JUMP DRIFTERS   作:悪魔さん

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割といい調子で進んでます。
更新頻度は本作の方が早いかもしれません。


第10幕:死の策略

 その夜。

 エルフと漂流者(ドリフターズ)が罠を仕掛けて待ち構えてると知らずに乗り込んだ討伐隊は、村がもぬけの殻になっていることを不審に思いつつもテントを張って滞在していた。

「耳長共はどこへ行ったんだ」

「わからん。明日から周囲の村に捜索に出るんだと」

 兵士達は見張りをしつつ話し合う。

 討伐隊がエルフの村に到着したのは夕暮れだ。その時にはエルフと漂流者(ドリフターズ)は影も形もなく、無人となった村が残されていた。

 しかし奇妙なこともあった。生活に欠かせない井戸に、大小便が放り込まれ使えなくなっていたのだ。討伐隊の隊長はまじない(・・・・)か何かだと判断して放置したが、井戸が使えないのは辛いと言えば辛いというのが本音だ。

「匿っていたらその村を潰すのか。ハハハハ」

「多分な」

 その時、命を刈り取るエルフの矢が襲い掛かった。

 そしてテントの方にも、〝彼〟が迫っていた。

「喉乾いたな……(くそ)投げ込みやがって、クソ耳長共!」

「全くあんな奴らさっさと皆殺しに……」

「誰を皆殺しにするんだ?」

「「!?」」

 背後に突如ロジャーが現れると、兵士の頭を鷲掴みにして投げ飛ばした。

 大の大人二人が夜空を舞い、森の奥深くまでキレイな放物線を描いて消えた。

「さて……そろそろバカ騒ぎの時間だな」

 ロジャーの呟きと共に、エルフ達が放った矢の雨が降り注ぐ。

 ピンポイントに兵士のテントに降り掛かり、断末魔の叫びが木霊する。

「何事だ!!」

「村の東だ!!」

 事態を察した兵士達が続々と集まる。

 その数、ざっと150人以上。

「よ~し……!」

 ロジャーは無邪気に笑うと、そのまま逃走。

 討伐隊は一斉にロジャーを追う。その反対側、西から本隊(・・)が忍び寄っていることも知らず。

「ヌルフフ、全て順調。では皆さん、前もって教えた通りにバリケードを造りますよ」

 殺せんせーの指揮の下、シャラ達は木製のバリケードを造り始めた。

 それはまさしく、群雄割拠の戦国時代に君臨した魔王・織田信長が長篠で築いた()(ぼう)(さく)。馬の侵入をも防ぐそれは、あっという間に完成する。

「さあ、仕上げです。火矢で村を焼きますよ。これであなた達を縛る村と農奴との生活と別れる。これが誇り高きエルフ達の卒業式です」

 その一言を合図に、エルフの放った矢が村を焼いていく。

 火は一気に燃え広がり、オルテ兵は大混乱に陥った。

「これでチェックメイト。カルマ君ならもう二つ程仕掛けるでしょうが、私は残虐ファイトを好まないので情けはかけましょう。その情けも無意味ですが」

 冷酷さすら孕んだ笑みで、殺せんせーは見据えた。

 オルテは戦争中であり、精鋭達は皆最前線で戦っている。それは目の前にいる討伐隊は士気も練度も低い留守居の鈍であるということに他ならない。弱い者イジメに駆り出されるようなレベルの低い相手なら、わざわざ全員相手取る必要はない。半数近く討ち取れば自然と四分五裂になる。

 それにシャラ達エルフが放つ矢には、人糞が塗ってある。眉間や心臓などの急所でなくとも体のどこかにさえ当たれば破傷風を引き起こし、適切な処置をせず放置すれば死に至る。早急に水で洗い流さなければならないが、可哀想なことに殺せんせーの策略で井戸は使えない。たとえエルフを全滅させても、その前に一発でも当たれば傷口が悪化し本拠地に戻る前に死ぬという恐怖と向き合わねばならないのだ。

