JUMP DRIFTERS   作:悪魔さん

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本作の漂流者、人の下に付けるタイプが少ない件。(笑)


第16幕:祓い、鎮め、護る

 ここはオルテ北部の山岳地帯。

 太陽が真上に昇った頃、廃棄物との戦闘を凌いだジョットとやぐらは、密林で休息していた。

「風呂に入りたいな、やぐら殿」

「水と炎があっても、肝心の浴槽が無いぞ」

 夜明けを迎えた空を仰ぐ二人。その体は大事には至らずとも、傷が目立っている。といっても、擦り傷や打ち身、打撲程度なのだが。

「あの頭巾の男……(かく)()と言ったか。何か知ってるのか?」

「……苦い記憶だ」

 やぐらは溜め息を吐く。

 あの時、突如として襲い掛かった二人の廃棄物。その内の一人・角都は面識のある敵で、やぐらにとっては因縁深い〝暁〟という組織の構成員だと言う。曰く、滝隠れの里の精鋭だった忍で、〝忍の神〟と謳われる(せん)(じゅ)柱間(はしらま)の時代の男だと言う。

 だが実際に戦ったことは無く、体中から無数の黒い触手のような物体を出し、雷や竜巻、炎を操る忍術は初めてのようだ。

「オレは()()十蔵(じゅうぞう)とうちはイタチ……別の二人一組(ツーマンセル)にやられた。奴の術は知らないが、おそらく里を抜ける時に奪った禁術の類だろう」

「……手強かったな」

「構成員のほとんどが、忍の里の長に匹敵する力を持つS級犯罪者だからな」

 各国の隠れ里を抜けた忍者達で構成された「暁」は、個々で〝尾獣〟という魔獣を体内に宿す人柱力や忍の頂点たる五影をも倒す実力を持つ。災厄レベルの力を持つ尾獣を完全に制御できたやぐらですら、抜け忍二人組に敗北を喫したのだから、いかに暁の構成員が戦闘能力の高い集団かが伺える。

 だが、やぐらは別に恐れてはいなかった。忍術には五大性質である火・風・水・雷・土の五つの属性が存在するが、火遁は水遁に弱く、土遁は雷遁に弱いといった優劣関係がある。その理屈で言えば、手の内が知れた以上いくらでも対策が打てるからだ。

 問題は(・・・)もう一人の(・・・・・)方だ(・・)

「もう一人の珍妙な恰好の男……やぐら殿はどう思う?」

「皆目見当がつかん……だがチャクラじゃないのは確かだ」

 二人の話題は、角都と共にいた廃棄物の男に変わる。

 その男は自らをヴァニラ・アイスという甘そうな名前を名乗り、二本の角と大きな口を持つ人型のナニかを連れていた。鬼や死神を連想させるそれは、軌道上の物質を無条件で消滅させるという凶悪極まりない能力を持ち、さらに融合した状態では相手の攻撃を一切受け付けないという反則級の特性によって苦戦を強いられたのだ。

 未知の敵との戦いに当初は劣勢だったものの、息の合ったコンビプレーで渡り合い、最終的には夜明けを迎えた途端に敵が撤退したため、どうにか凌ぐことができた。

「お前がいてくれて助かった。家康、何と礼を言うべきか……」

「超直感だけじゃないぞ。やぐら殿が弱点に気づかなければ――っ!」

 ふと、迫りくる気配に二人は立ち上がり警戒した。

 それと共に木々の間から槍を携えた犬頭人身の亜人が姿を現し、その切っ先を突きつけた。

「犬人間……!?」

「敵意はあれど殺意は無さそうだ……縄張りに迷い込んだのかもしれないな」

 ジョットはこの森が犬人達の領土内であると判断し、申し訳なさそうな表情をする。

 無益な争いは極力避けたいのは双方同じのはず。ここから離れようと、やぐらに移動を提案しようとした、その時だった。

「待ってくれ! その人達は敵じゃない、ケガもしてるんだから保護しないとダメだろう!」

 凛とした女性の声が空から(・・・)響いた。

 その声を聞いた犬人達は人語を理解しているのか、両脇に分かれて整列した。

「お前は……!」

「私は志村菜奈。訳あってここのリーダーを務めている」

 空から降り立ち二人の前に現れたのは、志村菜奈。カルネアデスで黒王軍と交戦し、廃棄物となった鬼の首魁・鬼舞辻無惨とその手下の童磨に遭遇した女性の漂流者(ドリフターズ)だ。

