体から結晶が生えてくるけど、俺は元気です   作:zhk

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ルガーランスすこ(挨拶)

どうもzhkです。

ルガーランスってカッコいいよね。


日記

 今日から日記というものを書いてみようと思う。

 

 こういうものをあんま書いた事がないからうまく書ける自信はほとんどないけど、まぁその辺は俺が見聞きしたこと感じたことをそれっぽく書けばいいので問題ない。と思いたい。

 

 なぜ日記を書こうと思ったのか、それは色々あるけれど、とりあえずはこうだ。

 

 転生したからです。

 

 理由が意味わからん感じだけど、ホントにそうなんだもん。というか本当の理由は別にあるんだけど、とりあえず今は割愛。

 

 前世の俺は、普通の高校生だった。朝方いつも通り学校へ向かうべくチャリンコこいでたら、ランドセル担いだ小学生が振り回してた傘が俺のチャリンコの車輪に挟まり、そのまま体勢崩して電柱に頭からズドン。

 

 目を覚ませば見知らぬ世界である。

 

 いやさ、俺も16年近く生きてきたけどさ、まさか自分がこんなダサい死に方するとはおもっとらんかったわ。

 

 だって死因小学生の傘って……こういう転生って普通トラックに轢かれてとか、見知らぬ通り魔に刺されてとかじゃないの? 

 

 いや待てよ? 見知らぬ(小学生)通り魔に(傘で自転車の車輪を)刺されたから間違ってないか。うんそうだきっとそうなんだろう(暴論)。

 

 で、そのままなろう小説あるある神様に会ってチートを貰うなんて事もなく、目を覚ますと俺は声が出せなかった。

 

 出せるのはあうあうという可愛らしい声。そして自分の手はとても小さくなっており、体もまた同じ事。

 

 赤ん坊になってました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雪山の中で。

 

 いやいきなりハードモードすぎん!? 

 

 転生して赤子からスタートするのはまだ理解できる。これでも数多の二次小説やなろう小説を呼んだだけあって、このテンプレ事象には百歩譲って認めよう。

 

 スポーン位置もうちょいマシな所なかったですかね神様ぁ!! 

 

 辺り一面雪景色だし、木とか生い茂ってるし絶対ここ山の奥だよね? 人なんて絶対いないよね? なに、神様生まれてすぐに俺に死ねと申すんだろうか? 

 

 必死に助けを呼ぼうにも出るのはあうあうというくぐもった声だけで、その声もシンシンと降り積もる雪の中に消えていくだけ。

 

 こんなのある? これ書いてる今でも俺をここに送った神様一回ぶん殴ってやりたいって考えてるもん。いや真面目な話で。

 

 でも諦めたら確実に死ぬし、来世の寿命は数十分でしたーwwなんていったらただの笑いの種にしかならない。ブラックジョークだけど。

 

 そんなこんな必死に声を張った。いやそりゃ必死だよ、だってこちとら命かかってんだよ? ここがどんな世界かもわからんのにおいそれと死ねるかっての。

 

 ああ、この時点で俺は自分が死んだことは理解してた。頭から電柱にぶつかったのに目が覚めたら病院じゃなくて雪山で、さらに赤子化してたらねぇ……

 

 そりゃ転生したと思うでしょ。高校生の妄想力舐めんなよ? 

 

 んで、助けを呼ぶんだけど雪山は居るだけで体力とられるし赤子だから貧弱だしですぐにへばりました。

 

 あ、これだめなやつだわ。また死ぬわこれ。また次あるなら今度はまともなスタートお願いします。

 

 とか可愛らしい(と思う)見た目に反して達観した考えで空を見つめていると、

 

 助けは来た。

 

 俺の視界を遮るように、一人の男の人が現れたのだ。

 

 筋骨粒々で、がっしりとした体型の人だった。その時はもう視界も意識も朦朧としていたからよくは覚えてないけど、とにかく安心したのだけは覚えている。

 

 やって来た男の人は俺を優しく抱き抱え、柔和な笑みを俺に見せてくれた。けどそこが俺の体力の限界で、俺は男の人の胸のなかで意識を落とした。

 

 次に意識を取り戻した時は、なんだか豪勢な家の中にいた。俺が目を覚ますと、助けてくれた男の人がこちらにやって来てくれてまた優しい笑みを見せてくれた。

 

 するとその隣から今度は女の人が来た。夫婦なのかな? と思いながら二人を見ていると、男の人が俺を脇から上に抱えてこう言った。

 

『もう大丈夫だ、安心しろ。』と。

 

 この日から、俺はこの二人の養子として暮らすことになった。もちろん新しい名前も二人が考えてくれた。

 

 与えられた名前はカムイ=シュバルツァー。名字むっちゃかっこええやんと思ったのはここだけの話。

 

 そこから二人は俺のこととても大事に育ててくれた。時に厳しく、時に優しく、二人の愛情はとても嬉しかった。が、幼子であるが故に食事をすべて食べさせられるのは辱しめ以外なんでもなかったけど…………

 

 ここに来て少し経ち、実は俺の他にこの家には子供がいることがわかった。リィン=シュバルツァーと、エリゼ=シュバルツァーだ。

 

 俺と対して年も変わらない二人とは、すぐに仲良くなったんだと思う。なぜ思うという曖昧な表現かと言うと、相手もまだ赤子。じゃれ合うような事しかしてないので明確に断言は出来ない。ま、それと杞憂に終わるんだけど。

 

 この世界に生を受けて五年が経った現在、俺は驚きの事実を知ることになった。

 

 なんとこのシュバルツァー家、この一帯を治める貴族だったのだ!! なにそれ聞いてない。てかだからこんなに家が豪華だし、メイドさんがいたりするのか。この世界じゃこれが普通かなとも思ったけどんなことないよね。

 

 シュバルツァー家が治めるこの辺りはユミル、というらしく結構辺境に位置するみたいだ。冬場は雪がたくさん降り、山間部にある集落が雪で閉ざされることもしばしばあるのだとか。

 

 まぁ俺からすれば雪がほとんど降らない場所で前世過ごしていたので、楽しいから問題ない。

 

 リィンとエリゼとは、やっぱり仲良くなれた。赤子の時から過ごしているという事もあり、無邪気に笑って過ごせるくらいに仲はいい。

 

 で、ここまで俺の第二生を描いてきたのだが、ここでこの日記を書こうと思った本来の理由を書こう。

 

 なんか、手から結晶が生えたから。です。

 

 意味がわかんないのは俺も同じだよ!! 

