BanG Dream!~青薔薇との物語~ 作:TRcrant
第58話になります。
あとがきのほうで、大事なお知らせがありますので、ご一読いただけると幸いです。
それでは、本篇をどうぞ。
第58話 選択
湊友希那の一件から数日が経過した、ある日の放課後。
この日はHPの練習の日であり、いつものようにバンドの練習をしていたのだが……。
「……はぁ」
今は休憩時間。
僕はリビングのソファーに腰かけて、一人深いため息をつきながら、水分補給をしていた。
ここ数日、僕の気分はあまりよくはなかった。
体調が悪いということではなく、ただ単に気が重いだけだ。
「どうした一樹」
「……田中君か」
そんな僕に声を掛けてきたのは、田中君だった。
「えらい言い草だな。心配して声かけたっていうのに」
「……」
僕の口調に、やれやれと言わんばかりにつぶやきながら、僕の隣に腰かけた。
「で、どうしたんだよ?」
「………隠しても無駄か」
「そうだな」
幼馴染ともなると、お互いに隠し事ができなくなるのは考え物だ。
「Roselliaの件か?」
「……実は」
しかも、原因まで見当がついているようで、僕は事の経緯をすべて田中君に説明した。
田中君からもらった情報が正しかったこと。
そして、それがきっかけとなって空中分解に至ったこと。
そのすべてを、田中君は口をはさむことなく静かに聞いていた。
「………なるほど」
やがて、すべてを話し終えると、田中君は絞り出すようにそう呟いた。
「まあ、そう長くはもたないとは思ったが、こうもあっさりだと逆に恐ろしいな」
Roselliaはそう長くはない。
いずれ空中分解して終わりを迎える。
それは僕も田中君もわかり切っていたことだ。
僕も、過剰な練習をメンバーに強いて、空中分解を起こすのではないかと予想していたのだが、スカウト関連になるとは思ってもいなかった。
とはいえ、終わりは終わりだ。
(あそこまでこじれると、立て直すのはかなり難しい)
もちろん、軌道修正をすることは可能だ。
可能なのだが、それができるのはこの世界で、ただ一人しかいないのだ。
「で、お前は何を悩んでるんだ? いくら知り合いがいるバンドだからって、そこまで思い悩むようなタイプじゃないだろ」
「……失礼な。僕だって、少しは思い悩むことはあるよ」
最後に、行動には移さないけど、と付け加えると田中君は苦笑しながら
「俺が言ったのと同じじゃん」
と相槌を打ってくる。
「あの時……スカウトの件を田中君から聞いた時の僕の判断は、正しかったのかなって……」
「……」
「僕はあの時、様子見を選択した。それは本当に正しい判断だったのかって、思っちゃうんだよね」
下手に手を出せば、こちら側にもとばっちりが来る。
正直、Roselliaにはそのリスクを被ってまで手を出すメリットは感じられない。
だからこそ、僕は様子見を選んだのだ。
自分たちのバンドを守るために。
でも、もしうまく動けていたなら、彼女たちの未来は回避できたのではないかと、つい考えてしまう。
「バンドリーダーとしては正しい判断だと俺は思うぜ。俺たちはボランティアグループでもないんだ。よそのバンドのことに首を突っ込んで、こっちのほうにまでそれが波及するのは、避けなければいけないからな」
”ただ”と田中君は前置きをしたうえで、言葉を続ける。
「人としては誤った判断だろうな。様子見といえば語呂はいいが、やっていることは見殺しにしてるようなもんだし」
「……だよね」
自覚はしていたが、言葉にして言われるとやはりダメージはそれ相応にある。
「しかし、それをわかったうえで、様子見を選んだ……一樹のことだ、バンドを守るという理由以外にも、訳があるんじゃねえのか?」
「……」
(本当に、何も隠せないな)
僕が、様子見を選んだもう一つの理由。
それが存在していることに気づいていることに、改めて隠し事ができないことを思い知る。
