BanG Dream!~青薔薇との物語~ 作:TRcrant
第59話になります。
「うーん……これは困ったな」
今井さんと話をして数日。
僕は一人で頭を抱えていた。
(これは、本格的に避けられてるかな……)
紗夜さんと話をしよう。
そう思ってから彼女の姿を探したのだが、中々捕まらない。
通学路の途中で待っているのだが、どういうわけか彼女の姿が見えないのだ。
そしてこの日、HRが終わってすぐに紗夜さんの通う花咲川女子学園に向かった僕は、校門前で紗夜さんが来るのを待つことにしたのだ。
紗夜さんがまだ校内にいるという中井さんからの情報で、今も校内にいるはずなのだが、一向に彼女の姿が見当たらない。
(これ以上はさすがに無理っぽいか)
先ほどから目の前を通っていく女子たちの視線が気になって仕方がない。
不審者扱いされる前に離れたほうがよさそうだと結論付けた僕は、再び体制を取り直すべく校門に背を向けて離れようとした時だった
「あ……」
「え?」
校門のほうから聞こえてきた声に、僕はふと校門のほうに振り向く。
そこにいたのは、僕がずっと待ち続けていた人物の姿だった。
「一樹……君」
「紗夜さん」
僕の姿を見た紗夜さんは、どこか居心地が悪そうに視線を逸らす。
それが少しだけショックだった。
「ッ!」
そんなことを考えている僕の隙をつく形で、紗夜さんは僕の立っている場所とは反対のほうに走り去って行った。
「あ、待ってッ」
突然のことだったので、反応が遅れた僕は慌てて紗夜さんの後を追いかけるが、その距離はなかなか縮まらない。
「はぁッ、はぁッ、はぁッ、はぁッ」
(紗夜さん、足早っ)
息を弾ませながら走る僕は、本気で走っている。
なのに、紗夜さんとの距離はなかなか縮まらない。
左右へと僕を撒くように曲がっていくのも一因かもしれない。
彼女の後姿を見失わないようにするので精いっぱいだったのだ。
(絶対に、見失わないっ)
これが最後のチャンスなのかもしれないと思うと、なおさら後には引けない。
そうしてしばらくの間続いた追いかけっこだが、疲れが出てきたのか走る速さが落ち始めてきたことで、その差を縮め始める。
(体力だったらこっちだって)
田中君のところで護身術を学ぶために武道を嗜んでいるのだ。
体力には自信がある。
現に、僕と紗夜さんの距離はさらに縮まっていく。
「紗夜さんっ!」
そして、辺りがオレンジ色の光に照らし出される中、公園内に入ったところで、僕は紗夜さんに追いつくことができた。
「離してっ!」
「紗夜さん、落ち着いてっ! 僕の話を聞いてッ!!」
大きな声で叫びながら、僕がつかんだ手を振りほどこうとする中、僕は振りほどかれないようにしながら紗夜さんを落ち着かせようとするが、僕の声が届かないのか振りほどく力はさらに激しさを増していく。
「いや!」
「うわ!? いつッ」
油断していたというわけではないが、僕の想像をはるかに超えた力に耐え切れなかった僕は、後ろのほうによろめきそのままポールに頭を打ち付けてしまった。
「ッ! ご、ごめんなさいっ。私、そんなつもりじゃ―――」
「だ、大丈夫。ちょっと痛いけど……でも、やっと話せたね」
紗夜さんも故意にやったわけではなく、先ほどまで逃げようとしていたのも忘れて慌てた様子で僕に駆け寄ってくる彼女に、僕は安心させるように笑みを浮かべながら答えた。
……本当はものすごく痛いけど
「………」
逃げるのを諦めたのか、僕の言葉に紗夜さんはばつが悪そうに口をつぐんでいるだけだった。
「この間、ちょっとしたきっかけで、日菜さんが僕のギターを弾くことがあったんだ」
そんな長い沈黙を破ったのは、僕の言葉だった。
「それで……どうなったの?」
「最初は紗夜さんのように苦戦していたけど……数十分ほどで弾けるようになってたよ」
一瞬本当のことを言うのを躊躇ったが、隠したりすれば帰って彼女を傷つけることになると思い、僕は正直に話した。
「そう……」
それに返ってきた言葉は、とても重苦しくつらそうな口調だった。
「なんとなく紗夜さんの気持ちがわかったような気がするよ」
「……」