 

 それは本当に突然だった。いつも通り俺達三人は仲良く遊んでいるとき、手のひらを広げたらなんか緑色の結晶が生えてきたんだよ。

 

 すぐに割れてなくなったけど、バッチリリィンとエリゼの二人には見られた。二人は驚きつつも、すぐに俺は父さんと母さんの元へと連れていかれた。

 

 その後医者に見てもらったけど、体に特に異常はない。父さんと母さんはそんな事はないと言ったが、医者がいくら見たところでおかしなとこも見当たらずとりあえず放置という形になった。

 

 生えた結晶は綺麗な緑色で、惚れ惚れするような物なんだけどそれが人のからだから出てくるんだから笑えない話だよまったく。

 

 父さんも母さんもリィンもエリゼも、何か体に不調があったらすぐに言えと言ってくれた。その優しさがとても嬉しかった。

 

 けど周りにばかり頼っていては意味がない。けどまだ齢五歳の俺にこのよくわからない症状に対して何か出来る事はないかと考えた。

 

 その結果が、この日記だ。

 

 これをつけていれば毎日の俺の体の変化もしっかりわかるし、なにより右も左もわからない異世界の事についてもメモのように使える。我ながらいい案だと思うこれ。

 

 今後とも書いていく事になるから、とりあえずは読み返す時に読みやすいくらいには文才をつけようと思いました。まる。

 

 ━━━

 

 体から出る結晶について調べてみると、どうやらこれは極稀に俺の体から出るみたいだ。量は少量。かくかくした鉱石みたいな形だけど、少ししたら勝手に割れる。

 

 出るトリガーが一体なんなのかはまだ不明。朝起きたら手から生えてたり、夜ご飯食べたら首から出てきたりと統一性がないからこれまた面倒だ。

 

 まぁ体に害はない。それはわかった。害があるならなにかしら問題が起こるだろうし。その辺は大丈夫だと思う。

 

 そして今日一日の話としては、父さんの剣術を間近で見せてもらった。

 

 もうね、凄いの。語彙力ないからうまい具合に説明出来ないんだけど本当に凄かった。

 

 剣の一振りとか、ビュンって風を切る音とかがものすごくカッコよかった。俺とリィン二人して見ていたけど、きっと揃って目を輝かせてたと思う。

 

 やっぱり俺も男子だからこういうことは憧れるし、自分もカッコよく剣を振ってみたいと思うわけで。

 

 リィンと二人揃ってやってみたいと言いましたよ。

 

 駄目だそうです。

 

 何故だ!? と思ったけど父さん曰く、父さんが使っているのは結構重いもので俺らが持てるような物ではないし、父さんが振るもの以外剣がないとのこと。

 

 なかなか無理矢理な理由だなと思ったけれど、リィンがそれに納得して引き下がったので俺もそれに乗っかることにした。俺は大人だからね、引き際は理解してるよ? いや嘘じゃないから。

 

 でも結局父さんの剣術を見ていると、それに父さんも気をよくしたのかどんどん剣術鑑賞会は長くなり、結果日がくれるまでやった。

 

 家に戻ったあとのエリゼと母さんの馬鹿を見る目が辛かった…………そんな目で見ないで、男は皆こんなもんだよ。

 

 ━━━

 

 今日は変な事があった。

 

 誰もいない部屋の中で声が聞こえたんだ。

 

 俺以外人はいなかったし、なによりその声は聞いたことのないものだった。

 

 小さくてよくは聞こえなかったけれど、もしかしたら俺の体から出る結晶と何か関係があるかもしれない。

 

 この声について、もう少し注意した方がいいのかもしれない。

 

 結晶については、今までとなにも変わらない。勝手に出ては勝手に割れるだけだ。

 

 それとわかったことなのだけど、どうやらリィンも俺と同じように拾われた子供らしい。

 

 父さんと母さんから直接聞いたわけではないけれど、二人がそんな話をしているのを聞いてしまった。それと、俺達二人を養子にしたせいで、他の貴族から白い目で見られている事も。

 

 たしかに、どこの馬の骨ともわからない子供二人を養子になんて取れば周りがそう考えるのも仕方ないかもしれない。それも父さんのような結構位の高い貴族ならなおのことだ。

 

 だからなのか、父さんはあまり家から外出することがない。それもこれも俺やリィンを養子として引き入れたからだと考えると、とても申し訳なく感じてしまう。

 

 俺に何か恩返しが出来ないだろうか? 

 

 この家のお世話になり始めてもう七年も経ってしまった。ここまで俺が平和に過ごせたのも全部父さんと母さんのお陰だ。このまま何もせずに終わるんじゃ人としてどうかと思う。

 

 でも何が出来るかもわからない現状、とりあえずやれることを模索していこうと思う。

 

 あと文才大分ついたんじゃない? 今二年前のを読み返すのはちょっと気が引けるけど…………

 

 ━━━

 

 今日も今日とて、リィンとエリゼの三人で遊んだ。

 

 が、少し事故が起きたのだ。

 

 エリゼが足を滑らして崖から落ちそうになったのだ。

 

 原因としては山のなかを鬼ごっこしながら走り回っていると、リィンもエリゼも熱くなってしまい周りを見ずに動いてしまったんだ。まぁ俺もその例に漏れない一員だったからというのもあります。

 

 崖から落ちかけたエリゼはどうにか近くの木に捕まって落ちるのは耐えたけれど、下はかなりの高さ。落ちたら一溜まりもない。

 

 すぐにエリゼを助けにいこうとした時、

 

 あの声が聞こえた。

 

 いつもいつもボソボソとした聞こえなかった声だったが、今回ばかりははっきりと、鮮明に俺の頭に響いていきた。忘れないうちにここに書いておく事にする。

 

あなたは、そこにいますか?』

 

 確かに声はそう言った。

 

 それが聞こえた途端、俺の体は動かなくなって頭のなかでその言葉がぐるぐると回り始めた。

 

 謎の声の影響か、なにもせずに呆然としているとリィンが走ってエリゼを救出した。

 

 エリゼは泣きそうな顔でリィンに抱きついて、リィンはそれを優しく抱き返す。その光景を、俺はただ見ているしか出来なかった。

 

 なんで動けなかったんだ…………あの声のせいだと言うのは簡単だ。けど、そんな声に負けるほど、俺にとってエリゼの命は軽いものだったのか? 

 

 無力な自分に腹が立った。無性に腹が立った。

 

 けどそこで、俺はやっと恩返しの道を定めることが出来た。

 

 エリゼを守ろう、リィンを守ろう。

 

 それがきっと、俺を救ってくれた父さんや母さんの恩返しになるんじゃないか。

 

 この日、いや今ここに宣言しておく。

 

 俺が必ず二人を守る。

 

 それこそ、何があっても。

 

 もう今日のような無力感を、何度も味わいたくないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話むっちゃ変わるけど助けられてからエリゼのリィンに対する反応見て思った。

 

 ああ、あれ堕ちたわ。落ちなかったけど堕ちたわ。と。

 

 ━━━━

 

 今日もいつもと変わらず日記を書いてるんだけど、今日書いているのはいつもの家とは違う。

 

 俺達は今、温泉に来ております。

 

 ユミルは元々温泉が涌き出る地として有名で、たくさんの人がやって来る観光地でもあるらしい。何気にまだ一度も行ったことがなかったのがつい最近判明したので、父さんが連れてきてくれた。

 

 というか来てみて父さんやっぱ貴族なんだなって再確認したよ。だって旅館の人ががっつり頭下げるんだもんまじでビックリした。というか俺にも下げるのはやめてほしい。俺ただの一般人だよ? 

