体から結晶が生えてくるけど、俺は元気です   作:zhk

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赤色評価になっててびっくりなzhkです

まだ読んでくださる人がいてありがたや・・・・・・


波乱の入学オリエンテーション②

「うごっ!!」

 

 受け身も取らずに地面に体を叩きつけ、カムイはそんな呻き声を上げた。無理もない、いきなり突き落とされたのだし、体勢を立て直すような時間もなかったのだから。

 

「痛ったぁ…………背中が…………背中が…………」

 

 ぶつけた背中が酷く痛む。笑顔で自分を突き落とした教官の顔を思い出しながら悪態をつき、まだ痛い体を起こそうとしたその時、

 

 彼の真横に、フィーが着地した。それこそ、あと少しずれていたら顔を踏むくらいの近さで。

 

「おわっ!? 危な!!」

 

「あっ、ごめん」

 

 反射的に横に飛び退けたカムイに、フィーは謝罪を口にした。

 

「怖ぇ…………お腹ヒュンとした…………」

 

 あと本の少しずれていたらと思うと、カムイは少し身震いする。

 

「お前、俺殺す気? ズレてたら頭潰れてたぞ?」

 

「大丈夫、潰れてないから」

 

「いやそういう問題じゃねぇ。終わりよければじゃダメなんよ」

 

 まったく悪びれた素振りをカムイへ見せない猫のような白髪の少女へ向けてジト目をかますカムイであったが、白髪の少女はどこ吹く風。全然意味をなさないと理解する頃には、彼は諦めた感じで首を横に振った。

 

(しっかし、なんちゅーことすんだよあの教官も。ここは旧校舎の地下だよな? ここでなにするってんだよ。もうオリエンテーリングなんて感じじゃねぇし…………)

 

 教官の意図が読めずに困惑していると、パァンと気持ちのよい音が地下に響いた。

 

「この変態っ!!」

 

 そう言ったのは、今朝リィンと仲良さげに会話をしていた金髪の少女。そしてその目の前では、顔に紅葉を作っているリィンの姿が。

 

「あいつまーたなんかやらかしたな?」

 

 大方落ちた拍子にくんずほぐれずな感じになっちゃったんだろうなーお互い怪我なくて良かったなリィンざまあみろ朝からナンパなんてするからだ! 

 

 と、内心心配しているのか貶しているのかわからない事を思うカムイ。

 

 その顔はニヤニヤと人の悪そうな笑みを見せるところから、後者の意味合いの方が強そうだ。

 

「にしても…………これからどうしろって言うんだよ…………」

 

 弟分の悲しい(面白い)様から目をそらし、視線を現実に向けながらカムイはぼやく。教官から提示されたのは、今から行われるのはオリエンテーションだということのみ。

 

 胸を浮かんで消えない疑問で埋め尽くしかけた瞬間、彼のポケットからけたたましい音が鳴り響く。それは彼だけではない。他の生徒達からも、同じ音が鳴り始めた。

 

「ん? ああ、ガラケー擬きか」

 

 カムイを含む生徒達が一斉に取り出したのは、入学案内書と共に彼に送られてきた携帯用の導力機。全員がそれを開くと、そこから聞き覚えのある声が掛けられた。

 

『それは特注のオーブメントよ。エブスタイン財団と、ラインハルト社が合同で開発した次世代戦術オーブメントの一つ、第五世代型オーブメント、『ARCUS(アークス)』よ』

 

「これから声が?」

 

「通信機能を搭載しているのか!?」

 

 ARCUSと呼ばれた機械から聞こえるサラの声に、マキアスが驚いたような声を上げたが、カムイからすれば前世にあったスマホはもっと小さかったし、もっといろんな事が出来たから特に驚くことはない。

 

 それに形が一世代前のケータイにそっくりだったため、通話が出来て当たり前くらいに感じるのみ。

 

 なお、物珍しそうに見る周りから今現在浮いている事には気がついていない模様。

 

