JUMP DRIFTERS   作:悪魔さん

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10月最初の投稿です。
今回は敵サイド、廃棄物側と新たな漂流者の話。殺せんせー達は一切出ない、珍しい回です。


第18幕:敵に回したくない者達

 所変わって、オルテ帝国東方の海上。

 ここには七つの商人ギルドが運営する海洋擬似国家「グ=ビンネン商業ギルド連合」がある。

 「貧乏人には戻りたくないだろう。ならば剣を取れ」という標語を掲げ、東方海域圏内を制圧している商人集合国家であるグ=ビンネンの屋敷では、三人の男が会食をしていた。

 一人は、シャイロック商会及びシャイロック銀行番頭にしてグ=ビンネン連合水軍水師である、グ=ビンネンの中でも序列筆頭と認識される若き主導者――〝放蕩 なれど出来息子〟バンゼルマシン・シャイロック8世。

 もう一人は、ブリガンテ商店首席手代及びブリガンテ銀行番頭にして連合水軍軍監師である、シャイロックに次ぐ冷徹な主導者――〝頭を冷たくし 心をなお冷たくし〟ナイゼル・ブリガンテ。

 そして……。

「もはや洋上は「我らが海」となった。オルテ海軍は完全に壊滅状態にある。我々の海上覇権を阻害する者は何もない」

「これ程早く趨勢が決したのも、あなたの「武力」のおかげです()()()殿()

 宿願が叶ったことを喜び、その礼を告げる二人の前で黙々と米に似た食材を食べる一人の剣士。片肌脱ぎに着崩した藍染の着流しと全身に巻いた包帯という異様な姿で、非常に痛々しいが歴戦の強者としての貫禄を感じ取れた。

 彼はかつて「弱肉強食」の理念の下、祖国日本の覇権を握り征服しようと目論んだ一大兵団の首領。伝説の人斬り・緋村抜刀斎と互角の実力を持つとされた凄腕の剣客である彼の正体は――

 

 元長州派維新志士 人斬り 志々雄(ししお)真実(まこと)

 

「俺が動かなくても、頭が回るてめェらなら海を奪えたろ。敵も無能の極みだしな」

「ご謙遜を」

 シャイロックは「あなたが来たことで変わった」と、あくまでも志々雄のおかげだと告げた。

 グ=ビンネンに飛ばされた直後、志々雄はシャイロック達に歓待され、彼らから衣食住を保障する代わりに力を貸していただきたいと申し出られた。現世でも地獄でもない世界に興味を持った志々雄はそれを承諾し、自身が率いた精鋭部隊「十本刀(じゅっぽんがたな)」の一人・(かり)()(へん)()の戦法を基に上空からの奇襲を立案。志々雄の力と知恵を借りたグ=ビンネンは、巨大な鷹のような獣〝グリフォン〟を利用し、魚獣油脂を用いてオルテ海軍の艦船を海に沈め、国盗りならぬ「海盗り」を成功させた。

 シャイロックの言うように、グ=ビンネンの制海権掌握は、実質志々雄の手柄と言ってもいいだろう。

「……で、これからどうすんだ? ようやっとオルテの国盗りか?」

 志々雄は獰猛な笑みを浮かべた。

 国盗り……それは志々雄真実という男にとっては切っても切れぬ縁のある言葉だ。

 そもそも志々雄が武装集団「志々雄一派」を率いて日本征服に動いたのは、明治政府に裏切られ体に油を撒かれ火を点けられたことへの復讐ではなく、自らが覇権を握り取って日本を強くするためだった。明治政府に殺されかけたのは、自分の力量が足りなかったためなのだ。

 その国盗りも、前回(・・)は時代が自らを恐れて不殺(ころさず)の緋村抜刀斎を選んだために阻まれた。しかしこの異世界はどこもかしこも戦争状態――ある意味では幕末の動乱にも似ていた。そんな世界に飛ばされた志々雄の天下取りの野心が再燃しないわけがない。