僕の言葉に、紗夜さんの表情は曇ったままだった。
だけど、僕は言葉を続けた。
「半年」
「……え?」
僕のその言葉が意外だったのか、紗夜さんは首を傾げながらも僕の言葉を待っていた。
「ギターを手にしてから、ちゃんと弾けるようになるのにかかった時間。家の手伝いとかをして一年くらいかけて欲しかったギターを手にした時はとてもうれしくて、最初はギターを触るのも躊躇しちゃったなあ」
「……なんとなく、その光景が頭の中に浮かんでくるわね」
昔を振り返る僕の言葉に、初めて紗夜さんの表情に笑みが浮かんだ。
「喜んで教科書通りに弾こうとしたけど、これがなかなかできなくて……押さえている場所は正しいんだけど、音が全然違ったんだ。そのことに癇癪を起こしたりして、何とか弾こうと練習を続けて……で、ギターの特性に気づいて弾けるようになるまで、半年かかったんだ」
弾けたときの喜びは、もしかしたらギターを始めて手にした時よりも大きかったかもしれない。
「弾けるようになってからは、とんとん拍子だったよ。幼馴染とバンドを組んで、色々あって今に至るわけだけど、それを、彼女は数十分でこなして見せた。正直に言うと、ちょっとショックは受けたかな」
それもまた、正直な感想だ。
「でも、同時に嬉しかった」
「……どうして?」
「自分でもわからないけど……もしかしたら、”初めて、張り合いのあるギターリストと出会えた”からかなって思うんだ」
まだ、自分でも自信はないけど、そうであったらいいなと思うことを僕は紗夜さんに言った。
「みんなギターは弾けるし上手いけど、でも僕の腕と比べると劣るんだよね。それは、僕もまた同じこと。僕がドラムをやったところで、やはり劣ってしまう。だから、僕と張り合えるかもしれないギターリストが現れてくれたのが、うれしいんだ」
「……」
無意識なのか、表情を歪ませてつらそうな表情を浮かべる紗夜さんに、僕はいったん言葉を区切る。
「でも、僕はだから紗夜さんが日菜さんより劣っているとは思ってない」
「え?」
僕のその言葉が意外だったのか、紗夜さんは驚いた様子で僕のことを見てくる。
「確かに今の紗夜さんのレベルは日菜さんに劣っているのかもしれない。でも、日菜さんには日菜さんの……紗夜さんには紗夜さんの”強み”っていうのがあるはずだよ」
「私の……強み?」
考え込む紗夜さんに、僕はさらに言葉を続ける。
「それは、練習に裏打ちされた技術力。どんな場面にも通用することで、誰しもがそう簡単にはできないことだよ。日菜さんが天才であるのなら、僕は紗夜さんは”秀才”だと思う」
「……っ!」
僕の言葉に、紗夜さんの表情が驚きに染まる。
きっと誰にも、日菜さんと”比較”をしたうえで、言われたことがなかったのかもしれない。
「確かに日菜さんは天才だし、伸びしろは十分だけど、紗夜さんだってそれは言える。……これは僕の勘だからあまりあてにはならないけど、もしかしたら紗夜さんならなれるんじゃないかって思うんだ……僕の隣でためをはれるほどのギターリストに、ね」
「そんなこと……でも、そうなると嬉しいわね」
紗夜さんはありえないと言わんばかりに相槌を打つけど、僕にはなんとなくそう感じてならない。
氷川紗夜というギターリストは、それほどの可能性を秘めた人物なんだという予感が。
「でも、今の紗夜さんにはそれは不可能。紗夜さんには大事なことが一つだけ欠けているから。だから、今は無理」
「……その欠けている物、教えて」
「答えは前と同じ、ノーだ。それは自分で見つけなければいけない……いや、自分で見つけるものだから」
僕は紗夜さんから目をそらすことなくそう答えた。
「きっと、それが分かる時が来る。だから、僕は待ってるよ。紗夜さんが”欠けている物を見つけられる時”が来るのを」
「……ねえ、もう一つだけ来てもいいかしら?」
何かを思い立った様子で、真剣な面持ちで声を上げる紗夜さんに、僕は”答えられる範囲だったら”と返した。
「どうして、一樹君はそこまで私にしてくれるの?」
「それは……」
思いもよらない紗夜さんの問いかけに、僕は目を閉じて考える。
(どうして、なんだろう?)
