BanG Dream!~青薔薇との物語~ 作:TRcrant
第61話です。
今回の話で、一番の山場は終わると思います。
それでは、本篇をどうぞ
「いよいよか……」
数日後の放課後、僕はいつにもまして緊張していた。
(まさか、こんなにも早くにアクションを起こしてくるとは……)
その理由は、あこさんが送信した練習風景を撮影した動画を送った日の夜に湊さんから送られてきたメールだった。
内容は、大事な話をしたいという簡潔なもので、集まる日時と場所が書き記されていたものだった。
湊さんからのメールは、練習をすべてキャンセルする旨の連絡以来、初めてのものだったが予想よりも早いその反応に、僕は困惑を隠せずにいた。
(湊さんももう行ってるだろうし、こっちも行くか)
言い出しっぺが時間に遅れるようなことはまずない……特に、湊さんの性格であればなおさらだ。
なので、僕も時間に遅れないよう、指定された場所であるスタジオに向かうことにした。
(さて、湊さんの答え、聞かせてもらうよ)
湊さんが出すであろう”答え”を聞くために。
僕がスタジオに入ると、そこにはすでにみんなの姿があった。
「みんな揃ったわね」
僕が一番最後だったのか、中に入るのを確認した湊さんは、静かに口を開く。
「まずは、この間は悪かったわ。1バンドメンバーとして、不適切な態度だった」
口にしたその謝罪は、当たり障りのないものだった。
「……それは、どういった意味での謝罪ですか?」
「自分の気持ちを整理していなかったこと、あなた達との関係性を考えていなかったことに対しての謝罪よ」
紗夜さんからの指摘に、湊さんは顔色を変えることなく、淡々と答える。
「……スカウトは断ったわ」
「……」
湊さんのその一言に、全員が息をのんだ。
だが、それに対して僕は反応せずに、湊さんの口から出る言葉に集中していた。
僕にとっては、スカウトを断ったことはそれほど重要なことではないのだ。
少なくとも、僕にとっては。
「ですが、私たちをバンドメンバーとしてではなく、コンテストに出るためのメンバーとして集めたという事実は変わらないわ」
「紗夜、いくらなんでもそれは――「良いの、リサ」―――友希那……」
紗夜の言葉に反論しようとするリサさんの言葉を遮るように、湊さんは再び口を開く。
「紗夜の言うとおり、私はフェスに出るためだけに音楽をやっていたわ」
「……ねえ、一つだけ聞いていい?」
湊さんのその言葉を聞いてふと脳裏をよぎった疑問を、僕は湊さんにぶつけてみることにした。
「湊さんはフェスに出て何をしたいわけ? メジャーデビューをしたい……というわけではないよね?」
少し前に、メジャーを『音楽を売る世界』と嫌悪した様子で言っていたので、そこを目指しているというのではないのは確かだ。
だとすると、彼女は……Roseliaは何を目指しているのかということになる。
「それは……」
そんな僕の問いかけに、湊さんは口を閉ざして何も答える気配がない。
「答えられないということは、フェスに出た後の目的がないということになるし、『フェス』に出たら、僕たちは用済みとばかりに使い捨てにされる……そう思われても仕方がないよ」
「そんなっ!!」
僕の冷たく言い放った言葉に、あこさんたちが目を見開かせて信じられないと言った様子で声を上げる。
「それは違うわッ!」
「……何が違うのですか?」
そんな僕の言葉を否定した湊さんに、今度は紗夜が静かに尋ねる。
「最初は……メンバーを集めていた時は確かにそうだった……でも」
一度言葉を区切る湊さんの口から出る言葉に、僕たちは静かに待つ。
「紗夜たちを見つけて、私は……いつの間にかお父さんのことよりも……」
そこまで言って再び言葉を詰まらせる湊さんだったが、その言葉の中に気になる単語があった。
「お父さん?」
「友希那……」
おそらくは、本人も無意識に口にした名前なのだろう、はっとした様子の湊さんに、今井さんは複雑そうな表情で見ていた。
「……本当の私は、ただ私情で音楽をやっていたの。ちょっと長い話になるわ……」
そう言っていったん話を区切ると、ゆっくりと話を始める。
「インディース時代の楽曲はどれも名盤だと、前に雑誌で読んだことがあるわ……湊さんのお父さんがそうだったなんて……」
湊さんの口から語られたバンドマンとしての父親の話に、スタジオ内は重苦しい沈黙に包まれていた。
メジャーデビュー、そして売れる音楽を強要され、最終的には”音”そのものをも否定され、周りから後ろ指をさされながら引退していった湊さんの父親の話を聞いて、平気な者は誰一人もいないだろう。
特に、この場にいるみんなの中には。
(まさか、湊さんがユージさんの娘だったなんて)
前に偶然会って、そして自身の渾身の一曲を僕に託してきたその人の家族が、目の前にいることのほうが、僕には驚きだった。
「私は、お父さんの音楽を認めさせる……その私情のためにRoseliaを立ち上げて、みんなを騙してきた……前は言葉にできなかったけど、私には責任がある」