「志村菜奈と言ったか……助かった、面目ない」

「そう言わなくていい、ヒーローの仕事を全うしただけさ」

 礼を述べるやぐらに、ニッと明るく笑う菜奈。

 その太陽のような微笑みに、ジョットは「エレナを思い出すな……」と誰にも聞こえない程に小さく呟いた。

「私はこの世界に来て日も浅い。何か知ってることがあるなら教えてくれないか?」

「そうだな。情報を共有しておかないと、これから来る災厄を迎え撃てないからな」

「案内するよ、付いてきな」

 こうしてジョットとやぐらは、新たな漂流者勢力に迎え入れられた。

 

 

           *

 

 

 同じ頃、廃城では二人の陰陽師が呪文を唱えていた。

「「六根清浄(ろっこんしょうじょう)喼急如律令(きゅうきゅうにょりつりょう)! 悪鬼を祓い、厄災を鎮め(たま)え!!」」

 護符を人差し指と中指に差しながら、秀元と晴明は声を合わせて呪文を唱える。

 その先では、五芒星の紋が描かれた床で横になった耀哉が蒼い炎に包まれていた。炎の中にいるにもかかわらず、彼の体はどこも傷ついてはいないが、とても苦しそうに顔を歪めている。そんな彼を、杏寿郎としのぶは歯を食いしばりながら見守っていた。

「ぐっ、うぁ……!!」

「お館様……!!」

「くっ……」

 痛みや苦しみを和らげることができない己の不甲斐なさに、二人は体を震わせていた。

 耀哉は呪いと闘っており、晴明と秀元はその手助けをしているのだ。鬼狩りを担う鬼殺隊は、残念ながら呪詛や厄払いに精通した者は一人としていない。隊士にできることとすれば、お館様を見守り励ますくらいでしかない。

「お館様、もうしばらくの辛抱です!!」

「あともう少し耐えれば、必ず!!」

 剣士(こども)達の声が届いたのか、耀哉は滝のように汗を流しながらも優しく微笑んだ。

 二人の心を少しでも軽くしようと思っているのだろう。

「「休息万命(くそくまんみょう)喼急如律令(きゅうきゅうにょりつりょう)! 貪欲深き鬼から()の命護り(たま)え!!」」

 念を押すように力強く唱えた瞬間、蒼い炎は空気に溶けるように霧散した。

 一同は静まり返る。

 その直後、先程まで炎に包まれた状態で横になっていた耀哉がゆっくりと起き上がった。

「……ひとまずは(・・・・・)祓えたようだ」

「いや~、しんどかったわぁ」

 汗を拭う晴明と秀元。余程霊力を使ったのか、疲労が目に見えていた。

 一方、術を施された耀哉は……。

「こ、れは……」

 信じられないと言わんばかりに、目を大きく見開いた。

 呪いによって爛れた皮膚は滑らかさを取り戻し、肌も健康的な色になっている。身体中に感じた痛みと倦怠感は消え、体が非常に軽く感じる。何よりも光を見ることは無いと諦めていたはずなのに、目に映る景色が鮮明になっている。

