BanG Dream!~青薔薇との物語~ 作:TRcrant
第56話です。
「一樹、ちょっといいか?」
「え、なに?」
放課後、家の練習スタジオでの練習の休憩時間、田中君が真剣な面持ちで僕に声をかけてくると、離れた場所に行くように促してくる。
話しかけてくるのは珍しいというわけでもないのだが、真剣な面持ちで話しかけてくるのはかなり珍しいことでもある。
「それで、用件は?」
とりあえず僕は田中君に指示された場所に移動すると、少しだけ身構えながら用件を尋ねる。
「この間、サポートの仕事をしているときに、ちょっとばかり嫌な話を小耳にはさんだもんでね」
「嫌な話?」
田中君のもったいぶった口調に、じれったさを感じた僕は、先を促す。
「湊友希那が、音楽事務所からスカウトを受けているらしい」
「あー……まあ、あのクラスになればスカウトの一つや二つ、あってもおかしくないと思うけど」
真剣な面持ちで口を開く田中君に、僕はどこか間の抜けたような返事をした。
湊さんは”孤高の歌姫”と呼ばれているほどの実力を持っている。
ならば、スカウトが来たとしてもそれは何も不思議ではない。
むしろ、こないほうが不思議なくらいだ。
バンドを結成したからと言って、スカウトが来ないというわけではない。
僕たちが巻き込まれた芸能事務所の脅迫事件も、大雑把に言ってしまえばスカウトの一つでもあったりするのがそれだ。
はっきり言うと、あれはあれで迷惑の極みではあるし、思い出したくないので特に話題にもしないけど。
笑い話で済むことと、すまないこともあるという典型例と言っても過言ではないであろう。
まあ、一般的に考えても、入院騒動にまで発展した一件を笑い話にするのはかなり無理があったりするわけだけど。
それは置いとくとして、引き抜きという形で招き入れようと考えている者もいるにはいるのだ。
実際に、それでバンドを抜けて別のバンドに移籍したという話はよく聞くし、何らおかしいことでも珍しいことでもないのだ。
「ああ、確かにこれまでは彼女はスカウトは門前払いだったそうだが……」
「……もしかして、受け入れた?」
言葉を濁す田中君の様子に、僕はもしやと思いそう尋ねる。
「いや。それはないみたいだ。だが、どうも今回は感度はいいという話しだ」
「………そのスカウトをした人たちの誇張という可能性は?」
考えられる可能性は、ほかのスカウトをする人への牽制目的に嘘の情報をあえて流すということ。
特にメリットもないが、他のスカアウトをする人たちに声を掛けさせ辛くさせる可能性は十分考えられる。
「いや。それは低いな。根拠は特にねえからあれだが」
「だとすると……そう言うことになるのか」
今思いつく限りで、噂の否定をできる材料はない。
ない以上は確定と見るしかないのだ。
「どうする? これはさすがにやばいだろ」
「そうだね。バンドリーダー……しかも発起人が鞍替えはかなりまずい」
バンドを抜けて別のバンドに移籍するのは珍しくもおかしくもない。
それは確かだ。
だが、それをバンドリーダー……ましてやそのバンドの発起人がやるのはかなり意味合いは違う。
はっきり言って、印象は最悪を通り越している。
自分で作ったグループを抜けてよそのグループに入ろうとしているのだから。
「どうする?」
「こっちで動くか、それとも放置するか……か」
田中君の問いかけは、僕の今後の動きを聞くものだ。
「俺は、動くべきだと思う。一樹がRoseliaのコーチを続けたいと思うのであれば、なおさら」
田中君の言うことは分かる。
うわさを否定できる才良がない今、最悪の場合に備えてこちら側でもできる限りの手を打つというのは、バンドのメンバー……コーチとしては取るべき行動だ。
だが……
「下手に動けばこちら側にも火の粉が飛ぶ……」
干渉するということはそれによって起こる問題への対処も、当然こちら側は行う義務が生じる。
それはそれで少しばかりリスクが高い。
(ここは様子見をしたほうが最善なんだけど、だからといって放置というのも……)
今、僕は重大な選択を迫られていた。
「それとなく動いて、あとは様子見……それしかないか」
「………もし力になれることがあれば言ってくれ。できる限り動いてみる」
僕のつぶやきを聞いた田中君の提案に、僕は”ありがとう”と返すのであった。
翌日の休み時間。
僕は廊下を歩いてある場所に向かっていた。
そこは『2年A組の教室』だ。
今井さんたちのクラスでもある。
「あれ、奥寺君じゃん」
「今井さん」
教室まであと少しというところで、後ろから声を掛けてきたのは今井さんだった。
「どうしたの? アタシのクラスに用?」
目的の人物が自ら話しかけてくるのはかなりこちらからすれば好都合だ。
「うん。ちょっと今井さんに確認したいことがあって」
「え、アタシ!?」
まさか自分に用があったとは思っていなかったのか、驚いた様子で声を上げる意味さんに、僕は無言で頷く。
「湊さんのことなんだけど」
「もしかして、友希那ともっと親密になりたいー……みたいなこと?」
「違う」
なんだか”親密”の部分をやけに強調して興味津々に聞いてくる今井さんに、僕はバッサリと否定した。
思いっきりはっきりと言っておかないと後々面倒ごとになりかねないのは、森本さん達で嫌というほど学んでいる。
「それはそれで、幼馴染としてちょっと複雑なんだけど……じゃあ、一体何?」
何とも言えない複雑そうな表情でつぶやいた今井さんは、僕に用件を尋ねてくる。
「あ、うん。湊さんに、最近変わった様子とか……あったりする?」
「っ!?」
僕の問いかけに、一瞬今井さんの表情が変わったのを、僕は見逃さなかった。
「べ、別にないけど……何かあったの?」
「いや。ちょっとばかり変な話を小耳にはさんだだけだから気にしないで」
何かをごまかすように答えて聞き返してくる今井さんに、僕は肝心の話をしないで答えた。
これを言うと、完全にこちらに火の粉が飛ぶことにもなる。
下手に関われば、それの責任も生じる。
「そう? だったら、良いんだけど……ねえ、ちなみにそれって――」
お互いに牽制をし合っているような空気の中、今井さんが口を開くのと同時に、授業の始まりを告げるチャイムが鳴り響いた。
「ごめん。授業があるから、また」
それ幸いといわんばかりに、僕は足早にその場を後にした。
今井さんも、チャイムが鳴ったことで呼び止めることはしなかった。
(これで、よかったのだろうか?)
そんな疑問が脳裏をよぎる。
結局、僕は放置を選択したのだ。
(でも、意味はあったと思う)
今井さんも、湊さんの違和感に気づいている様子が見受けられた。
その違和感が、どうしてなのかをわかっているのかどうかはわからないが、それでも気づいているのといないのとでは大きく違う。
これは、幼馴染であるということの強みが出ている表れでもあるのだ。
(このままあの二人の間で話がまとまってくれればいいんだけど)
幼馴染であれば、問題の解決の糸口を見いだせる可能性は高い。
僕の時がそうであったように、彼女たちもそうだろう。
もしうまくいけば、それでいい。
僕はそう思いながら教室に戻るのであった。
この時の僕の選択が、取り返しのつかない事態に発展するとも知らずに。
一番笑ったのは、サブタイトルの誤字で『不穏な噂』を『不穏なうわあ』にしていたということだったりします(苦笑)
メインヒロインは誰?
-
湊友希那
-
氷川紗夜
-
白金燐子
-
今井リサ
-
宇田川あこ