「我々は海は強いですが、(おか)はねぇ……」

「……それは寄り合い所帯だからか? それとも()()()がねェからか?」

「両方ですよ。よくわかってらっしゃるようで」

 シャイロックは志々雄の洞察力に舌を巻いた。

 グ=ビンネンは制海権を掌握してはいるが、陸上における兵力が不足しているためオルテの首都・ヴェルリナまで進軍はできない。仮にオルテに勝利して領地を得ても、そもそも長年の侵略戦争で国力をすり減らした国家の領地を経営・維持することはできない。正直な話を言えば、海上通商の権益を握った以上はオルテと和平したいと考えているのだ。

「その後でオルテが相変わらず他の国々と戦をするなら、まあそれでいい。オルテにもその敵国にも物資を売って、オルテが崩壊する当日までお客様だ」

「…………そうかよ。話が済んだんなら俺は帰るぜ、国盗りすんなら呼んでくれよ」

 飯を平らげた志々雄は箸を置き、立ち上がって二人に背を向けた。

「あの〝鉄船の残骸〟に戻るので? そろそろこちらに住まわれては? 家は用意しますよ」

「結構。あそこが一番落ち着く」

あれ(・・)を……「レンゴク」をまだ我々に引き渡してはくださらぬか?」

 ブリガンテがそう言った途端、部屋の温度が一気に下がった。

 それが志々雄の殺気によるものと気づき、緊張が走る。だが志々雄はそれ以上のことはせず、無言でそのまま去った。

 その場に残されたシャイロックとブリガンテは、冷や汗を流しながら口を開いた。

「やはりまだ我々を信じてはいないようだ」

「しかし何度も言うが、シャイロック。あの鉄船(レンゴク)を接収するべきだ。あれ(・・)は別の世界の驚異の宝庫だぞ」

「いや……シシオを敵に回したくない。君も今のでわかったろう」

 

 

 志々雄は岩礁で大破擱座する軍艦の甲板に戻っていた。

 軍艦の名は、大型甲鉄艦「煉獄」――総予算の6割をつぎ込んで購入し、大阪湾から出港する寸前のところで手投げ弾数発によって撃沈した装甲艦である。艦内にはアームストロング砲やガトリング砲などの強力な兵器を搭載し、武器庫にも幕末の動乱で活躍した外国製の銃を揃えている。

 これらは日本の国盗りで欠かせない存在だったが、それを阻止せんとした抜刀斎達によって海に沈んだものだ。ほとんど失ったと言ってもいいが、使える物はいくらか残っていた。ただ志々雄自身は剣客なので、いくつかはグ=ビンネンを通じて十月機関に売り飛ばしたが。

「離れたくねェよな……そうだろ? 煉獄」

 錆びついた煙突を見上げる。

 本来なら、この煉獄(ふね)に乗って東京に侵攻する手筈だった。その直前に抜刀斎の仲間である喧嘩屋が投げた炸裂弾で大破し、一切の活躍なく沈み計画が大きく狂うこととなった。そして抜刀斎と死闘を繰り広げ、その果てに地獄の業火に焼かれるように炎に包まれ、自分はこの世界に飛ばされた。

 活躍の場を失ったはずの〝切り札〟がこの世界の海で座礁していたのは、主である志々雄を待っていたのかもしれない。現にあの廊下にいる男の手で飛ばされた時、まず降り立ったのがこの船の甲板だったのだから。愛着と言う程ではないが、苦労して蓄えた資金の6割を払って得たのだから、志々雄としては所有者として手放すわけにはいかなかった。

「由美も方治もいてくれりゃ、ちったァ楽しかったんだがな」

 木箱の上で腰を下ろし、炎を統べる悪鬼は水平線を見つめながら煙管を吹かした。

 

 

           *

 

 