「戦術オーブメント…………『魔術(アーツ)』が使える特殊な導力機の事ですね」

 

『そう、結晶回路(クォーツ)をセットすることで、『魔術(アーツ)が使える用になるわ。てなわけで…………』

 

 がしゃんと明かりがついたかと思うと、薄暗かった部屋が鮮明に見渡せるようになる。

 

 部屋には円形に台が置かれており、そこにはそれぞれが持ち寄ったトランクケースや袋に入った武具、加えて、小さな箱が置いてあった。

 

 落ちる前にリィンが言っていた、『校門前で預けた物』とはこれのこと。各々の得物の事だ。

 

 学院の校門前では上級者が待機しており、彼らは入ってきた赤い制服の生徒の武具を一時的に回収していたのだ。

 

 その他聞に漏れず、リィンも愛用の刀を一時回収されたが、リィンの刀もきちんとこの場に置いてある。

 

 カムイの場合、武器が特殊すぎるので回収は出来なかったため、台の上には小さな箱のみとなんとも簡素な形になっていた。

 

 物寂しい自分の台に少しだけ、カムイは悲しくなった。

 

『それぞれ受け取りなさい。確認を終えたら、クォーツをARCUSにセットして。』

 

 そのサラの一声を切り目に、それぞれが自分の荷物の元へと足を向ける。カムイも感傷に浸るのを一旦やめて、箱だけが乗った台へと向かった。

 

「えっと…………あこれか。」

 

 カムイが箱から小さめの宝石を取り出し、ARCUSの中心部にあるいかにもなにかを嵌めてくださいと言わんばかりに開けられた窪みに、それを埋め込んだ。

 

「おお…………」

 

「これは…………」

 

 すると、彼ら十人の胸とARCUSがそれぞれにあった色に光を放つ。その光は少しすれば鎮まり、タイミングを図ったかのようにサラの声がARCUSから聞こえてきた。

 

『それがARCUSとあなた達が繋がった証拠よ。これで晴れて、魔術(アーツ)が使えるようになったわ。他にも面白い機能がついてるんだけど、それは後々に説明するわ』

 

 サラが言い終わると、彼らの後ろに設置されていたドアが、重苦しい音を経てながら開いた。

 

『そこからはダンジョン区画になってるわ。ちょっと入り組んでるけど、そこを抜ければ、旧校舎一階にたどり着けるわ。ま、ちょっとした魔獣なんかもいるんだけどね』

 

「え、なにそれ聞いてない」

 

 本気で焦ったような表情になるカムイ。だって普通想像するだろうか? 入学式初日から、魔獣と戦わせられる事になるなんて。

 

 倒せない訳ではないが、本当に何もかもがいきなりすぎて、前世からの年の功があったとしても動揺を隠しきれない。

 

『それではこれより、士官学院、特科クラスⅦ組、特別オリエンテーリングを始める。各自ダンジョンを抜けて、旧校舎一階までたどり着く事。文句はそのあといくらでも聞いてあげるわ。なんだったら、ご褒美にほっぺにチューでもしてあげるわよ♪』

 

「美人からのキスか…………けどなんか腹黒そうだしなぁ…………」

 

『聞こえてるわよカムイ・シュバルツァー、なんならあなたにはほっぺに銃弾でも構わないけれど?』

 

「全力で頑張りますはい」

 

 半オクターブ低くなった声音で言われたのに対して、素早すぎる手のひら返しを行うカムイに、リィンはやれやれと言った具合にため息をこぼした。

 

 ━━━

 

「で、どうしようか…………」

 

 気弱そうな男子がそう言うなか、Ⅶ組十名はダンジョンの入り口を囲むように立ちながらうーんと唸った。

 

「あの教官が言っていたのを、冗談とは考えにくい」

 

「やっぱり、ここを突破するしかないか」

 

 青髪の少女の言葉に、リィンが同感する。これがこの士官学院のオリエンテーリングなら、クリアしなければ話は先に進んでいかないだろう。

 

「ふん…………」

 

