体から結晶が生えてくるけど、俺は元気です   作:zhk

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面倒事は、大抵自分に責任がある②

 夕日が綺麗な日暮れ、グラウンドでは部活動に励む生徒達の声が聞こえてくる。

 

 そんな最中、カムイはだるそうなため息と共に重い荷物を端に寄せた。

 

「あーだるい」

 

 カムイは現在トマスから与えられた罰、倉庫の片付けの真っ最中。これがなかなかに骨がおれる。

 

 やはり士官学校という事もあって、備品が多いのなんの。それもかなり重たい物や大きな物もあったりと結構苦労する。まぁこれも彼が悪いのだから文句は言えないのだが。

 

「私は巻き込まれただけなんだけど…………」

 

「だからごめんって何度も謝ったじゃんか。本当に悪いと思ってるって…………」

 

 やる気の無さそうな彼の背中から、同罪として同じようにペナルティを食らったフィーが嫌そうにカムイに言ってくる。

 

 罰が与えらる以上、フィーにも非はあるのだがなんせ今回はタイミングが悪い。恨むなら自分の不運を恨むしかないのだ。

 

「でもフィーが教えてくれた答えも間違ってたじゃん」

 

「私の中で、獅子心皇帝が挙兵したのはクロスベルなだけ」

 

「わお、人によって歴史が違うって大丈夫かエレボニア帝国」

 

 実際そんな事はない。というかあってたまるものか。

 

 フィーは小物の整理、カムイは大物の整理と役割分担しながら片付けを進めているのだが、まだ終わりが見えてこない。あと一時間弱はかかるというのを目測ではかり、カムイはまたため息がつきたくなった。

 

「カムイ、これそこになおして」

 

「あいよ。フィー、その足元のやつそっちに寄せといて」

 

「わかった」

 

 手際よくコミュニケーションを取りながら進める。二人でやるにしてはかなり早く進んでいるのはこの二人の相性がいいのか、はたまたさっさと終わらせたい一心なのか。そこは二人にもわからない。

 

「そういえばさ、フィーはどうして士官学校に来たんだ?」

 

「え?」

 

 キチンと手を動かしつつ尋ねた質問に、フィーはキョトンとしてそう返した。

 

「いやさ、やっぱこういうとこに来るってことは何かしら理由があるんじゃないかと思ってさ。リィンとかラウラみたく、自分の実力を高めるためって訳でもなさそうだったから」

 

 単純な問い。それこそただ黙々と片付けをするのに飽きたカムイが会話の糸口にと切り出した質問だが、意外にも彼のこの言葉は的を得ている。

 

 特殊な事情を持って、この学院に入学してくるものは多い。カムイもその例に漏れず、というよりその特殊の中でもさらに異例な方だ。

 

 特異体質とその原因について調べる。それがカムイの士官学校にやって来た第一目的だ。

 

 その延長線上に、ルガーランスによる戦闘がどこまで通用するのかを試すというものがあるだけで、決してそれがメインではない。決してだ。

 

「私は、成り行きで」

 

「成り行き?」

 

「うん」

 

 ガチャリと金具を棚におき、次の備品の整理に移りながらフィーは淡々と告げた。

 

「成り行きで、サラにここに入れられた。社会勉強だって」

 

「へぇ。教官とは長い付き合いなのか?」

 

「ん。皆が私を置いていってからずっとかな」

 

「へ? 皆?」

 

 うんと静かに頷いたあと、フィーはその仏頂面に少しだけ影を指しながら言った。

 

「私、孤児なの。私を拾ってくれた人達が居たんだけど、あることがきっかけで皆私を置いていっちゃった。一人になった私を、サラが引き取ってくれたの」

 

「そ、そうなのか…………大変だったんだな…………」

 

 自分が予想していたよりもヘビーな過去を告白され、どうしていいかわからずそんな風に返す。ここで気の利いた言葉の一つでも投げ掛けてやれればいいのだが、生憎彼にそんな大層な事は出来ない。

 

 前世から教室の影でひっそりと休み時間を過ごし、女子と仲良く会話なんてろくにしてこなかった彼にそんな事を期待するのも酷な話だろう。

 

「俺と似てるな」

 

「…………え?」

 