 一方、黒王軍によって陥落した北壁ことカルネアデスは、黒王軍の本拠地となっていた。

 その北壁の城壁で、廃棄物ヴァニラ・アイスは地平線の遥か先を見つめていた。

 ただ静かに見つめ続けるその姿は、決意を表しているようだった。

「……DIO(ディオ)様」

 誰にも聞こえない程に小さな声で、敬慕する主人の名を口にする。

 ヴァニラの主人は、絶大な力を有する悪の帝王・DIO(ディオ)ただ一人だ。

 しかしこの世界に、魔の魅力を持つ主人はいない。忠誠を誓った相手を失ったヴァニラは、この異世界で何をしていいのかわからなくなった。DIO(ディオ)のいない世界など、彼にとっては地獄のような責め苦と言えた。

 黒王軍に加わった本来の目的は、黒王に心酔したからではない。主人無き世界での己の存在意義を知るためだ。この世界に飛ばされた意味を知り、何を成せばよいのかを探るために、不本意ながらも黒王の配下となることにしたのだ。

 

 ――ならば主人の後を継ぐのはどうだ?

 

 その言葉に、ヴァニラは衝撃を受けた。

 エジプトの首都(カイロ)を拠点に世界征服を目論んでいたDIO(ディオ)の忠誠の証として、主人の後継者として生きればよいと諭されたのだ。

 「道」を示した黒王にヴァニラは感謝こそしたが、あくまでもDIO(ディオ)の臣下であるため、協力はするが黒王とは線引きをしている。ヴァニラが黒王軍に協力するのが自らへの恩義ではないことは、黒王自身も承知の上である。

「――僭越ながらDIO(ディオ)様……このヴァニラ・アイス、DIO(ディオ)様の意志を継ぎ、DIO(ディオ)様の野望を果たしてみせまする」

 全てはDIO(ディオ)の為。

 それを掲げ、ヴァニラ・アイスは漂流者(ドリフターズ)をどう滅ぼすか考え始めた。

 

 

 同じ頃。

 黒王は樽の中から穂一本分の麦粒を手に取り、強く握った。すると黒王の手から麦の粒が湧き出て、辺り一面を埋め尽くした。

 黒王の異能は「生命の増殖」――命あるものならば細胞でも食料でも無尽蔵に増やすことができ、重傷を負った兵を一瞬で治癒することもできる、敵からすれば悪夢としか思えない能力である。しかも細胞を無制限に増殖させることで腫瘍を起こして殺すという応用もでき、現に先程軍門に下した巨大な青銅竜も、身動きの取れない肉団子に変えられてしまった。

「我が王」

「ラスプーチン、出来ているか」 

「ええ。私は元々本職でしたから極々単純な体系ですが、単純な方が彼らには良いでしょう」

 黒王軍の参謀であるラスプーチンは、黒王に任された役目の途中経過を報告した。

 彼の役目は、人ならざる者達の為に宗教体系や文字を作ることだった。

「シンボルは目にしました。モデルは拝火やそれ以前のヴァルナ、エジプトやケルト……おいしい所は全部混ぜてしまいました。それとこちらも、ローマ字を素にと言うかまんまですが、理解させるのに時間が掛かるでしょうね」

「そうか」

 そんな二人の会話に、水を差す()が一人。

 鬼舞辻無惨の配下である童磨だ。

「素晴らしい能力だ! 無惨様も欲しいだろうなぁ。でもなぜ愚かで気の毒な人間と同じことをさせるんだい?」

 その様子を見ていた童磨は、黒王に問う。

 (へい)(たん)の概念を崩す強大な能力を行使すれば、わざわざコボルトやゴブリンに農業を教える必要はないのではと考えたのだ。

「それは私が永遠に生きる神でも、貴殿のようにほぼ不死身の鬼でもないからだ」

 黒王は淡々と答えた。

 というのも、彼の能力は絶大ではあるが自身の命を酷使する〝自己犠牲の能力〟でもあるのだ。行使し続ければ自らの命を縮め、ジルドレのように塩の塊となって消滅する可能性があるのだ。黒王自身はそれについての躊躇いは無いが、心酔する廃棄物からは寿命を縮めないよう進言されているのも事実だ。