「お館様っ!!」

「そんな、信じられない……!」

 敬愛するお館様の奇跡的な回復に、感激のあまり身を震わせる。

 それに気づいた耀哉は、二人の姿を澄んだ瞳で捉えた。

「杏寿郎としのぶ、だね……久しぶり。やっと見ることができた。杏寿郎は父の面影を強く感じるよ、しのぶはカナエにそっくりの美人になったね」

「ぐわあっ!」

「ぐふっ!」

 お館様による、慈愛の笑みからの急降下爆撃が炸裂。

 直撃を受けた二人は轟沈した。

「ありがとう、本当にありがとう。あなたには感謝してもしきれない」

「私は漂流者(ドリフターズ)を支える者、十月機関の長です。これくらいの仕事(こと)はしなければ」

 ほろほろと涙が頬を伝い、着物が濡れる。

 おそらく初めて見る泣き顔に、杏寿郎としのぶも涙を流すが……。

「――でも呪いから、解放されたわけじゃないんだろう?」

「え!?」

「それは本当なのか!?」

「ええ、あれ程までに雁字搦めな呪いは久しく見なかった……」

 晴明曰く、耀哉を蝕む呪いは産屋敷家と鬼舞辻無惨が同じ血筋である影響か、祓っても糸を辿るようにすぐ纏わりつく非常に質の悪い代物だと判明したという。

 そこで秀元と共同で、病気平癒の為の術でもある、呪文を用いて邪気・獣類を制圧して害を退ける〝(じゅ)(ごん)〟という術を施した。二人の強大な霊力のおかげか、(じゅ)(ごん)の効果は絶大で、一族の人間を代々蝕む病を祓い解呪に成功。さらに秀元が施した〝身固め〟を二人がかりで上書きし、呪いの影響を受け付けないようにしたという。

 しかし呪いの源である鬼舞辻無惨が生きている以上、呪いは再び牙を剥く。身固めも永遠に続くわけではないため、晴明としては完全な解呪とは言えないらしい。

「祓ってもすぐ纏わりつくのは、やはり血筋の影響でしょう。本当なら完全に断ち切りたかったのですが……」

「そうですか……晴明さん、その身固めはどれくらい持ちますか?」

「秀元と二人がかりでしたから、10年は効くでしょう」

「「「10年!?」」」

 晴明の口から出た言葉に、三人は心の底から驚いた。

 産屋敷家は代々神職の一族から妻を貰っているが、その子孫達は誰一人として三十まで生きられていない。耀哉自身も御年二十三であり、どんなに己を鼓舞し抗ったところで、あと7年も経てば命が尽きる身だったのだ。

 その状況を覆したのが、日本史上最も有名な大陰陽師・安倍晴明と別世界の慶長年間で活躍した天才陰陽師・花開院秀元。京の都を荒らし回った数多の妖怪達を退けてきた霊力は、鬼の始祖にも通用するのだ。魔除け・厄除けの陰陽師の頂点の力、恐るべしである。

