BanG Dream!~青薔薇との物語~ 作:TRcrant
第53話 コーチとして
事務所関連のごたごたを解決して数日ほど経ったある日の昼休み。
「うーん……こんなふうでいいのかな」
僕は、誰もいない音楽室で、音楽室でおにぎりを片手に唸りながら、ノートを見つめていた。
音楽室にいる理由は、騒がしい場所だと集中してできないからという理由で、ここで昼食をとっているのは効率的だからだ。
決して、孤独という意味ではない。
……たぶん。
「何がいいの?」
「それは、このノートの……」
そんな中、僕に話しかけてくる声に、自然に相槌を打つ僕だったが、すぐに違和感に気が付いて声のほうを見る。
「へぇ、色々書いてるんだねー」
そこには、いつの間に来たのか僕の隣の席に腰かけて、興味津々といった様子でノートを覗き見ている今井さんの姿があった。
「うわぁ!!」
「うわぁ!? な、何、何?! どうしたの?」
そんな彼女に、僕は思わず大きな声で叫びながら横に移動すると、それにつられて今井さんも驚いた様子で声を上げてあたりを見回し始める。
「い、何時からそこに!?」
「少し前だよ。たまたま通りかかったら、唸っている奥寺君がいたから、何してんのかなーって思って」
(き、気づかなかった)
それほど集中していたとも言えるのだが、さすがに隣に座られても気づかないのはどうかと思う。
「それって、練習の時に書いてるやつだよね?」
「まあ……そうだけど」
僕は最近、練習中によくノートを取るようにしている。
それはもちろん、彼女たちの演奏に関することを書き込んで、後々のアドバイスに役立てるためでもあった。
「ちょっと、見てもいい?」
「駄目」
そんな、今井さんのお願いを、僕は一言で切り捨てた。
「そんなこと言わないで、ちょこっとでいいから」
「ダメったら、ダメ」
なおも食い下がってくる今井さんに、僕は頑なに断る。
「奥寺君のケチ~」
「ケチとかケチじゃないとかじゃなくて、ここには個人情報並みのことを書いてるから、それをおいそれと人に見せることはできないって言ってるの」
頬を膨らませながら抗議してくる今井さんに、僕は分かるようにはっきりと説明して断る。
「それじゃ、アタシのだったらいいでしょ?」
「はぁ……わかったわかった。分かりましたっ」
どうしてそんなに見たいのかという疑問を抱きながらも、僕は今井さんのことについて書いてあるページを開くと、それを彼女に見えるように手渡した。
「ありがと。……へぇ、すごくたくさん書いてるんだ」
「……感じたことをすべて羅列してるだけだからね」
食い入るように見ながらつぶやく今井さんに、僕は相槌を打つ。
「この横の”〇”とか”△”って何?」
読んでいてわからなかったのか、疑問を投げかけてくる今井さんに、僕は簡潔に答えるべく口を開く。
「言うべきこととそんなに言うべきじゃないことを表してる奴だよ」
「こうしてみると、バツがいっぱいだよね~。えーっと、ベースの構え方を直すべき……これってどういうこと?」
わざわざ言う必要がないとしている物を選ぶ辺り、今井さんらしいなと思ってしまう。
「今井さんのベースの持ち方が、少し演奏を難しくしそうな感じにも見えたんだよ」
「へぇ……」
「構え方は大きく分けると二種類。効率重視の構え方と、魅せる重視の構え方があるんだ」
真剣な表情でこっちを見てくる今井さんに、僕はついつい口が乗ってしまう。
「前者は、演奏をする際に、ラグを生じさせないよう、演奏しやすい構え方に重きを置いているタイプ。基本的にはこれが一般的な構え方になってるんだけど、それとは別にライブを見ている観客を盛り上げることに、重きを置いてるタイプが、後者の構え方になるんだ」
「どっちが良いんだろ?」
「それは人それぞれ。今井さんがどういうスタイルで行きたいかによるから。だからこそ、これは言う必要がないって思ったんだよ。下手に言って変な風になるのもあれかなって思ったから」
基本的に、”×”にしているのはそんな感じのものだ。
感じたことをそのまま羅列していることの弊害のようなものかもしれない
「………」
「な、何?」
そんなことを思っていると、今井さんが僕のことをじーっと見つめていることに気づき、僕は若干彼女から距離を取りながら声をかける。
「なんだか、奥寺君が真剣にやってるのが意外だなって思って。あ、別に悪い意味で言ってるんじゃないよ。ただ、奥寺君って教えることに消極的な感じがしたから」
