り……写真撮影の鬼になる
(可愛く撮るためって言っても……男の僕をかわいくって言うのも……ねえ)
アイドルじゃないんだからと心の中でツッコみを入れつつ、父さんと顔を見合わせると、苦笑を浮かべながら母さんの写真道の話を聞くのであった。
……小一時間ほどかかったけど。
次回あたりで、本章は完結しそうです。
この章で、一応パスパレ関連の話は終わると思います。
メインヒロインは誰?
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湊友希那
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氷川紗夜
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白金燐子
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今井リサ
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宇田川あこ