 

 他に子供も来ていて、リィンとエリゼは仲良く遊んでいた。

 

 俺? 行ったら凄い目で見られましたよ。理由はあれだよ、行った直後に手から結晶が出たからです。いやぁあの目は駄目だ、完璧な拒絶の目だよ。

 

 俺も大人ですし? まぁその程度でへこまないというか? そこは笑顔で『ごめんね』と謝って部屋に戻ったよ。部屋の隅で撃沈したけど。

 

 手から結晶出すなんて気持ち悪いよね…………わかってる、わかってるよハハハ…………はぁ。

 

 まぁあんなのが体から出ても普通に接してくれるリィンやエリゼが普通じゃないわけで。二人は本当に底抜けに優しいよなーお兄さん心配だよ。

 

 あ、あと書いておくと結晶の方も今までと変わらず。声の方はあの時以来はっきりとは聞こえないけど、呟くぐらいは聞こえる。言ってる内容は多分一緒。

 

 本当にこの体質どうにかなるのかね? 一向に治る兆しも見れないし悪化するわけでもないから。というかなおらないとまともに人間関係も作れないんですが神様どうしましょう?

 

 で、本題の温泉はもう満足出来るものでした。

 

 気持ちいいし景色はいいし文句の付け所がないね。前世はあんまり遠出とかは家の事情で出来なかったから、なんだか新鮮な気分だった。

 

 特に景色! ユミルの雪による真っ白な感じがもうすごくて、凄かった(ボキャ貧)

 

 こういうのはいいよね。また来たいって思った。子供達に完全拒絶された悲しみもどんどん癒えてった。

 

 けど、そんな気持ち良い気分は入ってる時隣から聞こえた悲鳴でどうでもよくなっただけどね。

 

 あとあと部屋に紅葉をつけながら来たリィンに尋ねると、遊び疲れて寝たあと、寝ぼけたまま女風呂に入ってしまい、さらにタイミング悪くそこにはちょうどエリゼが入っていたのだとか。

 

 いや気づけよ。入る前に気がつけよお前。あと何お前はラッキースケベを自慢しに来たんですかはいそうですがならば戦争だ。

 

 エリゼに嫌われたんじゃないかとシュンとした面持ちのリィンに、うらやまけしからんと叱りながらも俺が仲介に入ると宣言したあと、俺はエリゼの部屋に行った。

 

 彼女にリィンも反省している等の旨を説明すると、どうやらエリゼも勢いで叩いてしまったことを悪く思っていたようだ。仲良し兄弟めもう結婚しろよそのまま。

 

 泣きそうになるエリゼを宥めながらリィンに突き付け、仲直りはどうにか成功させた。

 

 ずっと仲良しなんて難しい事だし、この喧嘩でまた絆がより一層深まったならこの喧嘩もきっといい思い出になると思う。

 

 でも我が義妹よ、仲直りしたからといって腕を組んでべったりはどうかと思うぞ? 

 

 お前は回りの生暖かい視線に気がつかないの? いやエリゼがリィンに兄以上の感情を向けてるのは知ってるけど、さすがに好意が明確すぎない? これじゃリィンも気がつくって…………

 

 これがあの唐変木は気がつかないのだ。なんだあいつは。ラッキースケベに合い、相手からの好意に鈍感とかどこのラノベ主人公だよ。

 

 その幸運少し分けろこの野郎。俺だってモテたいわこの野郎。

 

 今世では彼女ができますよーに。出来れば可愛くてボインな感じが、俺としては嬉しいですね。

 

 きっと出来る、いつか出来る…………きっと、多分…………恐らくだけれど…………

 

 ━━━

 

 今日は晩御飯のあと、珍しく父さんが俺達全員を集めた。なにやら大事な話があるらしく、緊張した顔で向かって言われた一言。

 

 実は、俺とリィンは二人の子供じゃないんですというカミングアウトだった。

 

 うん、知ってた。

 

 いきなり真剣な表情でいい始めるからなんだと思った。もしかして俺ここから追い出されるんじゃないとか本気で考えた俺の焦燥を返してほしい。

 

 リィンとエリゼは驚いてたけど、父さんと母さんは俺がその事実に気がついてた事にビックリしてた。聞こえてたんだよごめんなさい。

 

 そのあと、父さんと母さんは血が繋がっていなくても、俺達は家族だと明言してくれた。それがとても嬉しかった。

 

 本当に拾ってくれたのがこの二人で良かった。今世スタートはもう最悪だったけれど、それもこれも両親に出会うための物だったと考えるなら悪くない。

 

 けどエリゼの喜ばしそうな表情でそわそわするのは、見てて呆れの意味を込めたため息が出そうになった。も少しポーカーフェイスを覚えてくれエリゼ…………

 

 話が終わったあと、部屋に戻ろうとしたら父さんが俺を呼び止めた。どうやら俺にだけ話があるらしい。

 

 リィンもエリゼもいないなか、母さんと父さんと俺の三者面談の内容は…………

 

 エリゼとリィンをくっつけたいんだけどどうすればいい? って話だった。

 

 ほら見ろエリゼ、本人通り越して親に恋心ばれてんぞ。もう兄として妹のこの先が心配だよ。ま、エリゼに変な虫がつくことはまずないな。リィンが許さないだろうし。

 

 で父さんが俺になにかいい案がないかと聞いてくるがなぜ俺なんだ。前世では彼女いない歴=年齢な俺にそんな事聞くか? 

 

 父さん曰く、二人と一番接してるのが俺であり、さらに俺が大人びてるからなにかいい案を出してくれるじゃないかと言うことだった。

 

 そりゃ大人びてるよ。こちとら人生二周目ですぞ? これでガキっぽかったら逆に問題だわ。

 

 とりあえず二人には俺とそれとなく手伝うように告げたけど多分意味ない。

 

 だって相手あの朴念人だもん。絶対気がつかないよこれ。鈍感難聴君なんだぜ? それでイケメンとか? 皆に優しいとかもうそれ主人公じゃん。腹立つわ~今更ながら。

 

 まぁ、エリゼ、ファイトだ。兄さんは応援してるぞ、おまえが告白しない限り可能性は絶望的だけど。

 

 ━━━

 

 事件っていうのは、本当に突然起こるものらしい。

 

 何の前兆もなく、大事は俺達に降りかかるみたいだ。

 

 事件の発端は、俺達が雪山で遊んでいた時だ。

 

 エリゼがもっと奥に進んでみようと言い出したのだ。俺もリィンももう九才、エリゼも七才ということでちょっとした冒険心も強くなっていた。

 

