BanG Dream!~青薔薇との物語~   作:TRcrant

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大変お待たせしました。
第57話です


第57話 崩壊

それは、数日後の休日のこと。

この日は、HPの練習がある日だったのだが、田中君達の急な用事が重なったことでお休みとなり、僕は暇を持て余していた。

 

「……どうせだし、Roseliaの練習のほうに顔を出そうかな」

 

湊さんから教えてもらった練習スケジュールでは、今日も練習があるのは確認済みだ。

日曜祝日は、こっちのバンドの練習を優先するという約束だったが、こっちのほうが中止になったのだから、その時間は彼女たちのほうに割くべきだろう。

 

「とりあえず、湊さんに確認しておくか」

 

僕は確認を取るため、湊さんの携帯に電話をかける。

 

「……出ないな」

 

呼び出し音は鳴るのだが、一向に出る気配がないため、いったん電話を切って、別の人物に電話をすることにした。

 

『は、はい! なんですか、一樹さん?』

「ごめんね。実は――――」

 

掛けた相手は紗夜さんだった。

なんだか慌てた様子なのが気になるが、とりあえず僕は事情を説明する。

 

『そう言うことでしたら、かまいません。ですが、意外ですね』

「え、何が?」

 

紗夜さんから二つ返事でOKが出たのはよかったのだが、紗夜さんの言葉に引っかかりを覚えた僕は、詳しく聞いてみることにした。

 

『一樹さんが、湊さんではなく私に確認することが、です。あなたならこういう確認は湊さんにすると思っていたので』

「あー、それはさっき電話を掛けたんだけど出なかったからだよ」

 

なんだか言い訳がましいなと思いながらも、僕は事情を話した。

 

『そうですか。それよりも、もしよかったら……その……』

「一緒に行かない? 同じ場所に行くんだし、そのほうがいいと思うんだけど」

 

紗夜さんが何かを言いかけてはいたが、声の感じからして少し長くなりそうだったので、先に僕のほうから提案させてもらうことにした。

 

『ッ! し、仕方ありませんね。では、今から30分後に家の前で待ち合わせましょう』

「あ、うん。それじゃ……」

 

待ち合わせの時間を決めて、僕は電話を切った。

 

「……今日の紗夜さんは、なんだか変だな」

 

なんだか声が弾んでいるような気がしたが、一体何がそんなに嬉しいのだろうか?

 

(まるでデートをするような感じだったけど。僕に限ってそれはないよね)

 

自惚れるのもたいがいにしろという物だろう。

 

「さてと。準備しますか」

 

僕は手早く自分の楽器やノートなどを持つと、自室を後にするのであった。

 

 

 

 

 

「すみません。お待たせしました」

「ううん。全然待ってないよ。……それじゃ、行こうか」

 

紗夜さんの家の前で待っていた僕は、玄関から姿を現した紗夜さんと言葉を交わしながら、スタジオに向けて足を進める。

 

「「……」」

 

その道中、僕たちに会話はなかった。

 

(うー、気まずい)

 

よくよく考えればこれまで僕の隣は大体森本さんか中井さん達で、それ以外の人物といつもの道を歩いたことはあまりなかった。

 

(とはいえ、何か話したほうがいいよな)

 

「「あのっ!」」

 

雰囲気を変えようと口を開いたのだが、どういう偶然か紗夜さんのと重なってしまった。

 

「ごめん、紗夜さんからどうぞ」

「いえ。私よりも一樹さんがお先に」

 

そして始まる用件を話す権利の譲り合い。

 

「いやいや、僕の話なんてくだらないから、紗夜さんからでいいよ」

 

本当は話す内容が決まっていないのだが、それは言わないでおこう。

 

「それでしたら、私の話もかなりどうでもいいので、一樹さんからどうぞ」

 

お互いに中々引こうとしない。

そんな駆け引きを続けていると、

 

「「っぷ」」

 

どちらからともなく思わず吹き出してしまった。

 

「ふふ。私たち、一体何をしてるのかしらね」

「あはは。なんだか、これ自体がくだらないね」

 

