JUMP DRIFTERS   作:悪魔さん

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今回、新たに漂流者が登場。
「待ち望んだ方もいらっしゃるのでは?」というキャラが出てきます。
廃棄物はジャンヌとの戦い辺りから追加していきます。


第11幕:帝国の崩壊序曲

 城館を征圧した後、ロジャーは代官室の書類を洗いざらい奪っていた。

「ほ……本当に、本当に城館を落としてしまうなんて……」

「おれの生きた海じゃあ島一つ更地にしちまう連中がわんさかいたぜ」

「あなたが前いた世界は人の皮被った化け物しかいないんですか……?」

 ロジャーがいた世界の凄まじさを知らないオルミーヌは、呆れたように呟いた。

「ところでだオルミーヌ、こいつ誰だ? デケェ絵だな」

 ロジャーが巨大な肖像画を親指で差す。

 描かれているのは、右手を掲げるチョビ髭の男。

「これは……この国オルテの()()。オルテ帝国を作った男ですよ」

 オルミーヌ曰く、肖像画の男は今から60年程に突如現れた、漂流者(ドリフターズ)なのか廃棄物(エンズ)なのかもわからない人物だという。

 ある日酒場に現れて人々を扇動し、悪魔的とも言うべき演説力と人心掌握術で反乱を起こし、当時この一対を統治していた国を滅ぼしてオルテ帝国を建国したとのこと。しかし建国後、国父として崇められるようになったのにもかかわらず突如として自殺した。その原因は未だ不明で、半世紀以上経過した今もなお真相は解明されていないらしい。

「ロジャーさん、心当たりは?」

「ある訳ねェだろ。何だこいつのひげは。さては小心者だな?」

「何でそう言い切れるんですか」

「ひげのデカさと人間のデカさは比例すんだよ」

 腕を組んで断言するロジャーに対し、オルミーヌは「物理的な意味も込めてます?」と身長274センチの彼を見上げた。

「ところで、あの人達は今頃何をしてるんでしょうか……」

「惨殺死体を見慣れてねェなら、おれと一緒にいた方がいいぞ」

 その言葉に、オルミーヌは息を呑む。

 殺せんせーは、この城館の人間を皆殺しにする可能性が極めて高い。城館の兵士達が村から連れ出したエルフの女子供を犯すのは明白であり、人の道に反した悪行を許し生かす程甘くはないだろう。シャラ達の怒りと恨みもある。さぞかし惨たらしい光景となるだろう。そんな惨劇を戦場での経験のないオルミーヌが見るのは酷なことだ。

 ロジャーはロジャーなりに、オルミーヌを気遣っているのだ。

「お、お気遣いいただきありがとうございます……」

「気にすんな、おめェもおれの〝仲間〟なんだからよ。それと耳塞ぎたきゃ塞いでな、外で公開処刑が行われるようだぜ」

「!」

 

 

 執庁ともう一人の役人を除いた全ての兵士・代官を皆殺しにした殺せんせーは、執庁を庭に連れ出していた。

「た、助けてくれ! 命ばかりは……!」

 両手を挙げて降伏する執庁。

 しかし殺せんせーは未だ殺意に満ちた視線を送っており、怒りを孕んだ言葉を投げ掛けた。

「今まで散々女子供を弄っておいて、武器を捨て降伏するだけで助かるはずと思ったら大間違いだ。そもそもエルフ族を滅ぼす気満々だったでしょう? なら滅ぼされても仕方ないでしょうに」