 けれど雪山はある一定以上は入ってはいけないと父さんから口酸っぱく言われていたし、俺は反対しようとしたのだけどその前にリィンが折れてしまった。

 

 俺はリィンを問い詰めようとしたけれど、すぐに戻れば大丈夫だと言ってリィンも聞かない。こいつも行きたいんだなと思った頃はもう既に時遅し。

 

 仕方なしで、俺も後ろからついていった。

 

 森の中はいつも遊んでいた所より鬱蒼としていて、気味が悪かった。それはエリゼやリィンも感じたのか、言い出しっぺのエリゼがへこたれて戻ろうといい始めた。

 

 そう言われれば妹を溺愛するリィンが無視する訳もなく、俺達三人はすぐに引き返した。

 

 それこそ、奥に入ってから十分とも経っていなかったと思う。けど、それで充分だったんだ。

 

 ゆったりと歩いていた俺達の背後から、のそりと大きな影がかかった。

 

 静かに、そしてゆっくり首を後ろに向けると…………

 

 そこには、巨大な熊が立っていた。

 

 走れと叫んだのは俺だったかリィンだったか、些細な事は記憶にない。それくらい俺達は必死だった。

 

 雪の積もる地面という足のとられる場所を全力で走りながら熊から逃げる。けれど、熊はもう俺達をターゲットにしたのか俺達を逃がしてはくれない。

 

 大きな気配が、どんどんと後ろからやって来る。走りながら何度も後悔した。あの時俺が止めれば、嫌われてでも行かせなかったら、こんな事にはならなかったのにと。

 

 迫り来るプレッシャーはどんどんと大きくなる。そのプレッシャーに耐えかねたのか、

 

 エリゼが雪に足をとられて転んでしまった。

 

 俺達全員の足が止まってしまう。そのせいで、熊はもう目と鼻の先まで近づいてきた。

 

 どうしよう、そう考えるより先に、

 

 あの日の覚悟が俺の頭を過った。

 

 エリゼの、妹の危機に対してただ棒立ちしてた俺への覚悟を。

 

 思い出してからの俺の動きは、想像以上に早かった。近くの木についた枝を折って、俺はそれを勢いよく熊の目めがけて突き刺した。

 

 熊も油断していたのか、その木の枝は綺麗に熊の目にぶっ刺さった。片目を潰せた事は、今でも本当に幸運だったと思う。

 

 熊が痛みから来る苦悶の声をあげた時、俺は後ろの二人に言った。

 

 逃げろ、と。

 

 リィンは俺も戦うとか言い出したけど、それじゃエリゼは誰が守るんだと強引に説き伏せる。この山のなかに熊が一匹だとは限らないし、これだけ騒げば他の熊も狙ってくるかもしれないし。

 

 だからこそ、安全地帯、家まで逃げるのが一番だ。

 

 まだごねてくるリィンに地面を蹴って雪を飛ばした。そして強い口調で行けっ!! て叫んだ。

 

 俺らしくないとはわかってる。この世界に生を受けたあの日は死にたくないとかで、雪山のなか必死に叫んでたのに今じゃ自分から命を投げ出そうとしてる。

 

 だってリィンやエリゼに死んで欲しくないから。

 

 これが、俺が父さんや母さんに出来る、最大限の恩返しだと思うから。

 

 救われた命は、今ここで使うべきなんだと、強く思えたから。

 

 唇を血が出るくらい強く噛み締めたリィンは、覚悟を決めたのかエリゼの手を強引にとってシュバルツァー邸へと一直線で走っていった。

 

 これであとはリィン達の無事を祈るだけになり、俺は熊相手に時間を稼ごうとした。

 

 熊の大きさは俺の三倍くらいはあり、目を貫かれた怒りからか、恐ろしい表情でこっちを睨んできた。

 

 足はガクガク震えたけど、それでもやるしかない。

 

 手元には木の枝、武器はこれしかない。剣も、槍もなく、肉体ですら武器となるか怪しい。

 

 けれどもやるしかない。それが、俺があの日決めた覚悟の証明なんだから。

 

 そう思って、俺は雪積もる地面を蹴って飛びかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 負けました。

 

 そりゃそうだよね。まだ体も出来上がってないような子供が、熊に勝てるわけないよね。

 

 もう爪とか牙とかでグッチャグチャにされた。痛いとかそんな次元の話じゃない。生きたまま食われるのがここまで地獄だとは思わなかった。

 

 肩から噛みつかれるし、お腹にその獰猛な爪突き立てられるしで俺は無様にも叫んだ。

 

 噛まれながら腕を引っ張られた時は本当に視界に光がチカチカってなるくらい痛かった。

 

 血がダバダバ出て足元の地面は純白だったはずなのに、俺の血で真っ赤に染まってた。腹からは内臓が垂れ流れて、腕はだらりと向いてはいけない方向へ流れてる。

 

 指一本とも動かない。そもそもこの指は本当に自分のものだったのか不安になるくらい、頭から送られる信号を受け取ってくれない。

 

 ほとんど千切れかけだったから、多分神経がイカれてたんだろう。

 

 凄惨な怪我による痛みと、体から流れ足りなくなった血液のせいでで意識が朦朧としてきた時、

 

 遠くから叫び声が聞こえた。

 

 甲高い声だった。多分女の子の。

 

 それがエリゼの叫びだと理解するのに、時間なんて必要なかった。

 

 俺をいたぶって楽しんでいた熊は、その叫びに反応したのかピクッと体を跳ねさせると、もうぼろ雑巾みたいになった俺をその辺に投げた。

 

 もう動くのも無理だってくらいぼろぼろで、呼吸もまともに出来ない。ヒューヒューと響いた呼吸音は、きっと口からじゃなくて熊の爪で裂かれた首元からだったんだろう。

 

 冷たい風だけが俺の負傷部を撫でる。それでも痛いのに、体は痛みに緩慢になっちゃったのか、動けない。というより動いてはいけない。

 

 動けば死ぬ。そんな予感が、あの時俺の頭にはあった。

 

 動けば、それだけで腕が千切れる。漏れ出た内臓が傷つく。体の底から血塊が暴れ出る。そのすべてが、俺の死へ直結する。確信めいたものが、俺の頭をぐるぐる回る。

 

 しかし、それでもこのまま熊を行かせるわけには行かなかった。

 

 だってエリゼがこんな叫びをあげたってことは、なにかあったって事だから。そこにはリィンだっている。

 

 俺一人でもただ惨たらしく殺されるだけだったんだ。エリゼを守りながらなんて、リィンに出来るはずがない。

 

 急がないと、早くしないと、もう取り返しのつかない事になってしまう。だが、俺の意思に反して、体はそこから動いてくれない。

 

 どれだけ試しても、どれだけ心を強く持っても、うんともすんとも体は応えなかった。

 