色々な感情が渦巻いて自分でも理由がわからない。
でも、一つだけ言えることがあった。
「紗夜さんが大切な人だから……かな」
「ッ!?」
僕の言葉に、紗夜さんは驚いた様子で息をのんだ。
「か、一樹君、今のは……本当、なんですよね?」
「こんな状況で嘘はつかないよ」
念を押すように聞いてくる紗夜さんに、僕は何当たり前のことを聞くんだろうと思いながら返した。
(そんなに信じられないかな? 幼馴染として、友人として大切だって言う僕の気持ち)
「一樹君が、告白するなんてッ。そ、そんな……私、なんて答えれば――――」
「えっと、紗夜さん?」
紗夜さんがぼそぼそと独り言を口にしている姿を見て怖くなってきた僕は、思わず彼女の名前を口にした。
「ッ!? な、なにも言ってなんかないわよっ」
「……いや、僕何も――「言ってなんか、ないわ」――……そうだね、何も言ってないね」
紗夜さんの鬼気迫る表情に、僕はそれ以上言うのを止める。
「そ、そういえばこの公園懐かしいね。覚えてる?」
「え、ええ。あなたと初めて会った場所よ。忘れることはないわ」
話を変えるべく、どうしようかと今いる場所を見渡した時、そこが僕たちにとって思い入れのある場所であることに気づいた僕は、紗夜さんに聞いてみると即答で返してくれた。
「一樹君が遊んでいるのを一人で見ていることしかできなかった私に、遊ぼうって誘ってくれたわね」
「あれは、一人で遊ぶのが寂しいなと思っていた時にたまたま紗夜さんがいたからだよ」
昔を懐かしむように僕たちの出会いを語る紗夜さんに、僕はどこか居心地が悪い感じがした。
だから、少しだけ嘘を吐いた。
それは、とても小さな嘘だけど、僕たちにとっては大きな嘘だ。
「でも、とても嬉しかった……だから、私は……」
「紗夜……さん?」
紗夜さんの声色が変わったことに、僕は違和感を抱きながら彼女の名前を呼ぶ。
「一樹君。私、あなたのことが―――」
紗夜さんがそこまで言いかけた時、突然着信を告げる音が鳴り響きだして紗夜の言葉を遮る。
「……ごめんなさい、マナーモードにするのを忘れてました」
「それはいいけど、出たほうがいいんじゃ」
どうやらそれは紗夜さんの携帯だったらしく、僕の言葉に申し訳なさそうな表情で謝りながら電話に出ると、何やら話をし始める。
小声なので内容は聞き取れないが、漏れぎ超えてくる単語からおそらくは親からの電話だと思われる。
「はい、それじゃ」
意外にも電話はすぐに終わり、電話の相手にそう言うと電話を耳から話してカバンの中にしまう。
「話の途中なのに、ごめんなさい」
「ううん。気にしないで。それよりも、そろそろ帰ったほうがよくない? もう薄暗くなってきたし」
申し訳なさそうな表情で再び謝ってくる紗夜さんに、僕はそう提案した。
長いこと話し込んでいたようで、先ほどまでオレンジ色の夕焼けに染まっていた周囲は、徐々に薄暗くなり始めていた。
「そ、そうね……そうしましょう」
「それじゃ、行こうか」
紗夜さんも、僕の言葉に乗っかってきたので、僕たちは一緒に家の方向に向かって歩き始める。
(そういえば、紗夜さん何を言おうとしてたんだろう?)
そこでふと疑問に思ったのが、紗夜さんが先ほど口に出しかけていた言葉だった。
同じことが前にも一度あったが、まさか本当に告白なのだろうか?
(……いや、やめておこう)
本人に直接確認するのが一番だったが、それをしたら僕たちの何かが変わってしまいそうな気がした僕は、それをあきらめた。
(今は、Roselliaのことに集中しよう)
そして僕は自分にそう言い聞かせながら歩き続けた。
――それが醜い言い訳であることを自覚しながら。
もしかしたら今月最後の投稿になるかもしれないです。