 とそこで、ユーシスが自分の騎士剣を片手に悠然とダンジョンの入り口へと歩いていく。それを、マキアスが制した。

 

「待て! 君は一人で行くつもりか!?」

 

「馴れ合うつもりはない。元より、この程度クリア出来なければ意味がないだろう。それとも、怖いというなら、貴族として力なき民草を守ってやらんでもないが?」

 

「なんだと!?」

 

 わざわざ挑発して相手が腹を立てる事を誘導するようなユーシスの口調に、食ってかかろうとするマキアス。

 

 だがしかし、ユーシスは青筋を立てるマキアスなど気にすることもなく、一人静かにダンジョンの奥へと進んでいった。

 

「くっ! 僕だって!!」

 

 それに触発されたのか、マキアスもそのあとを追いダンジョンへと入る。

 

「行っちゃったよ…………団体行動ってのが出来ないのかあいつらは…………」

 

 単純というか、面倒臭いというか。自由すぎる二人に半ば呆れるようぼやくカムイ。それにまったくだと言いたげにガイウスは目を細めた。

 

「我々も動くとしよう。そなたとそなた、私と一緒に来る気はないか?」

 

 青髪の芝居かかった口調の少女は、金髪の少女と眼鏡をかけた少女の二人に声をかけた。ダンジョンに入るため、固まって動くのは正しい判断だ。

 

「え、ええ。別に構わないわ」

 

「私も。正直助かります」

 

 二人がそれに了承したのを確認すると、青髪の少女はもう一人の女子、フィーに声をかけようとするがそこにフィーはもういない。

 

「む…………?」

 

 怪訝に思った青髪の少女だが、フィーが一人ですたすたとダンジョンへと入っていくのを見て、納得したような面持ちになった。

 

「仕方ない、後で声をかけるとするか…………」

 

「…………えっ? あいつ放置すんの?」

 

 青髪の少女に反論する声が響いた。反論したのは、まだ打った体が痛むカムイだった。

 

「一人で行動するということは、それなりに自衛に自信があるということだろう。ならば、無理に声をかける事はしなくてもいいだろう。先ほどのユーシスや、マキアスのようにな」

 

「いやまぁ…………そうなんだけどさ…………」

 

 青髪の少女の言うことはもっともだ。実力が足りないのにも関わらず、こんな魔獣が蔓延るダンジョンで単独行動するのはただのバカか自殺希望者だけだ。

 

 一人で行ったということが、まずフィーという少女にそれなりの実力を保持してるという事実を証明してるのだ。それはカムイも理解してる。

 

 けれども、カムイは今朝あの非常に薄い警戒心を垣間見てしまっている。実力はあっても、油断一つで危険というのは襲いかかってくるもの。彼がユン老師の教えが彼へ警鐘を鳴らしてくる。

 

「さっきのやつには、俺がついてくわ。なんかあってからじゃ遅いし。それに獣狩りなら得意だ」

 

「そうか、なら頼む」

 

「おう」

 

 テキトーに手を上げて青髪の少女へ返事を返し、カムイはすぐにダンジョンへと足を踏み入れる。と、その前に…………

 

「リィン、こんな所でくたばるんじゃないぞ?」

 

「さっきまで吐きそうになってた奴には言われたくないな」

 

「言うねぇ」

 

 カムイは予想通りの返答を受けて満足そうに不敵に笑うと、フィーのあとを追ってダンジョンへと入っていった。

 

「では私達も先に行く。男子ゆえに心配せずとも大丈夫だとは思うが、くれぐれも油断はせぬようにな?」

 

 青髪の少女はそれだけ告げると、大剣を携えながらダンジョンへと入っていく。それに眼鏡の少女とリィンの頬に紅葉を作った金髪の少女もついていくが、金髪の少女は━━━

 

「ふんっ!」

 

 リィンの事をキリッと睨み付けてから、ダンジョンへと入っていった。

 

「はぁ…………事故なんだけどなぁ…………」

 

「ははは、もう目の敵にされちゃったね」

 

