JUMP DRIFTERS   作:悪魔さん

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やっぱいいのう、戦闘描写は。(笑)


第12幕:棄てられし者共の強襲

 オルテ帝国を見限ったサン・ジェルミ一行は、ピンク色の巨大な馬車で移動していた。

「戦線を広げすぎた侵略戦争による兵力の浪費、兵力で人を消費し続けるゆえに起こる労働力の減少、被占領地域の住人達への過酷な統治によって膨張した怨嗟とそれによる反乱の危険性……この時点で国としての機能は成り立ってない」

 角砂糖を大量に入れたコーヒーを口に流す。

 この異世界に飛ばされた彼は、サン・ジェルミから内政事情を知った瞬間に見限った。国家は人がいるからこそ成り立つのであり、それが度重なる侵略戦争で国力を疲弊させてる以上、ジリ貧国家を支えるよりも新国家を樹立させた方が手っ取り早いのだ。

 それに黒王率いる廃棄物(エンズ)の軍勢の進撃を、止められる手立ても無い。それができるのは対の存在・漂流者(ドリフターズ)のみだ。

「早々に他の漂流者(ドリフターズ)と連携し、黒王に対抗しうる勢力を築かなければならない」

「でしょうね。アタシもそう思うわ。……んで、どうする気かしら?」

 (エル)は万年筆で地図に記入していく。

「現時点で確認されている漂流者(ドリフターズ)の勢力は、安倍晴明及びその部下と行動を共にする四人。それと東方の海上に存在する「グ=ビンネン通商ギルド連合」に身を寄せている大破座礁した戦艦を持つ剣士。あと拠点を爆破して脱出した二人。そして一番話題のエルフ族と行動する三人」

「他にも漂流者(ドリフターズ)はいるでしょうが……一番勢いのあるエルフのところの三人に接触する気なのかしら?」

「ええ。おそらく彼らは帝都(こちら)に向かっている。そして次に向かう場所も目星はついてます」

 すでにエルフと共にいる三人の行動を見抜いていると語る(エル)に、サン・ジェルミらは目を見開く。

 一体どこなのかと問うと、(エル)は迷いなく地図のある場所を万年筆でトントンと叩いた。そこには「ガドルカ鉱山」という地名が書かれていた。

「ガドルカ鉱山はこの国最大の兵器廠(へいきしょう)である「オルテ官兵ガドルカ大兵器工廠」が置かれている。ここはオルテの軍事的な生命線です。ドワーフ達を解放して兵力に加えるのも狙っていると思いますが、本命は兵器廠の奪取でしょう」

 兵器廠は兵器の購入・保管・支給・修理などを行う機関で、官営の兵器生産工場である。大量の銃火器や弾薬などを軍隊に補給する経済上・技術上の必要から創設されたもので、国家の武力の源とも言える。ここを奪われ掌握されれば、前線で戦う国軍の命をすり減らすも同然。

 そして兵器廠に囚われに過酷な労働を強いられているドワーフは、金属の加工技術、特に冶金技術に長けている。兵器製造に関しては非常に高い水準の精度を有し、別世界の武器の製造も可能であると(エル)は判断しており、もし自分がエルフ達と国盗りを仕掛けるなら迷わずドワーフの解放に動くというのだ。

「さすが世界一の探偵ね、竜崎ちゃん…………確かにあそこ墜ちたらこの国完全に終了よ」

 世界の迷宮入り事件を何度も解決した青年の頭脳に、サン・ジェルミは舌を巻く。

「現実を理解していれば、ガドルカ鉱山は是が非でも死守するべきという結論に至るはずですが、彼らには無理でしょう」

「そうね。いつまで経っても無駄な会議ばかり。とっとと縁切りましょう。それにアタシにいい考えがあるわ、国が滅ぶにも滅び方ってものがあるのよ」

 サン・ジェルミはニヤリと口角を上げた。

 

 