「ひっ……!!」

「ではここで問題です。なぜあなただけ残したかわかりますか?」

 その言葉の後、シャラ達が一斉に弓を引いた。

 エルフ達の怒りの矢が一点――領主である執庁に向けられる。

「答えはただ一つ。彼らの40年分の怨嗟を全て受け止めさせるためです」

「ま、待ってくれ! 話せばわかる!!」

「ふざけるな! 散々俺達を弄ってたくせに!」

「てめぇの番になったら命乞いか!!」

 40年にも及ぶエルフ族への露骨な断種政策の禍根が、我が身の危険を前に散々痛めつけた者達に乞い続ける。その光景はひどく滑稽で、愚かで、哀れみすら覚えた。

 すると執庁は何を思ってか、殺せんせーの隣に立つ男――新任の税務計算官のミルズを咎めた。

「じゃ、じゃあ、なぜその男は生かしてるんだっ!!」

「彼が派遣されたばかりの税務計算官で、この城館に赴任してから何もしていないことはすでに把握してますよ。遺言はそれでよろしいようで」

 殺せんせーの冷たい死刑宣告に、執庁は震え上がった。

「せいぜい地獄で悔い改めることですね。誇り高きエルフ族によって殺された己の非道さを。あとはシャラ君、任せます」

「……ありがとう、殺せんせー。全員、放てっ!!」

 シャラの掛け声と共に、40年分の感情を込めた弓矢が放たれた。それは執庁の体に次々と襲い掛かり、一本たりとも外れることなく撃ち込まれ死に追いやった。

 エルフ達の敵討ちも兼ねた戦は、ひとまず収束を迎えた瞬間だった。

「……エルフの皆さん、ご苦労様です」

「これでスッキリしたな!」

「しのぶさん! ロジャーさん!」

 そこへ、各々の仕事を終えたロジャーとしのぶが現れた。

「血の臭いがひでェな。よし、風呂入るぞ風呂!」

「その前に後始末です、それぐらいわかってるでしょうに」

「え~」

「53にもなって駄々こねないでください」

 冷たいツッコミでロジャーをいなし、しのぶは殺せんせーに問う。

「……どうするつもりですか、これ」

「放置したら臭くてたまらないので、埋めましょう。草土と大小便と混ぜて硝石丘を作るのもいいですが、伝染病が流行るのもよくないですし」

 

 

 漂流者(ドリフターズ)の噂は、瞬くに周囲の村々に伝わっていった。

 三人の漂流者(ドリフターズ)がエルフの村を助けて占領代官を襲撃し、囚われてた村々の娘を解放した……その困惑の噂は歓喜の確信に変わった。それだけでなく、帰ってきた娘達には殺せんせーからの周到な土産が付いてきた。 

 それは檄文だ。

 

 ――国が欲しいか? 欲しけりゃくれてやる。共に戦え。お前達の真の自由はその先にある。

 

 立ち上がり漂流者(ドリフターズ)と共に戦うのか、もう一度再び来る新しい代官にその娘を差し出し慰み者にさせるのか。選択を迫る内容一方で、オルテがいかに限界かを示す代官書で集めた書類内容を別紙で添付していた。

 こうもお膳立てが揃ったら、選択肢は一つしかない。

 今こそ自由を得る千載一遇のチャンスだと、エルフ達は続々と蜂起を始めた。

 エルフ占領地はもはやオルテの支配化から離れつつあった。

 

 

「ところで、あの書き出しは一体?」

「おれの前の世界の最後の言葉をイジった!」

「あなたが飛ばされる前の遺言が元ネタなんですか……」

 

 

           *

 

 

 漂流者とエルフの連合軍による城館陥落から数日が経った。

 オルテ帝国帝都「ヴェルリナ」の貴族院では、総力戦会議が開かれていた。

 西方戦域は完全に膠着状態にあり、何しろ兵が足りない。40年間も戦い続けているため、後方占領地の維持兵まで引き抜いている上に物資も不足。本土・属領での税収収奪も限界に近い。オルテの戦局は誰がどう見ても悪化の一途を辿っている。

「和平を考えるべきでは……?」

「何を言うか! 国父様のお考えになった万年帝国。それはこの国の(こく)()だ。そう簡単にやめられるものか」

 平和的解決と唱える者もいれば、このまま武力制圧を続けるべきと唱える者もいる。これではいくら話し合っても平行線で、埒があかない。

 そんな時だった。

「やーもやーも、おくれちゃったわー。ごめんあさーせー。おまたせしましただわさ。おひさー」

「サ、サン・ジェルミ伯……」

 けばけばしい風体の金髪のオカマが、部下二名と共に議場に姿を見せた。

 彼は漂流者(ドリフターズ)のサン・ジェルミ伯。オルテ帝国の3分の1を領有する巨大貴族であり、薬学・錬金術・史学に詳しい政略に卓越した策謀家だ。彼は50年前に国父がオルテを建てる際に最初に寝返った勢力で、彼がいなければ建国できなかったとまで言われる程の人物でもある。

「四方八方戦争吹っかけて回ったツケが来たようね。それにエルフ族の占領地が反旗をひるがえしたそうじゃないの」

「そんなものはどうにでもなる!! たかだか農民の一揆だ、それよりも西方の戦況が……」

(ああやっぱり。ダメだこいつら)

 オルテは周辺を片っ端から攻めて拡張した国だ。そんな国で反乱が起きたということは、エルフに限ったことではなく、全占領地で不満が爆発ということであるのだ。あっという間に野火の様に占領地全土で反乱が起こるだろう。