 リィンに悪気はまったくない。あれは本当に事故だったのだ。たまたまリィンが落ちて横になった先に、金髪の少女が飛び込んできただけで、客観的に見ればむしろ被害者はリィンの方だ。

 

 だが、いたいけな少女の胸に顔を埋めてしまったとなれば、話は変わってくる。こうなればどれだけ男子側に非がなかろうと、悪いのは男子だ。悲しいことに。

 

「それでどうする? せっかくだし、俺達も一緒に行くか?」

 

「うん。むしろそうしてくれるとありがたいかな? ここを一人で行くなんて心細いよ…………」

 

「異存はない。俺も同行させてもらおう」

 

 ガイウス、そして気弱そうな少年、エリオット・クレイグの二人の了承を得たことで、ここに三人のパーティが結成された。

 

 そこから簡単な自己紹介をして、彼らもダンジョンへと乗り込んで行くのだった。

 

 ━━━

 

 場所は変わってダンジョンの少し奥。長年使ってきた銃と剣を合わせた銃剣を二つ持つ、双銃剣と呼ばれる武器を構えながら進むフィーは、後ろからやってくる気配に対して警戒しながら振り向いた。

 

「やっと追い付いた…………お前、こんなとこ一人で行くなんて危ないぞ」

 

 暗いクリーム色の髪を振りながらやって来たのはカムイ。カムイは嗜めるようにフィーに言うが、フィーは相も変わらず変わらない表情で答えた。

 

「大丈夫。これくらいなら問題ないよ」

 

「問題あるかないかなんてわかんないだろ。いきなり強力な魔物が出るかもしれないんだぞ?」

 

 それを言われると、フィーも否定できない。だが、これは士官学院のオリエンテーリング。そこまで危険な魔獣などそうは出ないが、それはまた別の話だ。

 

「俺もついてく。一人より二人の方が安全だろ?」

 

「…………確かに」

 

 少し考えたあと、納得した素振りを見せたフィーに安心を見せるカムイ。この子本当に大丈夫だろうかと本気で心配になってくる。

 

「それじゃ…………行こ」

 

 フィーはそう言うと、一気に駆け出した。

 

 それこそ、風のような速さで。

 

「えっ…………はやっ!! ちょちょ、ちょっと待ってよおい!?」

 

 カムイが置いていかれていると判断したときにはもう遅い。フィーはもうかなりの距離をあけ、すいすいと壁を蹴りながら上の階へと移動してしまった。

 

「なんだあの動き…………ホントに同じ人間かよ。てか、あいつやっぱマイペースだな!? 一緒に行くって言ってから置いていくか普通!?」

 

 もう辺りに誰もいなくなった中、カムイは一人ぼやくように言うが残念ながら答えてくれる者はいない。むなしくダンジョンの中で響くだけだ。

 

 否、答えてくれる者はいた。だが…………

 

「キキキ…………」

 

「カカカ…………」

 

 それが人間ではなかっただけの話。

 

「ああ、こいつらが教官の言ってた魔獣か。飛び猫だっけか? それが四体…………面倒だけど、脅威ってほどじゃないか」

 

 冷静に、しかし油断せずに状況を的確に把握する。これも、長い鍛練で彼に身に付いた事だ。焦ればその分視野が狭くなり、余裕を持ちすぎれば足元を掬われる。

 

 この配分が大事なのだが、何度も山に入っては熊を相手に戦って修行してきたのでその点はバッチリだ。

 

 が、彼もこれが前世サッカーしているときになぜ身に付かなかったんだとよく嘆くが、今は嘆いている場面ではない。

 

「よっと」

 

 右手を横に振る。すると、そこから緑の結晶がぐんぐんと伸びていく。それらはかなりの長さになったあと、パリンと綺麗な音を伴って割れた。

 

 中から現れたルガーランスをしっかりと握りながら構え、カムイはじっとその灰色の瞳を飛び猫に向けた。

 

「んじゃ、やりますか」

 

「きしゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 一体の飛び猫が、奇声をあげながら近づいてくる。それに焦るわけでもなく、カムイはやってくる方向へ向けてルガーランスを振る。

 

 音もなく切り裂かれた飛び猫を見ずに、次に自分から一番近い飛び猫へ向けてルガーランスを突き刺す。ルガーランスの全長は約160センチ。体ごと一気に伸ばせばそのリーチは、そんじょそこらの槍よりも長くなる。

 

「ぎゃああああ!!」

 

「そらよっと」

 

 ルガーランスを遠くにいる飛び猫にむけて振る。すると突き刺さっていた飛び猫は、遠くでカムイを見ていた飛び猫にぶつかった。

 

 そこを逃さず、カムイはルガーランスの刀身を開き射撃の準備体勢に入ったかと思うと、すぐさま青雷の弾丸を重なった飛び猫二体へ撃った。

 

 瞬きする時間もいらないほど素早い弾丸は、あっさりと飛び猫二体を貫いた。

 

「ラストっ!!」

 

 上がってきたテンションにあわせて、意気揚々とルガーランスを最後の一体に向けると…………

 

「きゅーん…………」

 

 最後の一体は、涙目になりながらカムイを見ていた。

 

「うっ…………」

 

 カムイは、一瞬、ほんの一瞬だけ攻撃するのを躊躇ってしまう。元来猫好きな彼だが、今回あれは魔獣だと自分の中で割りきってルガーランスを振るった。

 

 だが、目の前でこんな態度を取られれば、カムイの戦意もガタリと落ちる。

 

「はぁ…………わかった。逃げろよ。追わねぇから」

 

「キキキっ!」

 

 カムイには、その声が笑っているように聞こえた。それもそうだろう。

 

 飛び猫の策略に、あっさりとカムイは引っ掛かったのだから。

 

「キャアアアアア!!!」

 

「えっ!? なに!?」

 

 もう戦意を無くした物と思っていた飛び猫がいきなり叫び出し、ビクリと体を震わせるカムイ。

 

 その飛び猫の叫びと共に、カムイの周りを他の魔獣が囲むように現れた。今度は飛び猫だけでなく、虫のような物まで姿を現す始末。

 

「キシャシャっ」

 

「……………………」

 

 嘲るように鳴く飛び猫に対し、カムイは静寂を貫く。

 

 ここで、カムイ・シュバルツァーという青年について説明しよう。

 

 現在十七歳。前世を合わせる精神年齢で言うと(その通り成長してるかは不明)三十四歳。

 

 これといった特徴はあまりないが、彼には猛烈に好きなものがある。

 

 それは、猫だ。

 

 前世では家でペットとして飼っていたし、その猫が死んでしまった時はまるでこの世の終わりのように意気消沈するほど溺愛していた。

 

 辛いことがあれば、ネットで猫の画像や動画を探してニヤニヤするというちょっと危ない趣味も持ち合わせている。

 

 それを見た彼の友人曰く、『顔がヤバかった』との事。

 

 そんな彼だからこそ、魔獣と言えども猫の様相をした飛び猫を狩る事に最初は躊躇していた。

 

 だからこそ、一度は逃がす事も考えたのだ。これが猫でなければ、彼は無慈悲にそのルガーランスを突き立てていただろう。さっきも無慈悲に刺してたって? 

 

 それはきっと錯覚だろう。

 

「ああ、そう…………」

 

 ワントーン低い声でそう言いながら、囲んでくる魔獣にルガーランスを向ける。

 

「お前猫みたいだから、ちょっとお情けあげたちょっと前の俺ぶん殴りたいわ。」

 

 飛んできた虫のような魔獣に対し、

 

 カムイはルガーランスを突き刺して、

 

 躊躇なく青雷の弾丸をぶちこんだ。

 

 小さな体に耐えきれるはずもない一撃を受け、虫型の魔獣はコナゴナにくだけ散る。

 

「お前は猫じゃねぇ…………猫の皮被った悪魔だ。悪魔は祓わなきゃいけないよなぁ?」

 

