BanG Dream!~青薔薇との物語~   作:TRcrant

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第55話 感じる気持ち

「一樹、何をやって……あら、あなたは、日菜ちゃんじゃない」

 

どうしたらいいのか困惑している僕のもとに、いつまで経っても戻ってこないことを不審に思った母さんが様子を見に来ると、僕の体にしがみついて泣きじゃくっている日菜さんを見つけて意外だと言わんばかりに声を上げた。

 

(あ、やっぱり紗夜さんに妹がいることを知らないのは、僕だけだったんだ)

 

それはそれでどうかと思うが、そんな関係のない感想を心の中でつぶやけるほどには、冷静になることができた。

 

「ひっく、ひっく……ごめんなさい、おばさん」

「大丈夫よ。一樹、いつまでもそこに立たせてないで、中に上がってもらいなさい。あと、私のことはお姉さんって呼んでね、日菜ちゃん」

 

母さんに言われて、僕は日菜さんに上がってもらうことにした。

 

(やっぱり、こだわってるんだね。それ)

 

前に紗夜さんにも同じことを言っていた母さんの言葉に、僕は内心でそう呟くのであった。

 

 

 

 

 

 

「……」

「……」

 

リビングに案内して適当な席に座ってもらったまではいいものの、お互いに無言という気まずい雰囲気になっていた。

母さんは日菜さんと僕に飲み物を出すと、すぐに台所に引っ込んでしまった。

こういうことは僕が何とかしろ、ということだろう。

そうは言われても、ここに来た理由を口にしようともせずに押し黙っている日菜さんを相手に、どうしろというのだろうか?

 

(いや……ここに来た理由なんて一つくらいしかないじゃないか)

 

前に、僕が日菜さんに言った『紗夜さんと何かあったら来てもいい』という言葉を受けてだろう。

なら、何が起こったかなんて想像に難くない。

それでも、僕にはそれを聞くことはできなかった。

これは家族の問題。

それに他人の僕が踏み込んでもいいのか。

そんな不安な気持ちが僕を押しとどめていた。

 

「……練習、する?」

「え?」

 

色々と考えた結果、出てきたのはそんな言葉だった。

 

「悩んでいるばかりだと、気が滅入るでしょ。だったら、練習でもしていれば気がまぎれると思うんだけど」

 

そこまで言って、自分は地雷を踏みに行っていることに気づいた。

日菜さんが入っているバンド(いや、厳密には違うんだけど)の、Pastel*Palettesは現在、活動休止中だ。

理由が理由なだけに、あまり触れていい部分ではないのは明らかだ。

とはいえ、もう言ってしまったことは取り消せない。

僕は、日菜さんの反応を伺う。

 

「……そう、だね。うん、練習するっ」

 

どうやら、ぎりぎりセーフだったようだ。

もしくは、アウトだったのを日菜さんがセーフにしてくれているかのどちらかか。

いずれにせよ、日菜さんもやる気のようなので、それに乗ることにした。

 

「あ、でもあたしギター持ってきてないよ」

「それなら、僕のでよければ貸すけど」

 

日菜さんの言葉に、僕はそう提案をする。

思い付きの提案なので、こういうところでぼろが出るのだ。

 

「いいの?」

「日菜さんが良ければ」

「じゃあ、借りるっ」

 

とりあえず、日菜さんのほうは大丈夫そうなので、このまま強引に行くことにした。

 

(ギターが練習スタジオにあるのは、ある意味ラッキーかな)

 

この状況で自室にギターを取りに行くのは、僕的にはあまりありえないと思っていたので、そういう意味ではある意味幸運だった。

 

「でも、どこで練習するの?」

「ちょっと待ってて」

 

自ずと行き着く疑問に、僕はそう返すと本棚のほうに歩み寄って、仕掛けを動かした。

 

「うわぁ! すごいすごいっ! まるでからくり屋敷みたいで、るんっ♪ってする!」

 

