BanG Dream!~青薔薇との物語~ 作:TRcrant
季節は春。
春という季節にふさわしく、この日の気候は恵まれることになった。
そんな今日は、僕たちにとって一つの門出ともなる大事な行事、卒業式が行われていた。
国歌斉唱やら、校長先生の言葉やらを聞いていた。
校長先生の話は、例のごとく非常に長かった。
(”校長”っていう肩書の人は、みんなこんなに長く話をするのかな?)
もしかしたら、永遠と長い時間話し続けるスキルがないと、校長という肩書にはなれないのかもしれないのではと、真剣に考えてしまうほどに、長かった。
「以上をもって、私の話は終わります。卒業、おめでとう」
長かったが、最後はしっかりとまとめた校長先生に、会場内からあふれんばかりの拍手が沸き起こる。
(多分、内容というよりは、終わったことへの解放感だろうね、これ)
「続きまして、卒業生への言葉。在校生代表、市ケ谷有咲」
そんなくだらないことを考えてながらも、式を進行する先生の声を聞いていたが、一向に指名された人物の姿が見えない。
「市ケ谷? 市ケ谷!」
その異変に、会場内がざわめき始める。
そんな中、一向に姿を見せない市ケ谷という人物を呼ぶ声が、むなしく卒業式の会場内に響くのであった。
結局、送辞の言葉は、校長先生が言うことになり、何とか卒業式を終えることができた、
ちなみに、これは後に知ることだが、市ケ谷有咲という人物は2年連続で学年トップの成績を収めている優等生なのだが、学校にあまり行かないことで有名だったらしい。
(そんな生徒を代表にするほうもするほうだけど、サボる方もサボる方だよね、これ)
卒業式は、何度か出る機会はあるだろうが、だからとはいえ、卒業生としては送辞の言葉があるにもかかわらずにサボるというのは、あまりいい気がしない。
(まあ、通うことのない場所だし、あれこれ言うのも変か)
そんなわけで、送辞の一件は忘れることにした。
「あ、一樹君。千聖ちゃんと花音ちゃんが一緒に写真を撮らないって聞いてるけど、どうする?」
「皆がよければ、ぜひ」
三年間一緒に通った友人たちと記念写真を撮るのは悪くはない。
別に、やましい気持ちがあるわけじゃない。
「一樹さん」
皆が待っている場所に向かおうと、中井さんと一緒に歩きだそうとしたところで、僕は呼び止められた。
「紗夜さん?」
僕を呼び止めたのは、同じ学校に通っている紗夜さんだった。
名前は氷川紗夜。
僕の家のお隣さんで、よくおかずのおすそ分けをしたりされたりという、家族ぐるみの付き合いのある家の娘だ。
いつも敬語で話してくるのだが、それは彼女のまじめな性格故のこと。
ちなみに、名前呼びは彼女からの頼みでそうしている。
「あ、紗夜ちゃんこんにちは。どうしたの?」
啓介たちははともかく、中井さんは同じ学校に通っていることもあって面識はあったりする
「こんにちは、中井さん。あの、一樹さんに用事がありまして」
「僕に?」
「あー………それじゃ、私は席を外すね。一樹君、校門のところで待ってるね」
何かを察したのか、そう言うと足早にその場を立ち去ってしまった。
「えっと、それで僕への用事って?」
「それ、は……」
急かすのもあれかと思ったが、待ち合わせをしている以上、早くみんなのところに行かなければいけない。
「……? もしかして体調とか悪い?」
「い、いえ。そんなことはっ……」
なんだか頬を赤くして、視線もあちこちに移していたりと、落ち着かない様子の紗夜さんに、少し不安を抱くが思いっきり否定されてしまった。
「あの、私……」
やがて、覚悟を決めたように深呼吸をした紗夜さんは、僕を呼び止めた用事を口にし始める。
「私、一樹さんのことが――――」
彼女の言葉を遮るように、携帯の着信音が鳴り響く。
僕は自分が持っていた携帯を確認すると、どうやら先ほどのは僕の携帯から出た音だったらしい。
(啓介たちからおめでとうメールだ)
件名しか見ていないけど、卒業式が終わったことの連絡か、ただ単におめでとうの連絡のどちらかだろうう。
「ごめん。それで、さっきの話の続きなんだけど」
「そ、それは……卒業おめでとうございます。これからも頑張ってください……と言おうとしただけです」
本人はそういうが、どこか取り繕っているような感じしかしなかった。
「でも、さっき『僕のこと』とか言ってなかった?」
「あれは、ただの言い間違いです。両親を待たせてるので、失礼します」
僕の疑問に、紗夜さんは動揺しながら応えると、そのまま足早に去っていこうとする。
「紗夜さん!」
そんな彼女を僕は呼び止めた。
「な、なんですか?」
「卒業おめでとう!」
怪訝そうな表情でこちらを見る彼女に、僕はそれまで言うのを忘れていたお祝いの言葉をかける。
「……ッ。あ、ありがとうございます」
照れたようにお礼を言った紗夜さんは、今度こそ僕の前から立ち去る。
「うーん。悪いことしちゃったかな」
僕としては気になったことを聞いただけだが、軽く彼女を追求する格好になってしまったことを申し訳なく感じていた。
「それにしても、紗夜さんの用事って一体……」
そのことが一番気になって仕方がない
本人に聞けば手っ取り早いのだが、あの様子だと聞くのは困難だろう。
というより、これ以上しつこくすると逆鱗に触れる可能性もある。
(卒業式、呼び止めて話をしようとする……これって、)
今のシチュエーションであり得るとすれば、一つある。
(まるで告白みたい)
卒業式に呼び出して好きな異性に告白する。
ドラマなどではよくあるベタな展開だ。
彼女の表情とかからも、可能性はさらに高くなる。
(もしかして、紗夜さん僕に告白でもしようと?)
