BanG Dream!~青薔薇との物語~ 作:TRcrant
第9話 初めての場所は迷うもの
4月。
出会いと別れの季節という言い方が、4月でもふさわしいのかどうかは分からないが、僕たちも例外ではなく入学式を迎えた。
「いってきます」
「気を付けていってらっしゃい」
何時ものように家を後にして、道を歩いていくといつものT字路に差し掛かる。
今まではそこには啓介たちの姿があったが、今年からは別々の学校に通うため、ここに集まれるのはこれまでと同じところに通う森本さんと中井さんの二人だけになってしまった。
「おはよう、一樹君」
「おはよう、一樹」
「おはよう、二人とも」
T字路で待っていた中井さんと森本さんに、僕は挨拶を返す。
「一樹君、明美ちゃんと同じ制服だね」
「まあ、同じところだからね」
僕の制服姿を見た中井さんの感想に、僕は苦笑しながらも相槌を打つ。
僕の制服は、同じ羽丘女子学園に通う森本さんと同じタイプの制服だ。
違うのはスカートがズボンになっているくらいだ。
(ほんと、女子の制服が送られてこなくてよかった)
少し前まで、女子用の制服が送られてくるんじゃないかとひやひやしていたのだが、よくよく考えてみれば、中等部までは共学なのだから心配する必要はなかったわけなんだけど。
「私的には、借りることができるからラッキーなんだけどね」
「……借りられたら僕は何を着ろって言うの。まさか女装しろって言わないよね?」
「……だめ?」
「するかっ」
一瞬でも、スカートをはいた自分の姿を想像した自分を殴り飛ばしたい。
何があってもやらないけど。
そんな僕に、二人はくすくすと笑い声を漏らす。
「よかった、安心したよ」
「いつも通りだね、うん」
「………そんな高等なあれはいらないから、もう少しましなのがほしかったよ」
二人とも、僕が緊張しているのではないかと心配していたようだ。
とはいえ、それをほぐすためかは知らないけど、女装ネタでいじるのはどうかと思う。
……確かに緊張はほぐれたけど
「じゃ、いこっか」
ということで、僕たちは駅に向かって歩き出す。
同じ電車に三人で乗るのが、これから三年間のいつもの光景になるのかもしれない。
「それじゃ、放課後一樹の家で」
僕たちの関係ともなれば、他人の家で勝手に待ち合わせの予定を立てることはいつものことになる。
何せ、みんな僕の家の合いかぎを持っているのだから。
バンドの練習をするようになってから、雨の日などで楽器にダメージを与えないようにするために父さんが渡したからだけど。
最初は自分の家なのに帰ったらみんなの姿があったことに違和感を覚えていたが、最近はそんなものは感じなくなっていた。
慣れというのが、色々と怖いものだということを実感した瞬間でもあった。
「うん。またあとでね」
今まで森本さんたちが降りていた駅で、僕も降りる。
「気を付けないと降り損ねそうだ」
「やめてよ、中学の癖が抜けないで遅刻なんて」
やらないよと言いながら駅を後にした僕は、森本さんに先導される形でこれから通うことになる羽丘女子学園に向かう。
もちろん、道を覚えておくことは忘れない。
そして、しばらく歩いた末に、ついにこれから三年間通うであろう場所に到着した。
「ここが、羽丘か」
「そう、一樹が三年通うことになる場所」
校門には『羽丘女子学園』と書いてあるので、間違いはない。
外観は花咲川の”学校”という感じではなく、”大学”という印象を抱かせる形だった。
そして、女子校なのだから、当然中に入っていくのは女子ばかり。
(何だろう、視線を感じる)
その視線が、変人を見ているのではなく、ただ単に好奇心のようなものであることを願うしかなかった。
「それじゃ、いったんここでお別れだね。同じクラスになれるといいねー」
「……本気でそうなることを願うよ」
確実に落ち着かないであろう環境で、知らない人しかいない状態にまでさたら、耐えられる自信が全くない。
森本さんは直接入学式場に、僕は一度職員室に向かわないといけないため、どうしてもここで別れないといけない。
そんなわけで、僕たちは校門前で別れることにしたのだが
(そういえば、男の僕が中に入ったら通報とかされないかな?)
学園の敷地内に入って初めて、そのことに気づいた僕は敷地内と敷地外の境界線を跨いでいるというおかしな格好で固まった。
「あ、男子がここに通うことになるのは、終業式とかで言われてるから大丈夫よ」
「すでに告知済み!?」
僕の不安は解消されたのだが、同時に僕のことがどこまで知らされているのかがわからないという名の不安が発生してしまった。
「一樹の名前とかは一切出てないわよ」
そんな僕の気持ちが伝わったのか、安心させるように森本さんが教えてくれた。
「それはよかった……ところで、僕の考えていることを読むのはやめて」
「え? 楽だからいいじゃん」
「確かにそうだけど、この状況でそれは色々疲れるから」
これも幼馴染クオリティというやつだろうか?
お互いに口に出さなくても何を言いたいのかがわかることがある。
演奏中とかは、それが顕著で誰かがアドリブをしようとしたときに、その人物がアドリブを入れてくることがなんとなくわかるのだ。
だからこそ、それにすぐに対応できるというメリットがある反面、こういう状況でやられると精神的に疲れるというデメリットに今気づいた、
「ごめんごめん、気を付けるわね。じゃ、頑張ってね~」
とまあ、そんな感じで森本さんとは校門で別れ、僕は職員室に向かうことにするのであった。
BanG Dream!~青薔薇との物語~ 第3章『入学』
校内で、僕は一人途方に暮れる。
「迷った」
職員室の場所ぐらい、すぐにわかると思いタカをくくっていた結果がこれだ。
校内図を見たつもりなのだが、見方が変だったのかもしれない。
(これじゃ、松原さんに笑われるな)
方向音痴だとは思いたくはないが、このままだと確実にからかわれるネタにされること間違いない。
何せ、森本さんからすべて話が筒抜けになるのだから。
(そもそも、初めから森本さんに案内してもらえばよかった)
もっとも、こんな簡単なことを今更悔いる時点で、僕の間抜けさは言うまでもないけど。
「困ったな……」
時間にはそこそこ余裕はある。
だが、このままだと遅刻は確定。
さすがに初登校での遅刻はまずい。
(とはいえ、今の自分のいる場所もわからないし)
遅刻よりも前に、この学園を出られるのかが心配になってきた。
そんな時だった。
「あれ?」
「え?」
どうしたものかと困り果てていた僕の耳に、女子の声が聞こえてきたのは。
声のしたほうに振り向くと、そこにいた女子生徒と向かい合う。
(ギャルだ)
あまり見た目で人を判断するのはよくないと思うが、少し苦手な存在だったりする。
「もしかして、キミが今日から通う男子生徒?」
「えっと……はい」
事前に男子が通うことになるのを告知されていれば、誰でも僕がここに通うことになった男子であることは分かることなのっで、頷いて答える。
「よかった~、怖い人が来たらどうしようってあこ……後輩と話してたから」
「ど、どうも」
彼女には警戒心という物がないのだろうか?
そう思うほどにフレンドリーだった。
「あ、アタシは今井 リサ。よろしく☆」
これが、僕と彼女……今井さんとの出会いだった。