「まあ、深くは聞くつもりなねえが、俺からのアドバイスは”自分のしたいようにしろ”だな。うん」
そう言って、田中君は立ち上がるとすたすたと僕の前から去って行った。
(ほんと、僕は良い幼馴染をもったよ)
あえて何も言わずにアドバイスだけをして去って行く田中君の後姿を見ながら、僕は自分の恵まれた環境に、あらためて感謝するのであった。
(それじゃ、僕のしたいようにしようかな)
そして僕もまた、ある一つの選択をするのであった。
BanG Dream!~青薔薇との物語~ 第7章『リスタート』
翌日の昼休み。
(とはいえ、どうするべきか……)
僕は音楽室で一人悩んでいた。
方針は決まった。
だが、最初の一手をどうするかという問題にぶち当たったのだ。
(湊さんか紗夜さんか、白金さんかあこさんか……)
要するに誰に話をしに行くかという選択をする問題だ。
(これは、中々に難しい問題だ)
もしくは、考えすぎなような気もするけど。
「あ、奥寺君」
「ん?」
そんなことで悩んでいる僕にかけられた声に、僕はいったん考えるのを辞めると、声がした方向へと顔を向けた。
「やっぱりここにいたんだ」
「……今井さん」
そこにいたのは、今井さんだった。
口調こそはいつも通りだが、その表情はいつになく真剣なもので、思わず僕も立ち上がってしまった。
「何か用?」
「うん。あの、ね……友希那のことなんだけど」
言いづらそうに切り出された話題は、やはり湊さんに関することだった。
「友希那にもいろいろと事情が――「だから?」――え?」
「事情があったからと言って、僕が同情するとでも? もはや事情云々とかの次元ではないよ。これ」
もしかしたら、状況は変わるかもしれないが、この状況で事情を話されたとしても、さしたる効果はない。
「こんな政治家の秘書のようなことをするぐらいだったら、もっと他にするべきことがあるんじゃないの?」
「それは……」
僕の言葉に、今井さんは言葉を詰まらせる。
そこを僕はさらに言葉を投げかける。
「……この間、湊さんの様子のことを聞いた時、今井さんは微かにでも湊さんの異変に気付いていたんじゃない?」
「………」
僕の問いかけに、今井さんは何も答えずに僕から視線を逸らすが、それがすべてを物語っていた。
「別に言わなかったことについてとやかく言うつもりはないよ。おいそれと口外できるような内容ではないかもしれないからね。ただ……」
僕はそこで一度言葉を区切る。
僕が言いたいのは言ってくれなかったことじゃない。
「今井さんは、何かしたの?」
「……え?」
僕の言葉に、今井さんが声を上げる。
「違和感に気づいた今井さんは、何かしようとした?」
「……話を聞こうとしたけど……」
今井さんはそれ以上何も言わなかったが、おそらくは湊さんは何も答えようとはしなかったのだろう。
(何もしていないわけではないけど……)
おそらく、僕の推測が正しければ、今井さんは深く追求していない可能性がある。
「僕にも幼馴染がいるのは知ってるよね」
「え? うん、知ってるけど」
それが何なのかと言わんばかりの様子で頷く今井さんをしり目に、僕は言葉を続けた。
「ちょっと前に、トラブルに巻き込まれたことがあってね、自分一人でどうにかしようとしてたんだよ。まあ、その結果今井さんたちに迷惑を掛けちゃったわけだけど」
僕のその言葉で、どのことを差しているのかが分かったのかはっとした表情を浮かべる今井さんをしり目に、すべて自分で抱え込もうとしていた自分の判断を悔やんだ。
「その時に、啓介……幼馴染が半ば尋問に近い形で僕から事情を聴きだして、それでいろいろと解決に向けて手伝ってくれたんだ。まあ、トラブルの解決に役立ったのかと言われればあれだけどね」
「えっと……ごめん。奥寺君は何を言いたいのかな?」