思いも揺らぬ形ではあったが、気まずい雰囲気はなくなったんだから、結果オーライということだろう。

そうして、余裕ができた僕は、あることに気づいた。

 

「紗夜さん? なんか香水つけてる?」

 

紗夜さんのほうからほのかに漂う香りに、僕は気になったので聞いてみた。

 

「え? ええ。そうだけど……何か?」

「あ、いや。ただ練習に行くだけなのに、香水つけるなんていつもの紗夜さんらしくないなって思って」

 

いつもの彼女なら、練習だけで香水とかをつけるようなことはしないので、気になったのだ。

 

「そ、それは………一樹さん―――ら」

「え? 僕が何?」

「ッ! な、何でもありませんっ! 早く行きますよっ!」

 

僕の名前が出てきたので、聞いたのだが、紗夜さんは顔を赤くしながら言うと、歩く速度を上げだしたので、僕はそれに追いつくように歩く速度を上げる。

 

(僕、何かしたのかな?)

 

自覚はないのだが、もしかしたら彼女に対して何かをしてしまった可能性もある。

 

(とはいえ、わからないことを謝っても……ねえ)

 

謝るからには、悪い点を理解しておきたいのが本音だ。

こうして、僕たちは練習スタジオへと向かっていくのであった。

 

 

 

 

 

「おはようございます」

「おはよー☆ 紗夜。って、あれ、奥寺君も一緒なんだ」

「うん。ちょっとスケジュールに穴が開いたからね」

 

意外と言わんばかりにこっちを見ながら言ってくる今井さんに、僕は予定がなくなったことを伝えた。

 

「そうなんだ……って、紗夜。香水つけてどっかに行ってきたの?」

「べ、別にどこにも行ってないです。これは……身だしなみですっ」

 

さっきの僕と同じ問いかけをする今井さんに、紗夜さんは顔を赤くしながら答えた。

 

「えー、なんだか怪しいな~。もしかして二人でデートとかだったり?」

「違うよ。一緒に来ただけだから」

「そ、そうですよ」

 

どうして香水一つでデートになるのかはわからないけど、僕は間違いを訂正しておいた。

……そうでないと紗夜さんにも迷惑だろうし。

だが、そこでふと気になることがあった。

 

「今井さんだけ?」

 

スタジオにいたのは今井さんだけだったことだ。

 

「うん、そうなんだよね。いやー、アタシが一番乗りって珍しいことがあるもんだよね~」

「はぁ……珍しいことで済まさずにこれからもそうなるようにしてください」

 

軽い口調で答える今井さんに、ため息交じりで言う紗夜さんに今井さんは”はーい☆”と、これまた軽い感じに返事をする今井さんに、紗夜さんはギターケースをスタジオの端に置いてギターを取り出すと、セッティングを始めた。

 

(本当に珍しいこともあるもんだ)

 

いつもであれば、一番乗りは自主練に来ている湊さんのはずなのに。

違和感は感じたが、とりあえず僕はいつもの壁際のほうを陣取って、来ていない三人が来るのを待った。

 

「遅いですね……」

 

練習開始の時間からすでに5分ほど過ぎているが、いまだに誰も来ていない。

 

「うん、もう時間だけど……ちょっと三人にメールしてみるね」

 

(何か事件にでも巻き込まれた? もしくはただの偶然か……)

 

色々な可能性が頭の中を駆け巡る中、僕たちは三人が来るのを唯々待つことにした。

 

「ごめんなさい、遅れたわ」

「湊さんが遅れるなんて、珍しいですね」

 

湊さんがスタジオにやってきたのは15分ほど過ぎた頃だった。

やや急いだ様子で入ってくる湊さんに、紗夜さんはいつも通りの口調で声を掛けた。

 

「ごめんなさい。……燐子とあこは?」

 

こちらにちらっと視線を向けた湊さんは、興味をなくしたのかいまだに来ていない二人のことに疑問を投げかけた。

 

「二人も遅れてるみたい。さっきこっちに向かってるって返信が来たから、遅れてるだけ見たい」

「そう……」

 