 全て計算しつくした、合理的な作戦。我ながらいい出来だと、殺せんせーは自画自賛した。

「に、逃げろ!」

「ひいい!!」

「何をしておる!! 数は我々の方が圧倒的なんだぞ!!」

 統率が取れない程の混乱に陥る兵士達。このまま人糞付きの矢を放ち続ければ自然と滅ぼせるだろう。

 もうこれ以上の指導は不要だと判断した殺せんせーだが、思わぬハプニングに見舞われた。

「おい、殺せんせー!!」

「おや、ロジャーさん」

 兵士達を引きつけてたロジャーが、バリケードの前に駆けつけた。

 するとロジャーは背を向けて翻し、総崩れの討伐隊を睨んだ。

「作戦変更だ!! おれがスカッと一発決めてやる!!」

「は? え、ちょ――」

 腰に差したサーベルを抜き、両手で持つ。

 すると刀身が黒く染まり、バリバリと黒い稲妻のようなモノが迸った。

「フンッ!」

 

 ドォン!!

 

 ロジャーはサーベルに纏わせた覇気を、横薙ぎに繰り出し飛ばした。

 その乱暴な一振りで爆発的な衝撃波が発生し、兵士達を村ごと(・・・)薙ぎ払い、燃え広がった火を一瞬で消し飛ばし、はるか遠くの森をも抉った。

『…………』

 その異次元の威力に、シャラ達どころか殺せんせーやオルミーヌですら言葉を失った。

「な、何ですか今の……!?」

 殺せんせーの明晰な頭脳が、情報処理しきれない。

 ロジャーが剣を振るった途端、凄まじい爆風と共に横に大きく広がる何かが銃弾のように放たれた。それがおそらく覇気なのだろう。飛ばされた覇気は絶大な物理的破壊力で全てを吹き飛ばし、兵も村も一撃で薙ぎ更地に変えた。

 しかもロジャーは、おそらく全力で放っていない。まるで挨拶代わりの気分で無造作に放ち、天災の被害に遭った直後の光景を刹那の瞬間に生み出したのだ。

 勝てる気がしない。殺せんせーはそう思わざるを得なかった。

「殺せんせー! ロジャーさん!」

「おや、しのぶさん」

 そこへ、しのぶ率いる後方支援部隊が慌てて駆けつけた。

 先程のロジャーの一撃で、彼らの身に何かあったのではと思ったようだ。

「今の轟音は一体!?」

「ロジャーさんです。あの人、村ごと討伐隊吹き飛ばしたんですよ。それも一振りで」

「……ロジャーさん?」

「お、おう……」

 しのぶは笑っているが、目が笑っていない。

 三人の中で一番の若輩でありながら、その凄みの利いた笑みにロジャーは気まずそうに笑った。

「あのですね。むやみやたらに暴れて味方の被害を出してしまうと困るんですよ。後始末やるのどれ程大変かわかります? それも一撃でこんな惨状生み出したら、余波でこっちまで被害受けるんです。殺せんせー言ってましたよね? 資源が足りないって。人材だってある種の資源なんですよ。自分の力量くらい弁えて下さい、鬼以上の怪物抱えるこっちの身にもなりなさい全くもう」

「な、(なげ)ェ……」

「長いじゃないです。言われたくなければしっかりしてください」

 満面の笑みでロジャーの脛を蹴り始めるしのぶ。

 弁慶の泣き所は世界共通なのか、さすがのロジャーも地味な痛みに「わかったから何度も蹴るな」と顔を歪めた。

「何はともあれ、これでまず一勝。今の内に移動し、領主の根城まで迫りますよ」

「い、今からですか!?」

「本当なら敵の身ぐるみ剥いで変装すれば問題無いと思ってたんですがね……」

 オルミーヌは声を荒げ、殺せんせーは頭を抱えた。

 そもそも殺せんせーは、敵の身ぐるみを奪って討伐隊に成りすまして攻め落とす作戦にするつもりだったのだ。兵士の防具を身につければ警戒心を解いて難なく侵入できたはずなのだが、その防具はロジャーが一撃で全て吹き飛ばしたので、夜の内に移動せねばならなくなったのだ。