「10年もあれば十分です。今度こそ私の代で全てを終わらせてみせる」

「そうですか……」

 耀哉の熱い想いに心を打たれたのか、晴明は顔を綻ばせた。

「ところで晴明さん、無惨が生きている以上呪いは再び牙を剥くと言ってましたが、無惨を討ち取れば解けるのですか?」

「呪詛の源が悪霊怨霊であれば、祓ったり社を建立して鎮めるのが妥当ですが、あなたの場合は少し(・・)違う(・・)。呪詛の源となる存在を滅却するのがいいでしょう」

「よもや! それはまさしく吉報だ!」

 敬愛するお館様の救済の道を導き出したことで、士気が上がる杏寿郎。

 しのぶも例外ではなく、満面の笑みで耀哉の手を両手で握った。

「ふふ、気合が入ってるね二人共」

「では、私はここで失礼します。用事ができたので」

「僕もここでお暇させてもらうわ。オルミーヌちゃんと話したいこともあるし」

「そうですか……どうもありがとう」

 恩人である陰陽師二人に礼を述べ、耀哉は二人と向き合った。

「しのぶ、杏寿郎。これは二人の自由だけど……もう一度私の悲願達成の為、力を貸してくれるかい?」

「喜んで!」

「今度こそ、我らの剣で鬼舞辻無惨の首を刎ねてみせましょう!」

 力強い返答に、耀哉は微笑んだ。たった三人だけだが、鬼の天敵「鬼殺隊」が再び結成された瞬間だった。

 そこへ、ズカズカとロジャーが相変わらずの見事な悪人面で現れた。

「おう! 随分とスッキリしたじゃねェか、オヤカタサマよォ」

「あなたは……ロジャーさんだね。この世界に飛ばされたしのぶを護ってくれて、どうもありがとう」

 謝意を示すようにロジャーに頭を下げた耀哉に、しのぶと杏寿郎は「どうかお顔を上げてください!」と柄にもなく慌てふためく。

「おいおい、おれァ海賊だぜ? 礼なんざされる立場の野郎じゃねェ」

「だが、私の剣士(こども)の傍にいてくれたのは事実だろう?」

 穏やかに笑う耀哉に、きょとんとした顔になる。

 その数秒後、ロジャーは涙を浮かべて爆笑した。

「わははははは!! ニューゲートみてェだな、おめェ!!」

「? どうかしたのかな」

「いや、おれの知り合いに〝白ひげ〟ってのがいてな。あいつも自分の船員を息子って呼んでたんだよ」

 ロジャー最大の宿敵(ライバル)であり、同じ時代を生きた顔馴染みでもあった大海賊〝白ひげ〟ことエドワード・ニューゲート。彼は海賊としては珍しく金銀財宝に興味を持たず、その反対に位置する「家族」を欲していた。自分の一味を旗揚げした頃からオヤジと呼ばれ、その仲間想いぶりは当時の海では半ば常識と化している程に有名だった。

 かつての好敵手と似た雰囲気を纏う耀哉に、ロジャーは懐かしさを覚えた。

「成程……そのニューゲートさんとやらは、さぞ器の大きい御仁なんだろうね」

「図体もデケェぞ。おれの倍以上はある!」

「本当に人間ですか、その人」

 しのぶの疑問に、ロジャーは「おれと同じ心臓一つの人間だ」と笑った。

 

 

 一方、晴明は殺せんせーと二人っきりで会話していた。

「あなた方は……これからどうするおつもりか。エルフ達を解放し、何をするのです。何を成そうとしているのか」

「そうですね……私達は黒王と鬼舞辻無惨に狙われてる上、この世界も存亡の危機に立たされてる。なので黒王軍を倒さねばならない」

 その答えに、晴明はホッと安堵した。黒王と無惨、そして廃棄物から世界を救おうとしていると知ったからだ。

 だが、そのやり方は晴明とは大きく違った。

「人ならざる者と人喰い鬼を率いた黒王軍の脅威を打ち破るには、まず際限無き戦乱を生んだオルテ帝国を一度地上から消す必要があります」

「!!」

「多くの部族が人間への怒りと恨みを抱いていますが、それはオルテ側だけであって人間という種族に対する善悪の区別はしっかりついている。よってオルテに支配された諸族を解き、漂流者(ドリフターズ)を中心とした連合軍を結成する」

 殺せんせーの目的は人間と亜人による対黒王軍の結成であり、その手段として色々とやってくれたオルテ帝国を滅ぼすという。オルテ帝国に虐げられ迫害された多部族に話を持ち掛ければ、たとえ漂流者(じぶんたち)を信頼せずとも乗ってくれると踏んでいるのだ。

「オルテ帝国を滅ぼしたら連邦制国家を樹立させ、漂流者(わたしたち)に兵権を握らせる代わりに諸族の自治を与える。軍を作るには自らで軍閥を作るしかない」

「その行き着く先は軍閥による(さん)(だつ)だ!」

 晴明は反論する。

 漂流者(ドリフターズ)は生きた人間であり、廃棄物(エンズ)のように世界廃滅の統一意思があるのではなく、自らの思考で行動する。ゆえに予測がつかず、何をしでかすかわからない。それは第二(セカンド)漂流者(ドリフ)も同様だ。