 その頃、鯉伴はというと。

「うまい! うまい! うまい!」

「ハハハ、そんなに言わなくても伝わるって」

 呆れたように笑いながら煙管の紫煙を燻らせる。

 介抱した目の前の青年は、起きるや否や鯉伴に渡された川魚の丸焼きをバクバクと頬張っていた。ちなみにこれですでに12匹目である。

「俺は炎柱(えんばしら)(れん)(ごく)杏寿郎(きょうじゅろう)!! 昼餉を振る舞ってくださり、感謝する!!」

「よせよせ、そんな大したこたァやってないぜオレは。ああ、オレは奴良鯉伴ってんだ。よろしくな杏寿郎」

「そうか! こちらこそよろしく頼む! して、あなたは何者だ? 人のようで人でない気配がするが、かと言って鬼ではない! 実に気になる!」

「……随分と勘のいい人間()だねぇ」

 いきなり目の前の男が人間ではないことを察した杏寿郎に、鯉伴はきょとんとした表情を一瞬浮かべると、口角を上げた。

 妖怪の妖気を察知できる人間は、妖怪退治を生業とする陰陽師や霊力の高い人間くらいのもの。陰陽師でも霊力の高い人間でもないのに、人とは別の気配を察知できた青年を興味深そうに金の双眸で見据えた。

 ――下手にウソを吐くのは野暮だな。

 そう判断した鯉伴は、自身の正体を明かした。

「オレは半妖……妖怪の総大将と人間の間に生まれた存在って言えばいいか?」

「よもや! 妖と人の子とは驚いた! 人を喰わぬ鬼も然り、俺は驚かされてばかりだ!」

「ふぅん……そっちも色々と事情があるみてぇだな。それにしてもさっきの言葉……どうやらオレの知る鬼とは違う言い方だな。杏寿郎、お前さんの言う鬼ってのは妖怪の鬼じゃねぇのかい?」

 その疑問に、杏寿郎は答えた。

 鯉伴の知る鬼とは、邪悪な面を持つ一方で崇拝対象にもなる「超自然的存在」という意味での鬼だ。獰猛かつ暴虐な妖怪であれば亡者を責める役割を負う獄卒でもあり、中には神仏に仕える明王であったりする、人々を脅かす厄災にも福を残して去る神にもなるモノだ。

 しかし杏寿郎の言う鬼とは、鬼舞辻無惨という男の血を注ぎ込まれた人間が、その血に適応できた時に生まれる人智を超えた「超越生物」だという。人間の血肉を喰らうなど妖怪としての鬼との共通点はあるが、日光以外では死なないほぼ不死身の生物という点が妖怪の鬼とは一線を画す。中でも鬼の最高位たる十二鬼月は、鬼を殺す術を会得している剣士の組織「鬼殺隊」の最高位である〝柱〟を幾人も葬っているという。

「柱……炎柱……成程、あんたはその鬼殺隊の最高戦力だったって訳かい」

「うむ!」

「お前さんが鬼退治の桃太郎で、オレは妖怪退治もする魑魅魍魎の主……こいつも奇縁ってやつかね」

 人の天敵である人喰い鬼を狩る鬼殺隊の最高位に立ち、強く生まれた者として弱き人を助け続ける杏寿郎。

 人と妖の間に生まれ、その領分を踏み躙り跋扈する妖怪を退治し、光と共存する道を行く鯉伴。

 生きた世界も理も、そもそも存在そのものが違う両者だが、弱きを助け強きを挫くその心意気は同じだった。

「さてと! なあ杏寿郎、これからどうするよ?」

「ここがどこでどうなっているかわからん! ならば俺は、この世界を駆けるまでだ!」

 右も左もわからない、人喰い鬼がいるのかすら不明な大正の世ではない異世界(どこか)。何の為に飛ばされたのかわからない以上、この世界での自身の存在理由を探るしかない。

 それは奇遇にも、鯉伴と同様の考えだった。

「そうかい……実を言うとな、これから俺はこの先にある廃城にちょっくら行く。この珍妙な現世(うつしよ)に詳しい奴がいるかもしれねぇんだ。――一緒に来るかい?」

「是非とも同行願おう! あなたには大恩がある!」

「決まりだな」

 

 

           *

 

 

 翌日の夜。

 廃城にて、殺せんせーとしのぶは話し合いをしていた。

「やはり刀剣による戦闘術は向いてないですか……」

「ええ、でも弓は凄いですよ。全員弓の申し子のようです」

「となると……遠距離攻撃、それも飛び道具で戦うのが最適。ですが弓矢だけでは心許ないですねェ……」

 殺せんせーは困ったように笑う。

 昨日からエルフ族の戦闘訓練を始めているが、その結果は難色を示すものだった。

 まず刀剣は不向き。剣に関してはロジャーが教えることとなったが、長い航海で積んだ人生経験からエルフ達に剣術は習得できないと即座に判断して却下した。別のグループで殺せんせーも指導していたが、同じ結果だったという。