 だからこそ、その言葉は思考というプロセスを省いて勝手に口から漏れた。

 

「俺も孤児でさ、本当の親を知らないんだよ。まだ赤ん坊だった俺が雪山で落ちてたらしいんだけど、どんな酷い親だよって思わない?」

 

 その時の事を鮮明に覚えているカムイだが、赤ん坊の頃の記憶が鮮明に残っている奴なんて普通じゃない。誤魔化しながら言うカムイの言葉はなおも続く。

 

「拾ってくれた人達は俺にとっても優しくしてくれたよ。それこそ本当の子供みたいに。そのせいで周りから変な目で見られたりしたのにだぜ? すごいよまったく。俺じゃ出来ないわ」

 

 苦笑を漏らすカムイを、フィーはじっと見る。それにまったく気がつかないカムイは、まるで独り言を呟くようにすらすらと言葉を紡いでいく。

 

「フィーの置いてかれた気持ちが全部わかるって言うつもりはないけどさ、ほんのちょっとくらいは理解できると思う。だってフィーも、その拾ってくれた人達に優しくしてもらってたんだろ?」

 

「なんで…………そう思うの?」

 

「えっ? だって…………」

 

 手に持っていた鉄パイプを壁に立て掛けてから、カムイはフィーに相対する。そして彼はこう言った。

 

「フィーが置いていかれたって事を言った時、すっげぇ悲しそうな顔してたからさ。そんな顔は、その人達を大事に思ってないと出来ないよっと」

 

 地面に置かれた袋を蹴りあげて手早くキャッチすると、そのまま器用に畳んで隣に積み上げる彼を見て、フィーは少し驚いていた。

 

 フィーは彼をあまり周りが見えていない人なのだと思っていた。だからこそ変なところでミスをするし、今日のようにレポートを忘れたりするのだと考えていた。

 

 が、それは少し違った。

 

 見るところはしっかりと、むしろ他の人よりも周りをよく見ている。加えて、人の感情の機微に敏感。そうでなければほとんど無表情のフィーの変化に気づく事なんて出来ないだろう。

 

「まぁ、だからなんて言うの? 同族…………てのはフィーに失礼だし…………なんだろ、言葉にしにくいな。ウーン…………」

 

 目の前で自分の胸の内を言葉にしようと思い悩む彼を見て、フィーは思わず吹き出してしまった。

 

「え、ああごめん!? 変なこと言ったな、俺なに言ってんだろあははは!!」

 

 今の今まで完全に無意識に思った事をそのまま流れるように口にしていたカムイは、フィーの笑いで現実へと引き戻された。

 

(何言ってんだ俺! いきなり女子に向かって俺と似てる? 馬鹿みたいな事口走ってんなナンパかよ!? いやそんな度胸ねぇよ!!)

 

 トマスに当てられた時よりも慌てふためく彼を見て、フィーは余計におもしろくなってしまった。

 

「ごめん、笑っちゃって」

 

「いやいや! 俺の方こそ! マジでちょっとおかしかったわ俺ホント何やってんだろ…………」

 

 真面目にうなだれ始めながら、悲痛なため息を落とす。考えなしに動くからと自分の行いに後悔していると、倉庫へと近づいてくる足音が彼の耳に入った。

 

「おっ、やってるやってる~。しっかりやんなさいよ問題児二人」

 

「教官…………」

 

「サラ…………」

 

 ニコニコとした笑顔を振り撒きながら倉庫へと足を踏み入れたのは、我らが教官サラ・バレンスタイン。彼女の登場にどうしていいかわからない二人は、とりあえず名前だけ呼んでおいた。

 

「トマス教官から話を聞いてみればあんたらは…………せっかくの放課後をこんな風に棒に振りたくなかったら、今後気をつけることね」

 

「うっす…………」

 

「私は巻き込まれただけ…………」

 

「あんたもレポート出してないでしょーが」

 

 サラの指摘にうっと眉を潜めるフィー。因みにカムイは放課後に入る前にしっかりと提出しているので問題ない。もちろん、リィンは見せてくれなかったので自力でしたのだが。

 

「さてと、倉庫の片付けはこの辺でいいわよ」

 

「えっ? まだ終わってないんですけど…………」

 