そこまで考えた僕は、鼓動が速まるのを感じる。
だが、それとは引き換えに、頭の中は冷静になっていく。
(いやいや、ありえない。どんだけ自分に自信があるんだよ、僕って)
そうだ。
まだ告白と決まったわけではない。
もし仮に、告白だったとして、そうなるきっかけに僕は見当がつかない。
しかも、本人から話を聞いたわけではないのだ。
それで告白だと決めつけるのは、紗夜さんに対して失礼ではないのだろうか?
(まあ、自意識過剰な男は嫌われるっていうし、向こうから話してくれるのを待とう)
何事も待っているに限る。
下手に行動して間違っていたら、トラウマクラスのダメージを負いかねない上に、相手にも迷惑をかけることになるし。
(って、まるで僕が紗夜さんに好きになってほしいって思ってるみたいじゃん)
僕も男だ。
啓介のように彼女がほしいという気持ちがないわけではない。
とはいえ、まだ自分がそうなったときの想像がわかないけど。
「……うん。校門に行こう」
どんどん自分の思考が変になっていくのを感じた僕は、それを振り払うようにみんなが待つ校門へと向かうのであった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
「はぁ……」
私は、一つため息を漏らす。
(せっかくのチャンスだったのにっ)
これまで何度も何度も言おうとして言えなかった言葉。
今日がそれを伝える最後のチャンスだった。
だから、勇気を振り絞って一樹さんに私の思いを言おうとした。
でも、結果は失敗。
(あそこで、一樹さんの携帯が鳴らなければ)
間違いなく言い切れていたのにと、悔やんでも悔やみきれない。
一樹さんも、携帯をマナーモードにしておくべきよ。
(って、いけないわね。あの後伝えることはできたはずよね)
最終的に、逃げ出したのは私自身。
結局、私は肝心なところでタイミングを逃してしまったのだ。
(一樹さんが、羽丘に行ってしまったら……)
あそこには、私の妹……日菜が通うことになるのだ。
(絶対に一樹さんに興味を持つはず。そうなったら……)
考えたくもない可能性が、私に突き付けられる。
一樹さんはとても優しくて魅力的な人。
日菜が彼に興味を持って交友関係になれば、好きになるはず。
そうなれば、日菜の性格上、すぐに告白するのは目に見えている。
だからこそ、自分の気持ちを今伝えようと思っていた。
一樹さんのことが好きだという気持ちを。
(……どうすればいいのよ)
青空が広がる空模様とは裏肌に、私の心は暗くなるばかりだった。
私が一樹さんに、この気持ちを伝えることは、できるのだろうか?
そんな不安を抱きながら、私は待っているであろう両親のところに向かうのであった。
第2章、完
あっという間ですが、これで第2章は終わります。
次回からは1年生編となるわけですが、前作ほどがっつりはやらずに時間を飛ばしながら短めに書いていく予定です。
……30話までに原作の話に入れればいいなと思っている今日この頃です(汗)
それでは、次回予告を。
――
卒業を迎えた一樹は、ついに羽丘女子学園に入学することとなる。
周囲には見知らぬ女子しかいない中で、一樹は洗礼を受けることになる。
次回、第3章『入学』