 それに黒王の目的は、化物と揶揄された多種族を一体化させ、人類に取って代わる文明を作り出させることだ。その為に原始農業を教え、ラスプーチンを通じて共通文字を作り、シンボルを目とした統一宗教を作り教化させた。

「無限の時を生きることができぬ者は、目に見える形、あるいは目に見えぬ形で次代へ伝える。人の想いもまた、永遠と言える」

「おやおや、人間は死んだら無になるだけだぜ? 想いなんか死んだら伝わるわけないじゃないか?」

「否。人は賢い、()()()()。それは貴殿も一瞬でも思ったことはあるのではないか?」

 黒王の言葉に、童磨は目を見開いた。

 思い当たる節はある。無限城でのあの戦いで喰らった、鬼殺隊の柱である女隊士――胡蝶しのぶだ。()った女の体が猛毒の塊だったなど、夢にも思わなかったのだから。

「……確かに、しのぶちゃんには一本取られたなぁ」

「そう。人間とは他を道連れにする無理心中の道路だ。そんな狂った救いようの無い生命が牛耳る世は亡ぼさねばならぬ」

「…………そっか。じゃあ俺は好きに動くよ」

 童磨は黒王の元から去った。

 しかしその胸中にあるのは、黒王への呆れだった。

(無駄なことをやり抜く愚かさが人間の素晴らしさだ。それを否定するのは筋違いだよ)

 その考え自体が筋違いであることも知らず、童磨は黒王を嘲笑った。

 

 

           *

 

 

 多種族の人ならざる者達が集い、黒王の手によって原始農耕を始め、人外による文明化が進む都となりつつある元王国の城壁内。その一室で、殺せんせーに敗れたジャンヌは目を覚ました。

「ここは……!?」

「ようやくお目覚めね」

 起き上がったジャンヌの隣に座るのは、どこか悲しげな雰囲気の美女。

 全てを凍らせる吹雪を操る廃棄物(エンズ)――ロシア帝国ロマノフ朝の第四皇女、アナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァだ。

「ここは……!!」

「「北壁」よ。騎竜があなたを回収したの」

 アナスタシアは、斥候部隊に救出されて本拠地であるカルネアデスに運び込まれたことを告げた。

「……!! ジルドレは!?」

「死んだわ。塩の塊となって」

 同じ戦場を駆けた戦友が、漂流者(ドリフターズ)との戦いに敗れて戦死した。

 残酷な真実を突きつけられたジャンヌは、怒りに震え立ち上がった。

「どうするつもり」

「あいつら焼いてくる! 殺してくる!」

「駄目よ。彼らを甘く見ていた。漂流者(ドリフターズ)は侮れない!!」

 ジャンヌは水の入った桶を投げた。

「次は殺すよ!! ちゃんとちゃんと殺す!! ジルドレの仇を取るんだ!!」

「駄目!! 機を待ちなさい!! 最後には必ずあなたの思う通りにさせてあげるから」

「くっ……!!」

 悔しさを滲ませるジャンヌに療養を優先するよう諭し、アナスタシアは部屋を出た。

 その近くには、壁に凭れかかって様子を伺っていたであろうラスプーチンの姿が。

「どうでした彼女」

「ようやく起きたわ。神経の麻痺はもう大丈夫そう」

「クク……ジャンヌを()()()()()()怒ってますね」

「……怒ってるもんですか」

 強く言うアナスタシアだが、ラスプーチンは「怒っていますよ」と断言する。

 現世への憎しみが強い廃棄物の中では、アナスタシアは常識的な人物であると共に面倒見の良い性格をしている。同じ女としてか、それとも壮絶な過去に同情してか、常にジャンヌのことを気に掛けている。