 まだまだ仕事は残っているはずなのに、いきなり言われた終了宣言に戸惑うと、サラはそれに対して悠然と返す。

 

「元々、これは私達教師の仕事なの。それを罰としてあんたら二人に押し付けたんだけど、さすがに全部やらせるわけにもね…………てなわけで、ペナルティはこれにて終了ってわけ」

 

「良いように使ってただけなんじゃ…………」

 

 頭に浮かぶ仮説をどうにか振り払い、カムイは少し汚れた手をパンパンと払った。

 

 サラが終わりと言うのなら、続ける必要はないし無償でそこまでやる義理もないしやる気もない。そこまでカムイもお人好しではない。それはフィーも同じ事。

 

 倉庫から出て、きっちりと鍵を閉める頃にはもう空はオレンジから闇色にかわりつつある。

 

「サラ、もう帰っていいんだよね?」

 

「いいわよ、お疲れ様」

 

「ん」

 

 小さく返事をして、フィーはそのまま寮へと向かう。かと思えば、フィーは一度背を向けたカムイへと翻った。

 

 そして…………

 

「じゃね、カムイ」

 

「えっ?」

 

 とだけ言って、すたすたと歩いて行った。あまりにいきなりの事だったため、カムイも、加えてサラも豆鉄砲を食らったような顔になった。

 

「お、おう…………じゃあな…………」

 

 言われたからにはとりあえず挨拶を返したが、未だに困惑ぎみなカムイに笑みを溢したサラが言う。

 

「へぇ、フィーに気に入られたのね。あんまりないのよ? あの子が自分からああやって言うの」

 

「そうなんですか? 俺に気に入られるようなとこなんてないですよ?」

 

 はっきり言って自力に魅力というものを感じた事が皆無な彼は、フィーがどこに気に入ったのか検討もつかない。

 

「腹わって話したのが良かったんじゃないの? なんてったって、あんた達は似てるらしいし」

 

「あちょっと! 聞いてたんすか!?」

 

 マジかよ…………とまたも項垂れるカムイを面白そうに笑ってみていたサラだったが、あっと何かを思い出したような顔になった。

 

「そだ、ちょっとこの資料なんだけど。生徒会室に届けてきてくれないかしら?」

 

「えぇ…………なんで俺が…………」

 

「私も暇じゃないのよ。大丈夫、この資料を生徒会室にいる会長に渡したら正真正銘おしまい。あとの時間は自由にしてていいわよ」

 

 そう言いながら手渡された資料に目を通すが、その内容は明らかに生徒会に任せるような内容じゃない。

 

「教官…………これってもしかして、本当はサラ教官の…………」

 

「じゃあとは頼むわよぉ~!!」

 

「えっ? ちょまっ!!」

 

 カムイの言葉を最後まで聞く聞くこともなく、脱兎の如くサラはその場から駆けていく。気がついた時にはもう既に時遅し。サラは遥か遠くだ。

 

「あの糞教官…………これ絶対あんたの仕事だろうがっ! 備品の発注に定期報告なんざ生徒会絶対やんないっての!!」

 

 苛立ちを露にしながら地団駄を踏むが、そんなことにはもう意味はない。笑顔で去っていった悪どい教官を憎むべき敵と認識しつつ、彼はあきらめて生徒会室へと向かうしかないのだ。

 

 ここまで計算していたのなら、サラはかなりの策士である。それにどっぷり嵌まったカムイもチョロいと言えばそれまでなのだが、そこは本人の名誉のために一応否定しておこう。

 

「はぁ…………生徒会室は確か本校舎東の生徒会館だっけ? ここから遠い…………」

 

 今日は一体何件不運を味わえば、神は俺を許してくれるんだ? と悲しみから涙を流しそうになるカムイだが、それもこれも日頃の行いが悪いからである。

 

 リィンの言うとおり、まさに『自業自得』なのだ。

 

「ま、これで終わりだし、提出だけしたらすぐ寮に戻ろう。そろそろ本格的に勉強しないと不味そうだし…………」

 

 ダルがっていても何も始まらないと腹をくくり、あとにあるであろう自分の自由時間のために生徒会館へとカムイは向かった。

 

 すべては、あとでゆっくりするため。ただそのためだけに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな事があるかもと、昔はカムイはそう思っていた。