 一方、弓矢に関しては正確無比を誇り、しのぶは何度もその命中率に驚かされたという。数十年のブランクがあってもすぐに勘を取り戻した、まさしく天賦の才は腐ることなく輝いていた。

「そうなると銃が欲しく…………っ!」

「何でしょうね、この嫌な感じ」

「え?」

「遠いですが……確かに誰かが来てます。それも殺気立っている」

 いつになく真剣な二人に、オルミーヌは息を呑んだ。

 

 

「……面白くねェ」

 その頃、ロジャーは廃城から離れ、一人石壁に(もた)れてボヤいた。

 彼は無差別に人を襲うことは決してしないが、戦闘意欲が強い。敵と交戦する時は「仲間にケガを負わせたくない」と言いつつ満面の笑みで戦いに行くくらいであり、要は売られたケンカは買うタイプの人間である。

 だからこそ、ロジャーは異世界を楽しむと共に退屈もしていた。前の世界では同じ時代をやってきたライバル達と命を削って戦ったが、こっち(・・・)にはそんな骨のある相手がいない。元仲間のダグラス・バレットのように堂々と決闘を申し込む者もいない。全力を出せる機会が無いことに、鬱憤が溜まりつつあったのだ。

「あ~、誰でもいいから(つえ)ェ奴と()りてェ……」

 満月を仰ぎながら酒を煽った、その時だった。

 

「貴様……漂流者だな……?」

 

「!!」

 ロジャーの目の前に、異貌の侍が現れた。

 紫の袴下に黒の袴、後ろで縛った長い黒髪、額や首筋に浮かぶ炎のような赤黒い痣、六つの赤い眼……見る者を恐怖させる禍々しい姿だ。放たれる威圧感も桁外れであり、並大抵の者なら出会った瞬間に心を折られてしまうだろう。

 しかしロジャーは動じない。元々いた世界が多様な人種で富んでおり、中には巨人と魚人のハーフや三つ目の人種もいるので、実際のところ「珍しい奴だな」くらいの認識でしかない。

 それどころか、男の放つ威圧感によってロジャーは確信していた。白ひげ、ガープ、センゴク、金獅子……あの頃の海(・・・・・)に君臨した、同じ時代をやってきた宿敵(ライバル)達に匹敵する力を秘めていると。あの侍は、この異世界において自分の好敵手となってくれる豪傑だと。

「漂流者? ああ、そうだぜ! おめェは誰だ?」

「……黒死牟だ……」

「そうか、よろしくな黒死牟! おれはゴール・D・ロジャーだ!」

「ロジャー……南蛮の者か……? しかし、その凄まじい闘気と威圧感……「鬼の如き人間」とは、興味深い……」

 六つ目の鬼――黒死牟は感嘆の声を上げた。

 戦国の世から数百年。今までに色んな剣士と相対してきたが、それら全てを上回る圧倒的な強さを肌で感じ取れた。それこそ何百年と鍛錬し続けた末に手に入れた、かつての上弦の参・()()()の言う「至高の領域」に達した、鬼のような人間。

 それが目の前のひげ面の男の、ロジャーの第一印象だった。

「んん? おめェ、その風貌……それと腰の刀…………そうか、こいつァ運がいい!! わっはっはっはっはっ!!」

「……何を笑っている……?」

 黒死牟は未知の敵を前に笑うロジャーに怪訝な表情で質した。

「笑うに決まってんだろ! おれァ嬉しいのさ! 〝侍〟と会うのは久しぶりだからな!」

「…………!!」

 彼が言い放った言葉に、黒死牟は六つある目全てを見開かせた。

 不思議な高揚感が、黒死牟の胸に湧き起こる。

 

 最強の侍になりたかった。

 強さの為ならばと全てを捨て、鬼に身をやつしてまで神の如き弟を超えたかった。己の在り方を、心の底から憎んでいたはずの縁壱(おとうと)に求め続けた。だが、その成れの果ては鬼狩りの刀に映った怪物だった。あの姿は今でも忘れられず、脳裏に焼き付いている。