僕の遠回しな言い方に苛立ったのか若干いらだっている様子で促してくる今井さんに、僕は簡潔に伝えることにした。
「話を聞いてくれただけでも、僕はとても嬉しかったし、心強かった。自分は一人じゃないって思えたし、それにみんなが僕を心配してくれている気持ちもはっきりと伝わってきたから……今井さんは本当に、湊さんと向き合ったの?」
「それ、は……」
あからさまに視線を逸らす今井さんの態度がすべての答えだった。
「……いい加減目を覚ましな。本気で相手の気持ちにぶつかって行こうとしないやつに誰がぶつかり合おうとするんだ?」
「ッ!」
僕の言葉に息をのむ今井さんに、僕は彼女から視線をそらさずにさらに言葉を続ける。
「まあ、僕も人のことは言えないんだけどね」
そう言って僕は自虐の意味を込めて苦笑する。
幼馴染……の定義に入るかどうかはわからないが、紗夜さんに対しても、もう少し何かできたはずだ。
(でも、今更……何だよね)
過去のことを悔いたところで何も変わらない。
ならば、前に進むだけだ。
「あはは……アタシって、無意識のうちに逃げてたのかもしれないね。友希那から」
「……」
自虐的な笑みを浮かべる彼女に僕は何も声を掛けなかった。
……いや、かける言葉が見つからなかったというべきかもしれない。
「やっぱりアタシ、友希那の幼馴染しっか――「それはない」――……え?」
突然言葉を遮るように否定する僕に、驚いたような表情を浮かべる今井さんだが、それは自分でも同じことだった。
言うつもりがなかったのに、気が付けば口が勝手に動いていた。
「逃げたから失格なんじゃない。幼馴染失格って言うのは、”見捨てた時”だと僕は思う。今井さんは湊さんのことを見捨ててはいない。だから、そうやって自分を蔑んじゃダメ」
「奥寺、君」
その言葉は、今井さんに言っているようで、もしかしたら自分に言っているのかもしれない。
「もう一度言うよ。今井さんにはほかにするべきこと……あるよね?」
「………うん。友希那とちゃんと話をしてみる」
僕のさっきと同じ問いかけに、今井さんは自分に問いかけるように目を閉じて深呼吸をすると、再び目を開いて応えた。
その目には先ほどまでの迷いはなく、強い意志が感じ取れる。
僕とて、人に偉そうに言える立場ではない。
それでも、誰かの背中を押せるのであれば……。
それだけでも十分意味があることだと思う。
「うん、それでいい。紗夜さんのほうはこっちに任せて」
「奥寺君……」
「あまり期待はしないで。僕にできるのは湊さんが釈明をする場に連れて行くことだけだから」
変に期待させてがっかりさせてもあれなので、僕はあらかじめ伝えておいた。
僕がどう立ち回っても、湊さんの釈明の場に連れて行くようにするのが限界なのだ。
「ありがと、奥寺君」
「お礼を言うの、少し早すぎだと思うけど」
「アハハ、そう言われればそうだね」
苦笑交じりに相槌を打ったところで、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
「……昼休み終わっちゃったね」
「……だね」
僕たちはお互いに肩をすくめ合わせると、教室に向かうのであった。
色々な作品を読んだり、自分の作品を読みなおしたりして、少しだけ腑に落ちない部分があったので、一部の話を書き直します。
予定では24話~42話までです。
加筆修正や1から書き直し、1話丸ごと削除など、大掛かりな書き直し作業を行う予定ですので、しばらくお時間を頂きたいと思います。
書き直した話数にはサブタイトルに”(改)”と明記いたします。
ちなみに、大まかな話の流れは変わりませんので、ご安心ください。
修正作業は、細かい要素(例えば、一樹がRoselliaに無理やり入れられたりなど)の修正とそれに伴って生じる矛盾を解消するための修正作業です。
書き直しも含めて次回も楽しみにしていただけると幸いです。