(やっぱりそういう反応になるよね)

 

普通一軒家に、このようなからくり仕掛けがあるなんても想像できないのだから、こういう反応をされるのは、ある意味当然のことでもあった。

 

「ついてきて」

 

このままだと床が閉じてしまうため、僕は目を輝かせる日菜さんに声をかけると、階段を下りていく。

そして重厚感のあるドアを開けて、明かりをつければ、そこにはいつも見慣れた練習スタジオがあった。

 

「うわぁ……」

「はい。もうアンプにつなげてるから、すぐに弾けるよ」

「ありがとー」

 

目を輝かせてスタジオを見渡す日菜さんに、僕は自分のギターを手渡す。

ギターを受け取った日菜さんはストラップを肩に通して演奏の準備を整える。

 

「それじゃ、軽くこの曲を弾いてみてくれる?」

 

僕はTAB譜を日菜さんに見える位置に置きながらそう告げる。

それは、今練習中の曲で難易度としてはそんなに難しくない楽曲だ。

 

「うん、わかった」

 

僕の言葉に頷いた日菜さんが、演奏を始めようとピックをストロークさせる。

だが、出てきた音は日菜さんが想像していたのとは全く違うものだった。

 

「あれ?」

 

首を傾げながらも、もう一度ギターを弾くが、出てくるのは先ほどと同じ音色だった。

 

「あれれ?」

 

(やっぱりそうなるか)

 

もしかしたら、このギターを扱える人は僕ぐらいなのかもしれない。

 

「むぅ……」

 

そんなことを思っている僕をしり目に、日菜さんは真剣な面持ちで何度も何度も弦を弾き続けていた。

そんな彼女の姿に、僕は声をかけずに見守っておくことにした。

 

 

 

 

 

それから、数十分程の時間が経った時だった。

 

「っ! できたぁっ!」

 

日菜さんは出だしの音で正しい音色を奏でることができたのだ。

最初はまぐれかと思ったが、その後に続けて奏でるその音は、とても正確だった。

若干テンポが遅いというのはあるが、それも克服するのは時間の問題であった。

 

(うそ……)

 

だが、それは僕に少なからず衝撃を与えるのに十分だった。

 

(僕ですら、そこまで行くのに数か月かかったのに)

 

慢心していたわけでも、侮っていたわけでもない。

僕よりも上はいるというのも理解していたつもりだ。

だが、実際に目の前でそれを見せられた時の驚きは、凄まじいものだった。

その驚きは、一瞬ではあるものの僕の中に負の感情を抱かせる。

 

「……? 一君どうしたの?」

「あ、いや。何でもない。それよりも、今のところだけど―――」

 

首を傾げて聞いてくる日菜さんに、平静を取り繕うように答えた僕は、先ほどの演奏で気になったところを日菜さんに指摘していく。

さっき感じた負の感情。

それに名前を付けるのであれば、それは”嫉妬”だろうか。

僕は、日菜さんに嫉妬したのだ。

 

(なんとなく、紗夜さんの気持ちわかるような気がするよ)

 

何か月もかけて進んだ道のりをわずか数十分で進まれた時の、何とも言えない脱力感。

確かに紗夜さんが、あのような感じになってしまうのも無理はない。

でも……

 

(僕は貴女じゃない)

 

僕は紗夜さんのようにコンプレックスを抱くことはない。

嫉妬にも呑まれない。

なぜなら、僕にはこれまで歩んだ時間の経験値と、そして自信があるから。

だから僕は、一瞬嫉妬はしたけれど、それをばねに頑張って行こうという気持ちを抱いていけるのかもしれない。

この日の練習で、僕は自分と同じレベルのギターリストと出会うことができた。

その出会いは、これからの自分の励みになるものだった。

そんなことを感じたある日の夜の出来事であった。

メインヒロインは誰?

  • 湊友希那
  • 氷川紗夜
  • 白金燐子
  • 今井リサ
  • 宇田川あこ
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