なんとなく言いたいことは分かる。
コーチになって最初の時のことを指しているのだろう。
「あの時は、今だから言うけどあまり乗り気ではなかった。それは、嫌だからというよりは……そう、”怖い”から」
「怖い? 友希那が?」
僕の言葉に、今井さんは人のことだと思ったのか、湊さんの名前を出してきたので、僕は首を横に振ってそれを否定する。
「知ってると思うけど、僕は幼馴染の森本さん達と一緒にバンドをやってるんだよ」
「あー、ムーンライト何とかってやつだよね。とっても良かったよ」
やはり、ちゃんと名前を憶えられてないんだなと思いつつ、僕は感想を言ってくれた今井さんにお礼を言うと話を続けた。
「昔、僕は練習が原因で、メンバーを病院送りにしたことがあるんだ」
「えっ……」
僕の告白に、信じられないという表情で、今井さんは僕の顔を見る。
「あの時は、加減が分からなかったから、僕は自分の求める演奏ができるまで、みんなを徹底的に締め上げ続けた。その結果、ノイローゼになって入院することになったんだ」
「……」
それは僕の犯した罪だ。
「それでも、軟弱者としか思ってなかったから、僕は退院した日に練習に引きずって行って、同じ練習をし続けたんだ」
「そ、それで……どうなったの」
「また病院送りにさせようとしたときに、ドラムの人が怒ってバラバラになっちゃった」
真剣な面持ちで、先を促す今井さんに、僕は軽い口調で言う。
『お前はミュージシャンじゃねえ。ただの人殺しだっ』
あの時、田中君に言われた言葉は、僕の心の中に今でも残り続けている。
「まあ、色々あって仲直りして今に至るわけだけど。僕は今でもあの練習方法を間違いだとは思っていない。加減を間違えたけど、それを除けば効率的な練習方法だと信じている。まあ、あの一件以来封印してるけど」
「……」
「正直、今井さんたちがどこまで耐えられて、どこからが無理なのかがわからない……それにみんな真剣だから、僕もつられちゃうんだよね。そして、入り込んで封印を解いてしまう……だから、怖いんだ」
僕はまだ、彼女たちのことを知っていない。
どこまでの要求や指摘に、耐えられるかの加減もわからないのだ。
あの時は、止めてくれる人がいた。
今もそれは変わらない。
だからこそ僕は安心して練習の時に指摘をすることができる。
でも、Roseliaにはそれがない。
万が一のことが起こることだって、ありうるかもしれないのだ。
それは、彼女たちの練習に立ち会ってさらに強まっていた。
「友希那もあこたちも、応えられると思うよ」
「……それは、今後ゆっくりと様子を見ながら探っていくつもり。皆の力になれるように、ね」
「うん……奥寺君、ファイト♪」
最終的には練習を見る相手にエールを送られてしまったが、これはこれでいいのかもしれない。
「あ、最後に一つだけ」
「え、何?」
ちょうどいい機会だと思った僕は、今井さんに一つだけ釘をさしておくことにした。
「僕の邪推だったら謝るけど、今井さんってもしかして、演奏が下手なのをブランクがあるから仕方がない……的な言い訳にはしてないよね?」
「あはは……言い訳にしてるつもりはないんだけどな~」
僕の問いかけに、今井さんは苦笑しながらどっちとも取れる答えを返してくる。
「もし、そうだとしたらすぐに改めて。ステージの上に立った瞬間、初心者もプロも関係なく、同じ奏者になる。観客だって、今井さんの身の上話を聞きに来ているわけじゃない。今井さんが奏でる演奏を聴きに来ているんだ。それに応えるためにも、いつだって全力で演っていかなければいけない。言い訳なんて、もってのほかだよ」
「うん。………そう、だよね。ありがと、奥寺君。アタシ、頑張ってみるよ」
言ってしまってよかったのかとも思ったけど、それでも今井さんの前向きな言葉は、僕の不安を吹き飛ばしてくれるのに十分だった。
でも、この時の僕はまだ気づいていなかった。
Roseliaの崩壊のカウントダウンが、始まっていたということを。
BanG Dream!~青薔薇との物語~ 第6章『崩壊』
これより、第6章の始まりです。
どのくらいの長さになるかは不明ですが、たぶん2~4話程度かなと思っております。
メインヒロインは誰?
-
湊友希那
-
氷川紗夜
-
白金燐子
-
今井リサ
-
宇田川あこ