そしてその影響で国軍のほとんどが駐留する戦争地帯との連絡線が断絶する。しかも北方にはカルネアデスを陥落させた、黒王が率いる廃棄物の軍勢がいる。ジリ貧だった国力の低下が加速するという国の危機を教えても、無能な帝国首脳部は理解しようとしない。

 冷静に分析した結果、サン・ジェルミは結論づけた。

(――あらやだ。この国詰んでる)

 帝国の滅亡は、すぐ目の前に迫っていた。

「アハッ、ウフフオホホ。アタシ急用を思い出しちゃったわん。それじゃ帰るわね。皆さん戦争頑張ってねん。それじゃごめんあそばせ」

 いち早く帝国滅亡をサン・ジェルミは、側近であるアレスタとフラメーを連れて会議室を後にした。即時即決の夜逃げである。

「すぐにエルフの反乱軍と連絡を取るのよ。漂流者が絡んでるとか言ってたわね……()と一緒に行くわよ!!」

「えええ!? エルフ族でしょお? 私も行きたいですわー」

「私も連れてってくださいましー」

「おだまりっ!」

 そんな会話をしつつ廊下を歩いていると――

「……私の予想通りの結果になったようですね」

「アラ、竜崎ちゃん」

 オカマの一団の前に立つ、竜崎と呼ばれる一人の〝漂流者〟。

 目の下の隈、眉が隠れるくらいに長い黒髪、痩せ形の体型……ゆったりとした白い長袖シャツとジーンズを着た青年だが、とても健康そうには見えない。

 しかし彼は、ある世界で数多くの難事件をほぼ単独の捜査で解決し続けた天才であり、犯罪者を「裁く」殺人者と壮絶な頭脳戦を繰り広げた世界最高の名探偵なのだ。その事実を知るのは、現時点ではサン・ジェルミただ一人。

「竜崎ちゃん、とっとと夜逃げするわよ! もうこの国終わってるわ」

「わかりました……今後の動きを決めときましたので、話は移動中にしましょう」

「早いわね! アタシまだ頼んで5分しか経ってないはずだけど!?」

 

 

 時同じくして、例の様々な扉が並んだ空間では紫が一つの書類に目を通していた。

 そこには、サン・ジェルミが「竜崎」と呼称していた漂流者についてこう記されていた。

 

 DEATH NOTE L Lawliet

 

 

           *

 

 

 所変わって、緑豊かなとある森。

 澄み切った水が流れる川辺で、一人の美丈夫が火を焚いて野宿していた。

 黒と緑の縦縞模様の着流しを身に纏い、黒の股引を身に着け肩に手ぬぐいをかけた出で立ち。腰には長ドスを差しており、さながら渡世の仁義を貫く任侠の徒だ。

「米も無けりゃ酒も無い。桜も無けりゃ団子も無い。――変な現世(うつしよ)に流れちまったなぁ」

 川魚の丸焼きにかぶりつきながら、どこか退屈そうに空を見上げる。

 彼もまた漂流者(ドリフターズ)。異世界で自由奔放にさすらうその姿は、ある意味では文字通りの漂流者と言えるだろう。しかしその正体は人間と妖怪の間に生まれた〝半妖〟という存在であり、前いた世界では江戸の闇を仕切り百鬼夜行を率いた魑魅魍魎の主だった男なのだ。

 その色男の名は――

 

 関東妖怪総元締「()()(ぐみ)」 二代目総大将 ()()()(はん)

 

「……っと、さっき立ち寄った「ふぃぞな」って村の連中から貰った地図だと……」

 川魚を平らげ、串を咥えながら懐から古地図を取り出す。

 今いる森は、フィゾナ村という耳の長いエルフ族の集落付近。そこから離れたところに領主の城館や複数のエルフの村、さらに廃墟になったがかなり大きな城がある。

 ぬらりくらりと放浪していた先で出会ったフィゾナ村の間では、エルフを虐げる領主の城館が陥落したという報せが出回っていた。城館を落とした者達は廃城を拠点としており、他の村のエルフ達も大勢いるらしい。

 この廃城に立ち寄れば、この珍妙な現世(うつしよ)がわかるかもしれない。一縷の期待を抱き、鯉伴は移動を始めようと立ち上がった、その時――

「……!?」

 鯉伴は瞠目した。

 背後に目を向けると、突然石造りの門が現れたのだ。

(ありゃあ、確か……)