湊さんの疑問に答える今井さんの言葉に、湊さんは静かに返すと、彼女もまたセッティングを始める。

そして、それからさらに15分後。

 

「「ごめんなさいっ」」

 

あこさんと白金さんの二人が、慌てた様子でスタジオに駆け込んできた。

 

「30分の遅刻よ。あなた達やる気あるの?」

 

そんな二人に、湊さんからきつい言葉が飛んでくる。

 

「ご、ごめんなさいっ」

「あはは、そう言う友希那も15分遅れてきてたけどね」

 

”いやー、珍しいことがあるもんだねー”と二人のフォローを兼ねて軽い口調で言う中、

 

「いいですから、早く準備をしてください。このロスを取り戻さないと」

 

少々いらだった様子の紗夜さんの一喝が飛ぶ。

……だが、二人の様子がどうにもおかしい。

まるで何か後ろめたいことがあるような感じで、表情に影を落としていた。

 

「なーに、辛気臭い顔してんの? 紗夜先生が怒るのなんていつものことじゃん☆」

「ちょっ―――今井さんっ!!」

 

今井さんの言葉に、紗夜さんが顔を赤くして声を上げるが、怒った様子はなかった。

紗夜さんが変わってきたのかそれとも、何を言っても無駄だと諦めたからかは知らないけど。

 

「真面目にやってください。コンテストの日まで、刻一刻と迫ってきてるんですから」

 

(おかしい。何かがおかしい)

 

いつにもまして、スタジオの雰囲気は重いのだ。

三人の遅刻程度で考えすぎだとは思うのだが、それでも不安を感じずにはいられなかった。

湊さんも、どこか様子がおかしいし、あこさんたちは顔を見合わせているし。

 

「……二人とも、どうしたの?」

 

今井さんも、二人の様子にただならぬ何かを感じたのか、心配そうな表情を浮かべながら二人に声を掛ける。

 

「やる気がないなら、か――――」

「あこ、見ちゃったんですっ」

 

紗夜さんの一喝を遮るようにして、あこさんが声を上げた。

 

「何をですか?」

「ゆ、友希那さんがスーツを着た女の人と、ホテルで話していて……」

 

詳しく聞こうと続きを促す紗夜さんの言葉に応えるあこさんの言葉に、湊さんの体が一瞬震えたように見えた。

 

(スーツの女性…ホテル……)

 

あこさんの口から出た単語に、僕の脳裏にこの間の田中君とのやり取りを思い出させる。

 

「だから、なんですか? 湊さんにだってプライベートはあるでしょう?」

「あ、あこちゃん」

 

紗夜さんの言うとおり誰だってプライベートはある。

その時に誰と会おうが彼女の自由だ。

だが、必死に止めようとする白金さんの様子や、あこさんの思いつめた様子が、ただ事ではないことを告げていた。

 

「そ、そうですけど……でも、あこ『自分だけのカッコいいもの』のために頑張ってきて……コンテストに出られないなんて絶対嫌だもんっ!!」

「……どういうことですか?」

 

あこのその叫びに、紗夜さんの表情が変わった。

 

「実は、さっき―――」

 

紗夜さんの問いかけに、あこさんがぽつりぽつりと何があったのかを話し始める。

あこさんの話によると、湊さんと女性がホテルで話をしていたとのこと。

その内容はスカウトの話だった。

そこまでは田中君から仕入れていた情報通りだった。

だがその際に、女性が『フェスに一緒に出ないか』という言葉を口にしたらしい。

しかも、Roselliaで生真面目にフェスに出る必要もないという言葉つきで。

 

(だから、感度がよかったのか)

 

理由は分からないが、湊さんにとってFUTURE WORLD FESに出場することは絶対の目標でもあり、大きな意味を持つ。

それを餌にスカウトすれば、食いついてもおかしくない。

 

「……宇田川さんの話は分かりました。湊さん、今の話に相違はありますか?」

 

話を聞き終え、重苦しい雰囲気に包まれる中、静かに口を開いたのは紗夜さんだった。

 

「……」

 