 しかし、エルフ達はすでに腹を括っていた。

「俺達は問題無い。いつでも動ける……いや、早く動いて救出したいんだ!」

 シャラの言葉に、漂流者三人組は笑った。

「よし、なら行くか!」

 

 

           *

 

 

 数日後。

 エルフ族占領土政庁執政代官城館「下見の塔館」では、中々帰って来ない討伐隊に(しつ)(ちょう)が苛立っていた。

「兵共はまだ帰って来んのか! 誰一人帰って来ないではないか!!」

 定時連格も断えたままであることに、まさかの事態が頭をよぎる。

 オルテ本国の戦況は悪化の一途を辿り、今や全ての占領地で収奪を繰り返しているため泥沼化している。全ての亜人族の占領地で亜人達が束になって占領地全域で反乱を起こす前に、見せしめとしてエルフ族の村を一つ二つ潰すことでそれを阻止しようと考えていた。その為の大兵力投入だったのだ。

「いざとなれば人質の奴らの女共を何人か首を吊るさねばならん」

 そんな会話を執庁が他の代官と館内でしている中。

 討伐隊を壊滅させたロジャー達は城館の門に到着していた。

「ようやく着きましたね。しかし変装していない分、門を開けさせるという手段に出れませんよ?」

「かと言ってあの時のような衝撃波だとこっちも巻き添え食らいますし……」

 しのぶと殺せんせーは、門をどうこじ開けようか悩む。

 岩を貫通する威力の刺突を繰り出せるしのぶでも、数多くの超人的技能を有する殺せんせーでも、巨大な木製の門を破壊するのは困難を極める。望みがあるのはロジャーだけだが、彼は逆に威力が凄まじすぎて門どころか城館を消し飛ばしかねないのではという不安がある。当然弓術の達人であるエルフ達や魔導結社の構成員であるオルミーヌでも不可能。

 どうしたものか、と悩んでいた時だった。

「おれに任せろ!」

 討伐隊から奪った酒を煽りながら、ロジャーが笑みを浮かべて門の前に立った。

「ロジャーさん! あなたダメだって言って――」

「要は無駄な破壊をしなきゃいいんだろ?」

 そう言って、ロジャーは武装色の覇気を纏った腕で門に触れた。

「ぬんっ!」

 

 ドゴォン!

 

『!?』

 ロジャーが気合を入れた瞬間、門に亀裂が生じ木っ端微塵となった。

 武装色の基本形態は、覇気を纏った箇所が硬質し黒く変色する「武装色硬化」であるが、武装色にはその上のステージが存在する。

 それは覇気を使う際に「力む」のではなく、不必要な場所の覇気を拳や武器に「流す」ことで、体外に大きく覇気を纏う技術だ。この高度な技術はロジャーの仲間であった侍・光月おでんの故郷であるワノ国で「(りゅう)(おう)」と呼ばれ、ロジャー自身も高い精度で習得している。

 この技術は直接触れずに敵とその攻撃を弾くことができ、さらに敵や物体を内側から破壊する「内部破壊」も可能となるのが特徴だ。その威力たるや凄まじく、直接物体などに覇気を流し込めば鋼鉄だろうと容易く握り潰すことができ、達人クラスが遠当て技として放てば自然災害に匹敵する破壊力を秘めている。