 彼は知っている。あの門は、自分をこの世界に飛ばした門だ。

 ギギギギィッと、軋むような音を立てて門はゆっくりと開く。

「はてさて、鬼が出るか蛇が出るか……」

 不敵に微笑みつつも、何が起きてもいいように鯉伴は鯉口に指を添える。

 そして門の奥から人影が現れ、倒れた。

「お、おい! 大丈夫か?」

 倒れた男を介抱する鯉伴。

 現れたのは、毛先が赤く染まった金髪の青年だった。黒い詰襟で身を包み、その上に炎を模した意匠が施された羽織を纏い、腰には一振りの刀を差しており、何かしらの軍か部隊に所属しているように見える。

 洋服と和服を合わせた出で立ちや軍服でもある詰襟は、大正の世も生きた鯉伴にとっては懐かしく感じたが、これ程までに目立つ恰好を今まで見たことが無いのも事実。ましてや明治から廃刀令が敷かれた大正の世で、こうも堂々と刀を腰に差す人間は滅多にいない。

「妖でも陰陽師でも無さそうだな……お前さん何者だい」

 意識を失っている人間の剣士に、半妖の侠客はどこか楽しそうに呟いた。

 

 

 そしてその頃、廃棄物(ザボエラ)との戦いをどうにか凌いだ秀元は、牛車の中で上半身を脱いだ耀哉にある術を施していた。

「どうなん? 調子は」

「とても体が軽いよ。痛みもない。目の方は遠くの物が見えにくいけど……あなたの顔ぐらいなら認識できる」

「そっか♪ そんなら術は成功や。暫くの間は君を縛る呪いを封じれるやろ」

「ありがとう、秀元」

 秀元に謝意を示す耀哉。その背には墨で何やら呪文のような文言が書かれている。

 鬼殺隊を統括する産屋敷家は、鬼の首魁である鬼舞辻無惨と同じ血筋であることから呪いを背負わされていた。その呪いとは「一族の子孫は皆病弱で、生まれてすぐ死んでしまう」というもので、実際に一族の血が絶えかけたという。この時の危機はある神主の助言によって神職の一族から妻を貰うことで一族の未来を救ったが、それでも一族の誰も三十まで生きられないままである。耀哉自身も例外ではなく、日を追うごとに病の病状が悪化し、無惨と対面した頃には寝たきりとなり吐血も度々あった。

 そんな耀哉の身の上話を聞いた秀元は、自身の陰陽術でその呪いを抑え込むことを提案した。陰陽師の護身術の一種である身体を堅固安穏にする〝身固め〟を耀哉の体に直接施すことで、呪いによる病の進行を抑え込むというものだ。現にそれは見事成功し、すでに効果が出ている。

 しかし秀元曰く、十月機関の長である晴明も協力してくれたなら、進行を止めるどころか改善も可能だというのだ。都の闇に巣食う悪鬼達を退けた天才陰陽師、恐るべしである。

「しっかし、君の言う呪いってのが解けてへんちゅーことは……」

「ああ、無惨はこの世界にいる。異なる世界でも、あの男は罪を重ねる」

 耀哉は澄んだ顔で怒りと憎しみを滲ませた。

 秀元を通じて晴明から聞いた話では、第二(セカンド)漂流者(ドリフ)は最期を遂げる前か全盛期の姿で飛ばされているという。これが正しければ、耀哉は呪いによって蝕まれる前の肉体であるはずなのだ。それなのに病の症状である皮膚の変質があるということは、その原因たるモノも存在するということに他ならない。

 それはつまり、鬼舞辻無惨もこの異世界にいるということであるのだ。

「難儀な生やな……僕の子孫も狐の呪いで苦労してたけど、君はもっと苦労しとるんか」

「狐の呪い、か……。ふふ……どうやらお互い厄介な存在に関わっているようだね」

「まあ、呪いは陰陽師にとって色んな意味で縁が深いから気にはせんけどな」

 秀元は筆を仕舞うと、気になることがあると耀哉に告げた。

「僕が気になってるのは、黒王の目的や。人類廃滅を掲げる廃棄物(エンズ)の首領が、どうして君の世界にいた(・・・・・・・)鬼と手を組んだのも気掛かりやし」

「ただ人類を滅ぼすだけではないと?」

「元人間の鬼と組んでまで果たそうとする目的……どうも深い話になりそうや」

 秀元は牛車の物見から空を仰いだ。

 燃えるような真っ赤な夕焼け空に、妙な胸騒ぎを覚えながら。




漂流者がどの順番で召喚されているのかも、いつか発表しようと思います。

お待たせしました、次回はようやく大乱闘です。
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