湊さんは、そこで一度言葉を止めた。
僕も託された曲を演奏し続けて、世界にユージさんのバンドのすばらしさを……熱を伝えようと思っていただけに、それを責めることはできない。
同じことを考えているのに、どうしてこんなことになってしまったのか、それを考えても仕方のないことだろう。
「私は、Roseliaを抜けるべきだと思う」
その湊さんの一言に、スタジオ内に激震が走る。
”抜けるべき”
つまり、湊さんは自身がこのバンドから身を引くことで責任を取ると言ったようなものなのだ。
「友希那、それはッ――「ああ、そうだね。君は辞めるべきだ」――ッ、ちょっと、なにを言ってるの?!」
引き留めようと声を上げる今井さんの言葉を遮って、僕は湊さんのその責任の取り方を肯定すると、声を荒げながらこっちを見てくる。
その目は、軽い失望のようなものが感じ取れる。
「そ、そうですよっ! さすがに辞めるのは厳しすぎますよッ」
続いて声を上げたあこさんと、言葉にはしない物の無言でその言葉を肯定する白金さんの二人。
そして、僕の言葉に驚いている様子の紗夜さんの視線がこちらに向く中、僕は静かに口を開く。
「厳しすぎというけど、妥当だと思うよ。確かに、音楽の世界では、メンバーの引き抜きはよくあることだ。それに関しては別にいい。でも、今回のこれはどうだ? 湊さんはバンドを発足させた、いわば”旗振り役”だ。その人が違うバンドに入る……それは、やってはいけないことなんだよ。どんな事情があっても、ね」
『……』
僕だってバンドマン……音楽の世界で生きようとしている身だ。
だから、引き抜き自体を否定する気はない。
でも、バンドを発足させた張本人がバンドを乗り換えようとするのは、僕からしてみればメンバーに対する最大の裏切り行為だと言える。
彼女と同じバンドリーダーで、発起人だからこそ、なおさら彼女のしたことは許せないのだ。
スカートの橋をぎゅっと握りしめて俯く湊さんに、僕はさらに言葉を投げかける。
「だから、抜けるのなら抜ければいい。僕はその判断を尊重する。だが一つだけ忘れるな。湊さんのことを気にくわないやつは、湊さんが何をしても批判するだろう。どの選択をしたところで、湊さんは叩かれる」
バンドを辞めれば”責任放棄”、”逃げた”、”無責任”。
辞めなければ、”開き直り”、”悪いと思ってない”、”性悪”
何をしたところで、湊さんを批判したい者はするのだ。
それが世の常なのだ。
(なら、僕が彼女にかける言葉は……)
「だから、そう言う雑音は無視して、湊さんにとっての”責任の取り方”をすればいい」
彼女自身に選ばせることだった。
「それに、僕はまだ肝心のことを聞いてない」
「え……」
さらに言葉をつづける僕に、湊さんはその顔を上げる。
「湊さんの心の声を僕たちは聞いてない。どうしてこうなったとか、どう責任を取るとか……そんなのどうだっていい。ここにみんなが集まったのは、湊さんの心の声を聞くためなんだよ」
そう言って僕は、今井さんたちのほうに視線を向けると、みんなは僕の言葉を肯定するように無言で静かに頷いた。
「だから、聞かせて。湊さんの心の声を……湊さんがしたいことを」
「……っ!」
静かに諭すように言うと、湊さんは静かに息をのんだ。
「私はっ……私はみんなと……音楽がしたいっ! あなた達とじゃないと、嫌なのっ」
『っ!?』
必死な様子で口にしたその言葉に、みんなは息をのんだ。
「でも、あなた達の意見は分からない……それに、都合がいいことだっていうのもわかってる」
「”音楽に私情を持ち込まない”……そう言ったのは貴女ですよ」
再び包まれた重い沈黙を破ったのは紗夜さんだった。
「でも、あなたの気持ちもとてもよくわかるわ。でも、音楽を始める動機はともかく、続ける理由は、どれも私情だと私は思います」
「あこもっ! おねーちゃんみたいなカッコいいドラマーになりたかったんだもんっ」
「私も……どこかで、こんな自分を……変えたいって」
(僕も、あの伝説のバンドにあこがれて始めたんだもんな……)
紗夜さんの言葉にみんなが肯定する中、僕もまたバンドを始めたきっかけを思い出していた。
「手放せない思いがあるのなら、それを抱えたまま進むしかない……そうじゃない」
静かな口調で湊さんに投げかける紗夜は、”それに”と言葉を続ける。
「私も、この『六人』と音楽をしたい」
それは、この場にいるみんなが出した”答え”だった。
「これって、Roselia再結成フラグ!?」
「「解散してない(わ)……あ」」
あこさんの言葉に、ほぼ同時に反論した二人が、バツが悪そうに顔を背ける姿に、その場にクスリと笑い声に包まれる。
こうして、今回の騒動は何とか丸く収まり、湊さんたちはRoseliaとしての再スタートを切るのであった。
ということで、次回か次々回で本章は完結となります。
その後は、イベントストーリーをいくつか書いたのちに、バンドストーリー2章に入っていくと思います。
……個別ルートはおそらく2章の後になると思います。
それでは、また次回お会いしましょう