 次第に、俺の中にあった二人を守るという覚悟すら、遠のく熊の背のように小さくなっていった。

 

 無理だ…………自分の中で諦めがついてしまった。上げかけた体を雪にうもらせ、俺は空を仰ぐ。

 

 生まれて始めて見たのが雪の降る空なら、死に際に見るのも雪の降る空。なんかポエミーだなとかどうでもいいことを考えた。

 

 だってもう死ぬんだから、どうでもいいじゃんと投げやりになって。

 

 救いたいって覚悟を持っても中途半端で、弱っちい俺はここで死ぬんだから。

 

 ああでも、電柱にぶつかって死んだよりは箔がつくかなと思ったその時、

 

 あの声が聞こえた。

 

あなたは、そこにいますか?』

 

 その声に、俺はふっと笑ってしまった。

 

 いる、いるよ。

 

 中途半端な覚悟持って、助けるはずの二人が今まさに危機に陥ってるのに諦めて、ついでに自分が生きることもあきらめた奴なら…………

 

 ここにいるよ。

 

 そう、口にした。

 

 すると、変化はすぐさま起きた。

 

 俺の体中からあの緑色の結晶が凄い速さで生えてきた。そして俺を覆いきると、パリんと割れて、

 

 また空の景色が見えた時、痛みが一気に引いた。

 

 完全になくなったわけじゃなかった。腸の爪の刺し傷とか、肩口の噛み痕は残ってるけど腹は抉られてないし、肩も引き裂かれてない。内臓はしっかり体に収まってるし、意識もさっきより鮮明だ。

 

 なんかわかんないけど、少しだけ怪我が治ったんだ。

 

 熊も驚いたのか呆然とするなか、俺はまだ痛む体をどうにか立たせた。

 

 治った理由はわかんないけど、また立てた。

 

 なら、諦めるには、まだ早い。

 

 どうにか熊をこっちに注意を向かせて、俺もリィン達の所へ行かなくてはと。

 

 一度折れた貧弱メンタルな覚悟だったけれども、またチャンスが降って湧いたのだから。

 

 リィンのために、エリゼのために、救ってくれた両親のために。

 

 それがお前の覚悟だろうと、まるで神が俺に語りかけてきた気がした。

 

 だからまた熊が向かってきても怖くなかった。キリッと強く熊を睨むと、また声が頭に響く。

 

あなたは、そこにいますか?』

 

 って。

 

 ああいるさと、数瞬前の俺とは違う意味合いで心のなかで思った。

 

 ぼろぼろだけど、絶望的だけど、それでも助けたい二人のために立てる俺なら、

 

 ここにいるぞと。

 

 それを口にした。

 

 瞬間、俺の右手の先から大量の緑の結晶が生えてきた。結晶はぐんぐん伸びていき、前世の俺の身長くらい伸びたかと思うと、大きな音をたてて割れた。

 

 すると中から見たこともない物が姿を表した。

 

 それは辺りに降る雪のような白さの長い剣のようななにか。剣と言うよりは、なんか馬にのる騎士が持つ槍に似てた。

 

 先端が矢印のようにとがっていて、手元は丸くなっているそれは、すっと俺の手に馴染んだ。

 

 そしてこちらに体勢を戻して肉薄する熊に、

 

 迷うことなく俺はその槍を突き刺した。

 

 なんだか、使い方が勝手にわかった。見たこともないはずなのに、これはどうやって使うのが正しいのかが。

 

 俺がその通り念じると、熊の大きな腹に突き刺さった槍はゆっくりとその刀身を広げた。すると、開いた刀身の間を青い稲妻が迸る。

 

 俺が再度念じる。そしたら、今度はその槍を持つ腕の部分を覆うように結晶が生えた。それと基点に、稲妻はさらに力強く光りだす。

 

 その光が一際大きくなった時、

 

 俺は念じた。

 

 その瞬間、刀身の根元から青の稲妻の弾丸が熊へとものすごい速さで飛んでいった。

 

 大きな閃光が瞬き、あまりの眩しさに俺は目を背ける。そしてもう一度目を向けると…………

 

 そこに熊は跡形もおらず、雪景色も木もほとんどない。ただの焼け野原になっていた。まるで本当に稲妻がそこへ落ちてきたようなほどに。

 

 なんだ神様、チート能力があるなら先に言ってよ。

 

 そんな目の前の光景とは正反対の事を頭で考えながら、気絶した所までは覚えている。この先は覚えてない。

 

 次に俺が目を覚ましたのは、なんと熊に襲われたあの日から三日も経った頃だった。

 

 起きた直後はもう大変だった。顔をぐしゃぐしゃにしながら母さんが抱きついてきたり、父さんに全力でぶん殴られたりともう大変。

 

 あとリィンとエリゼも無事でした。やったね! 

 

 俺の体は色んな所に大きな怪我があったから、数ヶ月は安静にしなきゃいけないとか。傷も結構深かったらしく、助かったのは奇跡的とのこと。体に熊の噛み跡とか爪痕とかは残るらしいけど、まっ命があるならそれでいいよね。

 

 でも、それより聞かれたのは俺の身に何があったのかだった。

 

 俺が倒れていた辺りはもう完膚なきまでの焼け野原になっちゃってたと。まぁやったの俺だけど。

 

 事情を説明すると、父さんはその槍は今も出せるのかと聞いてきた。

 

 何回も出ないでしょとか思ってたら、ちゃんと出てきました。

 

 前と同じように緑の結晶が俺の腕から伸びて、そして割れたらあの白い槍が現れた。怪我人の俺がそれを軽々と持つのに、父さんはビックリ。そういえばあれあんま重く感じないんだよね。

 

 試しに父さんに渡してみると、凄い重いものを持ったみたいな反応をしてた。え? それそんな重い? 俺片手で持てるんだけどと思ったけど、どうやら俺以外はとりあえず持つこともうまく出来ないみたいだ。

 

 なんか俺しか使えないって響きいいよね。中二心をくすぐられる。

 

 とりあえず、リィンもエリゼも大事なくて良かったと思ったら、父さんの口から驚くべき事が聞かされた。

 

 リィンが、熊を惨殺したと。

 

 俺と別れたあと、リィンとエリゼはもう少しで家だというところで熊に襲われたらしい。もう万事休すかと思ったら、リィンの雰囲気が変わって熊をぶち殺したそうで。

 

 え、あいつ何者? やば…………九才で熊殺すとかやば…………まぁ俺もなんだけども、それはまた違うじゃんか。

 

 それのせいでリィンもなんだか自分の事を怖がってるみたいだ。また今度話とかを聞いてやろうと思う。

 

 まだ書きたい事があるけどこの辺にしとく。これ以上書いてると怪我に障るだろうし、あとシンプルに眠い。

 

 怪我が治ったら、この槍についてもっと調べたいと思った。

 

 ━━━━

 

 やっと怪我が治ったので、早速この白い槍について色々調べてみた。

 