 ゴゴゴォと効果音の着きそうな怒気をはらんだ笑みを見て、囲みに入った魔獣達は一気に怯む。

 

 好きな猫を汚されて、

 

 その猫を騙すのに使われて、

 

 彼の腸は煮えくりかえっているのだ。

 

「魔獣死すべし慈悲はねぇ!!!」

 

 鬼気迫る様相で、自分を囲む何体もの魔獣をルガーランスで屠っていく。

 

 一体はルガーランスで切り払い、

 

 また一体はルガーランスの射撃で吹き飛ばし、

 

 また一体は刺してから撃たれて内部をボロボロにされて。

 

 何体もいたはずの魔獣は、みるみる数を減らしていく。伊達にユン老師に鍛え上げられ、山岳地で体を育てた訳ではない。

 

 カムイもリィンも気がついていないが、ユミルは他に比べて高度が高い位置に存在するため、空気が比較的薄い場所なのだ。

 

 そこで何年も過ごしていたため、彼らは通常よりも密度の濃い修行を行っていたのだ。彼らに自覚はまったくないが。

 

「はっ!! せいっ!! やぁ!!」

 

 青い閃光が強く瞬くなか、この事態を引き起こした飛び猫は思った。

 

 やべ、怒らしちゃいけない奴を怒らしちゃった。と。

 

「さぁて、あとはお前だけだぜ? 飛び猫ぉ…………」

 

 気づけば、飛び猫が呼び寄せた魔獣はすべて倒されており、残るは自分自身だけとなっていた。

 

「俺を襲うなら、襲われる覚悟があるって事だよな? あれ、これなんのアニメのセリフだっけ? まぁいいや。」

 

 ガッシャンとルガーランスの照準を飛び猫へ向け、ニタリとカムイは笑った。そして…………

 

「猫好きを怒らした罰だぁ!!」

 

「きしゃぁぁぁぁぁぁ!?!?」

 

 飛び猫は生存本能の赴くままに逃げようと全速力で飛んだ。

 

「逃がすか!!」

 

 後ろから青い閃光が自分を襲ってくる。そんな多大なプレッシャーの中、飛び猫は無我夢中で飛び続ける。

 

 くねくねと入り組んだダンジョンの中を、飛び猫一匹と槍を持った男との鬼ごっこが始まった。

 

 右へ左へ、カムイはどんどんダンジョンの奥へと進んでいく。

 

 そして飛び猫の体力がつき、動きが遅くなったその時、カムイの放った稲妻が飛び猫を貫いた。

 

「っしゃあ!! 猫の恨みは恐ろしいんだぞ!! わかったな!!」

 

 本当に総合年齢三十越えなのかと聞きたくなるようなセリフだが、本人は至って真剣な表情。こういうところに彼女が出来ない理由があるのだと、彼が気づく日は来るのだろうか? 

 

「しっかしここどこだ? 大分奥まで来たような気がするけど…………うん?」

 

 熱くなった頭を冷やしながら、状況判断をしようとした時、彼の目の前に扉が見えた。

 

「なんだ? ここがゴールなのか? いや、でも…………」

 

 カムイはその扉に違和感を感じざるを得なかった。

 

 一つ、扉が他のと作りが違う。

 

 明らかに今まで通ってきた扉よりも強固そうな作りであり、さらに作られたのも大分昔のように感じる。

 

 二つ、この辺りに一切魔獣がいないし気配もない。

 

 他の所なら、所々から魔獣の声や気配を感じたのに、ここには生き物の気配が微塵も感じられない。

 

「けど、とりあえず開けてみるしかないか」

 

 開ければその違和感もわかるだろという安直な考えから、その扉に近づいていく。

 

 一歩、また一歩と扉との距離は狭まっていき、

 

 今から扉を押すという所で、

 

 カムイの体に、何かがリンクしたような感覚が走った。

 

「なんだ今の?」

 