 燃え盛る地獄の炎にその身を焼かれる中で、謎の女に手を掴まれて異世界に飛ばされた、生き地獄を味わう惨めな人喰い鬼。目の前の男は、自分が頚を落とされ体を刻まれてなお負けを認めぬ醜い化け物であったことを知らないだろう。

 それでも侍と呼んでくれるのだろうか。侍だと受け止めてくれるのだろうか。

 

(この私を……〝侍〟と呼んでくれるのか……漂流者よ……)

 黒死牟は、血走った血管を思わせる模様と無数の瞳がついた刀を抜いた。

「うおっ! 目ん玉まみれじゃねェか! (おも)(しれ)ェ刀だな」

「……これは私の肉体から生み出した刀……幾らでも再生できる……」

「スゲェな、生まれて初めて見たぜ」

 黒死牟の異能に「悪魔の実みてェだ」と純粋な興味を向けるロジャー。

 悪魔の実が何なのかはわからないが、まるで三歳児にでも見られている気分に、思わず微笑んでしまう。アレが素の性格だとしたら、とんでもない人誑しの素質の持ち主である。

「ロジャーとやら……私を失望させるな……気を抜いた瞬間、お前の首と胴は泣き別れだ」

 黒死牟は、ホオオオ、と大量の酸素を血中に取り込む。

 ――「全集中の呼吸」。

 鬼殺隊士達が必須として習得する特殊な呼吸法であり、瞬間的に身体能力を大幅に上昇させる特殊な呼吸法。この呼吸法によって繰り出す剣技は、鬼の頸を容易く斬り落とす。黒死牟の場合は「月の呼吸」という鬼が持つ異能力・血鬼術と合一した常勝不敗の戦技であり、剣閃に沿って月輪の斬撃が自動的に発生するため事実上不可避に等しい絶技と化している。

 最強の(けん)()に相応しい戦闘法に、目の前の漂流者(ロジャー)はどう立ち向かうのか。黒死牟は六つの目全てでロジャーの姿を捉える。すると……。

「待ってくれ!」

 ロジャーが待ったをかけた。

 今更怖気づいたかと失望し、 聞き飽きた助命を言うのならば斬って喰らおうかと思ったが、次の言葉に驚くこととなる。

「確か侍の「決闘」は、決まり文句(・・・・・)を言って始めんじゃねェのか?」

「……!!」

 ロジャーは言った。言ってくれた(・・・・・・)

 これは決闘だと。研鑚し極められた肉体と技で全身全霊を懸ける「命のぶつけ合い」なのだから、遠慮せず持ちうる力全てを使えと。

 黒死牟は悟った。これは日輪に手を伸ばし続けて四百年、己の在り方を保てなくなった孤独な悪鬼に訪れた最後の天恵だと。

「ゴール・D・ロジャー……異なる現世(うつしよ)より流れし漂流者……私はあの御方から素質(・・)のある漂流者を連れてくるよう命じられている」

「……」

「だが今は、お前への謝意(・・)として、私自身の為に戦う……!!」

 黒死牟は今この一瞬だけ、鬼舞辻無惨の配下である〝上弦の壱〟としての黒死牟を捨て、ただの黒死牟で決闘に臨むことを宣言した。

 

 漂流者、ゴール・D・ロジャーよ。

 恐れず忌み嫌わず、哀れみもせず、眼前の異形を侍と呼んでくれた鬼の如き君よ。

 傲慢な私を許し、武を以てして教えてくれ。

 私は一体何の為に生まれて来たのかを。縁壱になりたかった私は、どうすればよかったのかを。

 

 その心意を察してくれたかはわからない。だがロジャーは、黒死牟から目を離さず真っ直ぐ見据えていた。

「よ~し……そんじゃあ、いっちょやるか黒死牟!! いざ!!」

「……尋常に勝負……!!」

 互いに得物を構える。

 重厚な威圧感が支配する、時が凍りつくような静寂の中。間合いを測るように睨み合い、そして薙いだ。

「行くぞ!」

「〝月の呼吸 参ノ型〟……!」

 

 ――〝(かむ)(さり)〟!!

 

 ――〝(えん)()(づき)(つが)り〟!!

 

 

           *

 

 

 ドォォン!!