 実験場所は山の中、前のように奥までは行ってないのでそこは安心してほしい。

 

 まずは出し方。これは俺が出したいと願ったら勝手に出てくる。出方は右手から緑の結晶が伸びて、ある程度伸びたあと結晶が割れて中から出てくる感じ。

 

 長さは大体160センチくらい。結構長いから降りにくい。今後使うなら、練習が必須だ。

 

 出そうと思えば左手からも出せる。けどやっぱ違和感なく出すなら右から。同時に出すのは出来そうだったけどまだ無理だった。これも練習あるのみ。

 

 出せる最大量は十本。それ以上はいくら念じても出てこない。出した奴は俺が一定時間触らないか、俺が戻れと念じたら消える。消え方も出るときと似ていて、結晶がどばーっとなって、割れたらもうないみたいな感じだった。

 

 説明が難しいから雑だな……読むの俺だけだしいいや。

 

 で、肝心の稲妻の弾丸だけど、これがなかなか威力が高い。射程は大体十メートル、木に当てたら木が普通に折れる。

 

 やってる時に、あの熊を倒した時みたく大火力で撃てるかなとちょっとウキウキしながらやってみたら……

 

 全っ然威力上がんない。

 

 前のように腕全体を結晶が覆わず、覆うのは精々手首の周りくらい。威力もほんのちょっとあがったかな? ってくらいだった。

 

 なんだったんだあの時のバカ威力……あんなのバカスカ撃ちたいんだけど……派手好きなのは仕方ないね! だって男の子だもん! だもんって書いてて恥ずかしくなった。

 

 わかった事と言えばこれくらいだけど、最重要項目を書くのを忘れそうだった。

 

 そう、この槍の名前だ。

 

 だってつけたいじゃん! カッコいいんだぞこれ! やっぱ名前なしで白い槍じゃなんか味気ないし。

 

 てことでつけました。

 

 この槍の名前は、今日から『ルガーランス』にしますっ!! 

 

 我ながらいいネーミングセンスだと思う。いいねこれ、山の中で二時間考え込んだだけはある。

 

 それと、今後また何かにリィンやエリゼが襲われないとも限らないので、このルガーランスをうまく使えるように練習しようと思う。

 

 いつでも自分の好きなときにこれを出せるのは、俺のなかなかな強みだと思うし。何より使えたらかっこよくない? 

 

 なんか本格的に中二病になってる気がする…………でもそれもこれもカッコ良すぎるルガーランス先輩のせいって事にしよううんそうしよう!! 

 

 俺は悪くない! 多分…………

 

 そして話は戻してリィンなんだけど、やっぱりあの事件のあとから変だ。突然物を壊したり暴れ出したり、正気じゃないような行動が目立つ。

 

 本人は完全に無自覚で、自分がやりたくてやってるんじゃないらしい。そりゃそうだろうな、だってリィンってそんなキャラじゃねぇもん。

 

 リィン自身も、いつ暴れるかわからない自分が怖いらしくて、最近じゃ部屋に籠り気味だ。

 

 あんまりよろしくない傾向だ。これじゃただ塞ぎ込んでくだけ。

 

 てことでこれが書き終わったら、あいつの部屋へ突撃しに行こう。ジャンジャン騒いでやるぜジャンジャン!! 今夜は宴だぁ!! 

 

 

 

 

 追記

 

 傷口が広がりました…………痛い…………

 

 

 ━━━

 

 山の中で練習を始めて、早一年。

 

 大分ルガーランスを上手く使えるようになってきたけど、まだまだだ。

 

 ルガーランスを振ってるというより、ルガーランスに振られているという感じがまだ否めない。

 

 持ち方も色々研究した。最初は剣道の構えで振ってたけど、これやっぱ槍だしということでちょっと変えた。

 

 今は右手で持って、左手で照準を定めるようにしながら槍を構えてる。これがこの一年で、このルガーランスの真骨頂である『刺して撃つ』がしやすいスタイルだ。

 

 足腰も同時に鍛えてるけど、そこはやっぱ前世の経験が役にたった。これでも運動部に所属してたから、鍛え方はわかるんだよね。

 

 俺実はサッカー部だったのよ! 万年ベンチだったけど…………

 

 真剣に取り組んでたよ? 幽霊部員にもならなかったし、結構頑張ったつもりだ。

 

 けど才能にゃ勝てんかったよ…………やっぱマネージャーが可愛いってだけで入る不純野郎には、神は一物も与えてくれないらしい…………

 

 閑話休題(それはそれとして)

 

 いつも通り練習してると、俺に声をかけてくる人がいた。それは顎と口元から髭を伸ばした爺さんだった。

 

 爺さんは鍛練する俺に深く感心したのか、俺に鍛練を手伝ってくれた。

 

 第三者から見てもらった事なんてなかったからなかなか充実した鍛練になったし、爺さんの鋭い指摘も有り難かった。

 

 一通りの鍛練を終えたあと、爺さんに礼を言うとどうやらこの爺さん、父さんに用があって来たみたいだった。

 

 教えてくれたお礼にと、ルガーランスを消して爺さんを家まで案内した。爺さんは俺がルガーランスを体から出た緑の結晶で覆った事に驚いてたけど。

 

 で、着いて父さんの所に案内したあと、俺は始めてあの爺さんの正体を知った。

 

 この爺さん、ユン・カーフェイは『剣仙』と呼ばれるほどの剣の使い手だった。

 

 スッゴい人だったよこの爺さん!? 俺なんか近くの町の人だと思ってむっちゃ気さくに喋っちゃったよ!! 

 

 なんかもう、俺の洞察力のなさが悲しい…… ……リィンよりはある自信はあるけど、あれは比較したらしたで悲しくなるからやめとこう…………

 

 どうやら父さんとユン老師は昔から仲がよく、たまたま近くを訪れたから寄ったという事らしい。父さんすげぇな、どうやったらこんな人と知り合いになるんだよ…………今度その秘訣教えてもらお。

 

 ━━━

 

 なんか知らぬまに、リィンがユン老師に弟子入りしてた。

 

 えっ!? て驚いたけど、リィンから事情を聞いて納得した。リィンの内に眠る何かを抑えられるようになるためらしい。

 

 あの一件以来、リィンは時折髪が白くなって目が赤に変わり、凶暴化しかけるということがずっと起こってたし。このままではいけないと思い、弟子入りを決めたのだとか。

 

 凶暴化の話を始めて聞いた俺は心底心配したけど、大丈夫の一言で一蹴された。

 

 まぁ本人が大丈夫というならそうなのかもしれないけど、やっぱり頼ってほしいとは思う。血は繋がってなくても、俺らは兄弟な訳だし。

 

 でもエリゼが俺に言ってきた事を聞いて、俺は吹き出してしまった。

 

 弟子入りしたのは、俺に負けたくないからなのだとか。

 

 俺がルガーランスの練習するのを見て、対抗心が沸いたらしい。

 

 結局、俺もリィンも、根っからの男だったという訳でした。

 

 思考が子供っぽいとか思うかもしれない。けど、前も書いたけど男子なんてそんな物なんだ。

 

 ━━━

 

 やった!! ついにやったぞ!! 