 誰かが、どこかで戦ってる。その場所も、状況もはっきりと頭に沸いてくるように理解できた。

 

「合流の方が先だな。なんかピンチみたいだし、それにあれくらいでかい奴なら、全力撃ちの実験に使えそう」

 

 すんでのところでさわりかけた手を扉から離し、翻って彼らが戦っているであろう場所へと、カムイは迷いなく駆け出した。

 

 そんな彼の背をじっと見る子供の姿になんて、彼は一切気がつかずに。

 

 ━━━

 

「はっ!」

 

「せやぁ!!」

 

「やっ!!」

 

「くそっ!!」

 

 カムイを除く九名は、もう既にゴールに辿り着いており、そこでボスとでも言うべき存在との戦いを繰り広げていた。

 

 石で出来た魔獣、イグルートガルムは数の不利に怯むことなく攻撃を仕掛けていく。

 

「エリオット、今だ!」

 

「うん!」

 

 リィンの掛け声に合わせ、エリオットが握る杖を振る。するといくつかの魔法弾がイグルートガルムに当たり怯ませる。

 

「そこっ!」

 

「倒れろっ!!」

 

 金髪の少女、アリサとマキアスがそれにあわせて弓とショットガンを撃つ。すると、イグルートガルムは一際大きな声を上げて、その巨駆を止めた。

 

「今だ!」

 

「私に任せるがよい!!」

 

 そこで叫んだのは、青髪の少女、ラウラだった。ラウラはその手に握られる大剣を大きく振り上げ、

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 声高らかに叫びながら、大剣を振り下ろした。

 

 刃は綺麗にイグルートガルムの首に当たり、スパンと首を跳ねた。

 

 首を跳ねられたガルムは、そのまま力無く床に倒れた。

 

「やった! これで…………」

 

「ああ、どうやら一安心のようだな」

 

 眼鏡の少女、エマの一声にガイウスが続いた。それに合わせて、全員が安堵の声を漏らした。

 

「それにしても、最後のはなんだったの? あの何かに包まれたような感覚」

 

「俺も感じた。一体なんだあれは?」

 

 アリサの疑問にユーシスが同意した。それはこの場にいる全員が感じた事だ。

 

 最初はここに一番乗りしていたリィン達が戦っており、そこに他のメンバーも加わるとそれは始まった。それぞれが、まるでお互いの動きを把握しているかのようなその感覚に、全員が戸惑いを隠せない。

 

「まぁそれについても、教官から説明があるはずだ。それよりも…………」

 

 リィンは辺りを見渡す。しかし、ここにいるはずの一人がいない。

 

「カムイがいないな」

 

「そなたと合流すると言っていたが、彼はどうしたんだ?」

 

 ラウラがフィーに聞くと、フィーは首をかしげながら答えた。

 

「最初は居たけど、途中からいなくなった。なんでだろ?」

 

「もしかして置いていかれたんじゃないか?」

 

「その可能性が強そうだね…………」

 

 フィーの身体能力を間近でみたマキアスやエリオットは、安易に想像出来る仮定を口にする。実際その通りなのだが、本当の事を知るものは誰もいない。

 

「まぁもうすぐ来ると思いますし、ここで待っておきましょう?」

 

 エマが全員にそう言うと、やれやれと言った具合に全員がそれに賛成した。

 

 このままゆったりとカムイを待つ。事態はそれで終息するはずだった。

 

 だが、ここで異常事態が起きる。

 

「ん? あれ?」

 

「どうしたフィー?」

 

 フィーがあげた疑問の声に、リィンが怪訝な表情をしながら尋ねた。すると、フィーは驚いたように目を見開きながら、

 

「さっきの魔獣の首がない」

 

「え?」

 

 全員が飛んでいった魔獣の首の方向を見ようとしたその時、

 

 大きな咆哮が、大広間に轟いた。

 

「なに!?」

 

「なんだと!?」

 

 咆哮の音源の場所には、首が元通りになったイグルートガルムが彼らをじろりと見つめながら空を飛んでいたのだ。

 