 そして先程ロジャーが放ったのは、木製の門に自らの覇気を流し込んで粉砕する内部破壊の技なのだ。

「これで文句はねェだろ?」

「本当に門だけ(・・・)を……!」

「信じられない……」

 ロジャーは意気揚々と先陣を切って殴り込む。

 眼前には、ロジャーの覇気で粉砕された木片を食らい倒れ伏す兵士達がいた。運よく避けれた者達もいるが、20人もいない。

漂流者(ドリフターズ)……耳長(エルフ)共……!」

「よう、悪代官共! 城を攻め落としに来たぞ!」

 ニカッと歯を見せるロジャー。

 漂流者(ドリフターズ)三名に加え、完全武装したエルフ達。勝ち目が無いと悟るや否や、手にした武器を下ろして両手を挙げ、降伏した。

「何だよ、肝っ玉の小せェ連中だな」

 どこか残念そうにボヤくロジャー。

 しかし、ほぼ無血開城に近い形で城館を落とすことに成功した。

「では、私は塔の中に向かいます。しのぶさんとロジャーさんは館内の全てを洗いざらい()っていってください。シャラ君達は来なくていいですよ」

「な、何でですか!」

「心配しなくてもいいですよ」

 

 ――ゾクッ

 

「っ!?」

 シャラは殺せんせーの目を見た途端、冷や汗をかいた。

 いつもの彼は物腰が柔らかそうで、他者を安心させるような優しい目をしていた。だが先程の目つきはまるで別人だった。例えて言うとすれば……人殺しの目だ。

 彼らは忘れていた。殺せんせーが前の世界では〝死神〟の二つ名で恐れられた伝説の殺し屋であったことを。

(殺せんせー、おめェ……)

 そのやり取りを遠くから見ていたロジャーは、目を細めた。

 ロジャーは鬼のような悪名を轟かせる一方で、一味の掟としてカタギへの手出しを禁忌としたり大の子供好きであるなど、意外な一面がある。ゆえに無法者ながらも、行く先々で数々の友情を築く好漢でもあった。

 だからこそ、顔には出さずとも怒りを露わにしていた。彼は「聞こえた」のだ。塔の中から響く、誰にも届かない女子供の悲鳴を。

 殺せんせーの耳にそれ(・・)が届いたわけではなくとも、察してはいるだろう。ロジャーはそれについてとやかく言う気は無い。因果応報だからだ。せめて――

「ここから先は、私が――」

「待てよ」

「……ロジャーさん?」

人手は欲しいだろ(・・・・・・・・)?」

 その言葉に、殺せんせーは目を見開く。

 たとえ城館に巣食う外道共に死を与えても、奴らに苦しめられた女子供を解放するには一人では苦労するだろう。お前が外道共を皆殺しにするならば、その外道共に弄られ続けた女子供を取り返すのがエルフの責務じゃないのか。

 ロジャーはそう告げていた。

「……いいでしょう。シャラ君、付いてきなさい」

「っ……はい!」

 殺せんせーはシャラと共に館内へ侵入する。

「さて、おれ達も行くか。全部持ってくぞ」

「……」

「どうした、しのぶ」

 ロジャーは眉間にしわを寄せ、しのぶの顔を覗き見た。

「……大丈夫でしょうか」

「あいつに任せろ。大方の結末はおめェもわかるだろ?」

 そう、もう結末は目に見えているのだ。

 残虐ではないが冷酷な暗殺者――人を殺す能力を極めた男に殺意を向けられた以上、代官達は等しく死ぬ。それも当然だと言える悪行をしていたのだ、何も言うことは無い。

「しのぶ、よォく覚えとけ。鬼ってのァ(・・・・・)人喰いの化け物(・・・・・・・)だけ(・・)じゃねェぞ(・・・・・)

「――っ!!」

「まァ、鬼だの怪物だの言われたおれが言える義理じゃねェがな」

 ロジャーは「いい酒あるよな、さすがに」と呟きながら館内に入った。それに続くように、しのぶもエルフ達と共に足を運んだ。

 こうして漂流者(ドリフターズ)とエルフ達は、城館を征圧することに成功した。




あと2~3話でジャンヌとジルドレの回を投稿できます。
乞うご期待。

ちなみに漂流者はまだ出てきます。
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