 

 ルガーランスの両手同時出しがついに成功した!! 

 

 ここまで長かった…………ルガーランスの練習を始めて三年。ついにここまで来れるようになった。やっぱり努力は素晴らしい。頑張れば実るもんだ。

 

 逆にサッカーに関しては頑張りが足りなかったということが判明したけど、そこは気にしない気にしない! 

 

 判明と言えば、最近面白い事がわかった。

 

 あの最初の実験以来、強化撃ち(熊消し飛ばした方の撃ち方)を試してなかったのでやってみると、

 

 明らかに威力が上がってました。

 

 結晶は大体俺の腕の四分の一くらいまで覆うようになったし、威力は通常時とは段違いなくらい上がった。

 

 遣えば使うほど、これは威力が上がっていくんだろうか? だとしたら今後どんどん使っていけばこのルガーランス君も成長するはず! 

 

 てことでどんどん練習していこう!! 

 

 リィンも最近はメキメキと実力を上げてるみたいだし、俺も頑張らないと!! 

 

 ━━━━

 

 おかしい…………何度も使ってるはずなのに威力が一向に上がらない…………

 

 何でだ? 使えば使うほど強化撃ちの威力は上がってくんじゃないの? もしかして違う? 

 

 どっちにしろも少し研究が必要だわ。

 

 ルガーランスについては大分上手く使えるようになった来た。もう体の一部みたいに上手く使える。日々の努力の賜物だろうか? 

 

 あと、最近ユン老師に付き添ってもらって山の中で実戦的な訓練をすることになった。

 

 相手はあいつです。

 

 因縁深き熊です。

 

 最初はひたすら逃げの一手だった。だって俺のなかでもう熊ってトラウマのそれなんだもん。俺あいつに殺されかけてるからね? そりゃトラウマにもなるて。

 

 でもなんだかんだで一体倒せたら自信がついて、熊を刺しては撃ち、刺して撃ちを繰り返した。時々鬱憤を晴らす感じで強化撃ちもぶちこんでやった。

 

 生き物相手にルガーランスをまともな状態で使った事がなかったからわからなかったけど、これ撃たれた側体の内部ボッロボロになるね。

 

 これは石とか鉄とかでも一瞬で壊せるわ。半端ないっすルガーランス先輩! 俺一生着いていきます!! 

 

 今後は時々ユン老師が付き添ってくれる時のみ、熊狩りがオッケーになった。やったぜ、この山から熊を一匹残らず駆逐して、ルガーランス先輩の錆びにしてやるぜクックックッ…………

 

 あっ、ルガーランス錆びないわ。

 

 ━━━━

 

 いつもの如くルガーランスを振ってると、今日はユン老師に呼ばれた。

 

 なんだと思ったら、なんとリィンと模擬戦してほしいということだった。

 

 なんと!? なんとついに対人戦ですか!! とテンションが上がったけど冷静になったらそれ無理じゃない? 

 

 だってルガーランスって明らかに人に向けちゃダメな威力してるよこれ。いや普通に槍として使うなら問題ないけどさ。

 

 そんな事をユン老師に言うと、撃っていいわけないじゃろうこのアホがと殴られた。でも撃てないルガーランスなんて、ただの槍じゃん!! ほら! ルガーランス先輩も実力発揮できなくて泣いてるよ!! 

 

 なんて茶番をしてから、リィンと模擬戦を開始した。最初は遠慮気味だったリィンだけど、途中から熱が入ったのか真剣勝負になっていった。

 

 ユン老師が言うには、その時俺もリィンも凄く楽しそうだったとか。やっぱ燃えるよね真剣勝負。

 

 結果は五分五分、練習してる期間が長い俺が勝ち越したい所だったけど、やっぱりしっかり型とかを習ってるリィンは強かった。俺は全部我流だからね。

 

 そのあと、ユン老師が俺達二人を相手にすると言い出した。それも俺にはルガーランス強化撃ちの許可も出して。

 

 えっ!? いいの? と思ったが駄目でしょう!! 死ぬよ老師!! と思ったけど、

 

 あっさり負けました。

 

 強すぎないあの人…………なに強化撃ち見ずに避けるとかもう人やめてるでしょ…………リィンも唖然としてたよ。

 

 上には上がいるって事が身にしみてわかりました…………

 

 ━━━

 

 勉強って本当に嫌だよね…………

 

 最近はそれをよく感じる。特に歴史、前世と内容が違いすぎてついていけん…………

 

 なんだよ獅子心王って、ウィリアム一世ですか? って言ったらスッゴい変な顔された。だってやってたゲームに出てきたよウィリアム一世。名前だけだったけど。

 

 でも勉強はこの世界で生きていくために必要なわけて、絶対にやらないといけない…………はぁ、憂鬱だ。

 

 てか、リィンもエリゼも普通に頭よくない? 俺が悪いの? まぁ勉強サボってルガーランス振ってたけどさ、それが原因かなぁ…………

 

 ま、前世ではそれなりの成績だったし頑張るしかないよね。

 

 やる気は欠片も起きないけど…………

 

 とりあえず、予習と復習をやっていこうと思う。思ったけど…………

 

 基礎がわからないのに予習も復習もくそもねぇや! 

 

 というわけで、根本の基礎からしっかり見直すはめになったのでルガーランスを振る時間がめっきり減りそう…………

 

 少しの別れだルガーランス! だがこれはさよならじゃないぞぉ!! 

 

 さて、勉強しよ。

 

 ━━━

 

 リィンが晴れて、ユン老師から八葉一刀流の初伝を承った。

 

 俺からすれば喜ばしい事なのだけど、リィンにとっては違ったらしい。

 

 リィン曰く、ここが俺の限界なんだとか。

 

 何言ってんだお前って言いたくなったけれども、それを口にしたリィンを見ていて、それを言うのは憚れた。リィンがどれだけ真剣に取り組んできたかは俺が一番理解している。

 

 努力が絶対に叶う、なんて事はあり得ない。努力はあくまでも、実る確率を引き上げるだけの作業だ。

 

 人には限界がある、それをリィンは見つけたというだけの事なんだろう。

 

 その本人がこう言うのであれば、俺が口出しする事じゃない。

 

 だから俺はただ一言、『おめでとう』とだけ告げた。

 

 けれど、その見つけた限界をリィンが越えていくことを、俺は切に願っておくとしよう。

 

 リィンの修行が終わるのを機に、ユン老師もユミルをあとにした。あの人にはたくさんのものをもらった、本当に感謝しかない。

 

 あの人を越えられるように、もっと精進しよう。そして、また会ったときにはあの人に勝つんだ! 