 

『!?』

 凄まじい轟音が廃城を揺らした。

 まるで目の前で落雷でも起きたかのような衝撃だ。その直後に爆風が吹き荒れ、エルフ達のテントが吹き飛ばされていく。

「わあーーーっ!!」

「きゃああっ! な、何ですかこれーーーーっ!?」

「皆伏せて!! 捕まるのよ!!」

 廃城周辺はパニック状態。

 オルミーヌとしのぶ、シャラ達は地面に伏せて飛ばされないようしがみ付くのが精一杯だ。一方の殺せんせーは石壁を利用して爆風を凌ぎ、明晰な頭脳をフル回転させて状況を把握した。

(まさか空爆……!? いや違う! これは、もしやロジャーさん……!?)

 空爆ならば、飛行機が飛んでいたり黒煙が立ち上るはず。それが無いということは、別の要因が考えられる。とすれば、散歩がてら一人離れたロジャーの身に何かがあった可能性がある……というか、それしかない。

 爆風が止んだのを機に、目にも止まらぬ速さで外に飛び出る殺せんせー。しのぶとオルミーヌも彼に続き、恐る恐る外に出た。

 刹那、廃城周辺が火に包まれた。

(まさか、オルミーヌさんの言っていた廃棄物(エンズ)の……!?)

 しのぶは冷や汗を掻く。

 オルミーヌが言っていた、廃棄物なる怪人。異能を操り憎悪と怨嗟に身を焦がす、世界の廃滅を目論む脅威。それらが集った軍勢「黒王軍」と、関与が疑われる鬼舞辻無惨による襲撃に遭っているのではないか。

 その嫌な予感は、見事に的中する。

「オルミーヌさんっ! 逃げて!!」

「!!」

「へ?」

 突如、燃え盛る火炎がオルミーヌに向かって襲い掛かった。

 殺せんせーはすかさず彼女を両腕で抱え上げ、体の正面で抱えながら回避。しのぶも全集中の呼吸で身体能力を上げて躱す。

 炎は廃城にぶつかるも、石造りが幸いしてかはたまた火力が低いのか、火災にならずには済んだ。

「こ、これは一体……」

「見つけたぞ、見つけたぞ漂流者(ドリフ)共!!」

 オルミーヌが動揺する中、憎しみを孕んだ女の声が響いた。

 声がした方向に目を向けると、そこには二人の敵がいた。

 一人は逆十字架模様の鎧を着て大量の剣やナイフを装備した、金色の短髪が特徴の女性。もう一人は体中に刺青を施した、大槍を携え鎖に繋がれた長髪の異様な大男。向けられる殺意は肌がピリピリする程で、殺せんせーとしのぶは身構える。

「あの二人は……」

「どうやら廃棄物のようですね」

 そう言って殺せんせーはコンバットナイフを構える。

「ジルドレ、お前はそっちの女漂流者を()れ!! 私は男の漂流者を焼く!!」

「ジャンヌ、良き(たび)を」

「なっ!?」

 殺せんせーはまさかのビッグネームに唖然とした。

 その隙を逃さず、ジルドレは大槍を振るう。

 

 ギャン!

 

 城壁を真っ二つにする斬撃を、紙一重で躱す。

「何て怪力……!」

「それにしても……まさかジャンヌ・ダルクとジル・ド・レとは……」

 人ならざる者達を率いて人類と漂流者(ドリフターズ)に牙を剥く黒王軍の尖兵が、まさかのフランスの救国の英雄。あの〝オルレアンの乙女〟とその戦友であった大元帥が敵として立ちはだかるなど、想定外にも程がある。

 さすがの死神も、これには度肝を抜かれた。

「殺せんせー、あの二人をご存じで?」

「ええ……フランスという列強の偉人で「百年戦争」の英雄です」

 殺せんせーは大正の人間であるしのぶにわかりやすく解説する。

 14世紀の中頃から15世紀中頃までの中世末期。しのぶが生きた大正の世より500年近く前、フランスとイギリスの間で、王位継承問題や領土問題を主因とした「百年戦争」が繰り広げられた。

 名前通り100年にも及ぶ戦争は、前半はイギリスが優勢であったが、後半はフランスが反攻して形勢逆転し、港として栄えたカレーを除くフランス全土からイギリス軍が撤退して終結した。この百年戦争でフランスを勝利に導いたのが、ジャンヌ・ダルクとその戦友であるジルドレなのだ。