 オルテを作り出した例の国父は、人々を救うために、飢える民の尊厳を取り戻すために国を作った。だがその結果は、殺せんせーが言った通りの際限無き戦乱である。人々を救ったのかもしれないが、あくまでも人間のみで他の亜人は迫害され恨みを募らせることになった。

 それすらもあの男の――〝紫〟の思惑の内なのかは、晴明ですら知る術も無い。

「自治権などうやむやになるのではないのか、死神殿」

〈廃棄物に滅ぼされるよりはいいと思いますけどねェ〉

 晴明の反論に対し、殺せんせーは流暢にオルテ語で返答した。

「エルフ語を覚えて……!」

「シャラ君達に数日程教えていただいたんですよ」

(――何て奴だ、この男の才能に限界は無いのか!?)

 この異世界の独特な言語を、教えられてからほんの数日で完璧に習得(マスター)した殺せんせーに、晴明は戦慄すら覚えた。

「それに他の皆さんが支配に興味があるとは到底思えないので……」

 そう言って殺せんせーは目を逸らし、晴明は何か察したのか複雑な表情を浮かべた。

 確かに十月機関が確認できている第二(セカンド)漂流者(ドリフ)のほとんどが、支配や征服に興味を示さない。あまりにも(・・・・・)自由過ぎる(・・・・・)のだ。

「何でこうも人の下に付けるタイプの人間が少ないんでしょうね……」

「……そればかりはわかりません」

 遠い目をする殺せんせーに、晴明は同情した。 

 

 

           *

 

 

 その日の夜。

「ドワーフとやらを解きに行くことになった」

 ロジャーの宣言に、エルフ達は一斉にざわつく。

 その声は否定的なもので、皆助ける義理は無いと口を揃える。

「何だよ、マズイのか?」

「マズイというか……ロジャーさん達はエルフとドワーフの確執を知らない」

 エルフ達を代表し、シャラが二族間の確執の語り始めた。

 エルフとドワーフ達はこの世界の始まりから互いを敵視しており、オルテに諸国が滅ぼされた時もエルフを助けようとはしなかったという。自分達を守るだけで精一杯だったという可能性もあるが、亜人存亡の危機にもかかわらず同じ亜人のエルフを助けようとしなかったドワーフを不快に思っているようだ。

 シャラ自身、そんなことを言っている場合じゃないとわかってはいるが、やはり過去の遺恨とは割り切れない様子だ。そんな彼らに、ロジャーは「無理に来る必要はねェ」とキッパリ言い放った。

「おれァ行くぜ。おれがいた海にはいなかった連中に、一目会ってみてェしな!」

 ロジャーは笑みを深めて廃城を出た。

「……ちょ、ロジャーさん? まだ作戦練ってないんですけど!?」

「身勝手さも鬼以上だなんて……」

「本当に子供みたいな御仁だな!」

 殺せんせーとしのぶはロジャーの自由奔放さに呆れ、杏寿郎は笑いながら評しつつ、その後を追った。

「どうするシャラ」

「俺は……俺の村の連中は行くよ。あの人に命を救われた」

 若者(シャラ)は語る。

 前のオルテ帝国との戦いで、もしエルフかドワーフのどちらかが遺恨を捨てて共に力を合わせて立ち向かっていたならば、お互いに奴隷に落ちなかったかも知れないと。

「俺は、俺達の上の世代がやったバカを繰り返したくない」

『……!』

 

 