 

 だからとりあえず、もうちょい勉強してルガーランスを振る時間を増やそう。逃げ出すのは無理だ、エリゼに確実に捕まって説教をくらう。絶対そっちの方が時間かかるし。

 

 怒ったエリゼは本当に怖い…………滅多に怒らない奴が怒ったら怖いよね、あんな感じ。

 

 だから俺は机に向かって勉強するしかないのだ…………妹に尻に敷かれてる気がする…………こういうのはリィンだけで十分だってのに…………不幸だぁ。

 

 ━━━

 

 食事の時、リィンがびっくりすることを言い出した。

 

 士官学校に通いたいと言い出したのだ。

 

 いきなりすぎて俺もエリゼもびっくりだ。そんな事をリィンから聞いたこともなかったし、何よりそんな事を考えていた事が意外だった。

 

 リィンが言うには、自分一人で生きていけるようになるために勉強がしたいとの事。もちろん父さんも母さんも大反対、楽しい食事が一変、激しい口論が始まった。

 

 無関係ですムーヴを頑張って決めてスルーできるかと思ったけどあいつ俺にまで話を振ってきゃがったからしようにもできないし。

 

 終いにはエリゼが泣き始めるという事態にまで発展し、一応終息はしたものの、リィンはその意思を変えるつもりはないらしい。

 

 食事のあと、リィンは俺の部屋にやって来た。そこで面と向かって二人で話してみた。

 

 リィンもどうやら、自分のせいで父さんが肩身の狭い思いをしている事に大きな罪悪感を抱いていたようだ。だからこそ、自立するという道を選んだのだと。

 

 その足がけが、士官学校らしい。

 

 そして最後に、俺も一緒に行かないかと誘ってきた。

 

 実力としては申し分ないだろうし、二人で自立して父さんや母さんに立派になったと見せてやろうと。

 

 けど、ここから離れてもいいのだろうか。何年もの間、見ず知らずの俺達の面倒を見てくれた父さんと母さんを置いていくのが本当に正しいのだろうか。

 

 少し考える時間をくれと言って、そこで話は終わった。

 

 夜、一人外に出て色々考えた。

 

 十何年経った今でも、拾ってもらったあの時の事は鮮明に覚えている。一人寂しく雪の中を泣いていた俺を、父さんが救ってくれたんだ。

 

 ここにはたくさんの思い出がある。けれど、いつまでも二人の優しさに甘んじる訳にもいかない。

 

 それに、この俺の体についてもまだわからないことだらけだ。

 

 なぜこんな結晶が出るのか。

 

 なぜその結晶から、ルガーランスが出てくるのか。

 

 あの謎の声はなんなのか。

 

 生まれてからずっと調べてきた。けど、俺を納得させるような答えは出てこなかった。

 

 それを調べ、答えを出すという意味でも、この狭い世界から出てみるべきなのかもしれない。

 

 だから、俺はリィンと同じく士官学校に行くことにした。

 

 新たに見聞を広めて、自分のこの体について調べて、そして自立する。それを次の目標にしよう。

 

 もう山の中で一人で鍛練するのも飽きてきた。

 

 まだ俺が知っている世界は、このユミル周辺だけ。この新しい世界は、そんな狭いなかだけで終わるもんじゃないと思うから。

 

 父さんと母さんを説得させるのは難しいかもしれないけれど、そこはリィンと協力して頑張るしかないよね。父さんには殴られそうだけど…………

 

 俺は、新しい一歩を踏み出してみる事にするよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「懐かしいなぁ……こんなこともあったあった」

 

 部屋の中で日記を読みながら、俺は一人でニヤニヤとしながら過去を振り返る。

 

 鈍いクリーム色の髪は癖強く跳ね、灰色の瞳は今は楽しそうに細められた。

 

「もう十二年かぁ……書き始めて。いやぁ時の流れは早いなぁ」

 

 口にしてるとホントにおっさんみたいだ。でも前世からの年齢足すと、俺はもう三十路は行ってるし…………あれ? もしかして俺っておっさん? 

 

「おいカムイ! そろそろ行かないと遅れるぞ!」

 

「わりぃ今いく!!」

 

 しょうもない考えもここまでにしよう。というか中身はおっさんでも、皮は17なんだから問題ないんだきっとそうだ。

 

 日記を鞄に入れて口を閉め、背中から背負うように持ちながら部屋を見る。

 

 17年…………長いようで短い、いや長い時間をここで過ごしてきたけれど、それも今日で終わり。

 

「今までありがとう。行ってきます」

 

 名残惜しいけど、そうも言ってられない。手早く愛着ある自室へ別れを告げると、俺、カムイ・シュバルツァーは部屋を出ていった。

 

 ━━━━

 

「荷物は持ったな二人とも」

 

「大丈夫だって父さん、しっかり確認したから」

 

 家の外では、俺とリィンの新しい門出を祝うように父さんと母さん、エリゼの三人が待っていてくれた。

 

「体には気を付けるのよ。怪我しないように」

 

「士官学校だからそれはちょっと難しいかも…………」

 

「だな。」

 

 さすがに怪我なしは無理かな? 一応士官学校だし。まぁ大きな怪我はないように気を付ける。

 

「まぁ気を付けるよ母さん」

 

 リィンが笑顔で答えると、エリゼが俺達の前に躍り出た。

 

「リィン兄様! カムイ兄様! 絶対に手紙を寄越してくださいね!!」

 

「そうは言っても、お前も少ししたら学校に戻らないといけないだろ。」

 

「学校に送ってくだされば問題ないじゃないですか!!」

 

「いやまぁそうだけど…………」

 

 圧が…………エリゼの圧が凄い。もうそのままコクっちゃえよ。俺知らないよ? このまま出て恋敵増えても? まぁ相手がリィンだからそこまで問題にはならないと思うけど。

 

「手紙はしっかり送るから安心しろ。リィン、そろそろ時間じゃないのか?」

 

「あ、そうだな」

 

 士官学校はここ、ユミルからかなり離れた場所にある列車を乗り継いで行かねばならないし、この列車を逃せば明日の入学式には間に合わない。というよりこれ以上エリゼの圧を受けているとリィンが動けないだろうし。

 

「それじゃ…………」

 

「「行ってきます」」

 

 二人合わせた掛け声を最後に、二人は駅へと歩き始める。

 

「頑張るんだぞ!!」

 

 義父の声に手を振って答えると、そのまましっかりとした歩みで二人は進んでいく。

 

「さて、行くか!!」

 

「ああ!!」

 

 それ以上の言葉はいらないとばかりに、二人は新たな世界へ足を進めていく。

 

 が、この時俺は平穏に終わればいいなぁくらいにしか思ってなかった。

 

 この一歩が、俺を壮大な物語へ引っ張り込む第一歩になるなんて、

 

 今の俺が、知るよしもなかった。

 

 





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