紗夜さんの言葉に、湊さんは俯いたまま何も答えようとはしない。

 

「……自分一人、フェスのステージに立てれば良い……そう言うことですか?」

「……ッ」

 

何かをこらえるように言う紗夜さんの言葉にも、湊さんは何も答えようとはしなかった。

 

「否定、しないんですね。だったら―――」

「ち、ちょっと待ってよ。友希那にだって何かわけが……ねえ、友希那」

 

紗夜さんの言葉を遮るようにして湊さんに事情を聴こうとする今井さんの言葉にも、湊さんは無言を貫いていた。

……いや、口を開かずとも、十分なほどすべてを物語っていた。

 

「『私たちなら頂点を目指せる』なんて言って私たちを持ち上げて……フェスに出ることができれば、誰だってよかったってことじゃないですかっ」

 

これまで堪えていたであろう怒りが爆発したかのように怒りをにじませた紗夜さんの言葉は、徐々に周囲にも影響を与えていく。

 

「そんな……じゃ、あこたちを認めてくれたのも……フェスに出るための嘘……だったの?」

「あ、あこちゃんそうだとは―――」

「ひどいよ、友希那さんっ!」

 

紗夜さんの言葉に涙ぐんで口を開くあこさんに、白金さんが必死になだめようとするが、あこさんはそう言い放ってスタジオを飛び出してしまった。

 

(これで、終わりか……あっけないもんだな)

 

もはや、Roselliaは空中分解。

どうすることもできない状態だ。

こうなることなど分かり切ってはいたが、だとしても実際に起こるとあっけないほど

あっさりだった。

 

「湊さん。私はあなたの信念をとても尊敬していました。だからこそ私も………とても失望したわ」

 

静かにつぶやかれたその言葉は、やけにスタジオ内に響き渡ったような感覚を覚えるほど、印象的なものだった。

 

「ま、待って紗夜―――」

 

今井さんの呼び止めにも応じずに、そのまま紗夜さんはスタジオを去って行った。

残されたのは、僕と湊さんと今井さんの三人だけ。

 

「友希那! ねえ、今の話は本当なの!?」

「……だったら何?」

 

今井さんの問いかけに返ってきたのは、ある種の開き直りとも取れる言葉だった。

 

「……帰る」

「ち、ちょっと待ってよ。友希那にも事情があるから、それを聞いても―――」

 

これ以上ここにいても時間の無駄だ。

何より、これ以上この場にいたくない。

そう思ってギターケースを背負ってスタジオを出ようとする僕を、今井さんが必死に引き留めてきた。

 

「あのさ。別に僕は湊さんがどう決断しようがどうでもいいんだよ。移るなら移るでさようなら。断ったなら断ったで、これまで通りにするだけだし。なのに、湊さんは無言を決め込んで、挙句の果てに開き直る……そんな誠意のかけらもない対応をするような人の何を聞けばいいの?」

「それは……」

 

僕の言葉に押し黙る今井さんに、僕は彼女たちに背を向ける。

 

「サポートで一緒に演ったステージの時、湊さんの背中はとても凛々しくて格好良かった。今だから言うけど、この人だったら、僕がどんな音をぶつけても大丈夫だって思ったぐらいにすごいって思ったよ」

「………」

 

僕はそこでいったん言葉を区切る。

その時も湊さんは、何も言おうとはしなかった。

 

「でも、今の湊さん……ものすごく無様で、カッコ悪いよ……正直、がっかりだ」

 

僕は、それだけ告げるとそのままスタジオを後にした。

 

 

 

 

 

外に出た僕は、静かに空を仰ぎ見る。

清々しいほどに青い空とは裏腹に、僕の気分はあまりよくない。

 

「はぁ……」

 

思わず深いため息が漏れてしまう。

こうして、Roselliaは空中分解という最悪の結果で、終わりを迎えるのであった。

 

 

第6章、完。




話しの落としどころがつかめず、少々長くなってしまいました。

メインヒロインは誰?

  • 湊友希那
  • 氷川紗夜
  • 白金燐子
  • 今井リサ
  • 宇田川あこ
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