 ジャンヌを戦闘不能に追い込んだ漂流者は、女だからと手加減をしたのだろう。だからこそ、彼女は今まで以上に憎悪を膨らませたのだろう。

「それにしても……最近黒死牟殿の様子がおかしいようです。あのロジャーという男に会ってから」

「……そうなの?」

 ラスプーチンは、黒死牟がロジャーと戦ってから様子が変わったことに気づいていた。

 今回の襲撃の結果は、黒王から各々に伝えられた。その中でも黒王が危険視していたのが、ロジャーだった。

「黒死牟殿の強さは国家戦力級……彼と渡り合ったあの男、実に厄介だ。黒王様が警戒するのも当然だ」

「……そうね、確かにあの強さは脅威だけど……」

 アナスタシアは、ロジャーの真の脅威は実力ではないと勘づいた。

 黒死牟は無惨への忠誠心が厚く、尊崇に近い敬い方で接している。主と配下という明確な序列を重んじ、廃棄物の面々からも一目置かれている彼は、自分達が慕う黒王からも信頼されている。そんな彼が、たった一人の中年の漂流者(ドリフターズ)に心が揺れ動いているのだ。それがどれだけ異様なのかは嫌でもわかる。

 彼女は他の廃棄物と違い無惨との関係がそこまで悪くないため、彼から鬼という存在がどんなものかは大方把握している。

「あの男……もしかしたら〝王の資質〟を持ってるかもしれないわ」

「〝王の資質〟、ですか」

「敵も味方も見境なく魅了し、人を惹きつけ率いる、最も恐ろしい能力(チカラ)よ。そんな男に彼が絆され始めてるとなれば、黒王軍(こっち)の戦力は大きく削がれる」

 黒死牟が寝返れば、黒王軍の兵力・戦力はかなり減るのは明白だし、無惨の癇癪も悪化する。廃棄物の軍勢は黒王の導きによってこれからも拡大し続けるだろうが、貴重な戦力が抜けるのは避けたい。

「早く手を打つべきだわ……手遅れになる前に」

 

 

 その頃、一人残されたジャンヌは落ち込んでいた。

「ジルドレ……」

「ほう、あの男が死んだか」

「っ! ムザン……!!」

 ジャンヌの元に現れたのは、白い洋装の上に黒いコートを羽織った無惨だった。

「小娘。お前は強さを求めているようだな」

「知った口を利くな、怪物め……!」

「黙れ。私の言うことを否定するのか?」

「っ……!!」

 無惨の声に恐怖すら感じながらも、ジャンヌは拳を強く握り締める。

 言い方は腹立たしいことこの上ないが、無惨の言葉を真っ向から否定はできなかった。油断や慢心はあったが、能力としては明らかに圧倒していたはず……それなのにあの黒髪の漂流者に手も足も出ず、これといった手傷を負わせることもできなかったのだ。

 そんな彼女の様子を見た無惨はほくそ笑み、悪魔の囁きをした。

仏蘭西(フランス)の堕ちた聖女……私と同じ鬼になればよいではないか」

「!?」

 ジャンヌは目を見開いた。

「私の血を受け、人の血肉を喰らって強くなれば、奴らの全てを支配できる。死に場所も死に様も意のままに操れる。地獄で待つジルドレも、鬼と成った貴様の勇姿に涙を流して尊崇するだろう」

 その悪魔の誘惑に、ジャンヌは笑みを浮かべ始める。

 廃棄物の中でも世界と人間に対する憎悪が一際強い彼女にとって、人の道を外れることも地獄に堕ちて当然の所業に手を染めることも、何もかも知ったことではなかった。ただ、目の前の怨敵を全て焼き滅ぼせればよかったのだ。

 鬼になれば、不死身の肉体を得て憎き漂流者達を一人残らず殺せるだろう。絶望に染まった彼らの顔を拝みながら、最高の気分に――

「……してくれ……私を鬼にしてくれ! むしろしろ(・・)!!」

「――その憎悪に狂った眼差し、気に入った」

 無惨は口角を上げ、鋭い爪が光る指をジャンヌの額へ伸ばした。

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