BanG Dream!~青薔薇との物語~   作:TRcrant

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第2章『進路』
第6話 冬の朝


SMSからしばらく経ち、2月を迎えた。

 

「うぅ、さむっ」

 

季節が冬だということもあり、啓介は寒そうに手のひら同士をこすり続けていた。

 

「いててて」

「あほだ」

 

死に物狂いで両手をこすり続けていれば、摩擦で痛くなってくるのは分かっているはずなのだが、それでもやってしまうのだろう。

 

「俺の心はあの日から凍えてるんだ! 必死にならなければ、俺は凍っちまう!!」

「まだ、引きずってたんだ、14日のあれ」

 

啓介の、どこか狂気をも感じさせる表情で口にした言葉に、僕は呆れながらもその日のことを思い出した。

 

 

 

BanG Dream!~青薔薇との物語~   第2章『進路』

 

 

 

2月14日。

この日が何の日かと聞かれれば、誰もが口をそろえてこう答えるだろう。

 

『バレンタインデー』と。

 

元々は宗教的な物が起源だという話もあるが、それは一応置いておこう。

このイベントの特徴は、異性からもらうチョコだろう。

実際、学校のクラスの男子たちは、かなりそわそわしていたのは記憶に新しい。

現に、僕に自分あてにチョコをもらっていないかを聞かれた回数は両手の指があっても足りないほどだった。

はっきり言えばかなり迷惑だったけど。

この日ほど、白鷺さんが来れなくてよかったと思った日はない。

ちなみに、僕のもらえた個数は幼馴染を含めると3個だったりする。

 

(松原さんへのお返し、ちゃんと用意しておこ)

 

お返しはチョコでいいものだろうかと悩むが、それ以外に渡す物の見当もつかないので、無難にチョコにしようという結論になった。

何せ、初めて幼馴染以外からもらったチョコだ。

少しは悩んだって仕方がないと思う。

 

(そういえば今年も朝来たら下駄箱にチョコがあったけど、あれって誰からだろう?)

 

この三年間、バレンタインデー、もしくはそれに近い日の朝に下駄箱に置いてあるチョコの謎は、解けずじまいだった。

尤も、解こうとすらしていないわけだけど。

とまあ、そんな事情はここまでにして、本題に入ろう。

バレンタインデーで、一番張り切っていたのは啓介だ。

”男の価値が問われる日”等と言っていたのだが、もらえている個数はいつも2個。

中井さんと森本さんの二人からのだ。

だが、今年は違った。

 

『今年のチョコは俺にはいらない。今年は二人にもらわなくても、紙袋いっぱいにチョコをもらえるんだからさ☆(キラン』

 

自分で効果音を口にして、ウインクをする啓介の姿は滑稽を通り越して、不気味そのものだった。

そんなわけで、二人は啓介にチョコを渡さなかったわけだが、彼がもらったチョコの数は……言うまでもないだろうけど一応言っておくと、0だ。

オーではなく、ゼロなのだ。

これまでは幼馴染とはいえ女子からチョコをもらえていたことで、啓介は最低限のプライドは保たれていた。

それが、とうとう過去最低数を記録してしまったのだ。

 

『ふ、ふは……ふはは……笑えよ一樹、聡志』

『いや、これはさすがに……』

『笑えない』

 

練習のために集まった僕の家のリビングで、燃え尽きたように空笑いする啓介の痛々しい姿に、僕たちは笑うことなどできるはずもなかった。

 

『だから、その申し訳なさそうな態度が、余計に傷つくんだよっ!!』

 

そう言いながら涙を流し、そしてやけになって弾いていた悲しみに満ちたピアノの音色は、決して忘れることはないだろう。

 

 

 

 

 

(うん。触れないでおこう)

 

下手に古傷をえぐるのはよくないので、あえてそれ以上は言わないでおいた。

 

「そういえば、みんなは進路決まったんだっけ?」

 

そんな中、森本さんが話題を変えてくれた。

 

「俺は、近くの高校に合格してるから、そこにする」

「……俺も、同じだ。森本さんと中井さんはエスカレータ?」

 

啓介たちはともかく、中井さんと森本さんは希望すればそのまま高等部に進学することができる。

そのことを踏まえて啓介は二人に聞いたのだ。

 

「うん。花女に通うよ」

「私も羽丘ね」

 

そして、二人は頷いて答える。

 

「皆、見事にバラバラだな」

 

田中君が言うとおり、高校は全員バラバラの場所に通うことになっていた。

 

「まあ、高校にもなればそうなるだろって。それに放課後は集まって練習するわけだし」

「そう、だね」

 

中井さんが言葉を濁したのは、知っていたからだろう。

二人の”近くの高校”は電車を使わずに、徒歩で通えることを。

幼馴染とはいえ、家が近いというわけではなく、やはりそこそこの距離はあるのだ。

通学路の途中の道で待ち合わせるのも、実際のところ啓介と田中君は早めに家を出ているからできることだ。

それでも、通っている場所が近かったから一緒に通学できていたが、二人が通う高校は、それを行うと非常に遠回りになってしまう。

だからと言って、登校時間を早めるようなことをすれば、その分皆への負担が増してしまう。

誰も口にはしないが、こうして一緒に通えるのはあと一か月弱しかないのだ。

 

「ところで、一樹はどこに行くんだよ?」

 

そんな思い空気を吹き飛ばすように、啓介は僕に疑問を投げかけてくる。

みんなの視線が僕に向けられる。

 

(そういえばあの事まだ言ってなかったっけ)

 

正直、言っていい物かどうかに悩んだが、僕一人で考えるにも限界があったので、僕は進学についてのことを話すことにした。

 

「実は……」

 

僕は少しだけ声を潜め、みんなにだけ聞えるくらいの大きさで話した。

 

『えぇ!? 女子校へのテスト入学!?』

「ちょっと、声が大きいって!!」

 

僕の話した内容に、かなり衝撃を受けたようで大きな声を上げて復唱する皆に、僕は慌ててそれを止めさせた。

尤も、大声を上げて言いきっている時点で、すでに手遅れだったりするのだが。

 

(周囲からの視線が………)

 

全員の声が聞こえたであろう、乗客たちからの視線が、僕にはかなり居心地が悪く感じられた。

 

「なんだか、無性に穴に入りたい」

 

これが『穴があったら入りたい』という状況なのかもしれない。

 

「待て待て待て、頼むからアニメみたいにここで穴を掘るのはやめてくれよ? シャベルはだめだからな」

「……シャベル持ってないでしょ」

 

そんな僕の心境など知る由もない啓介たちは何やら色々と言い合っていた。

……と言うより啓介よ、君は一体いつのアニメを見ているのだろうか?

 

「……お前ら、少し静かにしろよ」

 

ああでもないこうでもないと、言い合っている啓介たちに向けてかけられる田中君の言葉は、彼らの耳には届くことはなかった。

結局、この問答は啓介たちが降りる駅に到着するまで、永遠と続けられることになるのであった。




本作は大体1話当たりの平均字数を、2500字以上になるようにしております。

バレンタインデーは、リア充でなければある意味拷問なのではと思う、今日この頃です(苦笑)
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