「首を切られても再生するのか!?」

 

「これじゃ手の撃ちようがない!?」

 

 驚きと諦めの声が聞こえ始めるなか、そんな彼らを嘲笑するようにイグルートガルムはもう一度叫んだ。

 

「くっ! 首を切るよりも、粉々にするべきか」

 

「でもどうやって!!」

 

「あんな巨体を粉々になんて、簡単には行きませんよ!!」

 

 アリサとエマのもっともな意見に、さすがのラウラも苦いかおになる。だが、現状イグルートガルムを仕留めるには、その方法しか思い付かない。

 

「粉々にする…………」

 

 だがそんな敗戦ムードのⅦ組のなかで、唯一リィンは考える。

 

(首をたっても無理、ならラウラの言うとおりにするべきだ。でもそれが出来る奴なんて…………)

 

「いや、あいつなら!!」

 

 リィンが一縷の希望を見出だしたその時、青の閃光がイグルートガルムを撃ち抜いた。

 

「えっ!?」

 

「後ろか!」

 

 ユーシスがそう言いながら背後を向けば、そこには…………

 

「ギリギリ間に合った…………」

 

 ルガーランスを向ける、カムイの姿があった。

 

「カムイっ!」

 

「なんとなく状況は理解してる。やればいいんだろ?」

 

「頼む」

 

「任せろ!!」

 

 そう言ってカムイはルガーランスの刀身を戻し、イグルートガルムへ走り出す。それに合わせて、リィンが全員に指示を出した。

 

「遠距離を狙える奴は、あいつの羽を狙って落としてくれ!!」

 

「なんだかよくわからないけど…………わかった!」

 

「わかりました!」

 

「わかったわよ!」

 

「あとで説明したまえよ!」

 

 リィンの指示に合わせて、エリオット、エマ、アリサ、マキアスの四人が答えて一斉に羽を狙い撃つ。

 

 やはり士官学院に来るだけあって、全員が寸分違わず羽を狙い撃つ事に成功。痛みに唸りながら、イグルートガルムは地に落ちた。

 

「ナイスっ!!」

 

 味方の援護に感謝しながら、カムイは槍を後ろに下げ左手を前に出して構える。

 

 何度も繰り返した動作は、淀みのない洗練された物として彼を動かす。

 

「でいやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 大きく叫びながら、カムイは引き下げた槍を勢いよくイグルートガルムの胸に突き刺した。

 

 痛みに暴れだそうとするイグルートガルムに堪えながら、ルガーランスの刀身を強引に開く。

 

 ガガガとゆっくり動く刀身が限界まで開き、青い稲妻を迸らせたのを確認すると、カムイはもう一度念じる。

 

 その瞬間、ルガーランスを持つ右手を緑の美しい結晶が覆った。

 

「なにあれ!?」

 

「あれは一体…………」

 

 それぞれが、驚愕を露にしていると、腕を覆う結晶が強く光った。それに合わせて、迸る稲妻も光力を増す。

 

「いっけぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 腹に響く大きな声で叫んで、カムイはもう一度念じた。

 

 瞬間、ルガーランスからさっきの一撃とは比較にならない雷撃の一撃が放たれた。

 

 ビュンという重い音が響く。

 

 その一撃はあまりに強く、重く。

 

 その雷撃と、彼の腕から生える結晶は鮮やかな美しさを見せる。

 

 刺し穿たれた雷撃の弾丸は、頑強なイグルートガルムをいとも容易く貫通するだけでは飽きたらず、後ろの壁に大きなヒビを入れるほどの破壊力であった。

 

 イグルートガルムは胸に大穴を開けられた状態のまま動かず、そのまま光の粒子となって消えていく。

 

「うっし! 完了!」

 

 ルガーランスを戻し、ガッツポーズで勝利を喜ぶカムイ。

 

 そんな彼と、目の前でおきたい超現象を目の当たりにしたリィンを除く八人は、ただただ呆然とするほかなかった。

 

 

 

 

 

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