 

「カムイ? どうしたんだ一体?」

 

 生徒会室に来るまでは。

 

 生徒会室を訪れると、何故かいる彼の身内、リィン。加えてとても忙しそうに働くフィーよりも小柄な少女の姿に、カムイは猛烈な嫌な予感に襲われる。

 

「お、俺はただサラ教官から渡さ━━━」

 

「もしかして、お前も手伝ってくれるのか?」

 

 どうにかこの場を早く抜けなければヤバいと直感的に感じたカムイは、すぐに用件を伝えようとするとそれを遮ってリィンがそんな事を言ってきた。

 

(は? 何言ってんのお前、俺の話聞いてた? 資料、資料を出しに来たって言ったよな? 言ったよね?)

 

 途中で遮られた以上リィンはそんな事知らないはずなのだが、カムイこそそんな事知ったこっちゃない。

 

 こちとら振り回されて疲れてんだよさっさと休ませろやと言わんばかりに、額に青筋を浮かべていると、仕事に忙殺されていた少女がリィンの言葉に反応してバッと顔をあげた。

 

「えっ!? そうなの!? ありがとう!! さすがは新しいⅦ組の生徒だね、凄く意識が高くてびっくりだよ」

 

「えっと…………あのぉ…………」

 

 すっかり自分を置いて進んでいく話に、カムイはついていけない。そこで少女は何かに気がついたような顔になった。

 

(そう! 俺はまだ話の途中なんだよ! そこへ促してくれ!)

 

「自己紹介してなかったね。ごめんね、名前がわからなかったら呼べないもんね」

 

 違うそうじゃない。

 

 確かにそこも大事だとは思うが今はそこじゃない。そこじゃあないんだとカムイは声高らかに言いたい。が、その前に事はどんどんと進んでいく。

 

「私はトワ・ハーシェル。二年で、この学院の生徒会長をしてるんだ」

 

「え!? 二年!?」

 

 驚きのあまり、思った事を口にしてしまう。

 

 彼が驚くのも無理はない。クラスで小柄な方なフィーよりもさらに小柄な彼女が自分よりも年上だなんて、誰が想像するだろうか? 

 

「あはは…………やっぱりそんな反応だよね。」

 

「あっ、すみません。悪気があった訳じゃなくて…………」

 

「うん、大丈夫だよ。気にしてないから」

 

 トワは満面の笑みを見せつつそう言う。が、カムイは言ってしまったという罪悪感で胸がいっぱいだ。

 

「よろしくね、カムイ君。わからないことがあったら気軽に聞いて。なんとか力になってみせるから」

 

「あっはい…………お願いします」

 

 ペコペコと情けなく頭を下げつつ、それでもカムイは手に持つ資料をどうにか渡して、事情を話せないかと画策する。このままでは恐らく、生徒会の仕事に駆り出されてしまう。

 

「あの、実は俺…………」

 

「でもやっぱりサラ教官の言うとおりだったよ。Ⅶ組の生徒達は皆向上心が高いから、なにか困ったらすぐ助けてくれるはずだって。本当にすごいよ!! 感心しちゃう!」

 

 目を爛々と輝かせ、カムイに向かってそう言ってくるトワ。そのトワに圧倒されつつも、そんな話を一切聞いたことがないカムイはちらっとリィンに助けを求めるも、残念ながらリィンも頼むと言わんばかりに手を合わせている。

 

「えっと…………」

 

 どうにか、どうにかこの状況を切り抜けられない物かと全力で頭を回転させるも、それらはすべて目の前の屈託ない笑みを見せてくる彼女の前では、儚く霧散していくだけだった。

 

「はい…………そうです。手伝いに来ました…………」

 

 もう言うしかないじゃないかと、あそこまで言われてあんな目で見られたら断れないじゃないかと、後にカムイは後悔を声に滲ませながら言ったという。

 

「うんありがとう! それじゃお願いするね!!」

 

「はい…………」

 

 笑顔を見せつつ、泣きそうな目をするという高等技術をしながら、

 

(サラ教官、もしかしてここまで予想して押し付けたの? だとしたらもうあの人天才だよ。あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ俺の穏やかな時間がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!)

 

 心の中で、慟哭の叫びをあげるのだった。

 

 

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