「それ程の英傑でしたか……」

(しかし、民を救うために戦った英雄が民を滅ぼそうとするとは……)

 二人は救国の英雄であったが悲惨な末路を辿っている。

 それが、二人を世界の全てを憎む廃棄物に変貌させてしまったのだろうか。

漂流物(ドリフターズ)!! 黒王様の世界廃滅の道に塞がる障壁!! 漂流物は我々が全て焼き尽くす!!」

 狂気の笑みを浮かべるジャンヌは、右頬から熱気を噴き出し始め両手に炎が宿った。

 火炎放射が来る――直感で察知した殺せんせーとしのぶは、丸腰のオルミーヌを連れて退避する。その直後、勢いよく炎が放たれ三人がいた場所を焼き払った。

「すばしっこい猿共め! 焼き尽くして貴様らこそ廃棄物にしてやる!!」

 ジャンヌは罵声を飛ばし、三人の背後を炎で囲うように炎を放った。

 が、突如石壁が現れて左右からの炎の行く手を遮った。オルミーヌが札を地面に貼り、その札の効果で石壁を召喚したのだ。

「「!」」

「なっ……何だとお!?」

 虚を突かれ呆然とするジャンヌ。

 その隙に殺せんせーはオルミーヌを担ぎ上げ、しのぶと共に一度距離を置いた。

「オルミーヌさん、あなたまさか……」

「いや……あの……石壁しか出せないです。しかもあと2枚しか……大師匠様や秀元様なら色々できたんですけど、あたし未熟者なんで、その……ごめんなさい!」

「何を言いますか。あなたの魔導士としての練度なんか関係ありません。結果的に私達は助かった……オルミーヌさん、どうもありがとう」

 殺せんせーは笑う。

 暗殺者とは無縁な穏やかで純粋さすら孕んだ笑みに、オルミーヌは思わず落ちそうに(・・・・・)なった(・・・)のか、やめて下さいと顔を真っ赤にした。

「さてと。これで分析は完了です」

「え?」

「あの己が手に入れた力を誇るような振る舞い……ああいう手の者に限って、経験が浅い。それにあの感情の激しさでは、煽り耐性がさぞかし弱いのでしょう。ちょっとした挑発で冷静さを欠くように見える」

 あの凄まじい攻撃に遭っている中で、殺せんせーはジャンヌの戦い方を分析し終えていた。

 戦闘において重要なのは、冷静さをどこまで続けられるかだ。冷静さを欠けば判断力が鈍り集中力も散漫する。頭に血が昇った状態に陥ったり、冷静さを失った戦い方をすれば、どんなに強大な能力を有していても負けるリスクが高くなるのだ。

「能力と戦闘経験が比例していない。ジルドレよりは倒しやすいでしょう」

「……」

「さて、ここで少し提案です。私は〝必殺技〟を一つ持ってます。ジャンヌ・ダルクならば3分、いや2分もあれば倒せます」

「――それは私が逃げに徹し、3分以内にあなたがあの女性を倒してから連携で大槍の男を倒す……ということですか? 殺せんせー」

 その言葉に、殺せんせーは無言で肯定する。

 ジルドレの怪力は脅威だが、飛び道具を使う気配は無い。殺せんせーは炎を放つジャンヌを先に倒し、その後にジルドレを倒すという作戦で攻略しようというのだ。

 それは、人間を殺すことに慣れていないしのぶへの配慮もあった。

「しのぶさんの身体能力なら、躱す程度なら造作も無いでしょうが……オルミーヌさんにはこちらを渡します」

 そう言って殺せんせーが懐から取り出したのは、一丁の回転式拳銃だ。

「それは、南蛮銃……!?」

「しのぶさんが生きた大正の世から数十年経った未来の代物ですが、基本的には同じです。ただしマグナム弾も込められてるので、必ず両手で撃つように。肩が外れても責任は取れないので」

「まさか私が銃を持つなんて……」

 戦々恐々のオルミーヌ。しかし異能を操る堕ちた偉人が殺す気でいる以上、そうは言っていられない。

 最強の戦力であるロジャー不在の今、状況を打破するにはこれしかないのだ。

「行きましょう。今度はこちらが攻める番です」

 反撃の狼煙が、ついに上がった。




次回、助っ人登場。心を燃やしてお待ち下さい。
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