 ロジャーは陽気に歩いていると、馬車に乗った晴明が声を掛けた。

「行かれるのか」

 その問いに、ロジャーは答えない。

 すでに行くと決めているのだ。

「大きく包み込み時に荒れ狂う、海のような御仁だ。あなたの目的は何です?」

「んなモン決まってるだろ? ――冒険だ」

「!」

海は(・・)あっちで(・・・・)制覇しちまったからな、次は陸を制覇する!」

 支配とは無縁のロジャーの言葉に、晴明はあんぐりと口を開ける。

 一緒にいた万斉も驚いており、高杉に至っては「年食った辰馬みてーだ」と呟いて笑っている。

「一緒に来るか? 大歓迎だぜ」

「……我々は、本部に戻らなければなりません。家康殿とやぐら殿との合流に加え、他の漂流者や廃棄物の動きも探らねば」

「そうか」

「だったらおっさん、オレも行くぜ。旅は道連れ世は情けってよく言うだろ?」

 ロジャーの背後で、木に凭れ紫煙を燻らせていた鯉伴が申し出た。

 自由奔放な遊び人気質の持ち主である彼は、これまたドがつく自由人である海賊王の口から出た冒険という言葉に、惹かれたように興味を示したようだ。類は友を呼ぶとは、まさにこのことだろう。

 それを聞いた晴明は、どこか安心したように笑みを浮かべた。

「しかし、人に仇なす連中を倒すのに人の国を倒さなきゃなんねぇとはな……」

「人はそういう生き物ですからねェ」

 ヌルフフフ、といつの間にか追いついた殺せんせーが二人の背後で笑った。

 ロジャーは「もう追いついたのか」と笑っているが、いきなり変な笑い声をすぐそばで聞かされた鯉伴は、びっくりしたのか胸の辺りを押さえていた。妖怪にも心臓に悪いことはあるようである。

「晴明さん、オルミーヌさんをこちらで引き取りたいのですが」

「ええっ!?」

「勿論いいですとも。オルミーヌは導術において、私と秀元を除いた十月機関の面々で一番才能がある。必ずやあなた方の力になるでしょう」

「お師匠様ぁ……」

 涙目で訴えるオルミーヌ。

 絶望すら孕んだ表情の彼女に、いつの間にか現れた秀元が「堪忍な」と肩に手を置いて笑った。

「秀元、産屋敷殿を頼みたい。彼の身に巣食うモノは、薬師が治せるような代物じゃない。それに産屋敷殿の指導者としての素質は、今までこの世界に飛ばされてきた漂流者の中でも際立っている。彼を失うわけには……」

「任せとき。まあ、僕も僕で解呪方法探すわ。残りは晴明ちゃんに任せるで」

 そんな中、高杉は日本酒が入った酒壺をロジャーに投げ渡した。

「海賊王、一本やるよ。洋酒ばっかじゃ飽きるだろ?」

「そういうおめェも、たまにはラムでもどうだ?」

 無類の酒好きであるロジャーも、愛飲するラム酒を高杉に投げ渡す。

「晋助、また本部からくすねてきたのでござるか?」

「クク……餞別ぐれーはいいだろ」

 何とここで高杉が十月機関の本部から酒を盗んできたことが発覚。万斉は呆れた様子で溜め息を吐いた。

「では、我々は行きます。あなた方の武運長久を祈る!」

「じゃあな。祭りはこれからだから死ぬんじゃねーぞ」

 晴明と高杉はそれぞれ激励の言葉を述べ、馬車で廃城から走り去っていった。

 その直後に、シャラ達が弓矢を携え集まってきた。

「各村に伝えろ。兵を集めろ!!」

「ヌルフフフ……全て順調。では行きましょうか」

「おう! ――で、大将は誰がやるんだ?」

 ロジャーのさりげない一言に、漂流者一同は顔を見合わせた。

「そう言えばまだ決めてませんでしたね……」

「ロジャー殿か鯉伴殿はどうだろうか!」

「「え~……」」

(二人揃ってイヤそう!!)

 自由でいたい二人のイヤそうな顔に、長丁場になりそうだと項垂れる殺せんせー。

 最終的には、今いる面子の中で二人以外でカリスマ性がある耀哉が大将になった。




次回はドワーフ解放です。
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